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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
479/618

479話 「赤の錬金術師 その4『狩場』」


(サナたちを連れてこなくてよかったよ。立ち直れないところだった)



 やはり悪い予感は的中した。野生の本能が危険を察したに違いない。


 サナはこれを見ても何も思わないだろうが、兄兼父親としては絶対に触れさせたくない領域だ。



「あら、お客さん?」



 ほっと胸を撫で下ろしていると、ようやく店主らしき人物が出てきた。


 妖しい店なので店主も妖しいかと思ったが、普通に美人のお姉さんであった。


 年齢は三十過ぎくらいに見えるが、歳とは関係ない妖艶さが滲み出ている。その意味では十二分に妖しいものの、思っていたほどではない。


 ただし、着ている服は占い師に似た真っ赤な装束で、所々にジュエルが大量に付いた装飾品が垂れている。



「ええと…」


「買取? 使用済みパンツは一万円からよ。じかに脱げばさらにアゲアゲ」


「………」


「………」


「………」


「じゃあ、二万円から」


「値段じゃないから!! って、ここは本当にブルセラショップなの!?」


「失礼ね。私が趣味で買い取るのよ」


「そっちのほうが怖いよ!! 何に使うのさ!?」


「そりゃまあ…触ったり………」


「そのあとは?」


「ね? あるでしょう? いろいろとさ」


「もっと怖い!! じゃあ、ここにある商品は何? 買い取ったものを売っているんじゃないの?」


「これは私が買い取ったあとに『使ったもの』を売っているのよ」


「何を言っているのかわからない!? わかりたくもない!」



 久々に「やばいやつ」に出会ったものである。まさに狂人だ。



「で、売れているの? どうせ客なんて来ないでしょ」


「失礼ね。売れているわよ。うちは通販だってやっているもの。ほら、これがパンフレット」


「おっさんが買うの? それとも青臭い性に飢えた少年?」


「女性だって買うわよ」


「なぜ!?」


「そんなに驚くことはないでしょう。人の趣味はそれぞれじゃない」


「普通は驚くと思うけどね。…でもまあ、これが『術具』ならば買い手もあるかな」



 セーラー服やブルマー自体が珍しいので、その面でも需要はあるだろう。


 がしかし、これらの主な使用目的は性的なものではない。


 ここにあるすべてが―――術具


 見た目に多大な問題があるものの、どれも特殊な能力を秘めたものである。



「そろそろ本題に入ろう。あなたがグラス・ギースの錬金術師だね」


「錬金術師? 何のことかしら?」


「連絡がいっているはずだよ。雀仙さんたちに案内してもらったからね」


「案内してもらったからといって、私がそうである証拠にはならないわよね?」


「表に妨害用の術式があったじゃないか」


「そんなの術符でもできるわよ。もしくは普通の術士だって可能ね」


「いや、お姉さんが錬金術師だ。間違いない」


「どうしてわかるの?」


「あのレベルの術式なんて滅多にないし、何よりもオレにはそういう『能力』があるんだ」


「…へぇ」


「どう? 認める? 認めなくても、もうバレてるけどね」


「ねぇ、その髪の毛ちょうだい。全部」


「突然なに!? 全部取ったらハゲるじゃん! 嫌だよ」


「ケチねぇ。どうせすぐ生えてくるくせに」


「いやいや、そういう問題じゃないでしょうに。ラブヘイアみたいなこと言わないでよ」


「じゃあ、パンツちょうだい」


「だから何に使うの?」


「……錬成」


「間があった!! 目も逸らした!」


「いいじゃない。減るもんじゃないし」


「オレの誇りが減るよ!」


「売らないなら何をしに来たの? 買う側?」


「そっちの話は終わりにしてよ。というか、錬成ができる段階で錬金術師確定じゃないか」


「そう思いたいならそう思えば? 客じゃないなら何の用?」


「凄腕の錬金術師に頼みたいことがあるんだ。あなたにしかできない仕事さ」


「仕事ねぇ…」



 お姉さんは水タバコのようなものを取り出し、いきなり吸い始めた。


 吸うたびに植え付けられたジュエルが光っているのが気になる。



「それは何?」


「水タバコ」


「そのジュエルのほう」


「精神安定の効果を付与したジュエルよ。心が乱れた時に吸うと落ち着くようになるわ。君も吸う?」


「心が乱れたの? 正体がバレたから?」


「あなたの香りで興奮したから。噛み付きたくなる衝動を抑えるためよ」


「その衝動はおかしい!」



(なにこの人、怖い。なかなかペースが握れないな)



 これだけ圧力をかければ、いつもならばこちらが上に立てるのだが、まったく動じていないどころか、あまりにマイペースすぎる。


 さらには明らかに年上にもかかわらず、『姉魅了』が効いている様子もない。



(小手先じゃ駄目そうだな。仕方ない。直接切り込んでみるか)



