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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
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447話 「新生アズ・アクス」


「やぁ、待たせたね」


「遅い! いつまでほったらかしにしておくつもりだ!」



 白詩宮の庭にいた火乃呼が、やってきたアンシュラオンにさっそく文句を垂れる。


 山ではないので火乃呼はラフな格好ではあるが、それでも季節を考えるとかなりの薄着だ。体温が高いせいで気温の感じ方が常人とは異なるのだろう。


 怒って身体が上下するたびに大きな胸がゆっさゆっさ揺れるので、どうしてもそちらに目がいってしまう。これも男の哀しい性であろうか。



「おい、胸がプルンプルンしているぞ」


「あひゃんっ!!」



 仕方ないので手でわしっと掴んでやると、さらに飛び上がるから面白い。



「い、いきなり胸を揉むなよな! びっくりするだろう!」


「そんな大きな胸があったら触るに決まっているさ。お前は自分が思っているより魅力的なんだから気をつけろよ。痴漢に遭っても知らないからな。ほれほれ、無防備にしているとまた触るぞ」


「や、やめろよ…! やめろって! 触られるとムズムズするから!」



 火乃呼は顔を真っ赤にして両腕で胸を隠す。


 が、それが逆に胸を強調することには気づいていない。


 性格の苛烈さから女として見られることが少なかったせいで、そういうところにまで気が回らないのだろう。



「そんなことより、いつまでここにいさせるつもりだ!」


「べつに居心地は悪くないだろう?」


「ハピ・クジュネにいることが嫌なんだ」


「まだライザックが嫌いなのか」


「当たり前だ! 頭を下げにもこないじゃねえか! あいつのせいでこっちも迷惑を被ったんだからな!」


「そりゃディムレガンがオレの支配下に入ったんだから、簡単に会いにこられる状況じゃないだろう。あいつにも立場があるしな。それに杷地火さんとの密約もあったんだ。どっちが悪いという話でもないぞ」


「ふんっ、知ったことかよ。少なくとも、おれには関係ないね」


「姉さん、アンシュラオンさんに失礼ですよ。十分配慮してくださっているじゃない」


「おれらを支配下に入れたなら面倒を見るのは当然だ。まだまだ足りないくらいだぜ」



 隣にいた炬乃未が窘めるが、当人は聞く耳を持たない。


 どこにいても火乃呼は火乃呼なのだ。



(まあ、戻ってきたことで少しは柔らかくなったかな。やっぱり生まれ育った場所は特別さ)



