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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
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451話 「キャロアニーセの訪問 その2」


 だが、それを認めてしまうと他の勢力も同じことをしてくるので、ここは水際で抑えねばならない。



「ちゃんと対価を支払うこと。これが最低限の条件だよ」


「…そうよね。当然よね」


「そうそう、等価交換が最低限のルールってもんさ」


「なら、『コレ』で支払うのはどうかしら?」


「え? お母様?」



 キャロアニーセが、ベルロアナを自分の膝に乗せて微笑む。



「処女以前に誰とも付き合ったことがない初物よ。ね、お好みでしょ?」


「いやいやいや、それはないって。無い無い無い」


「可愛いって言ったじゃない」


「それに付随するものが全部駄目なんだよ。等価交換どころかマイナスだ」


「あら、この子だけならよいのかしら? 私はそれでもいいわよ。子供もバンバン作ってくれてかまわないわ。きっと可愛い子が産まれるでしょうね。女なら美人は間違いなし! 保証するわ」


「本音が駄々洩れじゃないか。最初からそれが目的だよね」


「私はもう後先長くないの。安心させて。ね? どうしても孫の顔が見たいのよ」


「どうせ子供が出来たらグラス・ギースの都市もくれてやる、みたいな話になるんじゃないの?」


「お得よねー。こんな可愛い子も手に入って、都市まで手に入っちゃう。セールもセール、大セール中!」


「完全に不良債権じゃん。グラス・ギース自体がマイナス成長なんだから、それを管理するだけで負債が溜まる一方だ。それに、土地だけもらっても内情が伴わないと意味がないって。他の派閥が黙っていないでしょ」


「あらあら、詳しいのね。情報源はキブカランのところの息子さんかしら。秘密を洩らすなんて困った人ね」


「都市の譲渡を考えるキャロアニーセさんのほうが困った人だよ。そもそもスザクとの婚約はどうなったのさ」


「あっちは大変そうだし、やっぱり海賊とはちょっとね。それとあの子ってサイコパス気味でしょ? 預けるのは不安だわ」


「サイコパスって…まあ、若干社会不適合者っぽいところはあるけど、スザクだって押し付けられるのは嫌だと思うよ」


「だったら、はいどうぞ」


「いえいえいえ、お返しいたします」


「そんなこと言わずに、どうぞどうぞ」


「いえいえ、おかまいなく」


「あうあうあうあー」



 物のようにアンシュラオンとキャロアニーセの間を行ったり来たりさせられるベルロアナ。


 これが誰も欲しがらない不良債権の末路なのだろうか。哀しいものである。



「わかったわ。百歩譲って愛人でもいいの。手元に置いてくれれば情だって芽生えるはずよね。でも、種付けだけはよろしくね。ズコバコやってうっかり三人は欲しいわ」


「品性!! 言い方! それ以前に駄目だって言ってるでしょ」


「もう、意地悪なんだから。じゃあ、私ごと居ついちゃうから。ここを人生の墓場にするわ」


「それも困るって。落ち着かないじゃんか」


「人生なんて慣れよ、慣れ。ここは空気もいいし、療養にも良さそうよね」


「マキさん、どうにかしてよ」


「えと…その……べつにいいんじゃないかしら?」


「すでに情に流されてる!」



 何事も情で物事を決めると良くない結果になることが多い。


 これが貧困者で今すぐにも餓死しそうなら別だが、彼女たち自身の生活は問題ないだろう。グラス・ギースにもあまり興味が湧かない。


 逆にベルロアナを手に入れてしまうと、余計な騒動に巻き込まれることは容易に想像できる。



「しょうがない。ちょっとだけ借りるよ」



 疲れた顔のアンシュラオンが立ち上がり、キャロアニーセの車椅子のハンドルを握る。



「二人だけで話したいから、みんなはついてこないでね」


「あらあらあら、デートかしら。おばさん、年甲斐もなく興奮しちゃうわ」


「はいはい。じゃあ、行くよ」


「アンシュラオン君、何をするつもりなの?」


「大丈夫だよ。この人は絶対に譲らないって確信しただけ。あとは任せてくれていいからさ」


「でも…」


「いいのよ。私も二人きりのほうが話しやすいわ。これほど頼りになる護衛はいないものね」



 心配そうに見送るマキたちを置いて、アンシュラオンとキャロアニーセは森の中に入っていく。


 ここは外からも見えず、周りは木々だらけなので会話が漏れることもない。


 実際に波動円で確認してみたが、少し離れた場所の工場に火乃呼たちがいるくらいで、近くには誰もいないようだ。


 アンシュラオンは車椅子をゆっくり押しながら語りかける。



「あと何年なの?」


「…三年。医者が言うにはね」


「死ぬのが怖い?」


「いいえ。私だって武人ですもの。それ自体に怖れはないわ。ただ、あの子に満足な地盤を残してあげられないことが心残りなの」


「グラス・ギースの今後をどう考えている?」


「ベルロアナもおかげさまで、少しはまともになったわ。他派閥の援護があれば、しばらくはもつでしょうね。でも、たぶん十数年後にはかなり衰退していると思うわ」


「ハピ・クジュネが繁栄するから?」


「少し違うわ。あなたがここにいるからよ。それがなければハピ・クジュネだって衰退の道を辿っていたはずだもの。ねぇ、どうしてグラス・ギースにとどまってくれなかったの?」


