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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
488/618

488話 「ロゼ姉妹 その2『普通の少女』」


「モヒカン、この子は?」


「えーと、資料によると比較的新しく入ってきた子っすね。気に入ったっすか?」


「まあな。どんな子だ?」


「おとなしい子っすね。特に問題がないから扱いやすいっす」


「だろうな」


「へ?」


「いや、こっちの話だ」



(『恭順姿勢』通りの性格らしい。いや、これも処世術の一種かもしれないな。それより『念話』が気になる。テレパシーというやつか?)



 『念話』はホロロが使う『精神感応』に近いもので、一般的に心の中で会話ができるものを指すが、別のスキル名になっている点が気になる。


 となれば、効果も違ってしかるべきだろう。



(距離はどうなんだ? ホロロさんみたいに誰とでもできるのか? 興味は尽きないな。よし、一人目はこの子で決まりだ)



 結局、この年齢層で気になったのは一人だけだったが、才能のある子が見つかったことは好材料だ。


 何よりも、おとなしくて扱いやすい、という点が絶対的に気に入った。


 改めてその少女、セノア・ロゼがいる部屋の前に立つ。



「会うぞ」


「了解っす。これがこの子の詳細資料っす」


「どれどれ…ん? 買取希望額が五百万だと? おい、サナより高いじゃないか。どう見てもサナのほうが可愛いだろう。それに、普通は子供のほうが高くなるんじゃないのか? この子のほうが年上だろうが」


「そ、それは…その……なんと言ったらいいっすかね。旦那の言う通り年齢が低いほうが高いっすけど…この子はその…健康体なんで…申し訳ないっす!」



 サナは「言葉を話せない」という最大の欠陥があったので、美しい容姿かつ子供であっても値が付かなかった。


 一方、セノアはサナより年上だが極めて健康体である。


 一般的な価値観において、その差は大きい。



「ふん、俗人にサナの価値などわかるわけがないか。お前らが見た目だけで判断していることなど、当の昔にわかっていることだ。いちいち怯えるな」


「だって、下手なことを言ったら怒るっす」


「当然だ。そこは気を遣えよ。まあいい、早く開けろ」


「了解っす」



 モヒカンが視認妨害用の術式を解除すると、少女の姿がさらにはっきり見えた。


 小豆あずき色のロングの髪の毛に緋色の瞳をした、まだあどけない発育途上の少女である。



(資料によれば、年齢は当人の証言から『十二歳』と判断。両親と死別してスレイブ商に保護されている。体格はロリ子ちゃんと同じくらいか。顔色もいい。健康状態が良いという話は嘘ではないようだな)



 顔立ちは、さきほどの『男性魅了』を持っていたフェンティーヌより劣るが、美少女と言って差し支えないレベルである。


 一番の特徴は、すべてがすっきりしているので独特の癖が何もないことだろうか。


 一般的な美人の条件は、各パーツの均整が取れている状態を指すため、万人受けしそうなタイプといえる。


 大人になれば清楚な感じになりそうなスマートさも感じさせ、今後の成長を楽しみにさせる。



「………」



 アンシュラオンが眺めている間も、セノアは視線を外して沈黙を保っていた。


 すでに術式は解除してあるので、気がついていないわけではない。


 単純に何を言っていいのかわからないので、こちらが動くのを待っているのだ。


 その様子は、まるで命令を待っている犬にも見える。



「ふふっ」


「っ…」



 アンシュラオンが軽く笑うと、少女がびくっと身体を震わせた。



「ああ、驚かせちゃったかな。べつに君を笑ったわけじゃない。ちょっと昔飼っていた犬のことを思い出しただけだよ」


「…は、はい」


「オレの名前はアンシュラオン。君の名前を訊いてもいいかな?」


「あ、はい。…セノア・ロゼといいます」


「セノア・ロゼか。いい名前だ。まるで花のようだね」


「あ、ありがとうございます」



 セノアは、少しだけ恥ずかしそうにうつむく。


 まだ十二歳なので、こうして面と向かって話すのは恥ずかしい年頃かもしれない。


 しかも自分は超絶美形。


 年上から見れば愛らしいのだろうが、年下から見れば「超イケてる年上男子」なのだ。


 これが漫画なら、キラキラのスクリーントーンを貼られるくらいに輝いていることだろう。



(よかった。ちゃんと営業スマイルが通じた。サナの時は無反応だったから逆に新鮮だな。これが【普通】ってやつなのかな。うんうん、悪くないぞ。セノアは普通のいい子だ)



