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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
473/618

473話 「三者の都合 その2『問題点と光明』」


(ここにある精神用のジュエルだけでも五百個はあるぞ。ということは、五百人のスレイブを作ることができるってことだ)



 サナのように重要な人物には特別なジュエルを使うが、それ以外の者に使うには十分上質であろう。


 今後は大量の人材雇用を考えているので、非常にありがたい申し出である。


 しかしながら、すべてが上手くいくわけではない。



「少年には正直に言おう。戦艦の修理程度ならば自前で可能だが、新たに製造するには人手が足りないのだ」


「だろうね。簡単に造れるのならば苦労はしない」


「まず必要なものは、多くの【造船技師】だ。技術と設計図は提供できるが、実際に組み立てる者たちが必要になる。それに伴って労働者も必要になるだろう」


「戦艦の設計図ってかなりの機密情報じゃない? 持ち出してきたの?」


「最新の大型戦艦は無理だったが、駆逐艦や巡洋艦はいくつか手に入れることができた。残念ながら少し旧式のものではあるが、調べたところ南部の勢力もけっして最新装備を持っているわけではないようだ。旧式でも対抗は可能だろう」



 一般的な艦にはいくつか種類があり、大きなものからいえば、全長千五百メートルから二千メートルを超えるような『超弩級大型戦艦(主に大国の旗艦に使われる)』、全長千メートル以上の『大型戦艦』、五百メートルから千メートル以下の『巡洋艦』、百メートルから三百メートル以下の『駆逐艦』がある。


 海上自衛隊でも使われる五十メートル以下の『フリゲート艦』もあるが、この世界ではすべて『駆逐艦』として扱われる。


 また、歩兵が敵戦艦に乗り込むための突撃艇は『駆逐艇』と表現されることが多い。


 ガンプドルフが所有する巡洋艦ナージェイミアは約六百メートルなので、戦艦全体からすれば小さな部類に入るだろう。



「戦艦が造れるだけでもすごいもんだ。でも、さすがに造船技師に知り合いはいないな」


「これに関しては、我らハングラスが請け負う予定だ。ハピ・クジュネ経由で雇うことも可能だろう」



 ゼイシルが補足を入れる。


 ガンプドルフたちが表立って動けないハンデをハングラスが補うことで、大量の人材や資源を動かしても目立たなくなるわけだ。



「実際に造れるかどうかはやってみなくてはわからないが、試す価値はあるだろう。戦艦または武装商船を保有することは、ハングラスの大幅な戦力強化にもなる」


「武装商船という手もあるんだね。砲台だけでもちゃんとしたものがあれば、それなりに使えるわけか」



 結局のところ武装が一番大事なので、商船でも戦艦の砲台を取りつけられれば、それだけでも凄まじい火力を生み出すことができる。


 ただし、耐久性と防御力および継戦力に関しては、圧倒的に戦艦が上だ。やはり戦艦が造れるに越したことはない。



「しかし問題は、この件を秘密裏に行わねばならないことだ。雇ったはいいが情報を漏らされては困る」


「秘密にしなきゃいけない? 北部勢力には売ることも想定しているんだよね?」


「その頃には嫌でも露見するだろうが、ガンプドルフ卿の存在はできるだけ秘匿しておいたほうがよい。いくら北部とはいえ、敵対勢力がスパイを送り込むこともありえる。しばらくは製造そのものを秘密にしたいのだよ」


「敵側に知られたら破壊工作もされるか。これだけ徹底して秘密保持をしているんだから、それが台無しになっちゃうね」


「それゆえに、我々以外の協力者全員には【スレイブ】になってもらう必要がある」


「ああ、そうか。だからオレか。手土産のジュエルも、そういう意味があるんだね」


「スレイブに関してはアンシュラオン君のほうが造詣が深いだろう。我々はあまりスレイブを雇っていないからね」


「どうして? 便利だよね?」


「スレイブは短期雇用の面が強いのだよ。自身のすべてを捧げるような者は存外少ない。それならば最初から身内に引き入れたほうがよい」


「へー、けっこう認識が違うもんだね」



 多くの人間には自尊心があり、強い自意識がある。いずれは自分も成功してやろうと思うと、なかなかスレイブにはなれないものだ。


 現地人からすれば、スレイブは『比較的契約を遵守するバイト』くらいの認識なのだろう。


 しかも絶対に遵守するわけではないので、それならばハングラスの身内に入れて徹底的に教育したほうが安心できるのだ。


 しかしながら、アンシュラオンの場合は事情が異なる。


 伝導率が異様に高いことからもわかるように強制力が半端ではないのだ。それはサナたちを見ればすぐに理解できる。


 グランハムからこのことを聞かされているゼイシルが、アンシュラオンをスレイブ管理担当者に選ぶのは至極真っ当な判断といえた。


 が、それを聞いていたガンプドルフは、少しばかり不安そうな表情を浮かべる。



「少年、スレイブに高度な機密保持は可能なのか?」


「うーん、実はここも課題の一つなんだよね。スレイブ・ギアスに効果があるのはわかっているんだけど、どこまで効くかが不明なんだ。だって、オレのスレイブはみんな素直でいい子だからさ。誰も反抗しないんだよ」



