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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
463/618

463話 「アーパム財団設立 その2『経営者の始まり』」


 アンシュラオンは、キンバリィを警戒。


 その理由はもちろん小百合に関することではあるが、彼を見てハローワークの奥深さを感じ取ったからでもある。



(警戒しないほうが無理がある。あの金の刺繍には、かなり高度な『防御術式』が織り込まれているみたいだ。オレの『情報公開』も遮断されていて情報が見られないし、それ以外にも高レベルの術具を持っているはずだ。これが監察官の標準装備だとしたら恐ろしいもんだな)



 あの金縁眼鏡も術具の可能性が高いうえ、男のわりに三つの指輪をはめていることからも、あれも術具と思ったほうがよいだろう。(男でも指輪を好む者もいるが仕事中に三つは怪しい)


 しかし、上級職になればなるほど暗殺や誘拐の危険が常にあるため、これくらいの対策は必要だろう。


 ついつい名前で油断しがちだが、ハローワークは全世界に支部を持つ巨大な組織だ。その影響力は計り知れない。



「特別監察官ってハローワークの上層部なんでしょ? 裏の情報をたくさん知っていそうだよね」


「そんなことはないよ。監察官といっても見られる情報には限りがあるんだ。僕程度じゃ詳しいことは何もわからないのさ。完全に名前負けだね。ははは」


「そのわりには口封じまでしてるよね?」


「おっと、こんな公の場所では勘弁してほしいな。対価は支払っただろう? あれでもけっこうがんばったんだよ。予算を取るのも一苦労さ」


「なんで隠そうとしているのかは知らないけど、オレは金がもらえれば文句はないよ」


「それはよかった。お金で解決できるのが一番だよね。とても平和的な解決方法だ」


「でも、わざわざオレと会う必要なんてあるの? 念押しのため?」


「いやいや、今後困ったことがあれば気兼ねなく相談してほしくてね。そうなると面識があったほうがいいでしょ? やっぱり直接会ったことがあるとないとじゃ、印象がまったく違うもんだよ」


「ふーん。で、オレの印象は?」


「人気者である意味がわかったよ。眉目秀麗で頭脳明晰、それに加えて強いんだから、そりゃ女の子にもモテるよね。羨ましいなー」


「キンバリィさんは結婚していないの?」


「一応しているよ」


「じゃあ、すぐに帰るのかな?」


「そうしたいのは山々なんだけど、期間を設けない出向らしくてね。国に残した妻と子供に会えないのは寂しいよ。最悪はここに骨を埋めることになるかもしれないなぁ」


「家族は大切だよ。仕事よりも優先すべきだ」


「それは困った。それなら家族をこっちに呼び寄せるべきかな」


「意地でも帰らないんだね」


「それが仕事だからね。家族を養うにも仕事は大事だよ」



 キンバリィは、にっこりと笑う。


 さすが特別監察官なだけあって、組織への忠誠心は強いようだ。



(小百合さんの話では、金服が来るなんてまず無いことらしい。それなのに無期限の出向ってのはおかしいよな。であれば、完全に目を付けられているってことだ)