 『普通』とは難しい言葉だ。


 何をもって普通と言えばいいのか非常に難しい。


 しかし、少女から感じた印象はまさに―――普通


 可も不可もなく、過多も過少もなく、その年頃の少女のイメージのままだ。


 ちゃんと会話ができるようなので、もう少し切り込んでみる。



「君は今の自分の状況を理解しているのかな?」


「はい。あなたが…ご主人様ですか?」


「そうなる予定だね。オレのことは知ってる? 輸送前に説明があったと思うんだけど」


「き、聞きました。すごいお金持ちって…」


「それも一つの要素だね。いろいろな事業を進めるために人を集めているのさ。君もその中の一人だ」


「わ、わかりました。どうぞよろしくお願いいたします」


「君はスレイブになることに違和感や嫌悪感はないのかな?」


「ありません」


「即答だね。普通は嫌だと思うけど?」


「そ、そのほうが…安全ですから」


「なるほど、模範的な回答だ」



 まだ幼いながらも自分の境遇をすべて受け入れているようだ。


 彼女の首にもギアスがはめられており、「この場所が快適」「買われることは幸せ」という認識が印象付けられているのだから、それ自体はおかしくない。


 ただ、今までこうした態度の子供がいなかったこともあり、普通がゆえに逆にアンシュラオンが面食らう、という奇妙なことになっていた。



「あ、あの…い、いけなかったでしょうか?」


「ん? 何が?」


「その…お気に召さなかったのなら…申し訳ありません」



 セノアは、おどおどしながら答える。


 その瞳には、強い不安や恐怖の色が見えた。



「君には服従してもらう。オレの命令は絶対だ。しかし、無駄に心配することはないんだ。今みたいな些細なことで意見の強要をしようとは思わない。その違いがわかるかな?」


「…その…私には……」


「君はオレのものになるが、自分なりの意見を持ってもいい、ということさ。命令によっては望まないことが起こるかもしれないが、起こった事象に対してどうリアクションするかは君の自由だ。ちょっと難しい言い方だったかな。要するに命令以外は、君にも一般人以上の自由が与えられるということだ。これならわかるかな?」


「は、はい。ありがとうございます」



 ようやくセノアの緊張がほぐれた。


 少なくとも自分を痛めつけて楽しむ趣味はない、ということが少女にとっては一番の安心材料だったことがわかる。


 こちらからすれば必要以上にビクビクしているように見えるが、相手のことがよくわからないのならば、これが普通の反応なのだ。



(『求められるままに生きる少女』…か。素直な子は誰からでも好かれるからな。弱いのならば軋轢を起こさないほうが得策だ。立派だよ)



 あらがう力が無いのならば、愛想笑いをしてお世辞を言い、そつなく会話して従順な少女を振舞えばいい。


 相手がよほど危険な人間でない限り、たったそれだけで身の安全は保障されるだろう。


 自身のプライドは傷つくが、我慢できるのならば、それは『強さ』に変わる。


 彼女には、そうまでして生き残ろうとする『強い意思』があるのだ。



「そうそう、君に一つ訊きたいことがあったんだ。君は心の中で会話ができるかな? つまり『テレパシー』や『念話』というものなんだが、心当たりはあるかい?」


「っ…」



 少女は、今までで一番驚いた顔をした。


 それがすべての答えである。



「自覚はあるんだね」


「そ、その…それは……どうして…?」


「驚く必要も隠す必要もないよ。オレも術者の端くれだし、そういうことがわかる体質なんだ。だから君が特殊な力を持っていることは知っている。ただ、その程度がよくわからない。どれくらいのことができるのかが知りたいんだ。ぜひとも教えてくれないかな?」


