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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
453/618

453話 「スレイブ・ギアス その1『マキとユキネ』」


 ある日の昼下がり。


 白詩宮の地下に、アンシュラオンたちとモヒカン二号(ハピ・クジュネ店の店主)が集まっていた。


 目的はもちろん、スレイブ・ギアスの契約をするためだ。


 そのためにモヒカンには、予備を含めた機器二個と大量の思念液に加え、万一にそなえてさまざまなジュエル媒体を用意させている。



「モヒカン、準備はいいか?」


「いいっすけど、旦那がやるときは怖いっす。前回もヒヤヒヤしたっす」


「今回は要領が掴めているから問題ない。契約者も長い時間一緒にいたし、だいぶ馴染んでいるはずだ。それにアル先生もいるしな」



 小百合とホロロにギアスをかけた時と同じく、アルも呼んでいる。


 ただし、彼は以前とは異なる状態にあった。



「アル先生、身体のほうはどう?」


「おかげさまで痛みはなくなったアル。でも、全力で戦うのはもう無理そうネ」


「そっか…オレの命気じゃ壊れた因子までは治せないからね」



 アルは山での最終決戦の際、『匪封門ひふうもん丹柱穴たんちゅうけつ』を使ったせいで【因子が破損】してしまった。


 因子情報は血液中に格納されているので、肉体を治癒できる命気ならば治せるはずなのだが、アルが破損したのは『霊体側の因子』であった。


 覇気のところでも若干説明したが、すべての力は神人に至るための道であり、霊と肉体の双方によって構成されるものだ。


 この両者は常に相互作用の状態にあるので、霊の異変によって肉体が不自由になることもあれば、身体が不自由になった結果として霊に負担がかかることもある。


 因子も同様に、出力する際に肉体の血液を経由するだけであり、本質部分は霊体側に格納されている。


 そもそも神人の最終形態は、偉大なる者たちと同じく霊体での進化にこそあるからだ。肉体はあくまで地上での活動形態の一つにすぎない。


 そして、アルのように霊体側の因子が破損した場合は、通常の命気では治すことはできなくなる。


 治すためには超域属性である『超霊気』を使うか、因子レベル8の『救魂爽霊きゅうこんそうれい』という魔王技を使うしかない。


 どちらも人外の領域にある超奥義なので、簡単に治せるものではないことがわかるだろう。


 例外的に『王気』を使った治癒も確認されているが、アンシュラオンが使ったのはサナの意思を覚醒させた時だけなので、こちらも確実な手段とはいえない。



「ごめん。オレがもっと手際よくやれていれば…」


「べつにいいネ。どうせ干からびた老いぼれアル。最後に役立てたなら満足ヨ。それに武闘家の道は終わっても、今まで得た経験は消えないアル。テンペランターも死ぬまで続けるヨ」


「ありがとう、助かるよ。アル先生にはテンペランター以外にも、その経験を生かして『道場の師範』になってもらおうと思っているんだ。ほら、このあたりって道場ってないよね。武人の育成も手伝ってもらえればありがたいよ」


