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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
485/617

485話 「集まる人材 その2『ファン・ミャンメイ』」


 さまざまな業種の人材が着々と集まっている中、やはり一つの関門となるのが『スレイブ』である。


 ハピ・クジュネではスレイブはさほど一般的ではなく、モヒカン二号店の様子を見る限りでは、大規模な工事の際にまとめて雇用される程度の扱いだ。


 ゼイシルの言葉からも、あまり良い印象は持たれていないことがわかる。


 それゆえにスレイブ契約への忌避が懸念されたが、ここで大きな意識改革が起こる。



「いいかい、スレイブというのは『ステータス』なんだよ。オレのスレイブになるということは、そこらの商会や海軍関係の仕事よりもずっと素晴らしいことなんだ。ほら、あれを見てごらん」


「うわー、キラキラしてるー! 服も素敵ー!」



 面接会場では舞台が設けられており、そこでは美しく着飾ったユキネが舞を披露していた。


 彼女自身が一級品の女性であるうえ、服や装飾品も一般人では手に入らないような高級品ばかりで、見る者をたやすく魅了していく。


 女性陣はその美麗さに憧れ、妖艶さにいやらしい視線を向ける男連中も、かつての煜丹いくたん先輩のように淡い期待を抱く。



「君もスレイブになれば同じようになれるさ。今までのように痴漢に怯えることもなく、安定した職と住居を得ることができるんだ」


「私、スレイブになります! いえ、ならせてください!」


「うんうん、正しい選択だよ。じゃあ、好きな媒体を選んでね。選び終わったら後ろの機械で契約をしよう」


「わかりました! ああ、どれにしようかしら。腕輪もネックレスも綺麗だわー」



 女性たちが、こぞってギアスの媒体である装飾品を選んでいるではないか。


 それを後ろで見ていたモヒカン二号も目を丸くしている。


 自分でも契約が可能だが、人数が多いため精神が低い者に関しては、今まで通りモヒカンが機械で担当することになっていた。


 ちなみに機械はエメラーダによって『錬成強化』されたもので、新ギアスにもしっかりと対応している新型である。


 こちらも最初から錬成強化できる余地を残していることから、こうなることが想定されていたかのようだ。



(まるでオレのために用意されていたみたいだが、さすがにそれは言いすぎか。そもそもスレイブ商会が何のために存在しているのか、そのほうが気になるな)



 エメラーダが特殊なのだとしても、世界中を探せば同じことができる錬金術師もいるだろう。


 ならばスレイブ商会自体が、この事態を想定していたことになる。


 それにもかかわらず、支店の運営にほぼ不干渉なのもおかしい。



(まあ、術で強制支配もできるんだ。すでに西大陸ではスレイブの価値がなくなっているくらいだし、これくらいは問題ないのかもしれないな。技術の保管という意味では十分ありえる話だ。何も言われないのならば、そのほうがいいしな)



「どうだ、モヒカン。すごいだろう。今じゃ誰もが自分からスレイブになりたがっているぞ」


「スレイブの印象がこんなに変わるなんて信じられない光景っす。旦那はスレイブ業界を根本から変えたかもしれないっす。偉大っす」


「よくわかっているじゃないか。ところで『あっちの受け入れ』は、ちゃんとできているんだろうな?」


「もちろんっす。白スレイブは最大限の注意を払って―――あいた! なんで殴られたっすか!?」


「馬鹿が。こっちがわざわざぼかしているのに、口に出すやつがあるか。自重しろ」


「うぁー、また頭が変形したっすー」



 白詩宮に来るたびにマキに殴られて頭が陥没し、それが治った頃にはまた殴られるを繰り返すので、いつも頭が変形している哀しき宿命を背負った男である。


 それはいいとして、モヒカン一号から白スレイブが輸出されてきたので、二号店で受け入れを開始しているところだ。


 グラス・ギース公認事業であるため、わざわざキャロアニーセが衛士隊を伴って直々に送り届ける念の入れようである。


 現在は輸送を終えて、ベルロアナたちと一緒に休暇を楽しんでいるらしいので、彼女としてもよい息抜きなのだろう。



(海軍もオレには口出しできないから、べつに白スレイブを堂々と扱ってもいいんだが、どこに誰が潜んでいるかわからないからな。慎重にいくとしよう)



