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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
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472話 「三者の都合 その1『メリット』」


「ゼイシルさんは今の話を知ってた?」


「すべてを知っていたわけではないが、多少は独自で調べていた。活動の規模からも、おおむね想定通りだといえる」


「この状況でおっさんに勝機があると思う?」


「勝機があるかどうかはわからない。私は軍人ではないからね。しかし、商人の立場からすれば、求める者がいるのならば商品を届けることが使命だ。今すぐに何かが起きるわけではないのだから、そこまで悲観する必要はないと思うがね」


「なるほど、『商機』はあるってことだね」


「何事も未来を見据えるべきだ。大量の実をつける大樹も、たった一粒の種から生まれることを忘れてはいけない」



 五百人分の物資だけではたいした利益にはならないが、彼らが本当に国家の再興を狙うのならば、いずれ人口も爆発的に増えていくはずだ。


 ハングラスからすれば、将来を見越したうえでの『投資』に近い商機といえる。



「しかも我々ハングラスにとっては、ガンプドルフ卿は極めて都合が良い商談相手なのだよ」


「どうして? どう考えてもリスクだらけじゃないの?」


「考えてもみたまえ。我々がいる北部もまた、さほど楽観視できる状況ではない。これはすでに君にも述べたことだが、南部勢力が常に拡大を続けている以上、彼らだけと商売をするわけにはいかない。彼らに渡した資源が、我々を討ち取る武器になりかねないのだ」


「逆に翠清山の資源があるからこそ侵略される危険性も高まる、か。おっさんの国と同じ状況だね」


「富が増えれば危険も増すものだ。どう動くにせよ、南部勢力に抵抗するための戦力が必要になる。が、現状の二都市はさまざまな理由で身動きが取れない。それはいちいち語る必要もあるまい」


「まあね。グラス・ギースは閉鎖的で内部のごたごたが多いし、ハピ・クジュネは海軍の再建に時間がかかりすぎる」


「グラス・ギースに関しては何百年も前からのことだが、ハピ・クジュネは単純に戦力が足りなかったのだ。早い段階に問題点が露呈したことは悪いことではなかろう。夢の中で死ぬよりはいい」


「これは強度不足の問題だね。翠清山の魔獣は強かったけど、その程度に負けてしまうくらいならば南部勢力にも対抗はできないってことだ。その点、おっさんたちは数は少ないけど強度は極めて高い」



 騎士はゼイヴァーたちしか見ていないが、それだけでもかなりの戦力であるし、再興うんぬんがなくとも部将としての質は高い。


 それこそガンプドルフ単体でも、聖剣を使えばハピ・クジュネ軍を壊滅させることができるかもしれないのだから、恐るべき武力である。


 そんな連中が、たかだか都市から五百キロ程度の場所をうろうろしているのだ。グラス・ギース勢力であるハングラスは、彼らを放置しておくわけにはいかない。


 ならば、さっさと味方に引き入れるほうが得策であるし、相手が困っている時ほど『安く買える』ものだ。



「君が支配下に置いた翠清山の魔獣は使えるのかね?」


「まだ歩み寄りの段階だからね。あまり期待しないでほしいけど、自衛目的なら積極的に戦うとは思うよ。少なくともヒポタングルは完全にこちら側だね」


「地理的に盾になるだけでも十分に価値がある。そこに君自身の戦力とガンプドルフ卿の戦力が加われば、これはもう一つの巨大戦力といえるだろう。二都市の総戦力すら超えると想定できる」


「たしかに現状で頼れるのは、おっさんしかいないか…」


「ルシア帝国でさえ怖れる聖剣の持ち主だ。この地においては、さらに価値がある。アンシュラオン君がいれば均衡もとれるだろう」



 ゼイシルの後押しを受けて、ガンプドルフもさらに熱を帯びる。



「私と君は互いに協力関係にあったほうがよい。少年にもメリットはあるはずだ」


「たとえば、どんなメリット?」


「こちらから提供できるものは何でもするが、端的に言ってしまえば【西側の技術】になる」


「それは魅力的だね。南部に西側勢力が入植しているんだったら、こっちも西側の力を借りればいいだけだ。で、具体的には?」


「正直に述べれば、この地域の技術レベルはかなり低い。領主に納品した類の兵器以外にも、我々が保有している戦艦や西側の武具の知識、戦闘技術が大いに役立つに違いない」


「『剣王技』を教えるのが上手い人とかもいる?」


「いるぞ。剣や斧や槍、盾の技術に関しても提供が可能だ」


「それはよかった。北部には道場がなくてね。専門外の技術を教えるのが難しいんだよ」


「君は戦士だったな。戦士の最高位である覇王の弟子ならば無理もない。その反面、うちは剣士の比率が多い。私自身もそれなりに教えることはできるし、教導が専門の者もいる。期待してくれてかまわない」


