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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
478/617

478話 「赤の錬金術師 その3『ダイナミック討ち入り訪問』」


「目的地はまだ先?」


「下級街の端のほうです」


「そっか。じゃあ、久々にモヒカンに顔でも見せてやるかな。どうせ通り道だしね」



 アンシュラオンは馬車に乗って、これまた久々の『八百人やおじん』に赴く。


 到着するとアンシュラオンだけが降りて、扉の前に立った。


 が、すぐには入らない。



(普通に入るのはつまらんな。あいつのことだ。だらけているに違いない)



 前々から思っていたが、モヒカンはアクシデントに弱い気がする。少し脅されただけで屈するのも気になるところだ。


 よって、普通に入るのはやめた。



(そうだな、対応を見るために『抜き打ちテスト』をやるか)



 学校でやらされる抜き打ちテストや、職場で行われる抜き打ち査察しかり、世の中には予定に無いハプニングがある。


 日本にいた頃は、いつもやられる側で不満が溜まっていたので、一度自分がやる側になりたいと思っていたのだ。



「くらえ、モヒカン!!」



 おもむろにアンシュラオンが石を拾い、投げつけた。


 直撃した窓ガラスが粉々に砕け散り、激しい音を鳴らす。



「わっ!? 何事っすか!?」



 モヒカンの驚いた声が聴こえる。どうやら店頭にいるようだ。


 しかし、それ以後は何も起こらない。



(おっ、外に出てこないな。警戒しているってことか? だが、そのままとどまるのも危険だぞ)



 アンシュラオンはモヒカンの位置を波動円で確認すると、空点衝を発動。


 指からマシンガンのように小さな戦弾が何十発も発射され、扉やら窓やらを破壊していく。



「ぎゃーーー! 銃撃っす!!! 助けてくれっすーーー!」



 いきなり攻撃されたモヒカンは、ひたすら逃げ惑うことしかできない。


 こちらも意図的に当たらないようにしているが、まったく対応できていない様子がありありと伝わってくる。ただ怯えるだけだ。



(なんてなさけない対応だ。これはマイナス査定だな)



「討ち入りじゃーーーーー!!」



 さらにアンシュラオンが扉を蹴破って、再び戦弾を乱射。


 その様子は、まさに映画の銀行強盗さながらだ。



「ぎゃっーーー!! 殺されるっすーーー!」



 モヒカンは本当に討ち入りが始まったのかと思い、身体を丸めて必死に弾丸から身を守る。


 しかし、無防備な背中が丸見えである。


 甲羅を背負っているわけではないので、防御にすらなっていない。



(うーむ、身体を丸めるより大の字になって寝たほうが安全かもしれんな。まあ、どっちも怖いだろうけど)



 よく「身体を丸めろ!」と言うが、銃弾の場合は寝転がったほうが当たりにくいのかもしれない。


 跳弾して当たったら涙目であるが。



「金を出せ! 女を出せ!! 今すぐ降伏しないと殺すぞ!」



 近くにあったホウキの棒で尻をつついて、それを銃身だと思わせる。



「何でもするっすー! 命だけはお助けっすー!!」


「変な真似をしたら、お前の尻の穴が増えるぞ! わかったな!」


「ひ、ひぃっ! 撃たないでくださいっす!!」


「ならば、お前のところにいる【白スレイブ】を全部よこせ!」


「はひっ!? な、何のことっすか!?」


「しらばっくれるな。ネタは上がっているんだぞ! 蜂の巣になりたいのか!」


「ひっ、ひぃっ! わ、わかったっす! 渡すっす!」


「お前の背後にいる人物についても吐いてもらおうか。誰の命令で動いている?」


「っ!! そ、そんな男はいないっす!!」


「おや? オレは男なんて一言も言っていないぞ。なるほど、どうやら男のようだな」


「ひぁっ!? し、しまったっす! こ、これ以上は絶対に言えないっす!」


「ここで殺されたいのか! 吐け!!」


「い、嫌っす!! 酷い目に遭うっす!」


「ここで死んだら終わりだろう!」


「ち、違うっす! もっと酷くなるっす! ガクガクガクッ! 絶対に逆らったらいけないっす!! ブルブルブル!」


「うるさい! いいから吐け!」


「それだけは無理っす!! そんなことをしたら都市全部が消えるっす!!」


「おい」


「ぎゃっ」



 丸まっているモヒカンを、足で押してひっくり返す。



「撃たないでほしいっす! その情報以外ならば何でも渡すっす!!!」


「おい、こら」


「ぎゃっ、踏まれたっす!」


「そろそろ気づけ。オレだ」


「ひー、ひー……って、え? だ、旦那!?」



 そして、ようやく相手がアンシュラオンであると気がつく。


 その顔は、涙やヨダレでぐちゃぐちゃに汚れていた。まったくもって醜い男である。



「だ、旦那…これはいったい…え? 何がどうなっているっすか!?」


「退屈していると思ってな。ダイナミック討ち入り訪問をしてみた」


「なんすかそれ!?」


「討ち入りを装ったドッキリみたいなものだ。どうだ、驚いただろう?」


「じゃあ…今のはまさか…」


「うむ、余興だ」


「ひ、酷いっす! 本気で焦ったっす!!! あー、扉も窓も壁も滅茶苦茶っすよーーー! なんでこんなことするっすか!!」


「理由はない」


「えーーーーー!?」



 理由などない!!