「………」



 さきほどまでの従順さが嘘のように、それっきりセノアは黙ってしまった。


 しかし、抵抗というよりは困惑と焦りのほうが大きいようだ。


 しきりに両手をこすり合わせるような仕草をして、心を落ち着かせようとしている。



「どうしたの? 言いたくない?」


「…いえ、その…そんなに使えるものでは…」


「使用制限があるの? 精度は低いの? 高いの? どこまで飛ばせるの? 自由に送受信ができるの? 誰とできるの?」


「あ、あわわわ…」


「大丈夫、心配しないで。それによって君の待遇が変わることはないから。むしろ良くなることを約束しよう」



 使える能力ならば等級が上がることもあるのだ。待遇が良くなるのは間違いない。


 しかし、資料には念話についてまったく書かれておらず、モヒカン当人も話を聞きながら困惑している様子がうかがえる。



(モヒカンが知らないってことは、恭順姿勢であるにもかかわらず、彼女自身が申告していないことになる。今の感じからすると、たいしたことがないって意味か? でも、どことなく忌避感みたいなものも感じられるな)



 従順性を確認するうえで、この点を追及することは致し方ない。


 が、この歳でスキルが発動しているということは、念話は生まれ持っての能力かもしれない。


 だとすれば、弱い人間たちの標的にされたか、差別された可能性もある。



「セノア、力を怖れる必要なんて何もないんだ。どんな便利な道具だって使わなければ意味がないだろう? しまっておいても錆付いて邪魔になるだけだ。力は使ってこそ意味がある。オレは常にそうしてきた。だから権力と金を持っているんだ」


「………」


「頑なだね。じゃあ、君をおびやかす者がいたらオレが殺してあげるよ。もし町や村ぐるみならば、その地域ごと滅ぼしてあげよう。相手が誰だって大丈夫だ。さあ、言ってごらん。誰が邪魔なんだい? 君への報酬として始末しようじゃないか」


「えっ!?」


「優秀な者のために愚者が犠牲になるのは自然の摂理だ。淘汰ともいえるね。ほら、遠慮なく言ってごらんよ」


「えとっ…え!?」



 セノアはアンシュラオンが言っている意味がわからず、思わず周囲を見回す。


 無意識のうちに助けを探していたのかもしれない。


 しかし、白い美少年の背後に見えたモヒカンは、大量の汗を流しながら震えていた。


 彼が館の主人であることはセノアも知っている。偉そうに世話係に命令していたからだ。(セノアが見たのは一号のほうだが、二号も似たようなものである)


 その彼が、あれほどまでに怯えた目をしているのは初めて見た。


 本能が告げる。


 少年が言っていることは事実であると。本気であると。



「い、いえ、あの…本当にその…そんなことじゃ!!」


「大丈夫。何があっても君を守るよ。オレは自分のものは大切にする主義だからね」



(なにか…噛み合ってない。このままじゃ危ない!)



 『恭順姿勢』スキルを持つセノアは【自分以外の身の危険】を感じ取り、ようやく重い口を開く。



「だ、大丈夫です…。差別されては…いない…です」


「そうなの? まあ、ライザックやグラス・ギースの領主が標的だと少し割に合わないけど、ちゃんとけじめをつけさせるよ。君にもぜひ、力を力として使う楽しさを教えてあげたいな」


