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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
456/617

456話 「魔石の進化 その2『同属喰い』」


「色が…【紫】になってる?」


「そうネ。明らかな変化があるアル」



 ホロロの魔石である『リズホロセルージュ〈神狂いの瑠璃鈴鳥〉』は、やや白みがかった瑠璃色のジュエルだったはずだ。


 それが少しずつ紫色に変化しているではないか。


 アルも困惑した表情で調査を続け、完全に色が変わりきったあとに結果を報告。



「…この魔石、完全にテラジュエルに変化しているネ」


「Sランクってこと? 前にギアスをかけた時は『B+の魔石』って言っていたよね?」


「その後の推移はわからないけど、今の出力はとんでもないアル。下手をするとサナの魔石に匹敵するネ。いや、超えているかもしれないヨ」


「どう考えても、さっきの核のエネルギーを取り込んでいるよね」


「そう思うのが自然ネ。力が上乗せされているアル」


「こんなことってありえるの?」


「さっきも言ったけど、初めて見るネ。そもそもジュエルの品質が向上すること自体がありえないことヨ。鉱物は鉱物。そう簡単に変化しないアル。ましてや【他の魔石の力を奪う】なんて不可能ネ」



 ホロロの魔石は翠清山の戦いで親和性が増し、もしかしたら多少は品質が向上していた可能性もあるのだが、それ自体が異常。


 宝石が何年経っても変わらないように、こんな短期間で大きな変化は起こらないものだ。


 魔石獣もアンシュラオンのギアス化した魔石でしか確認されていないため、すべてにおいて規格外といえる。


 ただし、アンシュラオンの表情は冴えないままだ。



「うーん…」


「魔石が強化されたアル。嬉しくないネ?」


「オレが心配しているのは、これがクルルザンバードのものだからだ。あいつはかなり強力な精神操作の能力を持っていた。その残滓が残っていないとも限らない」


「すでに死んだ魔獣アル。意思が残っている可能性はゼロに近いネ。ただ、もう少し経過を観察する必要がありそうヨ」


「ホロロさん、本当に異常はない?」


「は、はい。今のところは…」


「股は!? 股は大丈夫!? さわさわ!」


「あはんっ」


「よかった! 股も無事だね!」



 ホロロの股を手の平でまさぐり、無事を確認する。


 なぜそこが危ないと思ったのかは謎であるが、胸と股は女性にとって非常に大切な部位なので、これも致し方がないのだろうか。


 とも考えたが、やはり関係ないかもしれない。単に触りたかっただけだ。



「今のところは大丈夫だけど、一度本格的な調査が必要かもしれないね。ホロロさんは、オレの傍から一秒でも離れちゃダメだよ。寝る時もお風呂の時も全部だよ。トイレの時もね!」


「もちろんでございます。うふふ、しばらくはご主人様を独り占めですね」


「あー、ずるいですー! 小百合も一緒にいますー!」


「いやでも、何かあったら困るし…」


「みんなで一緒にいればいいのよ。ね?」


「マキさんまで…。まあ、それが一番いいかな。アル先生にもしばらくうちに滞在してもらうよ」


「了解アル。どうせ暇ネ」




  ∞†∞†∞




 こうしてしばらく様子をうかがうことになったが、こちらも変化はすぐに表れた。


 経過観察、三日目の夜。



「はぁ…はぁ」



 少し荒い呼吸を繰り返すホロロが、むくりとベッドから起き上がる。


 十数秒ほどベッドに腰を掛けてボーっとしていたが、その後にふらふらとした足取りで扉を開けて外に出ていった。



「アンシュラオン君、どうする?」


「ちょっと様子を見ようか」



 経過観察中は皆と一緒に寝ているためマキが反応するが、ここは一度泳がせることにした。(サナは爆睡している)


