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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
461/617

461話 「グランハム来訪 その2『ハングラスの野望』」


 グランハムが商会設立を勧めるのは、円滑な取引のためでもあるが、グラス・ギース特有の複雑な事情もある。



「我々はあくまでグラス・ギースの派閥の一つだ。その中には軋轢を生まないための慣習も数多くある。特に他都市勢力とのやり取りでは配慮が必要になるのだ」


「自分勝手にやりすぎると他派閥から睨まれるってことか。オレからすれば、ハングラスはそれに見合うだけの犠牲を払っていると思うけどね。結局、他派閥って何もしなかったよね?」



 翠清山に戦力を送ったのは、ディングラスとハングラスだけだ。


 非公式でソブカが参加していたが、個人での判断なので派閥は関与していない。ユシカにしても同じ扱いだろう。


 一度だけ灸瞑峰に有志による混成部隊(衛士隊中心)を送ったようだが、これも呆気なくマスカリオンに撃退されている。


 勝てはしなかっただろうが、もっと粘ろうと思えばできたはずなので、それだけ本気ではなかったことがうかがえる。(そのせいで第二海軍の壊滅が早まった)


 一方のハングラスは、主力部隊の警備商隊が大打撃を受けたのだから、成功報酬を得るのは当然の権利だ。


 なにせ失敗していたら全損なのだ。もらってしかるべきであり、もらうべきである。



「私も同感だが、あの都市ではそうは思われないものだ。領分を超えてハングラスが過剰に利権を独占していると考える」


「何もしないやつほど文句を言うもんだ。オレだったら無視するかボコボコにしちゃうけど、それができないから困っているんだろうし…。ソブカにも言ったけど、もういっそのことグラス・ギースを出たら?」