 ロリコンとの話でも話題に出たが、杷地火率いるディムレガンはロクゼイたちと一緒に無事下山。


 ハピ・クジュネに戻ってからは、アズ・アクスには戻らずに白詩宮にて保護していた。


 事前に脅していたので直接ロクゼイたちが護衛につく徹底ぶりで、外部に救出の報を一切漏らさなかったものだ。


 そのせいでライザックも迂闊に近寄ることはできず、ずっと腫れ物扱いのままでいたことが火乃呼には気に入らないのだろう。


 かといって、来たら来たで怒るのだからライザックも不憫なものである。



「アンシュラオンさん、改めて姉の救出の御礼を申し上げます。本当にありがとうございました」



 火乃呼とは対照的に、炬乃未はニコニコと素敵な笑顔を浮かべている。


 姉が戻ってきたと聞いた時、真っ先に駆けつけたのが炬乃未だった。


 すでに杷地火から事の顛末を聞いていたが、やはり実際に会うまでは心配だったようだ。


 火乃呼が困惑するほどの剣幕で引っ張り回し、怪我や異常がないか調べていたほどであった。



「炬乃未さんの頼みなら喜んで引き受けるよ。困ったことがあったらいつでも言ってね」


「なんだよ、おれと扱い方が全然違うじゃねえか!」


「そんなこと言われても、火乃呼は火乃呼だしなぁ…」


「もっと優しくしろよ! 卍蛍も壊しやがって! 直してやらねぇぞ!」


「うふふ、姉さんったら、もうすっかりアンシュラオンさんに夢中なのね」


「あ!? だ、誰がだ! どうしてこんなやつに!」


「だって、胸を触られて怒らないなんて、今までの姉さんならありえないもの」


「おれの胸を平然と揉むやつなんて、こいつくらいだぞ!?」


「アンシュラオンさんが、かまってくれて嬉しいのね。尻尾を見ればすぐにわかるわ」


「馬鹿言ってんじゃ―――あひゃぁ! ま、また揉んだな!?」


「ようやく炬乃未さんと会えたんだから仲良くしろって。ほら、もっと肩の力を抜けよ。モミモミモミ」


「あやややあひゃひゃひゃっ!? そ、そこは肩じゃねえぞ!?」


「おお、あるじか。どちらを嫁にするか決めたか? こちらとしては両方でもかまわないぞ」



 アンシュラオンが火乃呼の胸を揉んでいると、作業着姿の杷地火がやってくる。



「親父! 目の前で娘が胸を揉まれているんだぞ! ほかに言うことはねぇのか!」


「胸くらいどうした。すべてを捧げろ。そして、早く孫を見せろ」


「親父ぃいいいいい!」


「うふふ、姉さんったら楽しそうね。甘えちゃって可愛いわ。アンシュラオンさんが大好きなのね」


「お前ら、やっぱり頭がおかしくなってんぞ!?」



(力関係がなんとなくわかる会話だな。完全に火乃呼が下になっているぞ。これもオレのせいなんだけどね)