 ここでアンシュラオンは直球勝負に出ることにした。


 こういう相手に付き合っていると時間を浪費するだけでなく、何も得られないことが多いからだ。


 よって、いきなりとっておきの【切り札】を使う。



「エメラーダ、それがお姉さんの名前だ。でも、おかしなことがある」


「何?」


「初対面でこう言うのも失礼だけど、お姉さんって―――【人造人間】なんだね」



 アンシュラオンの『情報公開』。


 記されてあった情報には、その文言がしっかりと記載されていた。


 それを聞いたエメラーダは、楽しそうに笑い出す。



「ふふ、ふふふふふ」



 さすがにこれは効いた。


 そう思ったのだが、彼女が笑った理由は別のものだった。



「あなた、自分が【呼ばれた】とは思わなかったの?」


「え?」


「こんな普通の場所に店があって、どうして誰も錬金術師の場所を知らないのか。おかしいとは思わない?」


「メラキだから隠れているんでしょ? 表の術式はそのためだ」


「そうね。それもあるわ」


「それに、オレのほうから頼んで紹介してもらったんだ。べつに呼ばれたわけじゃない」


「そうかしら? あなたは凄腕の錬金術師を探し求めていた。それ自体が強者である証拠。であれば、いずれは私のもとにたどり着く運命だったわ。私より優れた者はそうそういないものね」


「そうかもしれないけど、それがどうして呼ばれたことになるの?」


「あなたと会うのは『これが初めてじゃない』ってことよ」


「っ―――!!」



 アンシュラオンでさえ反応する間もなかった。


 エメラーダが、まったくのノーモーションで術式を展開。


 一瞬で周囲を封印結界が包み込むと、身体が一気に重くなった。


 まるで重力が数百倍になったかのように、強い圧力がかかって動けない。



(ちっ、これだから術式ってやつは面倒だ。戦気と違って見分けがつかないから反応が遅れる。いや、この人の腕が良いんだ。術式展開速度が姉ちゃん並みとはやるじゃないか)



 グラス・ギースの結界程度ならば触れただけで破壊できるのに対して、こちらの術式は簡単に振りほどけない。


 何よりも展開速度がパミエルキに匹敵。


 それだけでも恐るべき実力といえるだろう。



「なるほど、雀仙さんが言っていた意味がわかったよ。すべてのメラキが好意的じゃないってことだ」


「あら、まだ動けるのね」


「こういうものは初めてじゃないからね」


「ふふふ、さすがは白い王子様というわけかしら。いいわぁ、素材としては申し分ないわね」


「さっきの言葉、オレのことを知っているんだね」


「もちろんよ。以前からずっとトレースしていたのだけれど、気づかなかったかしら?」



 アンシュラオンは時折、グラス・ギース内でいくつかの視線を感じることがあった。


 注目される身の上なのであまり気にしていなかったが、その中に紛れてエメラーダの監視の目もあったようだ。



(オレが感じていた薄気味悪い視線は、この人のものか。それならまさか―――)



「『あの時』、オレを攻撃したのもあんたってわけだ」


「御名答。久しぶりね、魔人さん」



 ガンプドルフとの戦いの最中、謎の光の鎖が襲いかかってきたが、それを仕掛けたのもエメラーダであった。


 そして彼女の言動から察するに、これらは最初から用意された【罠】だ。



「あなただけじゃないわ。この都市に危険なものが出現したら、それを狩るのも私の役割なのよ。でも、他者から見れば危険であっても、こちらからすれば上質な素材でしかない。あなただって魔獣を狩るでしょう? それと同じね」



 自分の居場所を調べ上げるほどの強者を誘い込み、逆に狩る。


 そうすることで、何もしなくても勝手に向こうから『素材』がやってきてくれる、というわけだ。


 つまるところ、ここは―――【狩場】


 エメラーダからすれば、前に逃した獲物が再びやってきた感覚なのだ。



「あれはだいぶ前に設置したものだったけれど、まさか魔人が釣れるなんて思わなかったわ。また会いに来てくれるなんて嬉しいものね」


「いくら美人だからって、あんたのモルモットになるつもりはないね。ちなみにオレの前にここに来た連中はどうなったの?」


「久しくそんな連中はいなかったけど…そうね。取るに足らない人間には記憶を消して、そのままお帰りいただいたわ」


「取るに足る相手は?」


「ふふふ…不安なの? 大丈夫、優しくするから。余すことなく全部吸い取ってあげるわよ」


「何を吸われるのか怖いな。でも、あまりオレを刺激しないほうがいいと思うよ。全力を出せば、これくらいの術式は破壊できるからね。ここで力を出すと家屋まで破壊しちゃうから抑えているだけさ」


「術式に囚われたわりに随分と自信があるのねぇ。いいわ。試してごらんなさい。私の狩場に入ったのが運の尽きだって教えてあげる」



(オレの力には気づいているはずだ。それでいながら臨戦態勢を解かない。それだけ自信があるということか。こうなったらもうやるしかないな)



 もはや戦いは避けられない状況らしい。


 アンシュラオンは精神を集中。


 あらゆる状況に対応できるように準備を整える。


 次の瞬間、封印結界がさらに圧力を増した。エメラーダがこちらを拘束しようと攻めてきたのだ。


 こんな危ない女性に捕まったら何をされるかわかったものではない。全力で抵抗したいものである。



(術式の核を狙って―――そこだ!)