 普段のホロロは就寝中、仮にトイレに赴く際でも無許可で行くことはない。声こそ出さないが、一緒にいる時は必ずアンシュラオンに触れることになっている。


 アンシュラオン自身はさほど眠る必要性がないので、それで十分なのである。


 が、それがないということは明らかに異常な状態だ。



「はぁはぁ…」


「あっ、ホロロ先輩。お疲れ様です!」



 廊下に出たホロロは、見張りを担当していたサリータと遭遇。


 トイレにでも来たと思ったのだろう。まったくの無警戒だ。


 見張りのくせに注意力散漫ではあるものの、ここ三日ほど何もなかったので警戒心が薄れるのも仕方がない。


 そんなサリータの前でホロロの魔石が輝くと、魔石獣が出現。


 しかし、それは以前見た『リズホロセルージュ〈神狂いの瑠璃鈴鳥〉』ではなかった。


 外見こそ若干の面影はあるが、瑠璃色だった身体は紫に変色しており、翼も六枚に増殖。


 その姿は、まるでクルルザンバードのようだった。


 そして、翼から放出された羽根が宙を鋭く舞い、サリータの太ももに突き刺さる。


 彼女は軽鎧を着込んでおり、足もガードされていたが、それをあっさりと貫通。


 この羽根は物理的なものではないので、特殊な防御術式が施されていないと防げないのだ。



「え…? か、身体が……う、動かな…い?」



 痛みはない。刺さった感触すら感じない。


 が、サリータは痺れとともに身体の自由を奪われる。


 それだけにとどまらず、なぜか腕立て伏せを開始。



「う、うぁぁあ! と、止まらないぃいいい!」



 いつもより激しく腕立て伏せをしたと思ったら、今度は立ち上がってスクワットを開始。


 それを百回ほどこなした直後、いきなり走り始める。



「ああ、今度は足がーー! ど、どうなってしまったのだ!?」



 そのまま外に出ていくと、庭を全力でダッシュ。


 自分の意思ではどうにもならないようで、疲れ果てても止まることはなかった。



「ふー、ふーー! はー、はー!」



 一方のホロロは興奮状態らしく、その様子を荒い呼吸のまま眺めていた。


 その後ろからアンシュラオンがそっと近寄り、命気で包み込む。


 駆けつけたアルも魔力珠を展開して、すかさず魔石に干渉。力を遮断することで魔石獣を霧散させることに成功していた。


 そこでようやく彼女の意識が戻る。



「はぁはぁ…ご、ご主人…様?」


「大丈夫だよ、オレが傍にいるからね。何も心配することはない」


「は、はい…はい。すべてを委ねます…」



 力を抜いて、くたっと倒れ込むホロロを抱きかかえる。



「マキさんはサリータの回収をお願いね」


「わかったわ。そのまま見張り番も代わるわね」



 マキが外に向かうと同時に、ホロロがアンシュラオンの胸に頭を擦りつけてくる。



「ご主人様ぁ…くぅーん、くぅーん」


「よしよし、いい子いい子」



 ホロロは人前では冷静な態度を崩さないが、その必要がなくなると滅茶苦茶甘えてくる。そのギャップも愛らしいものだ。


 その間もアルは魔石の解析を続けており、こう結論付けられる。



「魔石が他の魔石の『能力を吸収』して、自分のものにしたアル。間違いないネ」


「単純なエネルギーだけじゃなくて『スキル』までもか。たしかにあれはクルルザンバードが使っていた羽根だったもんな」



 動力源を奪うだけならば、モグマウスを喰ったりホロロたちの魔石の力を吸収したりと、サナも普通にやっていたことだ。


 しかし、当たり前だがスキルまでは吸収できない。



「それに、羽根の見た目は似ていたけど、暴走の傾向性も若干異なるように思える。クルルザンバードは欲望を刺激して無秩序に暴走させていたはずだ。でも、ホロロさんの場合は完全に操っていた気がする」



 アンシュラオンが、庭で倒れているサリータに目を配る。


 魔石獣が解除されたことで操作からは逃れたようだが、まだ痺れていて動けないらしい。


 が、操作中も叫んでいたし、今も足をさすっているので意識自体ははっきりしているようだ。



「もともとホロロさんの能力は、神経に介入して動きを止めたり、痛みを与えることを得意としていた。たぶんだけど、今回はそれを利用して操作していたんだと思う」


「そこがすごいところアル。主体は前のジュエルのまま、クルルザンバードの能力だけを奪って利用しているネ。もっと言えば『能力ごと捕食した』ともいえるヨ。もしかしたら、再び世紀の大発見が起きているのかもしれないアル」


「それじゃますます誰にも言えないって。ただでさえオレがギアスをかけると変質するんだからさ。世界中から狙われるよ」


「でも、有効利用しない手はないアル。これは研究し甲斐があるネ」


「武人としての人生が終わったからって、妙にやる気になってないか?」


「こんなに面白いことは滅多にないアル。やっぱりユーは見ていて飽きないヨ」



 アルは顔をくしゃくしゃにして笑いながら、ホロロの魔石の解析に没頭していた。


 老後の楽しみを見つけたようで何よりだが、この発見は想像以上に怖ろしいものである。



(魔石の弱点は、エネルギーが枯渇しやすいことと、能力に多様性がないことだ。サナだったら雷と咆哮、小百合さんだったら空間操作と夢操作だけだ。どちらも強力ではあるが、対策をしようと思えばできてしまう。しかし、もし変化が可能ならば話は変わってくる)