 それがアンシュラオンに対するものなのか、あるいは北部全体のことなのか、もしくは特殊な魔獣に関してだけのことなのか。


 そのあたりはわからないが、ハローワーク自体が注目していることは間違いない。



「奥さんは案外喜んでいるかもよ。金だけ振り込まれれば、たいていの女性は満足するもんね。ほら、旦那は元気で留守がいいって言うでしょ?」


「おじさんを苛めないでほしいなー。単身赴任はつらいんだからさ。そんなに嫌わないでおくれよ」


「そっちの目的がはっきりしないからね。ただ、オレもハローワークとは良好な関係を築きたいから、その橋渡しをしてくれるなら助かるよ」


「そうそう、世の中はギブアンドテイクさ。上手くやっていこうじゃないか。おっと、そろそろ退散しないといけないかな」



 視界の隅に小百合が映る。


 なぜか彼女はキンバリィを見つけると、勢いよくズンズンと迫ってきていた。


 その圧力にキンバリィが後ずさっている。



「小百合さんが苦手なの?」


「ははは、最近の子ははっきり言うからねぇ。ミナミノの娘さんだし、ガンガンこられると困っちゃうな」


「やっぱり小百合さんの親御さんは有名?」


「実は同期なんだ。若い頃、本部での研修で一緒になってからの付き合いさ。それに彼は、東大陸西部をまとめる『総括支部長』だからね。権限はかなり強いよ」


「特別監察官だって相当なもんでしょ?」


「ほどほどにはね。でも、身内からも嫌われる損な役回りさ。とと、本当にやばそうだ。僕はだいたいここにいるから、用があったらいつでも来ていいからね。じゃあ、また!」



 キンバリィが逃げると同時に小百合が到着。


 その顔は若干ムスっとしており、逃げた彼の後姿を睨みつけている。



「アンシュラオン様、大丈夫でしたか? 何か言われました?」


「ちょっと挨拶しただけだよ」


「ああいう人には、はっきり言わないと駄目なんです。黙っていると調子に乗りますからね」


「まあその、一応は上層部の人なんだから、少しは敬ってあげたほうが…」


「甘やかしたらいけませんよ。こっちからプレッシャーをかけないと!」



(こういうところが強いんだよなぁ。この無鉄砲さは親譲りなのか、それとも育った環境なのか。今じゃ能力も持っているから怖いよ)



 よく上司に食ってかかる血気盛んな部下がいるが、たいていは煙たがれるものだ。それで干されることも多い。


 が、小百合は父親の地位もあって自由奔放に振る舞えるため、権力に対して何一つ物怖じしないのだ。


 今ではアンシュラオンの庇護下にもあるので、もはや怖いものなしだろう。



「普通に考えれば、北部が急成長しそうなら上層部の人間が来るのは自然なことだよね。それだけ大量の紙幣が投入されるわけだから、現地を調査する必要がある」


「ちゃんとした仕事ならいいんですけど、妙にアンシュラオン様に近寄ろうとするのが怪しいです」


「オレも有名になっちゃったから仕方ない面はあるけどね。それにあの人、小百合さんの親御さんと知り合いらしいよ。同期だって」


「そうなのですか? 私と話した時には何も言いませんでしたけど…」



 それはおそらく、小百合が最初から威圧的だったせいだろう。


 逆になぜ小百合が偉そうなのかわからず、キンバリィも困惑したに違いない。



「とりあえず面識を持てたのは大きいかな。実際に対峙すればこちらも情報を得られるから悪くはなかったよ。それより早く用事を済ませちゃおうか。遅くなると日が暮れちゃうかもしれない」


「了解しました! 奥にどうぞ!」



 一番奥の個室に通されて財団設立の手続きに入る。


 小百合は書類をテーブルに置きながら、一つ一つ丁寧に説明して必要事項に記入していく。


 その際に問題になったのが―――



「『財団名』はどういたしましょう?」


「あからさまな名前だと目立つし、ちょうどいい感じのものがあればいいんだけど…名前に関してはまったく考えていなかったね」



 何事にも名称が必要だ。


 いろいろと思案してみるが、良い名がまったく浮かばない。


 さすがに白の二十七番隊は恥ずかしいし、本名を使ったアンシュラオン財団も目立つので避けたいところだ。


 かといって、あまりに外れた名前もわかりにくいので頭を悩ませる。



「サナ様の名前も入れて『アーパム財団』というのはいかがでしょう?」



 ここで今まで黙っていたホロロが提案。


 思ってもみない角度からの発想だったので興味を引かれる。



「『アンシュラオン』と『サナ・パム』の二つを合わせて『アーパム財団』か。響きも悪くないね」



 サナの本名は『サナ・パム』であるが、この世界の名前にはいくつかパターンがある。


 たとえば、ベルロアナ・ディングラスやスザク・クジュネは、前が名前で後ろが家柄を示すので、我々が一般的に考える名前の構造に近い。


 また、ミドルネームが入る場合は、特別な役柄を示すことがあるのも地球と変わらない。


 ただ、「ザ」とか「ア」等がミドルネームに入る際は、その家の中で特別な存在であることを示すこともあり、役柄とは関係ないこともある。


 それ以外にも「・」の前後を含めて一つの名前であるパターンや、苗字そのものがない場合もあるのでややこしい。



(そもそもこの世界は、人種や名前に関しておおらかなんだよな。個人個人が好きに名乗っていることも多いから、よほど有力な家系でないと苗字が無いこともある。サナの『パム』の部分も苗字じゃないっぽいしな)