 強いて言えば面白そうだったからである。



「それよりモヒカン、討ち入りに対して弱すぎるぞ。こんなんじゃ、あっという間に制圧されてしまうだろうが。どうして屈強な兵士を扉の前に置かないんだ! この馬鹿者が! ばしっ」


「いたっ! そんな…! 表通りで討ち入りなんて普通はありえないっすよ!」


「グラス・ギースの外から変なやつが来るかもしれないだろうが。これからはマキビシくらいは撒いておけよ」


「うう、客が寄り付かなくなるっす…」


「それとだ、オレのことを吐かなかったのは立派だが、白スレイブは渡すな。あれはオレの財産でもあるんだぞ!」


「でも、渡さなかったら殺されていたっす…」


「まあいい、今回だけは許してやろう。だが、次はないぞ。またやったら、そのモヒカンを皮膚ごと全部引きちぎったうえに、尻の穴も増やしてやるからな。覚悟しておけ」


「ひ、ひぃー!」



 その後、一般人からの通報を受けた衛士隊が様子を見に来たが、「モヒカンが世紀末ごっこをやっていた」で済ませた。


 当然、事前にセイリュウから不干渉の通達が来ているであろうマングラスの自警団は、見て見ぬふりである。



「酷い目に遭ったっす。やっぱり旦那は怖い人っす」



 ボロボロになった椅子に座ったモヒカンが嘆く。


 今朝も丁寧に掃除をしたばかりだ。ワックスもかけた。


 だが、昼にはこの有様である。泣きたくもなるだろう。



「この程度でビビるなって。モグマウスもいるだろうが。こいつが反応しない段階でオレだと気づけよな」


「そんなの無理っす。自分は武人じゃないっす。しかもこのネズミ、ずっとついてくるっす。怖いっす。寝る時も近くにいるっす」


「護衛だから当然だ。ちょっと見せてみろ」



 アンシュラオンは、モヒカンの護衛につけていたモグマウスを確認。


 完全自律モードとして切り離しているので管理下にはないが、消耗具合でどれくらい戦闘したかがわかるのだ。



「なんだ、全然減ってないじゃないか。敵は来なかったのか?」


「グラス・ギースは平和っす。派閥間の協定もあるっすから争いは起きないっす」


「セイリュウも出歩いているし、その意味では安全か。だが、更新はしておこう」



 アンシュラオンは、新たにモグマウスを作り直して再配置する。


 このタイプの闘人は命気が尽きれば自然消滅するので、定期的に生み出す必要があるわけだ。


 これもスレイブ館に寄った理由の一つである。



「そういえば、あの生首は元気か?」


「ひぃっ! 思い出させないでくださいっす! 倉庫に奥にしまってあるっすが…全然腐らないので怖いっす」


「完璧に凍らせているからな。なんなら店頭に飾ればいいのに」


「絶対に嫌っす。吐くっす。客も逃げるっす。トラウマっす」


「不思議だ。久々に会ったのに何の違和感もないな。モヒカンはモヒカンなんだな」


「弟には会っているはずっす。先日も手紙が来たっす。女の衛士さんにまた殴られたと泣いていたっす」


「あれがマキさんのストレス解消方法なんだ。自分たちが悪人面であることを呪え」


「哀しいっす。人権が欲しいっす」


「お前の人権なんぞどうでもいい。それより近々、大量にスレイブを輸入するぞ。話は聞いているな?」


「領主の奥さん経由で聞いているっす。すごいことになったっす。前代未聞っす」


「商会本部のほうは大丈夫か?」


「売上の一部を上納すれば基本的には何も言われないっす。あとは各都市と上手くやれと言われるだけっす」


「相変わらずの放任主義だな。まあ、こちらとしては助かるが。白スレイブはどうだ? 上玉はいるか?」


「あれからまた増えたっす。お眼鏡にかなう商品がそろっているっす」


「お前のスレイブを見る目だけは確かだからな。期待しているぞ」


「旦那の用事ってそれだけっすか?」


「なんだ? 早く帰ってほしそうだな」


「そ、そんなことはないっす! ただ、旦那がいるとトラブルが起こりそうで心配なだけ―――あいた! うぁー、頭がへこんだっす!」


「嫌そうな顔で言うな。オレだって長居はしたくないんだ。そもそも今日来たのは、この都市の錬金術師に会いに来たからだ」


「錬金術師っすか?」


「お前は会ったことはあるか? 思念液は錬金術師から買っているんだよな?」


「会ったことはないっす。発注はハローワーク経由で荷物だけ届けられるっす」


「やはりか。どこにいるかもわからないのか?」


「知らないほうがいいっす。調べようとして戻ってこなかった人間なんてざらにいるっす。旦那は大丈夫っすか?」


「オレは問題ない。正規の手続きを踏んでいるからな。じゃあ、また連絡する。準備を怠るなよ」


「ふぅ、やっと悪夢が終わるっす」


「おっと、忘れていた。お前との契約も更新しないとな」



 アンシュラオンがモヒカンの頭に手を乗せると、頭頂部にあった痣が鮮やかに浮かび上がる。



「あー! ようやく薄くなって安堵していたっすのに!」