「それくらいならお安い御用ネ。若い子たちを育てることにも興味があったアル」



 アルは多様な技を扱える高レベル帯の戦士だ。自ら技を使うことはできなくなっても、その技術が失われたわけではない。


 それらは後進の若者たちに伝授されることで、末永く継承されていくに違いない。



「さて、本題に戻ろう。みんな、準備はいいかな?」



 アンシュラオンの言葉に女性陣が頷く。


 本日スレイブ・ギアスをかける者は、マキ、ユキネ、アイラ、サリータ、ベ・ヴェルの五人だ。


 さきほど述べたように、翠清山で濃厚な接触を果たしていた女性ばかりなので親和性は十分だろう。



「まずは私がいくわ」



 最初に名乗りを上げたのはマキだった。



「そうだね。難しいやつからクリアしていこうか。モヒカン、大丈夫か?」


「いや…その、もしできなくても殴らないでくださいっす」


「いきなり逃げ腰はやめろ。理論上はできるはずだぞ」


「そうっすけど、機械を使う以上は決められた範囲内でしか保証されないっす」


「逆にいえば、保証はされずとも可能ではある、ということだ」


「そうとも言うっすが―――あいた! 殴らないでほしいっす!」


「本当にお前たちは向上心がないな。常に新しい可能性に挑戦してこその人生だろうが」


「旦那のスレイブにかける意気込みが尋常じゃないだけっす…」


「いいから準備をしろ。失敗は許さないぞ」


「ひー、理不尽っす!」



 モヒカンがこれだけ弱気なのは、以前から問題になっている機械の制限にある。


 ファテロナにギアスが効かなかったことから、精神がD以上の場合は効果が得られないことが証明されていた。


 これがあるからマキのギアスも後回しにされていたわけだ。


 しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。



(ギアスの成功率は、当人の受容力とオレとの親和性によって大きく変化する。機械はあくまでその仲介をするだけだから、理論上はこの二つがそろっていれば契約は可能なんだ)



 ファテロナにギアスがかかっていない最大の理由は、当人がそれを拒否したからだろう。


 おそらくはベルロアナをおちょくることが目的であり、むしろそれ以外の理由が思い当たらない。


 また、契約相手が領主であることも不満だったはずだ。


 これがキャロアニーセならば文句なく受け入れていたかもしれないが、彼女は信頼関係を重視するスタンスのため、スレイブ契約には否定的だったこともあり、あくまで領主との契約を勧めていた。


 そうでありながらもファテロナ自身は、誰よりもスレイブらしい存在である。それは自らの意思でそう振る舞っているからだ。



(ギアスは歯止めにすぎない。結局は当人がどうしたいかの問題だ。マキさんならばいける。オレはそう信じているよ)



 アンシュラオンのギアスを受けた者は目に見えて強くなることからも、マキ自身がギアスを望んでいる。


 山ではファテロナの規格外の強さを思い知ったし、キャロアニーセと戦って、まだまだ力不足だと痛感したことも影響しているようだ。



「マキさん、ジュエルの準備はいい?」


「ええ、ちゃんと腕輪用に調整してもらったわ」



 マキが使うジュエルは、先日キャロアニーセからもらった赤い宝石だ。


 詳しく調べたところ、『ルビーアイ・ライオネス〈火宝女傑獅子〉』と呼ばれる魔獣の心臓であったことが判明している。


 ランクとしては討滅級魔獣だが、サナの『サンダーカジュミロン〈帯電せし青き雷狼の凪〉』と同じく非常に希少な魔獣である。


 すでにアルによって調整は終わっており、『精神タイプの強化型ジュエル』であることもわかっている。


 もともとは指輪であったが、それだと戦う際に邪魔になるので、宝石だけ取り外して右手の腕輪として再利用することになった。


 すっかり忘れていると思うが、この腕輪はグラス・ギースにいた時にマキにプレゼントしたものなので(コッペパンのところ)、サナのペンダントと同じ由来を持っている品だ。



(マキさんのような強い武人の場合、媒体にも気を遣う必要がある。かなり良質のジュエルでないと無理だろう。その意味でキャロアニーセさんには感謝しかないな)



 いつもの通り、大量の思念液の中にジュエルを入れて、アンシュラオンとマキが機械に手を置く。



「マキさん、あなたをオレのスレイブにするよ。いついかなる時もオレとサナの近くにいて尽くしてほしい。妻として、共に戦う者として、その生命が尽きる瞬間まで絶対の忠誠を誓ってくれ」


