491話 「財団の基礎ができたよ」
それから一ヶ月。
アーパム財団の人材集めが着々と進み、ようやく全体像が浮かび上がってきたので各部門の紹介をしよう。
数が多いので、まずは一覧を見てほしい。
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■アーパム財団、傘下一覧
〇戦闘部門・【アーパム戦隊】
・一番隊(アンシュラオン隊)
※白の戦隊+黒の戦隊(サナ親衛隊)
・二番隊(傭兵部隊)
・三番隊(ハンター隊)
・四番隊(魔獣部隊)
・裏番隊(???)
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〇商業部門
・アーパム・ノ兎商会(商業部門統括・土地管理・その他経理)
・アーパム・焔紅商会
・アーパム・炸裂ドカン商会
・アーパム・若葉商会(資材管理・運送)
・アーパム・黒鮭商会(警備)
・アーパム・服飾商会
・アーパム・食堂商会
・アーパム・病院商会 ※準備中
・アーパム・建築商会 ※準備中
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となる。
では、これを一つ一つ説明していこう。
戦闘部門から紹介するが、こちらは全体で『アーパム戦隊』という【商会】を作ったので、その傘下に各隊が編入される形になっている。
ハングラスの警備商隊を参考に作ったため、ザ・ハン警備商隊の中に第一商隊や第二商隊があることと同じだ。
ただし、各商隊も『子会社扱いの商会』であり、隊単独で取引も可能なシステムになっているところがミソとなる。
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■一番隊
戦闘部門における一番隊は、旧アンシュラオン隊のメンバーが所属する中核部隊である。
基本的にはメンバー全員で一つではあるが、総員で出動する必要がない場合は二つの隊に分けられる。
一つ目は【白の戦隊】。
アンシュラオン、マキ、小百合、ユキネが配置されている戦闘力に優れた部隊である。
マキとユキネという物理戦闘特化に加え、搦め手対策として小百合も帯同し、アンシュラオン自身も日々術の能力が開花しているので術式に対しても柔軟に対応できる。
これだけだと人手が足りないので、潜在能力または身体能力に長けた『成人女性(十五歳以上)』を選抜し、暇な時は育成を試みている。
正直にいえば、戦闘面で優れた能力を持つ女性は少ないのだが、魔石による強化も念頭に置いて実験している段階だ。
アンシュラオンを追ってきた時もそうだったが、マキは非常に女性受けするらしく、募集を開始したら瞬く間に人が集まってきた。
その中から『情報公開』を使い、有望そうな人材を三十名ほど選抜して育成を続けている。
彼女たちに関しては基本はお留守番だが、魔獣討伐をさせる等々、少しずつレベルアップ中だ。
もう一つは、【黒の戦隊】。
こちらはサナを中心とした隊で、いわゆる『サナ親衛隊』である。
メンバーは、ホロロ、アイラ、サリータ、ベ・ヴェルに加え、新たにセノアとラノアのロゼ姉妹が加わっている。
大人である四人がいることでサナの安全を常に確保しつつ、積極的に経験を積ませるのが目的だ。
セノアとラノアのようにまだ子供の人材も、英才教育を施すことで、いずれはサナの周りに優秀な者たちが配置されることになるだろう。
それを見据え、最終的には他の白スレイブも買うことになった。(白スレイブの入手手段が少ないことも要因)
仮に能力が高くなくとも、サナのように開花する者がいるかもしれないし、同年代の面子がいることはそれだけで財産になる。
使えそうな子供は親衛隊に組み込み、他の者たちも『別の計画』が進んでいるので公開する時をお待ちいただきたい。
また、この一ヶ月で翠清山のアンシュラオン領内における魔獣をすべて支配下に収めている。
猿神たちには火乃呼らに作らせた剣を持って訪問。改めて交渉することで全頭が支配下に入ることを承諾させた。
その折に破邪猿将の子供一頭と、熟練のグラヌマーハが一頭、若いグラヌマニ十頭がこちらに出向することになった。
戦国時代によく見られた臣従先への『人質』でもあるのだが、どちらかといえば単純に戦力として考えている。
そして、彼らは破邪猿将のジュエルを受け継いだアイラの直轄戦力となった。
最初はどうなるか不安だったが、破邪結界が使えるせいか意外とグラヌマたちからは好評らしい。
一番厄介に思えた熊神に関しても、アンシュラオン自らが武力によって制圧したことで服従を承諾させている。
こちらも従順そうな若い個体をニ十頭ほど出向させ、錦王熊の魔石を受け継いだサリータの直轄戦力になった。
ベ・ヴェルに関しても、人喰い熊の生き残りであるゴンタを含め、近縁種の熊をニ十頭捕獲して部隊に組み込んでいる。