 今までは魔石が壊れたり力を失ったら新調せねばならなかったが、この方式ならばその都度、他の魔石から力を吸収することで回復を促せることになる。


 それどころか、どんどん新しい力を取り入れることで、無限に強くなっていくことができるのだ。



(といっても、そんなにおいしい話はないよな。これも何かしらの条件があるはずだ。安全のためにも早急に調べないといけない)



 その後、さまざまな検証を経て調べていった結果、『同属の魔獣』に関してのみ捕食が可能であることがわかった。


 たとえば、ホロロの魔石の元となった『リズカセージュ〈瑠璃羽鳥〉』は、鳥系の魔獣だ。


 一方のクルルザンバードは、猛禽類のフクロウであることから属するグループは若干異なるが、大きな括りでは鳥に属しているので捕食が可能となる。


 もともとの能力が似ていたことも関係がないとはいえないはずだ。それも条件の一つと思われる。


 ただし、魔石にはハードディスクのように容量が存在し、その範囲内においてしか吸収することはできないようだ。


 ホロロの場合は、さほど強力な能力を有していたわけではないことと、それなりの時間をかけて強化してきたことで、余剰分のスペースが空いたと思われる。



(つまりは、魔石にも成長要素としての【レベル】が存在する、ということだ。すべての魔石が同じかは不明だが、少なくともオレがギアスをかけた魔石は成長を続けてキャパシティを増していく。限界はあるだろうが、その範囲内において強化が可能になるんだ)



 たかだかリズカセージュ程度の魔石で撃滅級魔獣の核を吸収してしまうのだから、なんとも怖ろしいものである。


 そして、これに一番喜んだのは小百合だった。



「やったー! これでもっとパワーアップできますね! 実は皆さんが魔石を持ったら置いていかれるんじゃないかと焦っていたのです! だって、私なんて兎ですよ! 草食動物じゃないですかー!」


「小百合さん、兎は雑食らしいよ」


「えーーー! そうなんですかー!?」



 ウサギは完全草食動物だと思われていたようだが、野生下においては共食いもするし肉も食べているそうだ。与えれば魚を食べる個体も確認されている。


 と、そんな話はともかく、小百合としては優位性を保ちたい欲求から、この一件にはかなり乗り気であった。


 アンシュラオンも求められるまま、その財力を使って素の原石から調整された宝石までを大量に用意して並べる。


 それらを小百合が『試食』してみた結果―――



「うーん、カッティングしたほうが美味しいですね」


「味覚があるの?」


「具体的な味はないですけど、濃縮された旨味成分がありまして、その中でもカッティングされているもののほうが濃く感じます。素の原石のほうは荒っぽいというか粗雑ですね。野性味がありますが、さほど美味しくはないです」


「なるほど、カッティングは魔石にとっての調理みたいなものなんだね。ほかには何かある?」


「弱い魔獣のものを吸っても、そんなに強化された感覚はありません。少しお腹が満たされた程度でしょうか。アンシュラオン様の命気のほうが何千倍もすごいです。でも、『非常食』としては有りかもしれません」



 クルル戦のようにアンシュラオンが決戦モードに入ってしまうと、どうしても周りへの配慮が欠けてしまう。


 小百合もサナに力を吸われて融合化が解けてしまったので、そこを狙われたら危ない状況ではあった。


 それを防ぐためにいくつか捕食用に常備しておけば、いざという場合にも安心である。



「系統としては、より近しい魔獣のほうが吸いやすいですね。私は兎なので、哺乳類かつ草食から雑食寄りの小動物ってところでしょうか。もちろん同じ兎が一番吸いやすかったですけど」