 おそらくアンシュラオンもサナも、一番最後のパターンに該当するのだろうが、具体的な見分け方がないのがつらいところだ。


 一度小百合に訊いたことがあるものの、「そこは雰囲気で察する」という曖昧な返事が返ってきて絶望したことがある。


 もう少しちゃんと説明すれば、もし家柄を示す場合は、当人自体が家柄のほうで名乗ることが多いらしい。


 ベルロアナにしてもディングラスに誇りを持っているので、観察しながら聴いてみると、ディングラスの部分を強調していることがわかるはずだ。


 これが一般家庭となると語り継ぐだけの歴史もないため、あとは個々人の好みの問題となる。


 身内でいえばマキ・キシィルナや、サリータ・ケサセリアがそれに該当し、親しい者だけにファーストネームで呼ぶことを許すといった傾向があるようだ。



「ほかに案もないし、オレは賛成かな。サナもそれでいいか?」


「…こくり」


「小百合さん、それでお願いね」


「では、この名前で登録いたしますね! 財団本体の登録はダマスカス共和国に申請します。銀行とも紐付けが可能なので便利ですし、これならば世界中の都市に商会を作ることができます」



 銀行口座を作った時にも説明したが、ダマスカス共和国は世界中の資金が集まる金融国家である。


 すべての資金がここを経由するため、ダマスカス自身の誘致もあり、世界規模の財団や商会はここを本店としていることが多い。(またはハペルモン共和国)


 その最大の理由は、『タックスヘイブン』にある。


 税制や手続き上での優遇措置を設けることで、海外から大量の商会を誘致し、現地で人を雇うことでその国も潤う仕組みが出来ていた。


 そのためダマスカスには各種代行サービスも多く、それらを使うことでさらに信用度が増す仕組みになっていることも大きい。


 東大陸は治安や情勢が不安定であることから、今まで見てきた都市や街のように、ハローワークに依存しなくては金自体が回らないのだ。



「ダマスカスっていいよね。なんか名前を聞くと安心するよ」


「まさにそれが最大のメリットです。この地域ではダマスカスに本部を持つ商会は少ないので、そこで箔が付きます」


「そうなの? 何か条件でもあるのかな? 銀行口座はすぐに作れたよね」


「個人の口座は開設に十万円かかりますので、それが用意できれば誰でも作ることができます。一方の商会や財団に関しましては、最低百億以上の資産がないと登録できないのです」


「百億は大きいね。個人口座とは大違いだ」


「それだけ扱う額が違うということです。さらに三年に一度、資産調査がありますね。それに合格しないと登録抹消となるので注意が必要ですが、それも含めての付加価値となります」


「百億を切ると駄目なのか。ちょっと怖いな」



 金融の世界は、何事も信用が大事だ。


 百億という数字を維持することは難しいが、財団がダマスカスにあれば誰もが安心して取引ができるようになるので、最終的にはメリットのほうが多くなるだろう。



「アンシュラオン様はハンターですから、いざという場合はいくらでも稼ぐことができると思います。そこまで大きな負担にはならないでしょう」


「それもそうだね。怖がっていたら何も生み出せないもんだ。最悪はまた魔獣を狩りにいけばいいんだから、なんとかなるかな」



 翠清山では魔獣との和解も果たしたが、魔獣すべてと仲良くなれるわけではない。


 知性レベルや習慣の違いでどうしても衝突する面はあるし、それらを解決するのに駆除という手段は必要だ。


 たとえば蜂に対して敵意はなくとも、ベランダに巣を作られたら安全のために撤去するしかないだろう。


 種族を区別し、互いのテリトリーを守ることは大切なことだ。今回は魔獣の住処に人間が侵攻した形になったことで、和解という手段が適切だと思ったにすぎない。


 問題はその区別だが、魔獣と長年一緒に暮らしていたアンシュラオンだからこそ線引きが上手いといえる。



「ハンターの収益も期待できますが、今後は商会を使った経済活動も活発に行うべきですね。せっかく大きな元手がありますから、循環できる機構を作ったほうが資金繰りが安定します」