「ええ、もちろんよ。私の肉体と魂が燃え尽きる日まで、あなたの傍にいると誓うわ」


「その代わり、オレはあなたに力を与えると約束しよう。生活を保証し、愛を与え、富める時も病める時も、喜びの時も哀しみの時も、全力で守ると誓う」


「私は妻だもの。あなたが苦しい時は同じ苦しみを背負い、いついかなる時もあなたを愛して補佐するわ。私はあなたの拳。世界中が敵になっても私だけはあなたの味方よ」



 二人の意思がジュエルに注がれていくと同時に、また白い光がアンシュラオンの視界を埋める。


 小百合とホロロの時と同じく、そこは巨大な都市だった。


 大きな経済を支え、人々の安全を保証するためには、強大な軍隊が必要になる。


 その主力部隊を率いるのは、マキ。


 何万という精鋭を率いて敵陣に突撃し、多大な戦果を挙げている姿が見える。


 容姿は今と変わらないが、優れた武具を身にまとい、ロボットのようなものにも乗り込んで敵を倒している。



(あれは…神機? よくわからないが、すごい軍勢だ。マキさん自身も比べ物にならないほど強いぞ)



 詳細な能力値まではわからないが、クルルと比べても遜色のない強さを誇っている。あるいはそれを超えるかもしれない。


 そして、勝利の報告を、いの一番に夫に伝えに走る。


 いつも明るく、いつも強く、いつも真っ直ぐに。


 彼女は守られるだけではよしとせず、自らの意思で夫の背中を守ると誓ったのだ。



(マキさんは、いつも真っ直ぐに生きている。自分を犠牲にしても前に突き進む力が、どれだけオレの心の助けになっているかわからない。ありがとう、マキさん。その気持ちに応えるために、オレのすべてを―――)



 映像が光に吸収され、思念液を全部吸った術式がジュエルに収まっていった。


 ころんと筒の中に赤いジュエルが転がり、契約は終了。



「終わったの…かしら?」


「マキさん、何か異常は?」


「特にないわ。それどころか…とても心が熱いの。まるでアンシュラオン君が胸の中にいるみたい。うん、大丈夫。この気持ちがあれば何も怖くないわ」



 マキ自身に異常はないようだ。


 ここまでは成功であるが、アルの意見も訊かねばならない。



「アル先生、どう?」


「これはすごいネ。『A+以上』は間違いないアル。半分ほどSランクのテラジュエルに足を突っ込んでいるヨ」


「テラジュエルってことは、サナのジュエルに匹敵するってことだよね?」


「そうネ。ただ、その分だけ扱いが難しいヨ」



 サナも青雷狼を制御するまで、だいぶ苦労したものだ。


 暴走してアルを殺しかけたこともあるので、力が強いジュエルほど扱いに慎重にならねばならないだろう。



「ギアスに関してはどう?」


「問題ないネ。伝導率は90%以上はあるヨ。これもすごい数値アル」


「残念。サナちゃんには負けちゃったわね。やっぱり兄妹の絆には劣るのかしら」



 マキは悔しがったが、サナの100%のほうが異常だし、それに迫る勢いであることも同様に異常である。


 この結果は、ギアスが完全に成功していることを示していた。


 それだけ彼女がアンシュラオンを信じ、心を許していることがわかる。



「なんだモヒカン、普通にできるじゃないか。脅かしやがって。ファテロナさんがイレギュラーだっただけじゃないのか?」


「そんなことはないっす。旦那たちがおかしいっす。今回も思念液が丸ごとなくなったっす。前と同じく旦那の術士の力でカバーしただけっすが、なんか前より強くなっている気がするっす」


