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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
493/617

493話 「立て籠もり事件の解決方法」


 ある日の午後。


 アンシュラオンはカットゥ二等海士と一緒に、ハピ・クジュネの『一般区』に赴いていた。


 そこで表通りの土地を購入。



「いやー、立地の良い土地をもらっちゃって悪いね」


「いえ、お役に立てたのならば幸いです! アンシュラオンさんのお店が建つことは、ハピ・クジュネのためにもなることですから!」



 都市の入り口に繋がっている一般区の表通りともなれば人通りも多いため、ハピ・クジュネにおいては一等地である。


 値段も高いうえ競合相手も多いので簡単には買えないのだが、アンシュラオンには特権があるので優先的に購入できる。


 しかしながら、最近はそれ以外の理由も見受けられた。



「シャッターが閉まっている店も増えたよね」



 アンシュラオンが周囲を見回すと、ちらほらと閉まっている店が散見される。


 これは休業日ではなく『廃業』して潰れた店の跡地である。



「はぁ…そうなんです。店舗自体を解体する余裕もない商会が増えてきまして、こうして放置されている物件が多いのです」



 その言葉を受けて、カットゥもため息をつく。


 不動産に関わる彼だからこそハピ・クジュネの現状がよくわかるのだろう。



(オレのように成功する者もいれば逆に衰える者もいる。ゼロサムゲームのつもりはなくても必然的にそうなってしまうか)



 アンシュラオン自身は北部全体を盛り上げるつもりでいるが、どうしても体力の無い商会は潰れてしまう。


 特に戦争特需の影響を受けない業種や、競合する同業者ともなれば影響は必至。


 日本における商店街と大型スーパーとの関係のごとく、いきなりアーパム財団のような大きな組織が生まれれば客を奪われてしまうのだ。


 今回も新たな服飾店をオープンしようと来たわけだが、近くにある他の服飾店は当然ながら嫌そうにしている。



「あっちだ! 急げ!」



 その時、幾人かの海兵が走っていくのが見えた。


 人混みを強引に掻き分けるほど慌てているので、どうしても目に入る。



「何かあったのかな?」


「ちょっと訊いてきます」



 カットゥが、少し離れた位置にいた護衛の海兵に事情を確認しに行く。


 そして、やや困った顔をして戻ってきた。



「どうやら『立て籠もり事件』が起きたようです」


「立て籠もり? ハピ・クジュネでは初めて聞くね」


「はい。珍しいです。今までこのようなことはなかったのですが…」


「オレたちも行ってみよう」


「え? ですが…」


「これでも名誉市民だ。市勢のことを知っておくべきだと思うけど?」


「なんと…さすがです! わかりました! ご案内いたします!」



 カットゥに案内されるまでもなく、海兵の後を追うとすでに人々が集まって騒ぎになっていた。


 場所は一般区の真ん中、ハローワークとスレイブ館の中間地点だ。


 ここはさきほど見ていた場所よりも人が多く、人気店が集まるエリアである。


 その高級店の一つに犯人が立て籠もっているようだ。



「あー、あー、お前はすでに包囲されている。無駄な抵抗はやめて出てこい」


「うるせー! それ以上、近寄るんじゃねえ! 『人質』がどうなってもいいのか!」



 犯人は店の従業員二名を人質に取っているようだ。


 時折、窓から両手足を縛られた男の店員をちらちら見せては、包囲している海兵を牽制している。



「人質を解放しろ。そうしないと突入するぞ!」


「やれるもんならやってみろ! こっちは怖いものなしだからな! どうなってもいいのさ!」


「親御さんが泣いているぞ!」


「親なんてもういねぇよ!」


「人生を無駄にしていいのか。まだまだこれから良いこともあるぞ」


「金もねぇ! 女もいねぇ! 職も未来もねぇ! こんな街、どうなってもいいんだよ! 人質を解放してほしけりゃ金を持ってこい! それと、ライザックって野郎をここに連れてこいや!」


