表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
475/617

475話 「国の産声、ロマンを求めて」


 今までの話を軽くまとめると、ガンプドルフが西側の技術を提供し、ハングラスが仲介役となって物資を流通させ、アンシュラオンが新ギアスを開発して人を集める。


 それによって兵器の製造や開拓を行いつつ影響力を増し、都市の建造も少しずつ進める。


 そして、いずれはハローワークを誘致して独立した拠点となり、最終的には『国家』を目指す。


 一都市のグラス・ギースでさえ、全派閥の経済規模は年間百億円を超えるのだ。国家ならば、その十倍から百倍は軽く超えるだろう。


 だからこそガンプドルフは国の必要性を語る。



「最終目標は、ここに国を生み出すことだ。ぜひそれを共通認識にしたい。我々も再興を果たせ、同時に北部も侵略から身を守るための力を得ることができるだろう。これが私の考える東西の新たな共生関係だ」


「でもさ、いつになるかわからないよ? やることは山積みだ」


「それでも国は必要なのだ。国を持ち、栄えさせるということは、この世でもっとも強い力を得ることでもある。何より君が本当に欲しいものは、まさにそれではないのか?」


「オレが国を求めているって?」


「そうだ。君は領主を嫌った。自分の上に誰かが立つことを嫌った。スレイブを欲するのも常に自分が上にありたい欲求からだろう。それは自然な欲求だ。なんら恥らうことはない。普通の人間ならば文句を垂れながらも嫌々一般生活を送るだろうが、君は違う。力がある。それを成せる魅力がある。だからきっと、いつか我慢できなくなる。そういう日がやってくる」



―――「君は自分の国が欲しくなる。その器があるからだ」



「っ…!」


「都市の話にしても、必ずしも一つしか作ってはいけないわけではない。それを足がかりに、少年は少年で都市や国を自由に作ってよいのだ。この西方の地は、土地だけはいくらでも余っているのだからな」



 ガンプドルフの言葉がアンシュラオンの胸を焦がす。


 自分の夢はサナにすべてを与えてあげることだ。


 すべてのスレイブの頂点に立つ【女帝】にしてあげることだ。


 そして、それには【国】が必要だ。国のない王など恥ずかしいだけだろう。



(サナを女帝にして、オレは神になる。そのためにも国は必要だ。誰にも穢されていなければ、もっといい。つまらない既得権益もなく、改革をする必要もなく、新たにオレ自身が作れれば一番いいに決まっている。そう、誰の所有権もまだ存在していない荒野ならば、いくらでもオレの好きにできる)



 翠清山で初めて自分の領土を持った時、心が躍ったことを思い出す。


 何をどう言い繕っても、自分が自由にできるものが増えることは、男として最高の至福なのである。


 実際に国を作るかどうかまでは考えていないが、鉱物等の財産を増やすことが土地を増やすことと同義ならば、その集合体がいずれ自治領区となり、国と呼ばれるまでになるわけだ。


 そうなればガンプドルフと目的は同じになる。



(しかし、国ともなればさすがに厳しいか。国家運営はそんなに簡単じゃないし、オレが嫌いな軋轢だって増えるかもしれない。うーむ、どうするべきか…)



 ふとガンプドルフの顔を見ると、その目には強い意思の光が宿っていた。


 まだこちらが知らない情報を持っていると言わんばかりだ。



「これだけの状況でも勝ち目があるって顔をしているね。いくら追い詰められていてもさ、普通なら違うところに行くよね。でも、おっさんはあえてここを選んだ。その『本当の理由』は何?」


「少年は東大陸のことをどれだけ知っている? 特に『歴史』に関してだ」


「過去はほとんど知らないかな。直近では三百年以上前に大災厄があったこと。それと遺跡が多いとは聞いているよ。おっさんは詳しいの?」


「いや、私も似たようなものだ。もともと西側の人間は東大陸に興味がないのが実情だろう。入植にもさして期待しておらず、もし何か見つかれば儲けものくらいにしか考えていないはずだ。あちら側からすれば、ここは【流刑地】でしかない」


