457話 「サナの誕生日 その1」
昼過ぎ。
サナに真っ黒なロリータ服を着せて、ニタニタと笑っているアンシュラオンがいた。
「サナちゃんは、やっぱり可愛いなぁ! うほー! かぁーいーよーーー! ごろごろごろー!」
あまりの可愛さに悶絶しては床を転がり、起き上がってはニヤつきながらまた眺め、再び悶絶して転がるを繰り返す。
「ほら、お膝においで! お兄ちゃんのお膝においで!」
「…こくり」
「おほほー、太ももが柔らかいなー。全然太ってないのに、ここはムチムチなのがいいよねー。ぷにぷに最高だよぉー」
サナを膝に座らせて、おもむろに足を撫で始める。
ついでにお腹も撫でてから、胸の発育具合もチェック。こちらも年相応のかすかな膨らみが愛らしい。
続いて髪の毛に顔をうずめると、スーハ―と何度も『サナ吸い』を堪能。
「くー、たまらんねー! 甘い香りが鼻の奥をくすぐるよ! くんかくんか、すーーはーー! はひぃー! 最高!」
そのたびにキマッた表情を浮かべる姿は、まさに変態だ。
ラブヘイアのことを何ら非難する権利はない。もはや同類である。
「…ぐいぐい」
「お菓子が欲しいの? じゃあ、お兄ちゃんが食べさせてあげるね」
アンシュラオンがクッキーを咥える。
それを口元に近づけると、サナが自ら抱きついて食いつく。
「…ちゅっ、はむ。もぐもぐ」
「おほほー、サナちゃんとチューしちゃったねー。次も取れるかなー」
今度はクッキーを舌の上に乗せて、少し引っ込めてみる。
すると、サナが食いついた時に舌でクッキーを取り出そうとするので、互いの舌が絡み合うことになる。
「あーん、サナちゃんとまたチュッチュしちゃったねー。可愛い、可愛い。なでなでなで」
「…もぐもぐ、ごくん」
「ほらほら、お兄ちゃんの唇も甘いよ。ぺろぺろしてみて!」
「…ぺろぺろ、ぺろぺろ」
「あはー! かーいーーよおおおおお! ぺろぺろぺろー!」
サナは食べることに夢中なので、そんなことには無関心である。
が、キスはキス(ベロチュー)なので、アンシュラオンは非常に満足していた。
これを飽きずに何十回も繰り返し、怠惰な昼過ぎを満喫しているわけだ。
もともとアンシュラオンは自堕落な人生を歩むことが目的なので、翠清山の戦いが終わった今、サナを愛でることこそが本分ともいえる。
(はぁはぁ…な、なんということだ…はぁはぁ! こ、これは…す、素晴らしい!)
そして、その光景を隠れて眺めている一人の女性、サリータがいた。
顔は紅潮して目の瞳孔も開き、壁を押す手にも力が入って、食い気味で覗いている。
何度も目を瞑っては脳裏にその光景を焼き付け、また強い眼光で新たなシーンを見ては悶絶を繰り返す。
翠清山での生活で似たようなシーンは見ていたものの、街に戻ってリラックスした状態での愛情表現に激しく心を掻き乱されていた。
(はぁはぁ、美少年と美少女が…き、キスを! いや、兄妹なのだから当然なのかもしれないが…ああ、また! はぁはぁ、あんなにペロペロして…はぁはぁ! す、素敵だ! まさに女神様の御業としか言いようがない!)