「貴様! 調子に乗るなよ! 本当に突入するぞ!」


「だからよ、やれるもんならやってみろ! 海軍は市民の命なんて、なんとも思ってねえって話だからな!」



 拡声機で説得を繰り返す海兵であったが、犯人の男は聞く耳を持たない。


 それどころか金の要求はともかくとしても、ライザックの名前を出して恫喝する始末だ。


 結局、人質の解放も突入もなく無駄な時間だけが過ぎていく。


 ここで野次馬と一緒にその様子を見物していたアンシュラオンが、素朴な意見を述べる。



「ねぇ、犯人は独りだよね? さっさと突入すれば? たしかに店はそこまで広くないけど、逆にいえば逃げ場もないよね。後ろにも海兵が回っているみたいだし、制圧は容易でしょ?」


「そうしたいところでしょうが、それだと被害が出ます。ライザック様の名前にも傷がつきますので…」



 カットゥの反応は悪かった。


 その理由は、先の戦いにおける人的被害の多さにある。


 以前も話題に出したが、第二海軍の壊滅によってライザックへの批判がいまだに燻っており、それに乗じて騒ぐ連中が後を絶たない状態だ。


 この犯人自体も単に人生が上手くいかなかっただけで、特に海兵になった経歴もないため、そうした風潮に乗っかって犯罪に手を染めているだけのクズである。


 がしかし、大衆は悪い噂には敏感。


 日々の生活の不満をぶつける対象を常に探しているものだ。


 そこに火種が加われば一気に発火しかねないため、海軍も迂闊に突入ができないでいた。



(こんな衆人環視の中で突入すれば、海軍の威信を示せる反面、犠牲が出たらライザック批判が高まる。やれやれ、まったくもって面倒なことだな。だから都市運営なんて嫌いなんだよ。だが、長引かせるのは悪手か)



 周囲では、なかなか解決しない人質事件に野次が飛んでいる。


 放っておくと不安が伝染しかねない状況だ。



「カットゥさん、よかったらオレが解決しようか?」


「いいんですか!? あっ、いえ、ですがそれでは…」


「ライザックとは関係なく、居合わせたオレ個人が対応したことにしてよ。それなら何があってもオレの責任になるからね」


「は、はぁ…アンシュラオンさんが、それでよろしいのならば…」


「じゃあ、海兵を引かせて。あとはオレがやるからさ」



 カットゥからの連絡を受けた海兵が、店の周囲から退いていく。


 代わりに特別永久名誉市民であるアンシュラオンが、そのまま引き継ぐ形で店の前に立つ。


 が、何もしない。



「おい! どうなってんだ! 金はまだか」


「………」


「なんとか言えや! おいこら!! 人質を殺すぞ!」


「………」



 ガン無視である。


 男に興味などないと言わんばかりに、腕組みをしながらその場に立つだけだ。


 周囲の人々も、アンシュラオンが来た段階で華麗に解決を期待していたので、次第に困惑の声が聴こえ始める。


 しかし、五分後。


 犯人の罵声が続く中、空から何かが飛翔してきた。



「ひっ! 魔獣!?」


「い、いや、あれは白詩宮の魔獣だ!」



 現れたのはマスカリオンであった。


 ただし、彼は大きな箱を抱えており、魔獣の登場に驚いた人々が退いたスペースに、それをドスンと落としてから着地する。



「お、お待たせいたしました」


「ありがとう、セノア。いい仕事だ」


「は、はい!! あ、ありがとうございます…」



 マスカリオンの背にはセノアが乗っているが、その顔はひどく青ざめている。


 魔獣が当たり前にいる特殊な環境にはまだ慣れないらしい。普通の少女ならば、なおさらだ。


 されど、セノアは当人が思うほど普通の少女ではない。



(セノアとの『念話』も問題ないようだな。離れていても連絡が取れるのは大きな強みだ)