「こんな荒野じゃ当然かな。入植を任されるのも左遷された連中が多いらしいね。だからやる気もあまり無い」



 東大陸の西部一帯はほぼ荒野であり、そこに送られる者たちも大半が『労働者』である。


 西大陸にいても身分の格差や貧困によって居心地が悪い者を選び、または募集し、僻地である入植地に送り込む。


 むろん、それを監督する者たちにとっても『左遷』と同義。中央で要職の席が埋まってしまったから閑職に回されたのだ。


 稀に有力者が理想を叶えるために未開拓地を確保することもあるが、だいたいは資金不足で途上で終わるため、荒れ果てたまま放置されることが多い。


 南部の開拓が始まってしばらく経つのに、いまだに混沌としているのはこういった事情もあるわけだ。



「だが、チャンスがないわけではない。我々も東大陸に出向く以上は最低限調べてきた。ここがかつての【文明の中心地】であったことは知っているか?」


「遺跡があるなら文明があった証拠だよね。ハピ・クジュネでもスザクが遺物を使っていたし、そうした昔の宝物があるかもってこと?」


「うむ、遺跡からは現在の技術以上のものが出てくることが多い。むしろ聖剣や魔剣といったものの大半は遺跡の年代、つまりは【前文明時代】に生み出されたものなのだ。それを模倣して新たに聖剣を作っているのが現代の名工たちだ」


「模倣さえ難しいってことは、前文明の技術は失われているの? 西側の技術は前の文明からのものじゃないってこと?」


「まったく違うものだ。西側文明の技術は、主に【大陸王】が世界を統一した時から発展してきた【新しい技術体系】となる。一方で前文明の技術は、ほぼ完全に消失しているため、残っているものは発掘される遺物に限られている。当然ながら現在の技術には遺物を解析したデータも加えられているが、前文明にはまだまだ遠く及んでいない」


「今でも遺物を見つけて真似るしか方法がないのか。技術体系が違うなら、なおさら難しいよね。というか大陸王って誰?」


「そんなに博識なのに知らないとは…少年の知識は偏っているな。大陸通貨に顔が描かれているだろう?」


「ああ、あのおっさんか。女なら見るけど、男をまじまじと見る趣味はないんだ」


「あの顔が本物かどうかはわからないがな。大陸王は、およそ七千年前に世界を統一した【覇王】だ」


「え? 覇王なの?」


「そうだ。彼こそ【初代覇王】だ」


「そんな話は師匠からも聞いたことがないけど…」


「覇王の弟子である君が知らないのだから、世間でも知っている者は少ないのかもしれないな」



 それ以前からも戦士因子を最大限にまで覚醒させた者はいたのだろうが、覇王という名が使われ始めたのは大陸王からである。


 なぜならば、世界統一という【覇道】を実際に成し得たからだ。


 しかし、現在の覇王は戦士の頂点という意味合いが強く、べつに覇道を推し進める存在ではないことから、徐々に大陸王が覇王であったことも忘れられていったようだ。


 アンシュラオンが知らないのも、大陸王自身が『覇王技』を開発したわけではないことも大きな原因だろう。


 技自体は、偉大なる者から受け継いだ【旧時代】からの因子データに格納されていたり、地上の人間が新たに開発することで作られるが、それを本格的に体系化していったのは大陸王以後の覇王たちなのだ。



「大陸王が真に偉大だったのは、ただ世界を統一したからだけではない。共通言語から技術体系まで、すべてを新しいものにしてしまったのだ。それまでは文明レベルも低く言語もバラバラで、銃さえも満足に存在しない世界だったというから、その功績は大きい」


「なるほど、それが大陸歴の始まりか。じゃあ、前文明ってのはいつの話なの?」


「それも詳しいことはわかっていないが、発掘された遺物を調べた結果、最低でも一万年以上前には滅んでいたそうだ」


「大陸王の統一が七千年前なら、前文明との間に最低でも三千年の空白があるよね。三千年は人類史にとってそれなりに長い年月だ。それまでずっと混沌としていたのは不思議だね。一つの文明が出来てもおかしくはなさそうだけど…」


「逆に大陸王が凄すぎたのかもしれん。新しい技術体系など簡単には作れないからな。さすがの大陸王も普及させるまでには百年以上かかったそうだが、今でも残っているとはすごいものだ。今我々が話している言葉もそうなのだからな」


「言葉…か」



(進化の世界においては時折、時代を急速に進める『きっかけ』が起こるもんだ。たとえば地球の文明だって、ある時を境に急激に進化していった。産業革命なんかもそうだし、パソコンや通信技術の異様な発展もそうだ。今まで原始的だったものが、たかだか数十年で生き方そのものが変わってしまうほどに進化する。この世界においては、それが大陸王の出現だったんだ。ということは―――)