「尊い…あまりに尊い……」
もはや涙すら流す勢いで感銘を受けているではないか。
思わず自分の身体をまさぐっていることからも、かなり興奮していることがうかがえる。
「サリータさん、何をしているんですか?」
「ひっ!? さ、小百合先輩!?」
その後ろから小百合がひょいっと首を出す。
彼女は魔石を使い始めてから気配を消す癖がついたので、まったく気づかなかったようだ。
サリータは、慌てて弁明。
「じ、自分は何も…! けっしてやましい気持ちなどは!」
「ほーほー。覗き見とはサリータさんもいい趣味をしていますねー」
「ち、違うのです! ただ、あまりに美しくて…はぁはぁ」
「その気持ちはよくわかりますよ! あんなに美しい兄妹は世の中にいませんよね!」
「さ、小百合先輩もなのですか!?」
「ええ、ええ、わかりますとも。しかし、こうして見ているだけで終わらせるのも、もったいないですよね」
「たしかにそうですね…。ですが、師匠は写真にも映りませんし…」
「諦めたら試合終了ですよ! そこでじゃじゃーん! これの出番です!」
「これは何ですか? 本? 冊子?」
「サリータさんは知っていますか? 最近、巷で流行りの『薄い本』の存在を!!」
「う、薄い本!? は、初めて聞きますが、なぜか香ばしい匂いが…」
「非公式の自己出版本なのですが、だからこそ好き勝手描ける素晴らしいものなのです!」
「なるほど、自分で描くのですか…って、この内容は!? 駄目です! このようなものは…ああ、どうしてだ! 目が離せない!」
「ふっふっふ、一度見たらもう逃れることはできないのです。それが薄い本の魔力なのですよ」
「な、なんて破廉恥な…! だが、それがいい!」
「さぁさぁ、サリータさんも迸るパッションとリビドーをぶつけてみませんか! 題材はもちろん、あの二人です!」
「そ、そんな! 畏れ多いです!」
「だから非公式なのです。見ているだけでは溜まる一方ですよ。健康のためにも、ぜひ発散するべきです! そして、他の人たちにも幸せを分け与えるべきなのです!」
「はぁはぁ…あの尊さが形になるなんて…。これが自分の求めていたものなのか!」
と、小百合に勧誘されたサリータが、薄い本の執筆に精力を傾ける日も近い。
そもそも薄い本が流行し始めたのは、何を隠そう小百合のせいだ。
最初は単純に「アンシュラオン×サナ」の良さを文章で表現していたものが、徐々に歪んだものとなっていき、一部の界隈で好評を博することになる。
そこに絵師たちが参戦することで漫画形式となり、さらに爆発的に広がっていくことになってしまう。
もっと狭い界隈では「アンシュラオン×〇〇〇(男)」といった、当人が知ったら焚書になりかねない危ないものも出回っているとか。
それはそうと、小百合がやってきたのは別の要件があったからだ。
物陰から飛び出すと、大声で訊ねる。
「アンシュラオン様! サナ様の【誕生日】はいつですか!?」
「え? 誕生日?」
「そうなのです! だいぶ落ち着きましたし、誕生日パーティーをやりたいなーと思いまして!」
「誕生日か…」
ちらりとサナを見る。
白スレイブとして売りに出されていたことに加え、サナ自身がしゃべらないので、はっきり言えば年齢すら不詳である。
しかし、誕生日は女性にとって非常に重要な要素だ。このままでは今後の生活に支障が出てしまう。
そこで、はっと思いつく。
「サナの誕生日は、明後日かな。それで十歳だ」
「えええええ!? もっと早く教えてくださいよー! ああ、もう時間がないです! さっそく準備をしなくちゃ! サリータさんも買い出しを手伝ってくださいね! それと早急に招待状も出さなくては!」
「あっ、小百合先輩!」
サリータを強引に引きずって小百合が走っていく。
その様子を見守りながら、アンシュラオンは改めてサナと向かい合う。
「オレと出会ってから、もう一年だね。その日を誕生日にしような」
「…こくり」
誕生日を決めるのならば、彼女と兄妹の契りを交わした日こそ相応しいだろう。
サナのペンダントに触れながら、出会ってからの一年間を思い出す。
武人として覚醒させたり、一緒に観光したり、ただただ一緒に過ごしたりと、すべてが満ち足りていた。
翠清山の戦いがあったことで、戦わせていた期間が長かったのは仕方がない。彼女を強くしてあげることも大切だからだ。
しかしながら、それ以外のこともたくさん教えてあげたいと思っている。誕生日もその一つになるはずだ。
「君と出会って、オレは与える愛を知った気がする。ありがとう、サナ」
「…ぎゅっ」
手で頬に触れると、サナもその手をぎゅっと握り返してきた。
これはもう相思相愛と言っても過言ではないだろう。間違いない!