「ほ、本当に大丈夫です! だ、大丈夫…なんですぅ…」



 あまりの怖ろしさにセノアから涙がこぼれる。これも普通の少女の反応だろう。


 それを見て嘘は言っていないと判断。少なくとも直接的な迫害はなかったようだ。



「では、君の力を教えてくれ。差別されていないのならば隠す理由もないだろう?」


「は、はい。あの、実は【妹】としかできなくて…ごめんなさい」


「妹がいるの? その子となら会話ができる? 他人とはできないの?」


「はい。他人とはできないです。妹だけ…です」


「つまりは妹も同じ能力を持っているってことだね? 二人でセットということかな?」


「たぶん…そうです」


「妹はどこにいるの?」


「…かなり前にはぐれてしまって。今どこにいるのかまでは…」


「そっか。悪いことを訊いちゃったね」


「い、いえ、いつも話していますから」


「あっ、そうか。場所がわからなくても念話で話せるんだ。もしよかったら妹も保護してあげるよ。場所は特定できないかな?」


「それが…安全なところみたいなんですけど、よくわからないらしくて…」


「念話が可能な距離は?」


「測ったことはないです。いつも通じるので…」


「それでお互いの位置はわからないの?」


「普通に頭の中で会話する感じなので…位置までは…」


「妹は何歳?」


「はぐれた頃は六歳半でしたが、今なら八歳になります」


「微妙な年齢だな。その歳じゃ、わからなくてもしょうがないかなぁ。とりあえず無事なんだよね?」


「はい。それは大丈夫みたいです。食事ももらっているみたいですので」


「わかった。妹はこちらでも捜してみるよ。君の念話もあるから、協力してもらえればそんなに難しい話じゃないと思う」


「で、でも…そこまでしてもらうわけには…。自分だけでも引き取ってくださるのなら…それだけですごいことです」


「健気なまでに慎ましいね。では、交換条件ならどうだろう。オレは君の妹を見つけて助けてあげよう。だから君はオレに心から尽くすんだ。嘘偽りなく、オレのために働いてほしい。もちろん待遇は保証するよ。妹と一緒に不自由なく過ごさせてあげる。それでどうかな? 悪い話じゃないだろう?」


「は、はい。よろしくお願いいたします!」



 妹を交渉材料にしたのは正しい選択だったようだ。


 その時のセノアの顔は、ようやく愛想笑いから本来の笑みに近い形になっていた。


 普通に考えても、肥えたゲス豚野郎に買われるよりは何千倍もましな結果だ。それは当人も理解しているに違いない。


 本当は条件を必要としないから白スレイブなのだが、セノア自身への期待を込めて報酬を与えるのは意味あることだ。


 その後、セノアから事情を訊きながら再び資料に目を通す。



(セノア・ロゼはグラス・ギース外周で保護。両親は旅の途中で魔獣と遭遇して死亡。妹の『ラノア・ロゼ』もその時にはぐれた…か。襲ったのが魔獣でよかった、と言うのはかわいそうかな。でも、人さらいだったら大変だったしね。って、こいつも人さらいみたいなもんか)



 スレイブ商人のモヒカンなど、どこからどう見ても悪人の面構えである。


 どのように子供をかどわかしているのか不明だが、どうせ甘い言葉で誘って連れてくるに違いない。


 こうして誰かに保護されるしか彼女たちの生きる道はないので、白スレイブになれたことだけでも幸せだろうか。



(いや、違うな。オレのスレイブになれることは人生において最高の幸せなんだ。それを証明してやらねばな)



「一つだけ約束しよう。君はこれから【勝ち組】になる。オレのものになるということは他人の上に立つことを意味する。そこにいるモヒカンだって君は足蹴にすることができるんだ。今までの恨みを晴らせばいい。好きなだけ殴っていいんだぞ」


「旦那、勘弁してくださいっすよー!」


「うるさい。お前は黙っていろ」


「あいたっ!? あー! 頭皮がめくれたっすー!」


「こんなふうにね。だから君は幸せなんだよ」


「は、はい…」


「術士の才能も開花させてあげよう。くくく、いやー、楽しみだなー! 君みたいな未成熟な少女を育てるのは本当に面白いからね。綺麗に咲いてくれるといいなぁ」


「っ…」



 変質的であくどい笑い方に、思わずセノアが怯える。


 その顔だけ見れば完全にモヒカン以上の悪人なのだから。



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