 アンシュラオンの中に一つの確信が芽生えた。



 大陸王は―――【転生者】



 の可能性が極めて高い。


 なぜならば、下界に来てからずっと不思議だったことに明確な答えが出せるからだ。



(しかも大陸王は【元日本人】の可能性が高い。だから日本語が通じるんだ!! 文字にしたって、平仮名とカタカナと漢字がそのまま使える世界なんておかしいからね。カンマの使い方もどう考えても『円』だよ)



 特に記載はしなかったが、大陸通貨におけるカンマは『四桁』である。


 つまりは一万円の場合、「1,0000」と表記されている。


 三桁に慣れた現代人には逆に見づらいかもしれないが、円ならばこちらのほうが見やすいのだ。


 たとえば百万は「100,0000」、一千万は「1000,0000」、一億は「1,0000,0000」だ。


 日本語は「万進法」を使っているので、単純に下四桁を切ってしまえば、そのままが万の数字として数えることができる。


 地球でも植民地支配を続けた欧米が自らの方式を押し付けただけで、円表記ならば明らかにこのほうが便利であろう。


 そして、何よりも【言語】だ。


 この世界に転生して言葉に困らなかったのは、大陸語が日本語だったからだ。地域によって訛りはあるが基本は標準日本語そのものである。


 文字も同じく日本語で、漢字と平仮名と『片仮名』が使用されている。


 片仮名はそもそも日本で作られたもののようで、他の国ではまずお目にかからないものだ。それによって片仮名で書いておくと、外人には偽造されにくいという話もある。


 いつも利用しているハローワークにしても、だいぶ中身は変わっているが、名称は日本の職業紹介制度からもってきたことは明白だ。


 そもそも新しい技術体系など簡単に作れるものではない。


 この世界で一般化されている軍事技術、文化、経済、そのどれもが『大日本帝国式』であることから明らかな流用が見て取れる。


 となれば、間違いなく大陸王は元日本人であり、これでいろいろと辻褄が合うことになる。


 ちなみに大陸暦の始まりは、すべての技術体系と言語が完成し、普及してから始まったものなので、実質的な世界統一との間に数百年の時間のズレがあるようだ。



「大陸王がすごいことはわかったけど、今の状況とどう関係があるの? わざわざそんな話をするということは何かあるんでしょ? おっさんが目星を付けた何かがさ」


「うむ。あくまで噂だが、この東大陸北部には【首都】があったそうだ」


「首都? 大陸王の?」


「いや、【前文明の大首都】だ。大陸王はハペルモン共和国を作って自らの居城を築いたが、東側にはあまり力を入れていない。東大陸にある遺跡の大半は前文明のものなのだ」


「前文明の…まさか中心地ってそういう意味?」


「そうだ。現在の西大陸すら超える文明の中心地だ。そこでは全世界最高の技術と人材と物が集まっていた。高度な技術によって造られた煌びやかな建造物。その中に飾られた美術品や財宝の山々。大量生産された本物の聖剣の数々。外を守るは整然と居並ぶ守護者の巨人や使役された強力な魔獣たち。空も彼らに支配され、数多くの竜が飛び回っていたという。それだけに飽き足らず、前文明の【超越者】たちは生死すら自在に操り、自由に身体を入れ替えて永遠の命を手に入れたそうだ。まあ、滅びてしまったので永遠ではなかったようだがな」


「おっさんは、それを信じているの?」


「すべて噂話。おとぎ話だ。どこまで本当かはわからん。だが、今の時代でも地下から彼らの遺物が発見されているのだ。ありえない話ではない」


「滅びたならば誤っていたということだ。結局その文明の在り方は、女神様の御心ではなかったということじゃないかな」


「少年は女神信仰者か?」


「いいや、単に女性の味方なだけさ。いかなるときもオレは女神様を助けるつもりなんだ。困っている良い女は助ける。それが流儀さ」


「そこまで貫けば立派だな。見習いたいものだ。しかし、少年もこの異常な西方の状況を見ておかしいと思ったはずだ。ハローワークの情報でも西部の状況はまったく判明していない。これだけの広大な土地が手付かずなのだ。何もないわけがない」


「………」



(ガンプドルフの話を何の情報もなく聞いていれば、眉唾物だと思ったかもしれない。だが、オレはすでに違う情報を得ている)