 白スレイブが貴重なことに加え、新型ギアスの完成はモヒカンが言ったように革命に等しい。


 今度はその技術を狙って、さまざまな者たちが触手を伸ばしてくるに違いない。警戒しておいて損はないだろう。



「次の人どうぞ」


「初めまして、ファン・ミャンメイと申します。年齢は二十二歳です」



 次にやってきたのは、温和そうなおっとりとした若い女性だった。


 群青色の髪の毛は、中国風のツインのお団子にまとめられており、その髪色がよく映えるチャイナドレスに似た赤い服を着ている。


 身体つきは少しふっくらしていて、触らずとも柔らかいことがわかるが、太りすぎてもいない絶妙のラインだ。


 胸も小百合より少し大きいくらいで、多くの男性が適切だと思えるサイズといえるだろう。


 見ているだけで、ついつい触りたくなるムチムチ感がたまらない。



「素晴らしい! なんて健康的なんだ! 合格! 合格だよ!」


「あ、ありがとうございます!?」



 身体は間違いなく合格だが、仕事をするのだから能力も大事だ。


 なんとか我に返って面接を続ける。



「えーと、君の志望は『食堂』だね。料理人志望でいいのかな?」


「はい。料理には少し自信があります」


「じゃあ、実習をお願いしようかな。あっちのスペースで好きなものを作ってみて」



 アーパム財団のグループ商会の中には、食堂を営むものもある。


 人が生きるために一番大切なことは食事だ。正直、食べることさえできていれば死ぬことはない。


 自分の商会で雇った者たちには、常に優れた福利厚生を提供することも経営者の務めである。


 住居に関しても持ち家が無い者には寮を用意して、常に清潔で快適な環境を与える予定だ。


 これは小百合が提案していた『循環』を実践したものといえる。



(オレが支払った給料で、彼女たちは服や食事を作ると同時に、その消費者にもなる。上手くいけばオレが損をすることはなくなるだろう)



 女性たちは自ら着たいと思う服のデザインをして、自らそれを生み出して自ら買い付ける。


 原材料の確保と流通さえ維持できれば、これ自体で一つの循環が成り立つのだ。


 材料も翠清山という巨大な資源を手に入れた今、そう簡単に枯渇することはない。


 開発が進むたびに雇える人数も増えていくので、ほぼ倍倍ゲームである。



「ふんふんふーん♪」



 そんなことを考えている間に、ミャンメイは調理を開始。


 ハピ・クジュネで手に入る食材はほぼそろえてあり、包丁も新生アズ・アクスが作ったものなので申し分ない出来である。(今回のものは炬乃未作)


 しかし、ミャンメイが操る包丁は、今まで見たことがないほどの手際の良さで簡単に野菜を捌き、流れるように調理していく。


 包丁の扱いに慣れているアンシュラオンも、それには驚きを隠せない。



「すごい腕前だね。切り口も細胞が死んでいない」


「これくらいは普通じゃないですか?」


「いやいや、オレも料理をするからわかるけど、これはプロレベルだ。その中でもかなりのものだよ。まるで凄腕の剣士だ」



 ミャンメイの手並みは、明らかに一般人とは違う。


 その証拠に他の応募者が切った材料は、業物を使っていても粗さが目立つ。


 褒められたミャンメイは、少しだけ頬を赤らめる。



「それほどではないと思いますが…たしかに料理は好きですね。昔からよくやっていますし」


「店とかを開いていたの?」


「いえいえ、家で作っていたくらいです。食べるのも兄と自分だけでした」


「お兄さんがいるんだね」


「はい。あそこにいるのがそうです。元兵士なんですよ」



 ミャンメイの視線の先ではかなり体格の良い若い男が、ゲイルの『黒鮭商会』の面接を受けていた。


 戦士タイプの武人でかなり強そうだが、翠清山の戦いでは見たことがない人物だった。



「お兄さんは翠清山の戦いには参加していたの?」


「私たちがここに来たのは、つい最近のことです。その頃には終わっていましたね」


「君はどこの出身?」


「生まれはグラス・ギースですが、子供の頃に移住して『東』で暮らしていました」


「東? 南じゃなくて?」


「南を経由しながら少しずつ東に移住していったんです。それからしばらく東の都市で暮らしていました」


「東の都市というと、ロフト・ロンだっけ?」



 以前にラブヘイアから聞いた東にある独立都市である。


 規模としてはグラス・ギースに匹敵し、近年では自衛のために軍備を拡充しているという話だ。


 ただ、『デス・ロード〈死の旅路〉』があるので直接ここから東には行けないため、一度南の海を渡ってセレ・ノッツまで移動し、そこからケアド・アッパーという都市を経由して東に向かわねばならない。