 サナを撫でながら答える。


 彼女は多少の不満程度ならば態度で示すことはあるが、半分『甘えている』状態なので反抗とはまったく異なる。



「その結果がギアスの効果かわかりづらい、ということだな」


「そうなんだよね。小百合さんたちはどう?」


「私はいつも満たされているので、そんなことは考えたこともないですね。アンシュラオン様に従うのが当然だと思っています」


「私も小百合様と同じです。神に反抗するなど、なんと愚かで罪深いことでしょうか」


「ね、こんな感じなんだよ。ただ、モヒカンが言うには、普通の場合は破ろうと思えば破れることもあるんだってさ。ギアスの伝導率を調べれば、その人がどれだけ遵守しようとしているかわかるけど、意思が強い人も低くなる傾向にあるから難しいんだよね。そもそも数字上の確認にすぎないし」


「困ったな。我々としては秘密厳守であってほしいが…」



 ギアスの伝導率は高ければ高いほど良いのだが、ファテロナのように意思が強すぎて効かなかったり、ベルロアナのスレイブのアカリのように抵抗力が強い者の場合も低くなる。


 アンシュラオンは人材を厳選しているので問題はほぼ皆無だが、不特定多数の労働者を雇うとなれば穴も出てきそうだ。


 その穴の一つから群れ全体を侵す病魔が入ってくる可能性もあるのだから、ガンプドルフとしては気が気でないのだろう。



「その口ぶりだと、西側ではスレイブは一般的じゃないの?」


「今ではほとんど聞かない制度だ。我々の感覚では労働者とスレイブの違いがよくわからぬな」


「昔はあったってこと? 奴隷解放戦争とかあったの?」


「一部ではあったようだが、たいていは人権活動家などの抗議によって自然消滅していったようだな。何千年も昔の話ゆえに私も詳しくはないのだ」


「でも、おっさんの話を聞いている限りじゃ、スレイブ以上に劣悪な状況だってありそうだけどね。そこは名称の問題にすぎないよ」


「まあ、そうだな…」



 ルシア帝国に侵略され、今もなお苦しんでいる自国民を憂うガンプドルフの表情は冴えない。



(表向きに人権人権と言うやつほど、人権を軽視しているもんなんだよ。西側のほうがよほど人権侵害していそうなのが地球と同じだよな)



 西側大陸では、スレイブは単純に労働者階級に移行してしまい、制度や技術そのものが失われている。


 生活水準が向上し、自らを対価にするスレイブである必要性がなくなったからだ。


 とはいえ、体よく低賃金で酷使される点に関しては、スレイブとそう大差ないのが哀しいところである。


 地球でも奴隷が解放されたのは、仮初の人権を与えて平等だと勘違いさせ、『より勤勉に働かせるため』なのだ。


 強者が弱者を使役する構図は、昔からなんら変わっていない。


 それと比べると、はっきりと自分を売り物にできるスレイブは、むしろ誇らしく思えてくるから不思議だ。



「うーん、事が事だからね。もっと確実に機密保持が可能なやり方はないもんかな。いっそのこと完全に隔離しちゃうとかは?」


「それができれば一番だが、逆に反抗心を募らせてしまうと問題だ。やはり友好的な手段が好ましい」


「そうなるとギアスが一番いいんだけどな…」



 アンシュラオンがギアスの課題に唸っていると、ゼイシルから意外な言葉が投げかけられた。



「アンシュラオン君、我々からも一つ提案がある。優秀な錬金術師を用意してくれないかね?」


「錬金術師? ああ、術式のコピーのためだよね?」


「さすがに頭の回転が速いね。元となるデータや術式はDBDから提供を受けるが、それをコピーする必要がある。もし解析まで可能ならば、さらに改良することもできるだろう。しかしながら、それができるのは優れた錬金術師だけだ」