「べつに領主だけが原因じゃないよ。閉鎖的な空間は嫌いなんだ。あそこはいろいろと狭すぎる」


「そう…。あなたがいてくれれば未来は繋がったのにね。惜しいことをしたものだわ」



 斜め上から見るキャロアニーセの顔は、かなり疲れていた。


 聡明がゆえに未来が予測できるからこそ、彼女は心労を重ねているのだ。


 アンシュラオンは一度だけ深いため息をつくと、車椅子を押すのを止めてキャロアニーセの前に立つ。



「筋肉が弱る病気だよね? 原因に心当たりは?」


「わからないわ。突然調子が悪くなって医者に相談したら、もう病気になっていたのよ。それが十年くらい前ね」


「ちょっと診察してもいい?」


「そんなこともできるの?」


「命気を使った自己流の診断だけどね。どうする?」


「どうせ待っていても死ぬ身ですもの。ぜひお願いするわ」


「それじゃ、少し胸を開けるよ」


「ふふふ、優しくしてね」



 アンシュラオンがキャロアニーセの服を少し脱がす。


 すでに胸骨が浮き出るほど痩せてはいるものの、豊かな二つの膨らみはいまだ健在であった。



(うーん、でかい。これはマキさんくらいはあるな。健康ならもっとあるかも。美人で頭も良くて胸も大きくて強いか。領主の妻でなければ放っておかないんだけどな)



 アンシュラオンが胸に手を当てて診察を開始。


 思えば命気はどこから浸透させても大丈夫なので、胸元を開く必要性はまったくない。


 男たるもの美人の胸はどうしても気になるのだ。ここは許してほしい。


 そして、診察は三秒ほどで終了。


 するのだが、アンシュラオンから出た言葉は、あまりに意外なものだった。



「これ、普通の病気じゃないね。だって、『寄生』されてるし」


「寄生? 寄生虫がいるの?」


「虫じゃないけど、心臓の内部に『結晶』みたいなものが張りついていて、そこから全身の血液を介して筋肉に影響を与えているみたいだ。言ってしまえばキャロアニーセさんの病気は、筋肉が弱る病気じゃなくて【血液の病気】だね」


「…初耳だわ。医者でさえ原因を突き止められなかったのに…」


「この地域の医者の技術じゃ限界はあるだろうね。一方のオレは全身の細胞すべてを調べているからわかるんだ」


「それで…治るのかしら?」


「絶対に治すよ。そっちが嫌でも強引に治すから」


「本当に? どうしてそこまでしてくれるの?」


「事の発端はキャロアニーセさんの余命が短いせいじゃないか。だったら治してあげればすべて解決だ。違う?」


「そうね。それができるのならば…。でも、見返りは? どうせお高いんでしょ?」


「ロリコンみたいなことを言わないでよ。しょうがない。これは本当にしょうがないことなんだ」



 誰の親であれ、誰の妻であれ、美人が困っていたら助けるしかない。


 それに加えて、ベルロアナの沈んだ表情も見ていてつらい。彼女に同情しているわけではなく、母親を失う子供を見ていられないのだ。



(この段階でオレも情に流されているんだよなぁ。…仕方ない。こればかりはどうしても駄目だ)



「はい、じっとしててね。動いたらおっぱいを揉んじゃうよ」


「うふふ、くすぐったーい。もっと優しくしてぇー」


「ほんと、少女みたいな人だよ」



 アンシュラオンが命気を浸透させる。


 以前アロロを治療した時は数秒もかからずに治したが、今回はゆっくりと時間をかけていく。


 その理由は、病気の原因が異常であることと、彼女が強力な武人である点だ。慣れていないと命気に変な反応をする可能性がある。


 そもそもこんな状態で十年近く生きているほうがおかしい。


 常人ならば一日で死亡しているだろう。逆に耐えているからこそ、筋肉の衰弱という形で病状が出ているのだ。


 さらに調べていくと、また新しい発見があった。



(この結晶体には見覚えがあるな。意図的に狙われたのか? それとも事故か? まったく、グラス・ギースはこういう面倒なことが多いから嫌いなんだ)