「そうするつもりだ」


「やっぱりそうだよね…って―――え!? 本当!?」



 アンシュラオンからすれば半分冗談ではあったが、意外な返答が返ってきて驚く。


 グランハムも今まで以上に真面目な表情になったことで、それが本気だとわかった。



「いいか、ここから先の話は超極秘の機密事項だ。絶対に漏らすなよ」


「ちょっと待ってよ! 準備するから! ホロロさーん! アイラを呼んできてー!」



 自分でも波動円を展開させるが、術式で盗聴する者がいるかもしれない。


 そこで呼ばれたのが、まさかのアイラであった。


 一座を抜けてからはこの家で暮らしているが、まだ公演は続いているので、暇があったら手伝いに行っているのだ。


 しばらく待っていると、汗を掻いたアイラがやってきた。



「はぁはぁ、なにー? せっかく楽しくユキ姉と踊ってたのにー」


「そんなことはいつでもできるだろう。それより白詩宮全体に『結界』を張れ」


「えー、あれって疲れるんだよねー」


「いちいち文句を言うな。ようやくお前も使えるやつになったんだから、役立てることを喜べ」


「もー、横暴なんだからー。えーと、こうやるんだっけ?」



 アイラが意識を額のサークレットに集中させると『破邪眼』が輝きを帯びる。


 それらは薄い光の膜となって広がっていき、白詩宮をすっぽりと包んだ。



「ほぉ、破邪猿将の瞳か」



 グランハムもアイラの額に注目。


 実際に戦った身からすれば興味が湧くのも自然なことだろう。



「これがアイラの魔石の力、『破邪結界』だ。どんな術式もこの中では力を失う。術者がアイラだから絶対の信頼は置けないけど、そこらの術具よりはよほど強力なものだよ」



 アイラの魔石である『アイラーン・グラヌアンカイト〈不可逆の未来への導光〉』は、素材となった破邪眼の力をそのまま使うことができる。


 破邪猿将のように疑似的な聖剣化も可能ではあるが、一番使い勝手が良いのが『破邪結界』であり、他者からの術式攻撃を無効化してしまう効果がある。


 もちろんアイラの力量によって引き出せる力には限界があるし、魔石自体も万能ではないが、いろいろと実験した結果、妨害用の術具より効果が高いことが判明している。


 部分的にとはいえ、クルルザンバードの精神干渉すら防ぐのだから、その効力はお墨付きである。


 ただし、力が強い分だけ消耗も激しい。



「あーん、頭がくらくらするよー。これやると視界がグルグルになるんだよねー。目が回るー!」


「最低でも一時間くらいは頼むぞ」


「そんなにもたないよー!」


「そこは気合と根性だ。ほらほら、早く出ていけ。邪魔だから玄関にでも行ってろ」


「えー! 私は話を聞けないのー!?」



 ぼやくアイラを部屋から追い出す。


 外からの傍受よりもアイラがうっかり口外するほうが危険なので、彼女には玄関でホロロと一緒に待機してもらうことにする。


 ホロロもクルルザンバードの力を使って周囲の警戒にあたってもらっているので、もし敵がいても、そう簡単には突破できないだろう。



「山での戦利品を堪能しているようだな。しかし、破邪猿将の素材をあの娘に与えるとは贅沢なものだ」


「ただでさえ弱いんだ。強い魔獣の力を与えなければ、それこそ一生強くはなれないよ。これからビシバシ鍛えるからね。あんなもんじゃ許さないさ」


「我々とは考え方の方向性が違うな。だからこそ怖ろしいが」



 世間一般では、強い者こそ強い武器や道具をもらうべきだと考える。弱者には扱いきれないからだ。


 しかし、アンシュラオンは弱い存在を強くすることに注力しており、実際に小百合やホロロといった一般人を超強化している。


 アイラもグランハムの基準からすれば、商隊員にもなれないような最下級の武人でしかないが、アンシュラオンから力を与えられれば化ける可能性がある。


 言ってしまえば、そこらにいる街の住人がある日を境に、突然グランハム以上の武人になることができるのだ。


 いちいち優秀な武人を選んで鍛える必要性がないのだから、羨ましいと思うと同時に畏怖も覚えるものだ。



「で、秘密の話って? グラス・ギースから離れるの?」


「厳密にいえば離れることとは少し違う。やはり我々がハングラスである以上、どうしてもグラス・ギースの一部になってしまう。しかし、商売の規模が大きくなればなるほど、慣例で縛られることはマイナスの結果を生み出す。その打開策が必要だ」


「都市を出れば全部解決に思えるけど、そうもいかないか。この北部には都市が二つしかないからね。まともに商売をするのならば、どちらか一方に組するしかない」



 グラス・ギースは寂れた印象があるものの、大きな都市であることには変わりがない。


 都市は人が集まる拠点でありつつ防護壁でもあるので、安心して人々が生活するには都市が絶対に必要だ。


 今後ハングラスの経済規模がどれほど大きくなっても、その事情は変わらない。大前提として、多くの住人がいなければ商売にならないからだ。


 しかしながら、そこに一つの【盲点】が存在する。



「どの組織であれ個人であれ、どちらかに頼るしかない。現にお前もハピ・クジュネに滞在している」


「便利だからね。さすがに荒野に住むのは無理だよ」


「では、【都市が三つ】あればどうだ?」


「三つ? グラス・ギースとハピ・クジュネ以外に?」


「そうだ。【新しい都市】があればどうなる?」


「そりゃ勢力図が変わるだろうけど…新しい都市なんて簡単に生まれるの?」


「グラス・ギースもハピ・クジュネも最初からあったわけではない。特にハピ・クジュネに関しては、大災厄以前は寂れた海賊の巣窟に近かった。その後に災厄から逃げた人々が流入して大きくなったのだ」


「その話は聞いたことがあるよ。要するに需要と供給だよね」


「うむ、商売の基本だ。一定以上の土地と一定数の住人、それを守るための戦力があれば都市は生み出せる」


「その話をするってことは、ハングラスの打開策ってまさか…」


「想像通り、【新都市の建造】だ」


「………」



 まったくの予想外の答えにアンシュラオンも言葉に詰まる。


 おそらく今を生きるほぼすべての者たちが、この考えに至ることはないだろう。


 この寂れた北部では、都市があるだけでもありがたいのだ。それだけ厳しい環境ともいえる。



「さすがのお前も驚いたようだな」


「オレを驚かせたいから言っただけじゃないよね?」


「本当のことだ。ただ、今までは非現実的な構想でしかなかった。立案したゼイシル様も夢想に等しい気持ちだったに違いない。それが今回の翠清山での勝利によって現実味を帯びてきた」


「オレに採掘権の話を持ってきた段階で、すでに構想が出来ていたってことだよね」


「そうだ。キブカランもこの話は知っている。というよりは、あの男はなぜかこちらの計画を知っていて、向こう側から協定を持ち掛けてきたくらいだ。その時は始末することも検討していたが、取らぬ狸の皮算用ほど虚しいものはない。逆に利用することにしたのだ」



 だいぶ前の話ではあるが、初めてアンシュラオンと酒場で会話した夜、ソブカとの対話で出てきた『例の計画』とは、まさにこの『新都市建造計画』のことであった。


 ソブカがどこから情報を仕入れたかは謎であるものの、ハングラスとしても動き出すための資金がなければ話にならず、いざ実現するにしてもライザックと話し合う必要も出てくる。


 その意味において、ソブカの存在は大きいと判断したのだ。



「そして、我らはグラス・ギースとハピ・クジュネを出し抜き、翠清山の要衝を手に入れた。これは極めて大きな功績だ」


「しかも建築に適した鉱物も多いよね。ハングラスが計画を進めるだけの算段がついたわけか。なるほど、ソブカが動き出した理由もわかったよ。もし負けても逃げる場所が出来るってことだ」