 ハピ・クジュネに戻ってきてからは里火子も定期的に白詩宮にやってきて、家族四人で過ごすことも多くなった。


 ただし、今まで持て余し気味だった火乃呼が、アンシュラオンの登場によって「いじられキャラ」に変化。


 父親は孫のことばかり言うし、妹はそんな姉を微笑ましく見守っているので、一気に家族の玩具になっていた。


 当人がどう思っているかはともかく、それで家族関係が円満になるのならばよい兆候といえる。



「杷地火さん、臨時の鍛冶場はどう?」


「数を作るわけではない。あれくらいでも十分やれるだろう」


「例の鉱物は使えそう?」


「かなり良い。品質に多少のバラつきはあるが、最低でも侯聯シリーズと同等以上のものは打てそうだ」


「そいつは朗報だ! 魔石さえ調達できれば、良質な術式武具を量産できるってことだもんね」


「量産できるかは鍛冶師次第でもある。あれだけの素材を打てる者は我らの中でも少ない。つまりは火乃呼次第だ」


「それなら問題ない。今のあいつならやれるよ」


「ふっ、それも主のおかげだ。あいつがあれほど変わるとはな」



 火乃呼は山での教育の成果もあり、かなり従順になっていた。


 そのせいか杷地火の表情も山とは違い、より父親らしい愛情深いものに変わっている。


 そして白詩宮の庭、以前サナが暴れた森の部分には臨時の工場こうばが建てられ、白い煙がよく見られるようになった。


 ディムレガンは鍛冶がないと生きていけないようで、何もしていないと禁断症状が出てしまうらしい。


 アンシュラオンが戻ってくるまでは、我慢できずに庭で鍛冶をやろうとしたものだから、一時はボヤ騒ぎにまで発展したという。


 彼らが扱う炎は強すぎるので専用の工場が必要なのだ。先日作った工場も命気結晶で補強しているからこそ耐えられている。


 そのついでに炸加が手に入れた鉱物を武具にしてもらい、いろいろと検証してもらっているわけだが、結果は上々といえるだろう。



「それでさ、アズ・アクスの今後についてなんだけど、杷地火さんの『提案』通りに進めることになったよ」


「向こう側は了承したのか?」


「アズ・アクスもディムレガンがいないと商売にならないからね。ライザックも特に異論はないみたいだ」


「あ? なんの話だ?」



 突然の話題に火乃呼が首を傾げる。


 この話は杷地火とアンシュラオンが主軸となって話を進めていたので、知らないのは当然だ。



「今言ったようにアズ・アクスの今後についてさ。いつまでもこのままじゃいられないだろう?」


「ようやくハピ・クジュネから出ていけるのか?」


「火乃呼、嫌なことから逃げるな。お前はそれでいいかもしれないが、支店にいる燁子ようこさんとか、他のディムレガンの生活もあるんだぞ。そろそろちゃんと向き合う必要がある」


「………」


「わかったな?」


「…ふん。それで、どうするって?」



 燁子ようこは、卍蛍を買ったハビナ・ザマ支店の店員である。


 彼女は火乃呼の後輩かつ大ファンでもあるので、それなりに思い入れはあるのだろう。その名前を聞くと素直になる。



「話し合いの結果、杷地火さんたちはアズ・アクスに戻ることになった」


「結局そうなるのかよ。ふりだしに戻っただけじゃねぇか」


「ちゃんとオーナーから経営権を取り戻したから、杷地火さん主体の店に戻るはずだ。これにはライザックの権限も使わせてもらったけどな」


「ちっ、あいつの世話にはなりたくねぇな」


「いちいち悪態をつくなって。しかし、今までと同じでは、また問題が起きかねない。そこで『株式の発行』をすることになったのさ」


「株式って?」


「証券の一種なんだが…お前に言ってもわからないか。簡単に言えば、それを過半数持っていれば経営に口が出せるってことさ」


「なんだよ。それじゃまたライザックに何か言われるじゃないか」


「安心しろ。四割はハピ・クジュネ側が買い取ったが、六割はオレがもらうことになった」


「つまり…どういうことだ?」


「アズ・アクスは、主の意のままに動かせるということだ」



 杷地火が補足する。


 この一件には彼も尽力しており、戻ってからは火乃呼に内緒でライザックと(手紙等で)交渉するなど、さまざまな裏工作をしていたものだ。


 それが実り、こうした結果に至ることになった。


 しかもアンシュラオンが持っている六割の株式は、ハピ・クジュネ側に金を出させたので丸儲けだ。


 ただし、すでに軋轢が生じているディムレガンと接触することなく、アンシュラオンを介して意見を言えるのだから、ハピ・クジュネ側にも大いにメリットがあるはずだ。


 ライザックがあえて火乃呼に会わないことも、そうした意図があることがうかがえる。


 彼女は不満のようだが、感情的になるのならば距離を取ったほうがよいのだ。そのうちアンシュラオンによって上手く融和していくと考えているらしい。



(のちのち『炸加が買い取るオプション』もあるんだよな。あいつが言っていたことが実現したら、の話だけどさ)