 アンシュラオンは引継ぎのタイミングでセノアに連絡を取っており、荷物の運搬を頼んでいた。


 セノアとラノアの『念話回線』にアンシュラオンが横から別回線を繋ぐことで、いつでも介入できるようになっているのだ。


 ただし、その距離はせいぜい百キロが限界なので、彼女たちの専用回線と比べると若干性能が落ちるのは仕方ない。(実験の結果、ロゼ姉妹の念話は距離の制限がないことがわかった。最低でも三千キロ以上は確定している)


 それより今は運んできたものが重要だ。


 アンシュラオンが箱から取り出したのは、黒くて長くて大きいもの。


 これだけ聞くと卑猥だが、それは鋼鉄の輝きをまとっていた。


 人はそれを―――【砲台】と呼ぶ


 そこでようやくアンシュラオンが犯人に呼びかける。



「お前に十秒だけ時間をやる。その間に出てくれば半殺しで済ましてやるが、出てこないのならば店ごと破壊する」


「な、何を言ってやがる! そんなもんが撃てるもんかよ! というか、それが本物っていう証拠がどこにあるんだ!」


「本物かどうかは嫌でもわかるさ」



 アンシュラオンは砲台に砲弾を込めて、照準を店のど真ん中にセット。


 これは『拠点防衛用の砲台』なので、口径は五十センチもある。


 戦艦大和の主砲の口径が四十六センチであることを鑑みれば、その威力が想像できるだろうか。(戦艦のほうが砲身は長い)


 加えて、使用する砲弾は術式弾の『強化爆裂弾』。


 これは対艦用の『兵器用術式弾』の一つで、着弾地点に大きな爆発を起こすものだ。大納魔射津の超強化版と思えばよいだろう。


 都市や防塞といった拠点破壊用にも使われる代物であり、もちろん直撃すれば店など木っ端みじんだ。


 それだけにとどまらず、破壊の衝撃は周辺の店すら容易に吹き飛ばしてしまうに違いない。


 そしてこれは、まごうことなき本物である。



(いやー、ちょうどいい的ができてよかったよ。ガンプドルフから試作品が届いたから実験しようと思っていたんだ)



 すでにDBDによる『兵器製造』は始まっており、まずは一番作りやすそうだった五十センチ砲を複数製造していた。


 戦艦に搭載するものは、さらに大きな八十センチ以上の砲台なので、それを作る前の実験品である。


 今日の午後からは荒野に出て試射をする予定だったこともあり、それが前倒しになったにすぎない。


 マスカリオンもその輸送用に呼び寄せていたため、これほど早く到着したというわけだ。(逆に五分もかかったのは、セノアがマスカリオンに乗るのに躊躇っていたせい)



「カウントダウンするぞー。じゅーう、きゅーう、はーち、なーな」


「お、おい! 正気か! 人質も死ぬぞ!!」


「それがどうした? 捕まるような愚図は必要ない!! むしろ、なぜ敵もろとも自爆しない!!」


「じ、自爆!?」


「そうだ! 誇り高きハピ・クジュネの市民ならば、それくらいの気概があってしかるべきだ! お前たちもそう思うだろう!!」



 アンシュラオンが野次馬連中に問いかける。



「えっ!? えっ…!?」


「よく考えてみろ! あいつらには根性がなかった! だから捕まった! お前たちならば、あんな間抜けなことにはならなかったはずだ!」


「あっ…ああ、そうだな。言われてみればそうかもしれないな」


「普通はさっさと逃げるよな。捕まるなんてありえねぇって」


「高級店なんだろう? どうせお高くとまってやがったんだよ」


「そうだそうだ! 犯人ごとやっちまえ! それで平和になるぜ!」



 最初は戸惑っていた野次馬たちも、その言葉に賛同を始める。


 群衆など何も考えていないものだ。自分たちのクズさは棚に置いて、突然弱者を罵る素敵な連中である。


 彼らもまた不満のはけ口をどこかに求めている。それを上手く操作してやれば、こうやって流れを作ることもできるのだ。



「続けるぞー。よーん、さーん」


「ちょっと待てーーー!! なんでそうなる!! い、いや、撃てるもんか! やれるもんならやってみろ!」


「お前はそれしか言えないのか。オレが翠清山でどれだけの魔獣を殺してきたか知らないのか?」


「人間は魔獣とは違うぞ!」


「同じだ馬鹿が。金にもならず素材にもならないお前は、魔獣ほどの価値もないゴミだがな。にい、いち」


「ま、待って! と、投降する! 投降するから撃つな!」


「もう遅い。ゼロ! ポチっとな」


「えええええええええ!」



 さくっと発射スイッチを押すと、激しい轟音とともに―――ドカーーーンッ!