魔獣を編成に組み込むことは危険ではあるものの、ホロロが羽根を植え込むことで会話が可能であることに加え、【新型の魔獣用ギアス】をかけているので安全性は劇的に高まっているといえるだろう。
当初は難航すると思えた魔獣用ギアスだが、人間と比べて魔獣の精神構造は単純なので、命令を限定して覚えさせることで安定した効果を発揮することがわかった。
たとえば「犬のしつけ」を想像してもらえればわかりやすい。
待て、お座り、お手、スピン等々、四つ程度にすれば知能が低くても命令には従うものだ。
当然ながら違反した場合は、痛みを与えて動けなくするようになっているし、直接体罰をもってしつけることもできる。
魔獣に対しては、やはりシンプルに『痛み』が一番効く。言うことを聞かなかったらぶん殴る。これが最適解である。
この魔獣用ギアスに関しても、ヒポタングル空戦隊やグラヌマーハのような協力的な魔獣には『上級契約用ギアス』を選択し、積極的ではない個体にはそれ以下のギアスを使い分けている。(ヒポタングルのギアス媒体は、当人たちの希望で『命気結晶』になった)
黒の戦隊は、実質的に腹心であるホロロが統括しているので、その下にはアロロを含めたメイド隊も含まれている。
メイドは家の雑務が主な仕事だが、アロロのように武術の素養がありそうな者たちには戦闘技術も叩き込んでいるので、将来的には普通の傭兵隊以上の戦力にする予定だ。
まとめると、白の戦隊が34名。
サナ隊の選抜子供部隊が18名(セノアとラノア含む)、ホロロのメイド隊がアロロを含めて15名、アイラ隊が魔獣を含めて23名、同じく魔獣込みでサリータ隊が21名、ベ・ヴェル隊が21名で、黒の戦隊全部で98名。
一番隊の合計は、132名となる。
この構成の仕様からもわかるように、何かあれば最初に黒の戦隊が対応して経験を積ませ、もし無理な場合はマキたちが出動することになるだろう。
最終手段はアンシュラオンであるが、闘人を派遣すれば済むことも多いため積極的に出ることは少なくなり、クルルのような超強敵用の切り札として温存される。
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■二番隊
二番隊は、傭兵部隊をまとめたものだ。
中軸となるのは、ゲイルの黒鮭傭兵団とアッカラン傭兵団で、それぞれ元傭兵や元兵士といった人員を増やしており、ゲイル隊は100、アッカラン隊は80に増加している。
ゲイル隊についてはあとで補足説明をするが、『黒鮭商会』という警備会社も運営しているので、ここでは二番隊として活動する傭兵メンバーだけで百名いるというわけだ。
ゲイル自身は基本的に黒鮭商会のほうが主体であり、こちらの管理はアッカランが担当するため、そのまま二番隊をアッカラン隊と呼ぶこともある。
アッカランが率いるモヒカン部隊は、もともと強敵を相手にする傭兵団だ。新たに加えたメンバーも腕の良い傭兵が多く、荒事の際には必ず役立ってくれるだろう。
こちらも現在進行形で数を増やしているが、最低でも180名いると考えてもらえればよい。
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■三番隊
三番隊はハンターたちをまとめた隊で、ジュザやハンターQが中心となったものだ。
翠清山の戦いでの生き残りかつ、海軍に入らなかったハンターを吸収したことで、現在では100名近くに膨れ上がっている。
中にはブルーハンター級のパーティーもいるので実力は高く、傭兵以上に局地戦に強いため、主に翠清山での魔獣の監視や、人員の護衛および事故防止に従事してもらっている。
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■四番隊
四番隊は『魔獣隊』であり、中心となるのはマスカリオン率いる『ヒポタングル空戦隊』である。
前代未聞とのことだが、ちゃんと管理ができれば魔獣の商会登録も可能らしいので、四番隊もしっかりとした商会扱いである点も面白い。(連帯責任者はアンシュラオン)
精鋭部隊ゆえに十数頭と数こそ少ないが、空での機動力は極めて高く、さまざまな事態に即座に対応できる迅速さが売りだ。
翠清山でも味わったように彼らは個の戦闘力も高く、簡単な殲滅や威嚇だけならばマスカリオンに任せてしまえるお手軽さもある。
現在は統制を重視してヒポタングルだけになっているが、徐々に他の猿神や熊神も追加していく予定である。
また、どうしても数が必要な場合は、眷属も編入することで戦力を増大させることも可能だろう。
ただし、眷属は人間社会で暮らしていけるほど知能が高くはないので、使う際はその都度の限定的なものになる。
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■裏番隊
???