 この世界における火器管制システム等のシステムデータは、すべてジュエルに格納されている。


 これをいじれる者は、『ダイバー〈深き者〉』や錬金術師といった特殊なタイプの術者だけとなるので、量産を前提とするのならば後者は絶対に必要な人材なのだ。



「君は裏の業界にも顔が広いようだ。錬金術師に当てはあるかね?」


「多少はね。ただ、実際に訊いてみないと断定はできないよ」


「それでもかまわない。できるだけあたってみてほしい。また、同様に秘密保持が可能なスレイブ・ギアスの開発もしてほしいのだよ」


「開発? 改良するってこと?」


「その通りだ。専門外なので軽はずみなことは言えぬが、スレイブ・ギアスも改良できないのかね? たとえば、契約を違えたら何かしらのペナルティを与えるものだ」


「―――っ!!!」



 ゼイシルの言葉に電流が走る。


 頭の中でさまざまな情報が急速回転し、一つの光明を導き出した。



「そう、それ!! それが欲しいんだ!! ありがとう、ゼイシルさん! 道が見えたよ!」


「う、うむ…。助けになったのならば何よりだ」



 食い気味に握手してくるアンシュラオンに、若干引くゼイシル。


 ガンプドルフも、かつてサナに見せた激しい執着心を彷彿とさせる高いテンションに、思わずのけぞる。



「少年、すごい熱意だな」


「当然だよ! オレにとってスレイブは人生そのものなんだ! つまり今欲しいのは『罰則付きのギアス』ってことだ!!」



 親しい女性にギアスをかけるのならば、特段罰則などは必要ない。


 むしろアンシュラオンと敵対し、その庇護を失うほうがよほど罰になる。


 そのうえ裏切者は絶対に許さないので、ほぼ確実に殺されてしまうだろう。


 が、その前に情報を漏らされると困る。


 今回の場合は、ここがポイントなのだ。



「そうなんだよ。情報を漏らす前に、何らかの罰則が発動してしまえばいいのさ。さすがに死ぬまでは難しいかもしれないけど、反抗心を抱いたら動けなくなるとか、言葉や文字が書けなくなるとか、何かしらの方法はあるかもしれない。実際に『停滞反応発動』を使えば似たようなことができるからね」



 モヒカンに仕掛けた痣は、特定の行動や脳波を察知すると爆発する仕組みだ。


 これはこれで便利だが、さすがに大人数にかけるのは難しい。安定して発動させるには、やはり術式による監視が一番だ。


 そこで思い出したことが一つある。



「ゼイシルさんは罰則付きの契約書って知ってる? こないだキャロアニーセさんが持ってきたんだけど、約束を違えると×印が付くってやつ」


「うむ、我々も重要な契約では使うことがある。二枚一組で百万はするがね」


「たかっ! あんな嫌がらせに百万か。でも、やろうと思えばもっと違うことができるはずだよね。問題はそれを術具として落とし込めるかだけど、やってみる価値はあるよ」


「では、錬金術師に関してはアンシュラオン君に任せる方向でよいかね?」


「ああ、個人的にも興味があるからね。全力でがんばるよ!」


「私も異論はない。少年がやる気ならばありがたいものだ」



(もしこれが可能になれば、オレが求めていた集団が生まれるかもしれない。ぜひとも実現せねば!)



 アンシュラオンは『平等かつ対等』を尊ぶので、できれば互いに納得した形で契約を交わせれば一番だ。


 しかし、世の中には嘘をついたり騙したり、平然と悪事を行うクズどもがいる。そういう相手に対しては、厳しい罰を与えるシステムが必要になる。


 それこそ【絶対に裏切れない契約】が求められている。


 いわゆるファンタジー漫画や小説でよく出てくる、嘘をついたら激痛を与えるといった機構のことだ。


 それをギアスに盛り込むことで、まさにギアスはギアス足りえるようになるだろう。



「ところでさ、戦艦で思い出したんだけど、おっさんは戦艦に乗ってここに来た?」


「ああ、乗っていたが…?」


「そうかそうか。それなら話は早いね。オレと出会うちょっと前にさ、荒野でクルマに砲撃しなかった? グラス・ギースよりもっと北のほうで」


「なぜそれを? まさかとは思うが…」


「そう。あれってオレのクルマだったんだよね」(※半分嘘)


「…本当なのか?」


「うん」



 じっと見つめ合う二人。


 だが、その後の反応は、それぞれまったく違うものだった。


 ガンプドルフが立ち上がり、アンシュラオンの肩をぐっと掴む。



「やはり出会う運命だったのだな!!」


「違うでしょ、その反応!! その方向に持っていくのはやめてよ!」


「そうかそうか! そこまでの縁があったか!」


「縁は縁でも因縁だからね。普通に考えて、誰がどう見てもそうでしょうに。誤魔化しは通じないよ」


「あの時は突然、隠蔽術式が破壊されたのでおかしいと思ったのだ。なるほど、少年の仕業ならば納得だ。しかし、君は私に対して敵意はないように感じるが?」


「もともと危ない場所を走っていたんだ。危険は承知の上さ。防げないほうが悪いんだからしょうがない。といっても、こうして出会った以上は相応の賠償はしてもらうつもりだよ。そこは譲らないからね」


「ふむ、少年の言う通りだ。その件に関しては全面的に謝罪し、物的側面からも譲歩しよう」


「まあ、賠償してもらえれば文句はないけどね。さっきのジュエル媒体でたっぷり補填してくれればいいよ」


「ははは、相変わらず君は逞しいな!」



 アンシュラオンが何度も言う「防げないほうが悪い」「やられるほうが悪い」という言葉は、「ならばそうしないようにすればいい」とも言い換えられる。


 嘆くのでもなく恨むのでもなく、『徹底的にやり返す』。それで相手が謝罪して金品を支払うのならば後腐れなく許す。


 それがアンシュラオンが信じる『平等かつ対等』の価値観なのだろう。



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