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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
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468話 「三者会合 その4『再会』」


 ゼイヴァーと会話しながらも、移動速度がかなり上がったことで、一時間もしないうちに目的の場所に到着。



「ようこそ、ここが我らの【キャンプ地】です」



 森の中にぽっかり開いた盆地に、ひっそりとゼイヴァーたちのキャンプが存在した。


 遠くから見ても森にしか見えず、近づいても盆地なので視認しづらい絶妙な場所である。


 さすがに空からはわかってしまうが、それでも鳥型魔獣を警戒し、木々を使って覆い隠すように努力している様子がうかがえる。


 下に目を向けると、ならした地面の上には軍事用のコテージが数十と張られ、その周囲には幾重にも鉄条網が張られていた。


 これは地球とほぼ同じで、軍事基地の周囲に張られているものを想像すればよいだろう。


 しかしながら、ここは魔獣が跋扈する大地。通常の鉄条網など役に立つはずもない。


 網の至る所に、数十センチ大の円形状の物体がぶら下がっている。



「ゼイヴァーさん、あれは何? あの円盤みたいなやつ」


「あれは簡易衝撃爆弾の『DP1(ディーピーワン)』と呼ばれるものです」


「爆弾か。大納魔射津とは違うの?」


「術具の大納魔射津は術式爆弾ですが、こちらは純粋な反応爆弾であることが大きな違いです」


「術式を使っていないってこと?」


「はい。材料は薬品と火薬で、衝撃を加えると術式の有無にかかわらず爆発します」



 大きく分類すれば、すべてのものが術式とも呼べるのだが、一般的に術具と呼ばれるものは「事象の保存と任意使用」を目的に作られている。


 発動には安全装置である「術者による起動命令(スイッチ含む)」が必要なのに対し、こちらのDP1は衝撃を与えると否応なしに爆発してしまう。


 つまりは【普通の爆弾】である。


 が、単純な爆薬を見る機会はあまりなかったので、アンシュラオンは興味を抱く。



「危険物だから管理は大変そうだね」


「その分だけ威力が高いのです。このあたりの魔獣は強固なので、これくらいの防備は最低限必要となります。また、術具よりも安く仕入れることができますし、調整は末端の兵士でも可能なので便利です。たまに事故はありますが、多くは不注意によるものです」


「術式を使わないってことは、無効化環境でも発動するってことだよね?」


「それもメリットです。ごくごく稀ではありますが、そうした能力を持つ魔獣もおりますし、何よりも『マスター〈支配者〉』と交戦する可能性も考慮して、さまざまな準備をする必要があるのです」



 通常の衝撃爆弾の場合、アイラの『破邪結界』内でも爆発することが可能になる。


 これは大きなメリットであり、最初から術式を操作することに長けた者と戦うことを想定している。


 その最大のターゲットこそ『マスター〈支配者〉』と呼ばれる存在だ。


 アンシュラオンも陽禅公の座学で知った程度で、実際に会ったことはない。



「話には聞くけど、マスター〈支配者〉って本当にいるの?」


「実は私も出会ったことはないのです。人間と比べて精霊により近しい者で、古来より存在するといわれております。噂とは違い、多くの者は人間にも好意的と聞きますが、そうではない者たちが暴れた場合は尋常ではない被害が出るのです。それを防ぐのも軍隊の役割となります」



 一説によれば、彼らはかつての神々の末裔ともいわれており、多くの個体が人間を超える力を持っているという。


 見た目も人間からすると奇怪なものばかりで、その異形さから、人によっては彼らを『鬼』やら『鬼神』と呼ぶ者たちもいるほどだ。


 といっても、見た目に反して意図的に悪さをするような者たちではない。むしろ人間よりも善性が強く、模範的かつ穏やかで自然界の味方に近い存在である。


 そんなマスターたちだが、人間すべてが善人ではないように、中には悪さをする者たちもいる。


 そういった者が外界に出没した際は大惨事となるので、各地の不吉な『悪神伝承』の多くは、彼らの狼藉によって生まれたものであるといわれている。


 当然ながら国を守る立場である軍隊は、彼らが出てきたら応戦する義務があるわけだ。



「たしか覇王も、マスターと戦ったりするんだよね?」


「軍隊が手に負えない場合は、覇王に要請がいくこともあるそうです。これも秘密裏に行われるので、あまり外界に情報が漏れませんが、有名な話では『ハウリング・ジル〈唸る戦鐘せんしょう〉』の逸話があります」