「やつの尻拭いをするつもりはないが、あれだけの才能だ。見捨てることは損益と考えている。だが、あのキブカランのことだ。勝算があるのだろう」



 ずっと行動を共にしていたことからもわかるように、アンシュラオンとソブカとハングラスの三者は協力関係にあった。


 琴礼泉のように利権を奪い合うこともあったが、三者ともに単独では大きな利益を生み出すことができないので、今後とも協力は続くはずだ。



「新都市建造か。面白いけど、かなり難題が多い計画だ。そもそもどこに造るの?」


「グラス・ギースの隣、と言ったら笑うか?」


「ははは、そりゃいい。領主が激怒する光景が思い浮かぶよ」


「実際にそういった思案もしてみた。が、やはり無理があった」


「だろうね。ある程度は離れていないと意味がない。かといって、グラス・ギースとハピ・クジュネの間に造るのも難しい」


「むろんだ。それではグラス・ギースを完全に敵に回すことになる。ハピ・クジュネから来る利益をすべて乗っ取るわけだからな。いくらアンシュラオンがこちら側とはいえ、我々は他都市との抗争を望んでいない」


「となると、造れる場所はかなり限定されるね。さらに北に建ててもいいけど、ちょっと採算が取れるかわからないなぁ」



 アンシュラオンが言っているのは、グラス・ギースから北のブシル村までのエリアだ。


 ここには多くの集落があるが、ほぼ村であり、経済規模はかなり小さい。


 彼らもまたグラス・ギースに森林資源を卸すことを生業にしているので、無益な争いには加担したくないはずだ。



「東は…『デス・ロード〈死の旅路〉』があるのか」


「たしかに需要はあるが、北部全体を危険に晒す可能性もある。東は荒れていたほうがよい」



 ハピ・クジュネから東は、以前も話題に出た『デス・ロード〈死の旅路〉』が存在する。


 これが壁になることで東方勢力からの侵入を防いでいるので、下手に開拓して活性化してしまうと逆にリスクとなる可能性が出てくる。



「あとは消去法的に【西】になるけど…」


「我々も西が妥当だと考えている。そもそも西方は誰の土地でもない。自由に開拓が可能だ」


「でもさ、四大悪獣のデアンカ・ギースも西にいたし、クルルザンバードも西方から来たって話じゃないか。危険度からすればデス・ロード以上じゃない?」


「西部が危険であることも承知の上だ。そして、この件に関して、お前に会ってもらわねばならない人物がいる」


「誰? ゼイシルさんじゃなくて?」


「この計画における最重要人物の一人だ。名前はまだ言えぬ。そういう契約なのだ」


「それほどの相手か。領主じゃなければべつにいいけど、まさかマングラスじゃないよね?」


「マングラスは外に興味がない。あのユシカなる人物も、あれから見かけてはいないからな」


「あいつってグマシカだったんでしょ? ベルロアナが叫んだって聞いたけど」


「そのようだな。しかし、彼女が叫んだだけであり、それだけでグマシカ・マングラスであるとは限らない。鵜呑みにできるほど簡単な問題ではないのだ。それだけグマシカには力がある」


「コウリュウ単体でもかなり強いし、グランハムたちもまともにやり合うのは厳しいだろうね。まあ、外に興味がないなら関わらないのが一番かな」


「そういった面も含めて、敵が多いグラス・ギースに頼ることはできない。ゼイシル様は、常に外に意識を向けておられるのだ。チャンスが到来したのならば、もはや内に閉じこもっている場合ではない」


「うん、いいね。やっぱりハングラスは未来志向の派閥だよ。古い慣習だけに縛られていたら新しい時代には対応できないもんさ。ゼイシルさんはかなり頭が良くて、なおかつチャレンジャーだ。そういう人物は嫌いじゃない」


「そう言ってもらえると助かる」


「それで、その人物とはどこで会えばいいの?」


「どうせ商会を作るためにハローワークに向かうだろう。行けばわかるはずだ」


「ハローワークにいるのかな? まあいいや。ハングラスにとっても大切な話なんだろうから、金になるならオレは乗るよ。五億円も余計にもらったからね。それくらいは付き合うさ」


「では、これからもよろしく頼む」


「ああ、任せておいてよ」



 こうしてグランハムとの会話は終了。


 細かい話は後日、ゼイシルと詰めることになった。



(それにしても新都市の建造か。こいつは面白くなってきたな。ワクワクするじゃないか)



 話が大きくなればなるほど、得られる利益も大きくなるものだ。


 さらなる発展に心が躍る。



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