「やっぱり同属か近縁種がいいのかもね。能力の吸収はできない?」


「今のところは変化なしです。こちらも強い魔獣のものでないと駄目なのかもしれません」


「なかなか強い魔獣の原石ってないんだよね。まあ、なんでもかんでも吸収するようじゃ困るからね。もともと小百合さんの能力って強力だし」


「私はもっと強くなりたいのです! アンシュラオン様のお役に立てるのならば、小百合はがんばりますよー!」


「ありがとう。でも、身体が一番大切だから無理をしない程度にお願いね」


「はい! お任せください!」



 こちらは引き続き、小百合の実験に期待するしかない。


 続いて外に出て、森で魔石の練習をしていたホロロに声をかける。



「ホロロさん、調子はどう?」


「だいぶ力の制御ができるようになりました。半融合化も可能です」



 ホロロが背中から六翼を生み出し、紫色の羽根を放出。


 実験用に用意していた猪、以前倒したことがある『ベビモア〈踏巨猪〉』の幼体に刺さると、ちょこちょこと動き出した。


 これは勝手に動いているのではなく【ホロロが操作】しているのだ。


 そのうえ前と同じ瑠璃色の鈴羽を飛ばして、動きに合わせて鳴らすこともできる。



「すごいね。二つの力を同時に扱えるんだ」


「はい。別々に扱うというよりはブレンドされた気がします。より洗練されたと申しますか…。もちろん個別に使い分けも可能です」


「こうなるともう【進化】と呼んだほうがいいのかもしれないね。足りない要素を自ら求めた結果なのかも」



 ホロロの魔石は索敵や思念の共有では便利であったが、はっきり言えば戦闘面では若干非力な面が目立った。


 やれることといえば神経に羽根を突き刺して動きを止めることくらいだ。痛みを与えてショック死も狙えるが、あまり効率的ではない。


 それと比べてクルルザンバードの力は、より広範囲かつ強力で、対象を完全に支配することもできる。現状でも同時に五匹の魔獣を操作可能だ。



「魔獣は外にいくらでもいるから何回でも実験できるね。あとは人間での実験だけど、こっちはスレイブを使えばいいかな。もしくは適当に犯罪者を捕まえてくるのもいいかも」


「相手の意識を乗っ取れるようになれば、思考パターンもわかるようになるはずです。そうなれば、さらにご主人様のお役に立てると思います。それが嬉しくてたまらないのです」


「ありがとう。これからも期待しているよ」


「そのお言葉だけで幸せです」



(クルルザンバードの力が手に入れば凄まじいアドバンテージになる。今でもホロロさんが見張りや人材の選定をしているんだから、その強化にもなるし、最悪は強制的に人を動かすこともできる。まさかの副産物だったな)



 アンシュラオンの知名度が上がるごとに、周りには少しでも利用しようと害虫どもが集まってくる。


 数が多いゆえにどうしても紛れ込むし、そのたびに排除するのは面倒だ。素性を探るにしても『情報公開』だけでは限界があり、拷問するにも手間がかかる。


 そういうときにこの力があれば、クルルザンバードがハイザクの記憶を覗いたように、ある程度のことはわかってしまうのだ。


 仮に敵ではないにしても隠し事があるかどうかも判明するのだから、なんとも怖ろしい能力といえる。


 とはいえ、あまり大っぴらに使うと周りが警戒してしまうので、基本的にはひっそりと使うことが好ましい。


 また、精神術式の一種であることから痕跡が残ることと、アンシュラオンのように術士の適性があれば抵抗されることもある。その際にも能力がバレてしまうだろう。



(まあ、バレたところで逆に牽制に使えればいいんだし、利用方法はいくらでもあるさ。小百合さんの能力と併用すれば、さらに強力なものとなるだろう)



 小百合の能力との違いは、『強制力の程度』が挙げられる。


 小百合の力は戦闘面でも敵を強制昏睡させることが可能だが、その本質は『夢の操作による洗脳』にある。


 対象に夢を見せることで傾向性を植え付け、現実世界でもそうなるように促すのだ。


 サリータやベ・ヴェルが早い段階で馴染めたのも、実は小百合が夜な夜な『アンシュラオンに愛される夢』を見せて【印象操作】を行い、そうなるように促していたからだ。


 これを利用すれば、集団催眠や集団洗脳が可能であり、アンシュラオンに敵対する者たちを『時間をかければ』味方にすることもできる。


 両者を上手く併用することで、いかなる状況にも対応できるようになるのは強みであろう。



(何よりも魔石の強化が可能ならば、サナをさらに強くすることもできるはずだ。これは面白くなってきたぞ)



 当人もだんだん楽しくなって事の重大性を忘れつつあるが、これらはアルが述べたように『ジュエルの常識を覆した瞬間』なのである。


 これによって、さらにアンシュラオンたちは力をつけていくことになるのであった。



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