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〇商業部門
続いて商業部門だが、こちらは戦闘を担当しないので一般人の採用が多いのも特徴だ。
アンシュラオンの財力をさらに増し、循環させるためにも重要な部門といえる。
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■アーパム・ノ兎商会
少し読みづらいが、これで『ノウサギ』と読む。
名前からわかるように小百合が責任者になった商会で、商業部門全体の経理を担当する、いわばアーパム財団の財布を握っている極めて重要な商会だ。
こちらにはハローワークから引き抜いた者たちを中心に、経理に強い女性を配置している。
当然お金を管理する性質上、責任感が最初から強い者を選ぶ必要があり、ギアスにもしっかりと守秘義務を盛り込んでいる。
アーパム財団が購入した土地の管理も担当しているので、各商会の発展計画も担当する商会でもある。
小百合を含めて、計八人が所属。
事務所はアンシュラオンの白詩宮の中なので警備も万全だ。
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■アーパム・焔紅商会
火乃呼と炬乃未が中心となった新生アズ・アクスの別ブランドである。
メンバーは、刀匠の火乃呼と炬乃未、準装防具鍛冶師の烽螺に加え、装飾用に煜丹が参加し、鎧系統は本店から熾織が出向して技術指導にあたっている。(琴礼泉にいた他の若い職人も定期的に出向して手伝い&腕を磨いている)
もちろん中核はディムレガンではあるが、最近では雑用兼見習いとして人間の鍛冶師を少数ながら採用し始めている。
各商隊の人員が急激に増えているため、火乃呼や炬乃未といった名工が雑務に忙殺されることを防ぐためだ。
鍛冶場は白詩宮の敷地内にあるので、こちらも警備は万全といえる。
また、移動式の鍛冶場も建設中である。
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■炸裂ドカン商会
炸加が担当する商会で、主に翠清山での資源発掘を行う商会だ。
先日集まっていたように、健康的な男性ならば労働者として即座に採用されるため、アーパム財団の中でも最大の約千人という大所帯である。
グランハムの要請通りに専属の在庫管理人や経理担当者も配属したが、一番の稼ぎ頭ともいえる事業なので、ノ兎商会からも人員を出向させて手厚くサポートしている。(監視の目的もある)
翠清山での活動が中心であることを踏まえ、三番隊のハンター隊と黒鮭商会および、現地にいる魔獣たち(猿神が多い)が常に護衛についている。
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■アーパム・若葉商会
ロリコンが責任者の資材管理および運送のための商会であり、先日使用した輸送船を三隻保有している。
主に翠清山とハピ・クジュネ間を往復するのが仕事だが、そのついでに各商会用の物資の補充も行うことで行商人としてのスタイルも維持している。
メンバーは、ロリコン夫妻と商売経験のある元行商人たちに加え、単純作業を行う労働者と警備員を含めた、およそ100名前後で構成されている。
専属の警備員も配置しているが、万一のことを考えて常時四番隊から数頭のヒポタングル(グレートタングルも最低一頭以上)が帯同することになっている。
ヒポタングルたちは、山の資源を交通ルートにまで運んでくる仕事もしているため、そのまま一緒についてくる形になるので無駄がない。(空を移動するので他の魔獣と接触しない点も優秀)
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■アーパム・黒鮭商会
ゲイル隊が中心となった警備担当の商会である。
こちらは戦闘部門とは異なり護衛が中心で、基準がかなり低く設定されているため、一般成人男性の中でも多少強い程度ならば警備員として採用される傾向にある。
ゲイル当人は管理で忙しく、ゲイル隊の他のメンバーを部隊長として再編成することで各商会に派遣している。
中には先日加入したミャンメイの兄であるレイオンといった、戦闘部門でも使えそうな人材もいるので、当人からの要望があれば二番隊や三番隊への加入も可能にしてある。
こちらは総勢で約300人となっている。
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■アーパム・服飾商会
ユキネが責任者の服飾関係の商会である。
ユキネも普段は暇なので、一座の手伝いがない場合は基本的にこちらの商会に出向いて服飾に携わることが多くなっている。
メンバーは、翠清山の戦いで旦那を失った未亡人や、家族を失った女性たちを優先的に採用し、女性専用の宿舎まで用意する手厚さだ。
一般女性を受け入れているので人員は日々増えているが、現在は150名程度が在籍している。
工場で作った服は表通りの店舗で販売することで、手に職がなくとも店員として働けるのが強みだ。
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■アーパム・食堂商会
こちらは先日加入したミャンメイが責任者となった、食堂を経営する商会である。
白詩宮では昼食を軽く済ませることも多く、朝と夜だけ彼女に作ってもらい、それ以外はこの商会に関わってもらうことにしている。
メンバーは調理や補助が得意な人材ばかりで、翠清山からの食材も徐々に増えているため格安で美味い料理が提供できる。
それが好評となり、商会員の多くがここで食事を摂るため数が足りず、次々と新たな店舗を増やしている状況だ。
もちろん身内だけではなく一般にも提供しており、ミャンメイの力量もあってか評価は上々である。
現在はおよそ40人が所属している。
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このほかに『アーパム・病院商会』と『アーパム・建築商会』が準備中である。
前者は主に商会員用の医療施設を管理し、無料で治療を施す予定だ。
たいていはアンシュラオンの命気で治せるが、人員が増えたために通常の医療も導入することで幅広く対応しつつ、北部全体の医療技術の発展も担う。
後者は、自前で建築を担当することでコストを抑える目的がある。材料は翠清山で手に入るため、大工経験者を確保すればすぐに始動が可能だろう。
こうして【二千人】という人員が集まり、アーパム財団の基礎が生まれることになったのである。