「ちゃんと運営できるかな?」


「私もそれなりに知識はありますが、不安ならば経営コンサルタントを雇うのも手ですね。それこそキブカランさんを利用する手もあります」


「ああ、あいつってやり手の若社長だったね」



 当人がマフィアと名乗っているので忘れそうになるが、あの経済規模の小さなグラス・ギースで軽々と何十億円も稼ぐやり手の経営者である。


 ソブカもこちらに貸しを作りたいので、喜んで協力してくれることだろう。



「ハローワークでも経営指南はしておりますので、公共サービスを利用する手もあります」


「なるほど、いろいろな方法があるんだね。それは今後考えるとして、今すぐにやるべきことってある? 商会も作るんだよね?」


「現状で必要な商会は、ハングラスとの取引で使う商会と、翠清山での護衛活動を行うための商会の二つとなります。これは名義だけでもよいので、この場で作ってしまいましょう」



 ここではハングラスと同じく、商売上の取引を行う商会と、それらを守るための商会(警備商隊に該当するもの)を作ることにする。


 ペーパーカンパニーのように名前さえあれば手続きが可能であるため、最低限の資本金は必要であるものの、作るだけならば書類を提出するだけでよい。



「責任者はオレじゃなくていいんだよね。護衛のほうは誰が適任かな?」


「代表者はいつでも変更が可能ですが、ひとまずゲイルさんにしておきましょうか。経験もありますし、プロなのでお金に関してもクリーンです」



 ゲイルたちは山での戦いのあと、正式にアンシュラオンのグループに入る意思を表明してくれた。


 どうせ同じことをやるのならば、アンシュラオンの仕事を手伝ったほうが楽であるし、今までの信頼関係があるのでやりやすいと思ってくれているようだ。


 彼らとしてもアンシュラオンたちの強さを知った今、元の生活に戻ることはできないのだろう。


 良質な術式武具を含め、一緒にいれば彼らにも大きなメリットがあるからだ。



「ゲイルも正式にうちに加入してくれることになったから、商会の一つくらいはもたせてあげないとね…って、傭兵団と商会ってどう違うの? 商会にする場合とそうでない場合の違いについてなんだけど」


「これは経費の問題が一番関わってきますね。たとえば警備商隊は商会になっておりますが、規模が大きいので大量の備品を入荷する必要があります。一方の黒鮭こっかい傭兵団の場合は規模が小さいので、通常の傭兵団の枠組みで済むのです」



 商会になれば税金がかかるが、それを上回るだけの経費があれば得をすることになる。親会社であるハングラスがいるので、その調整も難しくはない。


 一方の傭兵団はハローワークに登録する『団体』にすぎず、各種ランクはあるものの、あくまで個人間の集まりであることが商会との違いになる。


 普通の傭兵団も信頼があれば依頼を受けやすいが、そのまま逃げてしまう可能性も捨てきれないので、こちらも商会であったほうが信頼性が高くなる。


 なぜ商会が税金を支払うのかといえば、何があっても在籍都市が最低限の保証をしてくれるからだ。


 もちろん個人でも税金は支払うのだが、その多くは手数料として一方的に取られるものなので、維持する手間があっても商会のほうが得になるわけだ。


 説明を受けたアンシュラオンも納得。相変わらず小百合の説明はわかりやすくて助かる。(仕事モードに入ると口調も少し丁寧になり、高い事務力を発揮してくれる)



「ありがとう、よくわかったよ。商会は人数が多いほどよさそうだね。魔獣って入れる?」


「前例はありませんが、駄目とは書いておりませんので大丈夫でしょう。さすがに固有名は必要になりそうですが」



 そもそも論として魔獣を身内に入れている者は極めて稀なので、ハローワークとしてもあまり前例がない。


 日本なら前例がなければ駄目の風潮があるが、書いていなければ問題ない、という強気スタイルでゴリ押すことにする。


 実態はちゃんと存在するし、名前だけならば書類上ではわからないだろう。



「商材取引用の商会は、炸加さんが代表者でよろしいですか?」


「それでお願い。あいつもやる気が出るはずだ」


「あとはディムレガンの別ブランド用の商会を立ち上げましょう。こちらも代表者は火乃呼さんにしておきます。それ以外の商会も必要になったら順次設立していきましょう」



 こうしてアーパム財団を中心に、次々と商会が作られていく。


 ここから本格的な経営者としての人生が始まるのだ。それもまた一興である。



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