「オレの術士の力がか?」


「専門家じゃないのでわからないっすが、たぶんそうっす。慣れたのかもしれないっすね」


「ふむ、まったく自覚はないが、オレの成長に合わせて幅も広がっていくのかもしれないな」



 これがS以上の精神を持つ者ならばわからないが、マキくらいならば問題なく成功できるようだ。


 アンシュラオンは結果を重視するので、今はそれがわかっただけで十分である。



「さて、次は…」


「私でお願いするわ」


「ユキネさん、ジュエルの準備は大丈夫?」


「団長が…お父さんがくれたものだもの。何も心配することはないわ」



 ユキネのジュエルは、先日ラポットがくれた妻の形見だった。


 媒体に使うものは一番思い入れがあるものがいい。その意味でも最上の品といえるだろう。


 こちらも調整は終えており、鑑定の結果『ルナティックインディーネ〈幻麗女豹帝〉』と呼ばれる討滅級魔獣の心臓だ。


 系統としてはサナやマキと同じく、生息数も極めて少ない希少種にあたるので非常に貴重なものといえる。


 タイプとしては『精神タイプの付与型ジュエル』で、ユキネの場合はそのままペンダントの形で身に付けることになった。



「それじゃ、いくよ」



 アンシュラオンがジュエルをセット。


 互いに手を機械に乗せて契約を開始する。



「ユキネさん、あなたをオレのスレイブにするよ。いついかなる時もオレとサナの近くにいて尽くしてほしい。オレを愛する者として、その生命が尽きる瞬間まで絶対の忠誠を誓ってくれ」


「はい。誓います。この身が引き裂かれても、この愛だけはけっして消えません」


「その代わり、オレはあなたに力を与えると約束しよう。生活を保証し、愛を与え、富める時も病める時も、喜びの時も哀しみの時も、全力で守ると誓う」


「私が生涯で仕えるのは、たった一人だけ。あなたのためだけに生き、あなたの安らぎとなり、あなたの喜びとなり、あなたの人生に華やかさをもたらしましょう」



 二人の意思がジュエルに注がれていくと同時に、また白い光がアンシュラオンの視界を埋める。


 ユキネがいたのも他の者たちと同じ巨大な都市。


 都市が発展していくためには軍事力や経済力だけでは成り立たない。多くの人が集まれば集まるほど『娯楽』が必要になる。


 そこでも彼女は人目を引くスターだった。


 振る舞いは時と場所によって変わり、百の顔と性格を演じ分けることで、あらゆる状況にも対応。


 踊りを披露すれば人を魅了し、いざ戦いとなれば剛の者たちを引き連れて、斬り込み隊長と化して自軍を鼓舞する。


 しかし、その本質は月のように繊細で一途だ。



(ただただ美しい。こんな女性がいたら手元に置きたい者は星の数ほどいるだろう。そして、望むのならば道化にもなってくれる。その気持ちに応えるために、オレのすべてを―――)



 映像が光に吸収され、思念液を全部吸った術式がジュエルに収まっていった。


 ころんと筒の中に白いジュエルが転がり、契約は終了。



「終わったよ。気分はどう?」


「言葉に…できない。私にとって…これは人生で最初で最後の結婚式なの。だから……」


「うん、ありがとう。絶対に大切にするからね」


「はい、一生ついていきます」



 涙を流すユキネを、そっと抱きしめる。


 女性にとって結婚式はとても大事なものだ。


 まだ妻とは呼べない間柄かもしれないが、その気持ちを大切にしてあげたいと思う。



(オレとしては妻が増えてもいいんだけどなぁ。マキさんたちがどう思うか…)



「アンシュラオン君、ちゃんと彼女を妻にしてあげてね」


「え?」



 アンシュラオンが横目でマキを見ると、彼女がぼそっと呟く。



「あなたを独り占めにしたい気持ちはあるけれど、それは自分自身の行動と魅力によって成し遂げることよ。私は誰にも負けるつもりはないから」


「あら、いいのかしら? 女としての魅力なら私が勝ってしまうわよ」


「ふん、好きに言ってなさい。結果で示すわ」



 さきほどまで泣いていたユキネも、ころっと表情を変えてマキとバチバチやりあう。


 やはり女性は逞しいものだ。


 男など彼女たちの掌の上で転がされているのが、お似合いなのかもしれない。



「アル先生、どう?」


「こっちも成功アル。ランクは『A+』ってところネ」


「テラジュエルまではいかない?」


「あと少しアル。ギアスの伝導率は85%以上ネ」


「くっ! マキさんに負けるなんて…!」


「無理に勝とうとしないでいいのよ」


「絶対に勝つから! そっちのほうが出会ったのが早かっただけよ!」



 ユキネの言い分も間違いではなさそうだ。


 アンシュラオンが妻にしてもよいと思った素敵な女性は、マキが最初である。


 反対にユキネと最初に出会っていたら、同じくそう思ったに違いない。


 ともあれ、これで妻が四人になったのであった。



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