「裏切ったら頭が吹っ飛ぶからな。よく覚えておけよ」


「弟にもしているっすか?」


「今のところはお前だけだ。裏切った前科があるからな」


「災難っす。出会った頃に怖さを知っていれば裏切らなかったっす…」



 保健所に送られるくたびれた老犬のような表情をしながら、モヒカンは嘆く。


 この男の運命もアンシュラオンに出会った段階で決まっていたのだ。



「ごめんごめん、待たせたね。行こうか」



 表に出て雀仙と合流し、そこからは徒歩で目的地に向かう。


 しばらく中級街の方向に移動すると下級街の商店街が終わり、さらにその先にある裏路地に入る。


 このあたりは表通りに入れない店がちらほら点在しており、その中に民家が紛れているような混在エリアになっている。


 目的の場所は、その区画の真ん中あたりにあった。



「この店が…そうなのか?」



 目の前にある古ぼけた石造りの店は、下級街としてはそう珍しいものではない。


 周囲の家々とも近い造りなので、ぱっと見たら景色に溶け込んでしまいそうだ。もし看板が出ていなければ、まず店とは気づかないだろう。


 そして、その看板には『黄金女学園』と書かれている。



「ねぇ、本当にここなの?」


「そ、そのようですね」



 雀仙も初めて来たようで、その店の異様さに圧倒されていた。


 まず、名前が怪しい。


 正しく表記すれば【妖しい】。


 何よりもガラスケースの中の商品は、もっと危ない。



(なにかセーラー服みたいなのが飾ってあるんだけど…って、使用済み!? ブルマーもあるぞ!? どうなっているんだ!? おいおい、まさかブルセラショップじゃないよな)



 当然だが『ブルセラ症(マルタ熱)』のことではない。


 ブルマーとセーラー服を合わせた『あのブルセラ』のことである。


 女性に長年愛用されたブルマーも、時代の流れによって完全に衰退してしまったので、元号が変わった今では知らない人もいるだろうか。



(オレの学生時代はブルマーが普通にあったが、そもそもあんなものの何がいいんだ? 中身があってこそだと思うがな。ところでオレは本当にここに入るのか? 周囲の視線が怖いな)



 こんな店に入っていくところを誰かに見られたら、それこそ切腹しかない。


 前世でもアダルトショップくらいは入ったことはあるが、さすがにブルセラはない。むしろ入ってはいけない。



「何度も訊いて悪いけど、本当にここなの?」


「アンシュラオン様もお気づきかもしれませんが、この店の周囲には『結界』が張られております。もし何も知らない人間が通れば、そのまま素通りしてしまうでしょう。一般人には店自体が見えないからです」



(言われれば薄く見えるかどうかのレベルだ。オレが見ても壊れないんだから、かなり高度な術式なんだろうな)



 この店の周囲、道路の途中には視認妨害の術式が施されている。


 これ自体はスレイブ館にもあったので珍しいものではないが、ガンプドルフの戦艦の術式すら破った自分が見ても無事なのだから、規模と効果に関しては何倍も強力なものだと推測できる。


 今回は雀仙が事前に許可を取っていた(割符を持っていた)ので、すり抜けることができたが、アンシュラオン単独ならば突破できていたかはわからない。


 よって、どんなに現実逃避しようが、間違いなくここが目的地なのだ。



「入っていいんだよね?」


「はい。ただし、私どもがご案内できるのはここまでです。各メラキには、自分のテリトリー内における強力な権限がありまして、仮に私が一緒にいても交渉が有利になることはありません。あくまで仲介するだけしかできないのです」


「それだけでも十分さ。案内ありがとうね。三人に関してはハピ・クジュネまで送るから、そこらの店でお茶でもしててよ」


「成功を祈っております」



 雀仙たちとはここでお別れとなる。


 彼女が言ったことに偽りはないが、一緒に立ち合いまでしてしまうと余計なことまで知ってしまうので、最初から関わらないほうが身のためだろう。



(さて、ここからが正念場だな。入るだけで勇気がいるってどんだけだよ。くそっ、行くしかないか)



 ここで迷っていても埒が明かないため、勇気を振り絞って中に入る。


 扉を開けるとチリンチリンと呼び鈴が鳴るが、それがまるで敗北の鐘のようにさえ聴こえる。



(屈辱的な音だ。このオレがブルセラショップに入ってしまうとは…負けた! 人生に負けた!)



 よもやこのような場所で敗北を味わうとは思わなかった。


 そんな絶望感に押し潰されながらも、店の中を確認。


 店内にも商品が並べられているものの、やはりどれも妖しい。ある種の嫌悪感すら抱くので相当なものだろう。


 性癖が違うことは、これほどまでに嫌悪の対象になるのだと思い知る二十三歳の春であった。(実際は二十四歳)



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