 これには杷地火も驚いたが、約束なのでそのオプションも盛り込んでいた。


 もし真面目に働いて一攫千金が成れば、彼の目標であるアズ・アクスの買い取りが本当に実現するかもしれない。


 すでにマスカリオン経由で炸加にも伝えてあるので、より一層やる気が出たに違いない。


 しかし、まだ火乃呼は仏頂面のままだ。



「言っておくが、おれはつまらない作品なんて打たないからな。そこのところはちゃんと…」


「火乃呼、お前は主の下で働け」


「…は? 親父と一緒にアズ・アクスに戻るんじゃないのか?」


「アズ・アクスでの面倒な仕事はこっちがやる。その代わり、若い連中の何人かを連れて【新ブランド】を作るのだ」


「新ブランド? なんだそれ?」


「要するにオレの【専属鍛冶師】になるってことさ。もちろん炬乃未さんも一緒だ」



 海軍の立て直しもあり、いまだ大量の武具を打つ必要性があるため、それだけはライザックとしても譲れない。


 かといって、アンシュラオン側の要望も聞き入れねばならないことから、ここでも妥協案が模索されることになった。


 その結果が『新ブランドの設立』である。


 形式的にはアズ・アクスの一部ではあるが、今後は独立した存在として経営していくことになる。


 こちらは完全にアンシュラオンの所有物なので、才能豊かな二人を確保できることはありがたい。エロい意味でもありがたい。



「おいおい、それでやっていけんのか!? おれの力がなければ親父も大変だろうが」


「まだまだ若い者には負けぬよ。むしろ大変なのはお前たちのほうだ。アズ・アクスの新ブランドとして、俺や里火子に負けぬ実績を作らねばならぬのだぞ。炸加と烽螺もそちらに派遣する。好きに使え」


「げっ! あいつらみたいな半端もんがいたら、それこそ足手まといじゃねえか!」


「それを導くことも経験になる。お前も自分勝手に打っているだけでは、鍛冶師のいただきに到達できないと気づいたはずだ。修練を積め。そして、主の役に立て。ついでに子も産め」


「その話ばかりするなよ! 気が滅入るじゃねえか!」


「わ、わたくしも…が、がんばります! こ、子作りも!」


「炬乃未!? お前も何言ってんだ!?」


「姉さん! アンシュラオンさんにこれだけの恩義があるのです! 子を産んで恩返しする必要があるでしょう!?」


「ねえよ!? 正気に戻れって!」



 炬乃未が、尻尾をぺちぺちと地面に叩きつけながら赤面。


 自らの復活を助けてくれたアンシュラオンには、多大な感謝と好意を持っているので、新ブランドの話に一番乗り気だったのは彼女かもしれない。


 こうなると炸加が哀れだが、こればかりは仕方ないことだ。



「移動は来月以降から少しずつかな。新ブランドといっても、いつも通りに鍛冶をしてくれればいいからね。ゆっくり慣れていけばいいさ」


「まあいいか。ライザックに好き勝手言われるよりはましだな。卍蛍も、その新ブランドってやつでさっそく打ち直してやるさ」


「あの…アンシュラオンさん、そのことなのですが、黒千代もやはり刀身が限界のようです。新しく打ち直す必要があります」


「それは炬乃未さんのせいじゃないよ。サナがちょっと無茶したからね。こちらこそ申し訳ない」



 サナが錦王熊を倒した時、黒雷の威力が強すぎて黒千代の刀身が焼け焦げてしまっていた。


 元来そういう使い方をする武具ではないため、翠清山の戦いで限界を迎えたのだろう。剣としては寿命といえる。



「べつにいいじゃねえか。また打てばいいのさ」


「姉さんは剣を粗末に扱いすぎよ」


「あ? 剣なんて消耗品じゃねえか。壊れるときは壊れるに決まってるさ」


「壊れにくく作るのも鍛冶師の仕事だと思うわ。突然壊れたら危ないもの」


「攻撃は最大の防御だぜ。火力が出るほうが大事だ。不安なら何本も持っていればいい」



 姉妹の鍛冶に対する価値観が、だいぶ違うことがわかる発言である。


 火乃呼は攻撃特化のために壊れやすい傾向にあるので、また作ればいいと考え、炬乃未は一本一本を大事にしたいと願っている。


 そんな二人を見て、アンシュラオンは笑う。



「そうやって切磋琢磨すればいい。二人そろってこそのアズ・アクスだもんね」


「今は珍しい鉱物も手に入りましたし、衝撃に強い新素材の開発を進めています。まだ時間がかかりそうですが…」


「焦ることはないよ。しばらく強い敵との戦いもないだろうしね。火乃呼はデアンカ・ギースの素材のほうも頼むぞ」


「おう、任せておけ。すんごいの打ってやるからよ!」



 こうしてアズ・アクスにも新しい風が吹くことになった。


 思えばいろいろと苦労したが、それに見合う結果が出たことは喜ばしい限りである。



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