 西方から来たというクルルザンバードが、たびたび語っていた『超常の国』という言葉。


 そして、データにあった『超越者の守護者』というスキルと、『わが君』という上位者の匂わせ。


 これを繋げると「超常の国の支配者層たる超越者が、自らを守護するために強力な魔獣を使役していた」となり、そのどれもがガンプドルフの話を裏付けている。


 同様にハローワークが、クルルザンバードの情報を躍起になって秘匿しようとしていることにも説明がつく。


 もし守護者が実在するのならば、前文明が本当に存在したことを証明することになってしまい、世界中が大騒ぎになるからだ。


 それこそ世界規模で東大陸北部に人が殺到するだけにとどまらず、下手をすれば世界中の国家からも狙われることになってしまう。


 しかし、この情報を得ているアンシュラオンと、知らない状態で東大陸にやってきたガンプドルフの立場は大きく異なる。



「言いたいことはわかるよ。味方を動かすためには【ロマン】が必要なんでしょ?」


「…そこまで見抜かれているのか」


「おっさんがいくら聖剣長だといっても、国がなくなったら地位にも価値がなくなる。国家が強いのは『生活の保証と安心』があるからだ。今のおっさんにはそれを与えることができない。だからそんな話にもすがらないといけないんだ」



 ガンプドルフは国家の重要性を説いたが、部下とて人間だ。


 愛国心だけでは生きてはいけない。何かしらの成果が必要だ。そこに至るまでの希望が必要なのだ。



「おっさんは夢にすがらないといけない。それだけ苦しい状況なんだね」


「わかっている。無謀な賭けだとわかっているのだ。だが、私はそれでも―――」


「いいじゃん」


「―――うぇ?」


「ロマン、いいじゃん」


「え……ぁ……ぁあ……?」



 ガンプドルフほどの人物が、素っ頓狂な声を出してアンシュラオンを凝視している。


 自分で言っていても苦しい話だ。


 否定されることはあれ、肯定されるとは思いもしなかったのだろう。


 だが、白い少年は屈託のない笑顔を浮かべている。



「なにを呆けているのさ。おっさんのしけたツラを見ても楽しくもなんともないよ。ほら、しっかりしな。将軍なんでしょ。いつだって自信ありげにしていなきゃ周りが不安になるよ」


「その……少年、いいのか?」


「ん? ロマンの話? もちろんだよ。だって、楽しいじゃないか!! そりゃ噂だよ。そんな眉唾もんの話を信じるほうがどうかしている。でも、それが本当に噂かどうかを知るには調べないといけない。オレはさ、今すごい―――」




―――「ワクワクしてるぞぉおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」




 目の前にいるガンプドルフが震えるほどの大声だ。


 ただでさえ声が大きいのだから、これは相当な音量に違いない。


 だがしかし、興奮が止まらない!!



「そうだよ、オレはこういうものを求めてたんだよ!! せっかくこんな場所に来たんだから、冒険とロマンがないとつまらないって!! オレがまだ見たことのないものがそこにあるかもしれない! ないかもしれない? だからどうした!! いいじゃないか、やってやろうぜ!! オレの妹は特別なんだぞ!! だったら普通の場所で満足するわけないだろう!! 誰も成し遂げていないことをしてやるんだあああああああああああああ!!」



 今、ワクワクしている。


 今、ドキドキしている。


 ガンプドルフの話を聞いた瞬間から、無性に冒険したい欲求に駆られてしまっている。



「しょ、少年……」


「そうだ。オレは少年だ!! 少年なら夢を見たっていい! そうだろう!! あれが駄目だとか、これをしちゃいけないとか、そんなのくそったれだ!! 馬鹿が言う台詞だ! 何もしないやつが自己弁護するための言葉だ!! おっさんだってワクワクするだろう!? 今はおっさんだけど昔は少年だったんだぞ!!」


「っ!!」


「自分で言ったんだから、最初から諦めるなよ!!」



 アンシュラオンが、ドンッとガンプドルフの胸を叩く。


 それは文字通りの張り手。


 遠慮なく全力で叩いたので、骨が折れそうなほどの衝撃が走る。



「オレが協力してやるから財宝を見つけてやろうよ。ああ、もちろん全部オレがもらうけどね!! ひゃっほー!! 楽しみだなぁあああ!!」



 ガンプドルフが悶えている間に既成事実を作ってしまう。さすが自分のことしか考えていない男である。


 が―――熱い!!