「サナ、よかったな。おっさんたちが教えてくれるってさ」


「…こくり」


「しかし、あの時の子供がここまで強くなるとは思わなかった。私も少年の教導方法には興味がある」


「オレのは師匠譲りの鍛錬だけどね。まあ、サナにも才能があったってことさ」



 ガンプドルフの中では、サナは幼い無力な子供にすぎなかった。


 が、一年ぶりに会ってみれば、まるで別人。


 異常な進化を迎えているのだから驚かないほうがおかしい。



「話を聞いていた感じ、北部全体で重要そうなのは【戦艦】の存在だよね? ちょっとした武器くらいじゃ力の差は埋まらないし、大型兵器の存在は大きいはずだ」



 今までのアンシュラオンたちの戦いは、人間や魔獣による『個』が主体であったが、西側がこれだけ強い影響力を持っているのは、強力な破壊兵器である戦艦を保有しているからだ。


 実際に戦艦に襲われたことはないにもかかわらず、グラス・ギースの砦の配置も対戦艦仕様であることを考えれば、この兵器がいかに恐怖の対象であるかがわかるだろう。(だからこそ領主はガンプドルフを怖れている)


 であれば、それを自らに取り込んでしまえばいい。逆に戦艦が味方になれば、これほど頼りになる存在もいないのだ。


 ガンプドルフも、その言葉に大きく頷く。



「うむ、今回我々が集まった真の狙いこそ【兵器の製造】なのだ。武人の育成は大事だが時間がかかる。急速に力をつけるためには兵器を生産するのがもっとも早い」


「もしかしてオレたちが発掘している資源と関係ある?」


「大いにある。ハングラス側から提供してもらったサンプルを検証した結果、船体部分や砲台、あるいは砲弾に使用できることがわかった。防衛が主体ならば、戦艦用の砲台を『量産』するだけでも十分な強化になる」



 鉱物資源は炸加が主導で発掘しているが、もちろんハングラス側にもサンプルは提供されている。


 それを今度はDBDにも提供し、兵器製造の見通しが立ってから今回の会合をセッティングしていた。


 それはつまり、取引相手としてだいぶ前からDBDが候補に挙がっていたことになる。



(ゼイシルさんが乗り出してきた理由の一つが、この『兵器産業』なのは間違いない。たしかにグラス・ギースの派閥の中では、どこも関わっていない分野だ)



 ゼイシルがリスクを負ってまでやって来たのは、今後ハングラスが兵器産業に関わることを想定してのことだろう。


 軍備自体はディングラスの領分だが、彼ら自身は武器を作れない。武器屋や鍛冶屋から買い付けているのが実情なので、文句も言われないで済む。



(軍需産業は金になる。それこそ地球の戦争の大半は、武器を売るためにやっているようなものだ。これは資源販売以上の莫大な儲けが生まれる可能性があるな)



 兵器は自衛にもなるし、売ればさらに金になるだろう。


 それこそグラス・ギースに売ってもよく、要衝でもあるハピ・クジュネに配備してもいい。


 その観点からすれば、自ら鉱物を掘り出して兵器に加工していたDBDは、まさにお手本のようなものだ。手を組むメリットは大いにある。



「オレも戦艦の砲台を翠清山で見つけたんだけど、あれって簡単には使えないよね? 全然命中しなかったよ」


「形だけあっても意味がない。砲台には『火器管制システム』が必須になるが、それも我々が提供できる」


「もともと西側の技術だもんね。おっさんたちなら制御できるのか」


「さらに砲弾を撃ち出すためには特殊な『兵器用のジュエル』を使う。これは火薬と併用することでコストを下げることもできるが、核となるのはジュエルのほうだ」


「うちが得た中には砲弾用のジュエルはなかったけど?」


「それについても問題ない。ここで一つ、君に『手土産』がある」



 ガンプドルフが大きな箱を取り出すと、中から青い球体状のジュエルが大量に出てきた。


 ジュエルは非常に美しく、よく透き通っていて、一目で上質なものであることがわかる。



「これは?」


「すべて『精神に特化したジュエル』だ」


「えっ!? こんなに? 何百個もあるじゃん!」


「まだまだあるぞ。それこそ山のようにある」


「ちょっとちょっと、これはどういうこと!? 西側から持ってきたの?」


「いや、この体たらくを見ればわかるように、本国から持ってきたものには限りがある。君が新たな資源を得たように我々も資源を得たのだ」



 なぜガンプドルフたちが翠清山の戦いに参加しなかったのか。


 その答えは立場上の問題もあったが、そもそも『できなかった』からだ。



「君が翠清山で戦っている間、我々も違う戦いに身を投じていた。それこそ君たちにも劣らぬ死闘を演じていたのだ」


「魔獣との戦いだよね?」


「ただの戦いではない。西方を探索中に戦艦が魔獣に拿捕されてしまい、それを救出するために全戦力を投入する必要があったのだ。私も聖剣を使ってなんとか撃破することに成功したが、その被害はかなりのものになってしまった」