「その話はオレも本で見たことがあるよ。歴代覇王の英雄譚ってやつだよね」


「武人である以上、やはり覇王には憧れます。ああも強くなってみたいものです」



 軍隊といえども万能ではない。むしろ特異な者たちを苦手にする傾向にある。


 そんな時に彼らを折伏しゃくぶくする者たちこそ、第四階級に位置する魔戯級以上の武人たちである。


 自発的に、あるいは要請を受けて強者が派遣され、密かに成敗するということが古来より行われてきた。


 その最たる者こそが覇王で、陽禅公がたまに姿を消すのは裏の仕事をしているからである。(ゼブラエスも帯同しているので、よく一緒にいなくなる。街に立ち寄るのは、その帰りであることが多い)


 ただ、かつての覇王である【ハウリング・ジル〈唸る戦鐘せんしょう〉】のように有名になった話もある。


 パミエルキとも戦った人類の英霊は当時、単独で三千以上の【鬼神軍】を壊滅させるという恐るべき戦果を挙げていた。


 歴史的にも非常に稀な『マスターの反乱』という珍事を、たった独りで鎮圧してしまうのだから、この事件によって人々は改めて覇王の強さと怖ろしさを知ったものだ。


 同時にファンクラブも設立されたので、いまだに人気の高い覇王の一人である。(謙虚さと愛嬌のある顔立ちから女性の人気も高い)



「『戦車』もけっこうあるね。あれで戦うの?」


「あれは単なる『壁』です。特にこのようないびつな地形となりますと機動力のほうが大事になります」



 戦車は鉄条網の裏側に、まさに壁の用途として配置されていた。


 陸上戦では怖れられる鋼鉄の怪物であるものの、あくまで人間にとっての脅威でしかない。


 このような起伏の激しい地形や大型魔獣が山ほどいる荒野では、あの程度の豆鉄砲はたいして役に立たないのだ。



「案内します。どうぞこちらへ」



 ゼイヴァーが先頭を歩き、門番をしていた『兵士』たちに見えるように槍を大きく振った。


 すると、しばらく前からこちらを警戒していた門兵が、安堵の表情を浮かべてやってくる。



「重要な客人を通す。『聖剣』の名において無礼は許されないと知れ」


「はっ!!」



 門番は敬礼をしてから閉ざされていた門を開く。


 アンシュラオンたちもゼイヴァーと一緒に中に入ると、武装した数十人の騎士たちの姿が見えた。


 誰もが重武装かつ、いつでも戦闘可能な臨戦態勢を取っている。


 その光景を見て、アンシュラオンは感心。



「なかなか良い警備体制じゃないか。安心したよ」


「そうだな。悪くない空気だ」



 それにはゼイヴァーを煽ったグランハムも賛同する。


 なぜならば彼らには、場合によっては【ゼイヴァーごと攻撃する準備】があったからだ。


 ゼイヴァーが合図をするまで周囲が警戒を解かなかったのは、最悪の事態を想定してのことだろう。


 たとえばクルルザンバードのように敵を操作する能力を持つ存在もいるのだ。


 警戒はギリギリまで解くべきではなく、今もなお彼らはこちらの動きを注視している。



「やはり傭兵団とは異なる存在だな」


「存在意義そのものが違うんだ。それも当然かもね」



 このキャンプは小さくとも軍事拠点の一つであり、派手な色のものは一切存在しない。味気ないモスグリーンの軍事用コテージが並ぶだけだ。


 コテージも常時トラクターに接続されており、いざというときは即座に撤収できる準備が整っている。



(即席の軍事キャンプみたいだけど、ここだけ見れば地球と技術レベルが変わらないな。設備の質も引けをとらない。まったくもって軍事に力が入っている星だよ)