 目にも留まらぬ速度で店に激突。


 距離が近いせいもあったが、恐るべき爆風と衝撃ですべてのものが一瞬で破壊され、店舗が粉々に吹き飛ぶ。


 ただし、事前にアンシュラオンが周りを水泥壁で覆っていたため、破壊されたのは犯人が立て籠もっていた店だけとなった。


 そして、いくつかの瓦礫と大きな穴だけがその場に残される。



「………」


「………」



 本当にぶっぱなすとは思っていなかった民衆は、その光景に唖然としている。


 近くにいたカットゥも、目が飛び出んばかりに驚愕しているようだ。



「うん、悪くない威力だ。距離も五十キロメートルくらいならギリギリ届きそうだし、防衛兵器としては及第点かな」



 一方のアンシュラオンは、砲撃の精度と威力が測定できて満足そうに頷く。


 こちらも近すぎるので評価は難しいが、火器管制システムは完璧に作動しており、試作品としては良い出来といえる。



「カットゥさん、解決したよ。ちょっと壊れたけど、一店舗なら微々たる損害だよね」


「っ……あ、あの……は、犯人は?」


「反応もないし、死んだんじゃない? 粉々に吹っ飛んだから、たぶん死体は見つからないかな」


「で、では…人質は?」


「あれで生きているほうが難しいよね。というか、そもそもこれは対戦艦用の拠点防衛兵器だからね。ハイザクくらい頑丈でなければ即死だと思うよ」


「………」


「このことはライザックにも報告しておいてね。今ならお安く売れると思うからさ。じゃ、オレは先に帰るから後始末よろしく。セノア、戻ろうか」


「っ…は、はひっ!!」


「ほら、硬い硬い。もっと肩の力を抜いて」


「はにゃにゃっ!!」



 さらに青ざめてしまったセノアを撫でながら、アンシュラオンは砲台を掴んだマスカリオンに乗って帰っていく。


 その光景を見て、民衆が少しずつ現実に戻ってきた。


 その第一声は―――



「す、すげえええ! 本当にやりやがったぜ!」


「今の見たか!? マジですげーぜ!! 木っ端微塵だ!」


「さすが英雄はやることがちげーな!」



 若者たちは迫力満点の砲撃に興奮を隠しきれないでいるらしく、至る所から賛辞が舞い飛ぶ。


 かといって、すべてが肯定的でもない。



「でも、人質は死んじゃったのよね?」


「さすがにかわいそうじゃない?」


「なに言ってんだよ。海軍がだらしないからアンシュラオンが出てきたんだろう! さっさと突入していればよかったのさ!」


「そうだそうだ! もしかしたら人質の二人が殺されたうえに、そのまま逃げられていたかもしれないぞ! ここで倒しておいたほうがよかったのさ!」


「だがな、それを言ったら犯人だけの犠牲で済んだかもしれないぞ?」


「あの状況で無傷なんてありえないさ。あれでよかったんだよ」


「それ以前に都市内部で砲撃するなんて非常識だが…」


「いちいちうっせぇな。だったらお前がやればよかったじゃねえか」



 民衆の反応は、賛否両論。


 この対応が良かったのか悪かったのか判断がつかないようだ。


 しかし、一つだけ確実なことは、人質ごと殺したおかげで今後立て籠もり事件は減るに違いない。


 それがたった二人の犠牲(犯人を含めれば三人)で済めば安いものである。


 そして、今回の事件をきっかけとして、北部全体で新たな変化が起きるのであった。



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[一言] まぁね、アンシュラオンさんなら殺ると思ってましたよww
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