 叩かれた場所からエネルギーが身体全体に行き渡る。


 心臓が熱い。心が熱い。魂が燃えるようだ。


 その瞬間、ガンプドルフの意識が少年時代に戻った気がした。


 DBDでは年に一度、聖剣がお披露目される時期があった。


 まだ所有者が決まっていない聖剣を公表することで、聖剣に認められる者がいないかを探す行事でもある。


 少年の頃、それを見て「いつか自分も聖剣に選ばれるのだ」と憧れた。


 鉱夫だった父親からは反対されたが、強引に騎士になった。


 騎士になり少しずつ頭角を現したものの、聖剣には選ばれなかった。


 いくつもの季節が流れ、少年は大人になり、中年になった。まだ聖剣には選ばれない。


 その頃、光の聖剣をまだ子供だったシントピアが受け継ぎ、話題になった。


 天才少女が現れた。聖剣王国の希望だ。未来は明るい、と人々は騒ぐ。


 正直、挫折しそうになった。自分には才能がないのかもしれないと、うな垂れた。


 だが、諦めなかった。諦められなかった。


 そこに夢とロマンが―――あったから!


 いつか見た夢を追いかけて死に物狂いで鍛錬し、あがき、苦しみ、どんな場面でも諦めなかった。諦めるわけにはいかなかった。


 上官には煙たがられたが、部下は自分を信頼してくれた。


 そんな自分が聖剣長になれたのは、まさに奇跡でしかなかった。


 顔に壮年のシワが少し刻まれた頃、聖剣のお披露目の行事。


 これが最後のチャンスと子供たちを押しのけて最前列で祈った。


 頭を床に叩きつけて請い願った。周りの親衛隊に呆れられ、止められたが、それでもやめなかった。


 必死だった。夢中だった。その瞳には聖剣しか映っていなかった。


 それを面白いと思ったのかもしれない。雷の精霊王はガンプドルフを選んだ。


 哀れみで得たようなチャンス。一興で得た力。それが自分の誇り。精一杯の成果。


 だが、後悔したことはない。



(いつだってなさけないな、私は。いつも醜態を晒して生きている。だが、だが、それがどうした!! この胸の熱い想いはいつになっても変わらない!! 彼がそれを思い出させてくれた!)



 目の前の少年は、「もっと強い魔獣を支配したいなー」とか「その力を使ってスレイブ・ギアスをもっと強化しよう」とか「財宝に埋もれて泳ぎたい」とか欲望まみれのことを言っているが、何一つ負い目も感じず思うがままに生きている。(見ているほうは恥ずかしいが)


 しかしながら、その姿が、声が、情熱が、いつだって他人を惹きつける。


 それでいいのだと教えてくれる。それが正しいと後押ししてくれる。



(彼と一緒にいると何でもできてしまうような気がする。そうだ。そうなのだ。私はこの力に惹かれたのだ。私の迷いは―――晴れた!!)



 ガンプドルフは、この瞬間にすべてをアンシュラオンに託した。


 その結果何があっても恨まないし、自分もすべてをかけて挑む、と。


 実際のところ、ガンプドルフも現状に絶望していた。


 誰だってこんな最悪の状況を見れば逃げたくなる。


 もう戻る場所も時間もないのだと自分を奮い立たせても、独りではどうにもならない現実が立ち塞がる。


 だからこそアンシュラオンの手が、光が、『王気』が必要だったのだ。



 王気を持つ者こそ―――【王】!!



 人々に勇気と希望を与え、どんな劣悪な環境さえも覆してしまう最強の力を持つ者なのだ。


 それができるのならば、悪人だろうが小悪党だろうが関係ない。十分に命を託すだけの価値がある。


 この瞬間、歴史は動いた。


 今、『国』への小さな小さな産声が上がったのだ。


 その後、三者は明け方近くまで話し合い、今後の展望と互いの協力関係を約束した。


 ここではキャロアニーセと契約した時のような調印証などは存在しない。


 なぜならば、互いに夢を語り合った『同志』だからだ。


 ガンプドルフは国の再興のために、一見すれば無謀な挑戦を続ける。


 ゼイシルはグラス・ギースの鎖から抜け出そうと、そのロマンに投資し、自らの夢である新都市計画を進める。


 そしてアンシュラオンもまた、この世界に転生してきた本当の喜びを見い出そうとしていた。


 これによって、いまだ秘密裏かつ何も成し得ていないが、事実上の北部における『第三勢力』が誕生したのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

励みになりますので、評価・ブックマーク、よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