 ここの写真を地球人に見せても、まさか異世界とは思わないだろう。それだけ軍事技術に関しては進歩しているのだ。


 アンシュラオンの少年の容姿に関しても、幾人かが怪訝な表情を浮かべているものの、それだけの情報で侮ったりはしていない。


 むしろ入った瞬間に強者の気配を敏感に感じ取り、肝を冷やしている者さえいる。それがわかるくらい強い連中だということだ。


 と、ここまではいいだろう。


 アンシュラオンから見ても評価に値する軍事施設だ。


 しかしながら小百合たちが現れると、彼らの視線に異様な熱が帯びたのがわかった。


 ある種の動揺と、『とある衝動』を必死に抑えようとしていることがすぐにわかる。


 それを見たアンシュラオンが、ぽんとゼイヴァーを軽く叩いた。



「統制がとれた軍隊で安心したよ。ね、ゼイヴァーさん」


「ぐっ…お前たち! 恥をかかせるな!! あとで死ぬほど鍛錬させてやるからな!!」


「仕方ないよ。男だもの。美しい女性を見て何も感じないほうが怖いからね。あまり責めないであげてね。かといって視姦も困るよ。そこはよろしく」


「当然です!! 鉄拳制裁あるのみです!」



 女性に興味があるのは正常な男の証拠だ。


 それによって図らずとも「ゲイはいない」というゼイヴァーの言葉が証明されることになってしまったのは皮肉であろうか。


 真面目なゼイヴァーの威圧を受けて怯んだ騎士らを尻目に、アンシュラオンたちは奥に進んでいく。(ゼイヴァーのほうが階級が上)


 そして、ひときわ大きなコテージに通される。



「こちらが会合の場となります。中で少々お待ちください」



 コテージ内は、ゼイシルの天幕よりも倍近く大きかったものの、内部にあるのは最低限の家具だけだ。


 どれもが無骨で無味無臭。用が足せれば見た目はどうでもいい、といった軍隊仕様の品々だ。


 これにはゼイシルも思わず同情の念を口にする。



「やれやれ、もう少しまともな生活をさせてやりたいものだね。これでは、ただ生きているだけだ。人生には豊かさも必要だよ」



 ゼイヴァーを見れば、ここでの暮らしがどのようなものかがすぐにわかるものだ。


 清貧で質実剛健といえば聞こえはよいが、実際は余裕が無いだけだ。


 最低限の物資に女性もいないような最低限の生活。それにもかかわらず、目の前には厳しい大自然が立ち塞がっていて、常時張りつめた状態が続いている。


 一般人がサバイバルをしても、せいぜい二ヶ月程度が精一杯であることを考えれば、いかに厳しい環境かがうかがい知れる。



「ホロロさん、お茶を頼めるかな。さすがに男臭くて、むさ苦しいもんね」


「かしこまりました」



 今回はハングラスの執事がいないので、ホロロがポケット倉庫から自前のティーセットを取り出し、無骨なテーブルの上で紅茶を淹れてくれる。


 たったこれだけで息苦しさが軽減するのだから、巨乳メイドの存在がいかに大切かがわかるだろう。(巨乳は関係ないかもしれないがメイド服は尊い)


 ゼイシルたちにもお茶を振る舞いながら、暇なので波動円でキャンプにいる面子をチェックしてみる。



(キャンプにいるのは二百人ちょっとかな。ゼイヴァーみたいに強い武人もちらほらいるけど、たいしたことがない連中もいるな。この違いはなんだ?)



 各人で武力がまちまちなのは当然なのだが、強さの質が明らかに異なる二種類のグループが存在する。


 強い側はゼイヴァーのようにしっかりとした武装をしているが、弱い側は傭兵と大差ないようにも感じられる。


 そのことに疑問を抱いていると、コテージの扉が開いて壮年の男が入ってきた。



「少年、また会いたかったぞ!! よくぞ来てくれた!!」



 男は入ってくるや否や、アンシュラオンに詰め寄った。


 もう顔が触れんばかりの近さだったので、思わず手で押しのける。



「熱量がすごい! なんでいきなりそんな感じなのさ! うおー、手に無精髭の感触がー!」


「ずっと君のことを考えていた! 忘れたことなど一日たりともない!」


「えぇーー!? なんかおっさんにそう言われると最悪の気分なんだけど!」


「つれないな。剣を交えた日から、我らは友ではないか!」


「いやいや、その理論はおかしいって。近い近い。まずは離れてよ!」


「うむ、少し興奮してしまった。すまんな。君と話せる機会ができて嬉しいのだ。今日は実に素晴らしい日だ!」



 腰には金色の剣を差し、梅幸茶ばいこうちゃ色の髪。


 そこにいるだけで周囲に強い圧力を加えてしまう強者の貫禄。


 こんな威風堂々とした武人を忘れるわけがない。


 『魔剣士』こと【ガンプドルフ】がそこにいた。


 そう、今日の【三者会合】のメンバーは、アンシュラオンとハングラスと、ガンプドルフが属する『DBD』によって行われるのである。


 DBDについては後述するが、紛れもなく正規の軍隊であり騎士団だ。普通の傭兵団とは毛色が違って当然といえる。



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