自分が与えた分だけ、彼女もアンシュラオンに対する愛情が増しているのだ。
そして、当日。
白詩宮の庭の一画には、身内以外にも数多くの関係者が集まっていた。
ゲイルを含めた傭兵連中はもちろん、スザクやシンテツといった海軍関係者に加え、小百合が集めたハローワーク職員までいる。
ここは観光区からも近いので、街から踊り子や詩人が勝手にやってきては歌い踊り、芸人たちも大道芸を披露して回っていた。
普段は入れない白詩宮に誰もが興味津々のようで、今日は無礼講として開放した途端、大勢の一般人が集まったというわけだ。
もちろんホロロが入場する者をチェックしているので、セキュリティは万全である。
琴礼泉の時も使っていた『感応連結』を応用し、思考パターンを感知することで、危ない考えを持っている人物をピックアップ。
そういった人間は強制操作でお帰りいただくか、神経に激痛を与えて罰しておく。
ここであえて殺さないのは、ホロロがマーキングした相手は有効範囲内ならばいつでも特定できるため、それと接触している対象をもマークできるからだ。
クルルザンバードの力を手に入れたことで範囲が急激に広がり、今では直径三キロ程度ならば軽々とカバーできるようになっているのも心強い。(日に日に距離は増している)
もしホロロの能力が効かない相手がいれば、それはそれでマークすればいいし、小百合もいるので安心である。(アンシュラオンも波動円で物理的にチェックしている)
「今日はサナのために集まってくれてありがとう! 酒も料理もたくさん用意したから、じゃんじゃんやってくれよな!」
「おおおおおおおおお!」
アンシュラオンの声が響くと、一斉にパーティー会場に火が付く。
サナの誕生日ということもあり、ビュッフェ形式でさまざまな料理が食べ放題となっている。
それらを街の住人たちにも振る舞うのだから、会場は飲めや歌えの大盛り上がりだ。
当然、知り合いは直接お祝いを述べにやってくる。
「誕生日、おめでとうございます。とても素敵な日ですね」
スザクが爽やかな笑顔でやってくると、サナにプレゼントを渡す。
箱の中身は、白いレースのドレスだった。
アンシュラオンは比較的同じ黒でまとめる傾向にあるので、白いドレス姿のサナは新鮮かもしれない。(白いロリータ服は持っている)
「ありがとう! でも、サナのサイズがよくわかったね」
「マクーンさんに訊いたのです。急ぎで作らせたので何かあったら教えてください。すぐに直させます」
「大丈夫だよ。その気持ちだけで嬉しいからね。ライザックとは最近どう?」
「今までよりも仲が深まった気がします。今回も兄さんからの連絡を受けて急いで戻ってきましたので」
「連絡が遅れて悪かったね。オレもすっかり忘れていたんだ」
「いえ、問題ありません。任務のほとんどが復興と翠清山関連ですから、どのみちハピ・クジュネには戻ってくる予定だったのです」
小百合が特急便で招待状を出した時、スザクはハピ・ヤックにいたのだが、ライザックからの報を受けて全速力で帰還。
その際に伝書鳩をフル活用してサナのドレスを超特急で作らせた、というわけだ。
アンシュラオンの妹の行事である以上、いかなる任務よりも優先されるのは当然のことだろう。
それからもサナに挨拶する者、プレゼントを贈る者等々、次々と来客がやってくる。
一般人の中には遠くから写真を撮る者もいたが、今回は無礼講なので好きなだけ撮らせた。(サナは映る)
が、明らかに呼吸の荒いロリコン属ロリコン目ロリコン科の人種は、おぞましい目的に使いそうなので即座に没収して叩き出す。
たとえ写真でもサナが穢されることは許されないのだ。
「ロリコン、お仲間をなんとかしろよ。迷惑すぎるぞ」
「仲間じゃないからな! あいつらは、ただの犯罪者だ!」
と、ロリコンが自分に突き刺さるようなブーメラン発言をする。
これが同族嫌悪というものなのだろうか。まったくもって哀れなものである。
仕方ないので、アイラをステージで踊らせて注意を逸らすことにした。
スレンダー好きと少女趣味はまた違うのだろうが、少しは弾幕になるだろう。