「移動が大変だったでしょ。わざわざ東に行く必要なんてあったの?」


「移住を繰り返したほうが楽なんです。物価も税金も高いですし、長くは住めなくて…」



 アンシュラオン自身は金があるので気にしないが、ハビナ・ザマに行った時には一気に物価が跳ね上がったものだ。


 安全で豊かな都市ほど維持費に金がかかるので、海軍があるハピ・クジュネの物価もかなり高めといえる。


 今は海軍の再編成のためにまた税金が上がったようで、そのせいで生活が苦しい一般人も増えていた。


 今回これだけの人数が集まった背景には、依然として終わらない生活苦があるのだ。



「そのまま東に移住を繰り返して、最終的に『ゴウマ・ヴィーレ』という【国】で暮らしていました」


「国って国家のこと? このあたりに明確な国はないって聞いたけど」


「私も詳しくはありませんが、東には古い国家がたくさんあって、ゴウマ・ヴィーレもその一つみたいです」


「興味深いな。どんなところだったの?」


「とても素晴らしい国でした。こんな場所があるんだってくらい平等で静かで、あんなに落ち着いて暮らせたところは初めてでした」



 ゴウマ・ヴィーレは非常に小さな国家である。


 規模もグラス・ギースが二つ分くらいで、人口も三十万に満たない。


 これくらいの規模だと大型都市と呼んだほうがよいのかもしれないが、そこは間違いなく国家である。


 では、グラス・ギースやハピ・クジュネのような独立都市と、ゴウマ・ヴィーレのような独立国家を分けるものは何であるのか。



「ゴウマ・ヴィーレには【法】がありました。それまでは意識しませんでしたが、それが国家というものなのですね」


「法律か。もっと言えば憲法かな? たしかに重要なことだね。慣習法ではなく、明文化された法があるというのは国家として重要な要素だ」



 ゴウマ・ヴィーレにあってハピ・クジュネに無いもの。


 それは―――【法】


 もちろん都市にも約束事や決まりはある。暗黙の了解も数多くあり、盗人を海に沈める刑罰だってあるだろう。


 だが、その程度では明確な法とは呼べない。


 慣習法のように習わしも長く続けば法にはなるが、誰でもわかるようにはっきりと明示し、それを確実に遂行していくことが肝要だ。


 法律を国民が共通理解として認知し、そのアイデンティティーを共有しながらも、さらに対外的にも知らしめて初めて国家と呼べる存在になっていく。


 領主が感情で何かを決めたり、海賊が雑に統治している状態では、まだまだ基盤が脆弱で国家とは呼べないのである。(当人たちも国家であることを求めていない)


 そして、国家には当然ながら、そこを統治する『王』も必要だ。



「ゴウマ・ヴィーレには王様とかがいるの?」


「はい。王家の方がいますね」


「法があるってことは、それを守るための力もあるんだよね? 軍隊もあるのかな?」


「軍隊も強いみたいです。ちゃんと治安もしっかりしていました」


「なるほど、国家と呼ぶだけはあるか。防衛力は重要だからね」


「でも、あの国で一番重要なものは、軍隊ではなく【壁】なんだと思います」


「壁? 城壁のこと?」


「グラス・ギースみたいな城壁ではなくて、もっとすごい長さの壁が広がっているんです」



 いくら国王がいて法があり、軍隊がしっかりしているからといっても、それだけで安泰であるわけではない。


 昨今では東方からの侵略もたびたび起きており、ロフト・ロンなど東の都市も警戒を強めている。


 だが、いまだに東で騒動を聞かないのは、ゴウマ・ヴィーレが食い止めているからにほかならない。


 それを支えるのが、『白亜の刃山壁じんさんへき』である。



「白い壁がずらーっと長く続いていて、それで東と西を大きく分けているんです。だから東側からは攻撃を受けないで済むみたいです」


「迂回すればいいんじゃないの?」


「それが本当に長くて、山脈を囲むようにずっと続いているらしいんです。壁も少し特殊で簡単に登ったりもできないと聞いています」


「へぇ、そいつは面白い。壁を建造するだけでもかなりの労力だと思うけどね」


「ゴウマ・ヴィーレが造ったわけではなく、ずっと昔からあるみたいなんです。不思議ですよね」


「なるほど。逆に壁があったからこそ、そこに国家が生まれたのかもしれないね」



(昔からあるってことは、もしかしてそれもメラキが守っている過去の遺物なのかな?)



 地球でも不法移民対策に壁を建設しているが、本当にやるとなれば相当な手間と労力が必要になる。


 いくら東方がここよりも発展しているとはいえ、さすがにその規模の壁を建造することは難しいだろう。


 であれば、やはりメラキ関連だと思われる。



(おっさんの話だと、ここから西方に前文明の『首都』があったらしい。位置的に考えて外敵を阻む壁の可能性はあるな)



 さまざまな情報を得ている今となっては、その壁の目的まで予想できるから面白い。


 前文明の影響力が、最低でもそのあたりにまで及んでいたことは確定と思ってよいだろう。



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