 アンシュラオンも術士の因子が5あるので、高レベル帯の術式にも対応は可能だ。


 術式には必ず『核』があり、それを中心にして特定の現象を維持している。


 いわば家屋を支える『大黒柱』のようなものだ。テントの支柱と思えばわかりやすいだろうか。


 そこを高出力の戦気をまとった拳で、打ち抜く!!


 核はバリンと割れ、封印結界が崩壊を開始。


 【対術三倍防御の法則】通り、三倍以上の戦気を放出すれば術式を相殺することは可能だ。


 がしかし逆をいえば、術者相手には三倍の力を出さないと対等に戦えないのである。


 今まで出会った平凡な者たちならばいざ知らず、目の前にいるのは明らかに術のプロフェッショナル。これだけで終わるわけがない。


 術式が崩壊すると同時に周囲に舞い散った破片が集まり、光の鎖となってアンシュラオンの四肢にまとわりついて動きを封じる。


 あの時と同じ術式だが、当人が目の前で操っているので威力は倍増しているようだ。



(二重術式。崩壊をトリガーに設定してあったか)



 高位の術者ともなれば、アンシュラオンが覇王技でやっているように、好きなように術をカスタマイズできる。


 皮肉にも目の前の錬金術師が、術式を改変できるだけの能力を持っていることが証明された。


 ただし、これに対してもアンシュラオンは冷静に対応。


 身体に戦気を展開させて、強引に術式を振りほどく。



「あらあら、脳筋なのね。見た目とはイメージが違うのも嫌いじゃないわ」


「店を壊したくはないんだ。早く終わりにしよう」


「ふふふ、力ずくで私を取り押さえるつもり? いいわね。そういう粋が良い子は久々よ。ますます欲しくなる」


「悪いけど、プライドまで捨てるつもりはないからね!!」



 アンシュラオンが軽く跳んだと思ったら、そこから恐るべき速さで宙を駆け、エメラーダの背後に回り込む。


 本当に宙を飛んだのではなく、戦気を操って空中移動を行う戦気術の一つだ。


 これを使う段階で、彼女をクルル並みの強者だと認識していることがわかる。



(高レベル帯の術者は時間を与えると危険だ。一気に制圧する!)



 アンシュラオンの手がエメラーダの後ろ首に迫る。


 ここを掴んで命気を体内に浸透させれば、身体の自由を完全に奪うことができるはずだ。


 目的は力を借りることであって倒すことではない。話し合いをするにしても、まずは動きを封じることが先決だろう。


 アンシュラオンは、エメラーダが防御用に張った物理障壁を破壊して―――ガシッ!


 首を掴む。


 エメラーダはまったく反応できていない。完全に無防備だった。


 本気を出したアンシュラオンの速度とパワーを考えれば、極めて当然の結果といえる。


 がしかし―――ぽろっ


 エメラーダの首が取れた。


 その様子はまるで「だるま落とし」で首の部分が、すっぽりと取れたようであった。



(なんだ? 人造人間だから首が取れても大丈夫なのか!? まさか殺したわけじゃないよな!?)



 逆に情報を知っているからこそ、そんなことも考える。


 力を入れすぎたのかと思って軽く動揺するが、そんな間もなくエメラーダ自体がぼろぼろと崩れて霧散。


 彼女の肉片が粒子となって眩い光を生み出すと、空間そのものが変質。


 こじんまりとした店内が、突如【巨大な奈落】になった。


 直後、アンシュラオンに強い浮遊感が襲いかかる。


 落ちても落ちても底が見えない真っ黒な世界の中で、ただただ胸を押し潰す圧迫感だけが満ちていく。



(これは…【幻術】か? どこで引っかかった? いや、そんな場合じゃない。これはまずいぞ。本気で敵の術中にはまってしまった)



 いわゆる『幻術』には、二種類のやり方が存在する。


 一つは実際に映像を生み出したり、分身(術式版)を作ったりして物理的に相手を惑わすものだ。


 だが、今回は店の中なので、いくら幻術といってもこのような真似は難しい。


 となれば、もう一つの可能性が脳裏に浮かぶ。


 こちらは極めて危険で、もっとも陥ってはいけない状態のものだ。



(どこかのタイミングで【精神に干渉】されたんだ。オレの脳神経に虚像を送り込んで幻を見せているんだろう。ってことは、オレの肉体は無防備な状態か?)



 さきほどエメラーダの首を引きちぎったのも幻覚に違いない。


 このことから、だいぶ前の段階で精神に干渉されていたと考えるべきだ。


 おそらくは最初の封印術式の時。


 あえて目立つ術を使って精神に指向性を与えておいて、油断させた隙に潜り込んだと思われる。


 自分もよくフェイントをやるが、術式も駆け引きは同じなのだ。


 しかしながら術能力においては圧倒的に向こうが上。演算処理も効率も段違いで対応がすべて後手に回ってしまう。


 何よりも『相手の攻撃が見えない』のは致命的だ。


 小百合やホロロを敵に回したサリータたちの苦労が、嫌というほど理解できる瞬間であった。



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