 寄生している結晶体は、ユシカことグマシカが使っていた魔石の波動に似ていた。完全に同じではないが、原子配列にいくつかの類似点がある。


 こんなものがそこらに溢れているわけもないので、理由はともあれ、キャロアニーセの【病気の原因はマングラスの仕業】と断定できる。


 となると、これはマングラスとディングラスの抗争にすら発展する危ない話になってしまう。



(経緯もわからないし巻き込まれるのも嫌だから、あえて言わないほうがいいかな。ひとまず治すことに集中しよう)



 アンシュラオンは細胞の再構築を開始。


 結晶体を破壊しつつ心臓の細胞を浄化して再生させ、血液を生み出す骨髄もクリーニングすることで、新しく作られる血を清浄なものにすることができる。


 それに伴い、引き続き全身の細胞を命気で満たし、活力を与えて免疫機能の復元と改善を促していく。



「あっ…あああ! 熱いわ…アンシュラオンさん! あああ! 熱いのぉお!!」


「動いちゃ駄目だって。モミモミ」


「あぁーーーん! おかしくなっちゃうううう!」



 相手が動いた拍子に、さりげなく乳も揉む。


 人妻ならではの熟れた感触が新鮮だ。やはり子供を産んだ女性とそうではない女性とでは何かが違うらしい。



(オレは人妻属性はあまりないけど、ハマる人がいる理由もわかるな)



 などと馬鹿なことを考えている間に終了。



「ふー、終わったよ。思ったより気質が馴染んだから十五分で済んだけど、やっぱり家の中でやればよかったかも。そこは配慮不足だったかな」


「はぁはぁ…おわ…り? 終わったの?」


「うん、もう立てると思うよ。ただ、まだ新しい血が馴染んでいないから気をつけてね」


「………」



 キャロアニーセが、恐る恐る立ち上がる。


 今まではかなりの力を入れねば身体を支えられなかった足が、強靭な反動をもって肉体を押し上げる。


 今度は屈伸をしてみるが、まったく問題はない。


 まだ半信半疑な彼女は、さらに腕に力を入れる。


 すると、ギシギシと筋肉が収縮して大きな力こぶを作り出した。


 手を何度も開いては握り、指の動きも一つ一つ確認してみる。


 身体の内部に意識を向ければ、どくんどくんと新鮮な血液が流れていることがわかる。



「こ、これは…! 嘘! 本当に…!」


「寄生していた結晶は全部破壊したから、肉体的には大丈夫なはずだよ。あとは数日かけて身体を慣らして…」


「はぁあああああああ!」



 キャロアニーセが、いきなり発気。


 金が少し混じった赤い戦気を放出する。


 おそらく座っている間も戦気術の鍛錬は欠かさなかったのだろう。非常に美しく洗練された気質である。



「すごい、すごいわ! 本当に治ってしまったのね!」


「いや、だからね。もうちょっと安静にしたほうが…」


「そんな! 信じられない! やったーーー! やった、やった、やったわーーー!」


「えっ、ちょっと…むぐっ!」



 キャロアニーセがアンシュラオンに抱きつく。


 胸を開いたまま抱きついたので、豊満な乳房の感触が顔を包んで幸せな気持ちになった。


 しかも命気によって潤沢な栄養素を得た細胞は、一気に膨れ上がって肌艶に張りを与え、それによって明らかに若々しくなっている。


 そのおかげで胸のサイズも一回り大きくなっており、ホロロに近いレベルにまで到達していた。


 喜び勇んだキャロアニーセは、アンシュラオンを抱いたまま駆け出す!



「治ったわよーーー! やったーー! ベルー! お母さんは治ったわよおおおおお!」


「ちょっと! この状態で戻ったら誤解されるって!」



 そんな制止の言葉も聞かず、キャロアニーセは走り続ける。


 アンシュラオンも胸の感触が惜しくて、振りほどくにもほどけないジレンマによって、なすがままになってしまう。


 男とは、なんと哀しい生き物なのだろうか。性的欲求のある男性の八割以上が、この誘惑に耐えられないに違いない。


 そして、森を飛び出して皆の前に姿を見せる。



「え…? お母様?」


「え? アンシュラオン…君? 何をして…」


「ち、ちがっ…これは違うんだ! うぐううっ! 駄目だ! 離れられない! なんて魔性の乳だ!」



 はたから見れば、キャロアニーセの乳に吸い付いているようにも見える。


 当人自らもしっかり抱きついているので、何の言い訳もできないのがつらい。



「あーん! これほどすごいのは初めてよ!! もう何度もイキそうになっちゃったもの! アンシュラオンさんってすごいのね! こんなに小さいのに、あんなに大きいなんて!」


「ちょっとー!? 言い方!! 伝え方!!」



 おそらくは「こんなに小さいのに、あんなに大きな力を持っているなんて」と言いたかったのだろうが、興奮したキャロアニーセによって、ますます波紋が広がってしまう。


 ホロロやファテロナは理解しているようだが、ベルロアナやマキの視線が痛い。



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