「拿捕って、魔獣が? そんなことあるの?」


「理由はわからないが、かなり特殊なケースだと思う」


「魔獣が戦艦を欲しがる理由か。そのまま使うわけないから、考えられるのは『苗床』くらいかな?」


「魔獣の行動は謎すぎて困る。とりあえず戦艦は救助したものの、修理が必要なほどに損壊してしまった。そのためにも君たちの資源が必要なのだ。その代わりに我々は、新たな鉱脈とジュエルを得たというわけだ。続いて、これも見てほしい」



 ガンプドルフが青いものとは別に、黄土色のジュエルを取り出す。



「これは『汎用タイプ』のものだが、同じく品質がかなり良い。一個では無理でも、何十個も並列で使えば砲弾を撃ち出すための『核』が作れるはずだ」


「一般的なスレイブ・ギアスに使われるやつも汎用タイプだったね。砲弾にも使えるんだから、まさに汎用ってことか」


「これもギアスに使うことは可能だろう。しかし、兵器用ジュエルには大きさも重要な要素だ。わざわざ小さく加工するのはもったいない」



 汎用タイプのジュエルといっても、その品質はさまざまだ。


 ギアスに使用されるものは、大量生産を意識しているのでかなり低品質で、その分だけ効果も低い。


 それとは異なり、黄土色のジュエルは三十センチ以上とかなり大きいうえに、品質も良いので兵器に向いているといえる。



「こちらは精神タイプのものよりも、さらに大量に存在する。我々が戦った『蜘蛛』もまた、何万という規模で襲ってきたからな…」


「おっさんたちが苦戦するんだ。かなり強かったんだろうね」


「さすがに全滅するかと思ったぞ。トラウマだよ」



 ガンプドルフたちが戦った魔獣は、蜘蛛型の魔獣だったという。


 個体としての力も翠清山の魔獣よりも上で、相当な苦戦を強いられたようだが、その対価として蜘蛛のジュエルが大量に手に入った。


 黄土色のジュエルは、蜘蛛の『眼』の部分を切り取って磨いたものらしい。その段階で蜘蛛のサイズが想像できる。



「精神タイプのジュエルも蜘蛛のもの?」


「それは蜘蛛の『親玉』から手に入れたものになる。ここで話すには長くなるので、また後日君には詳細を伝えよう。ひとまず、これも受け取ってくれ」



 ガンプドルフが、大きな白いジュエルと赤いジュエルを取り出す。



「これは…すごい綺麗なジュエルだね」


「今述べた魔獣の親玉、『殲滅級魔獣』の一部だ。元の魔獣は二百メートル級だったが、魔石としてもっとも優れている部分を加工して、このサイズにしてある」


「殲滅級魔獣のジュエルか。それなら格が違うのも頷けるよ。二種類あるってことは二体いたの?」


「ああ、両者ともに聖剣で倒した。おそらくだが、『つがい』である可能性が高い」


「さすがおっさんだね。殲滅級を二体倒すなんてレベルが違う」


「独りで戦ったわけではないからな。我々は軍隊だ。集団で敵と戦うものだ」


「それでも指揮官の強さは重要さ。これはもらっていいの?」


「手土産だと言っただろう? 正式に『同盟』を結ぶことができれば、他のジュエルは継続的に供給が可能だと思ってくれ。汎用タイプも兵器用ではあるが、ギアスに使ってくれてもかまわない。使い方をいちいち指図はしないからな」


「いやはや、これは本当に嬉しいプレゼントだよ! 助かるなー!」


「それはよかった。わざわざ用意した甲斐があるというものだ」



 彼らも被害から立ち直るために忙しかったはずだが、アンシュラオンが喜ぶことがすでにわかっていたため、ジュエルの加工に時間を費やしていた様子がうかがえる。


 ここでDBD側は、明確な『短期的メリット』を提示した。


 ハングラスが想定している長期的な利益とは違い、いわゆる目先の損得であるが、翠清山で精神タイプのジュエルが手に入らず落胆していたアンシュラオンにとっては、何よりも価値があるものだろう。


 その食いつきぶりにガンプドルフも満足げだ。



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