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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
446/618

446話 「楽しい楽しいお金の話!」


 ハピ・クジュネにも爽やかな春の潮風が舞い始めた頃。


 大量の書類を抱えた小百合がリビングにやってくる。


 彼女も山では厳しい環境下にいたので、険しい顔付きだったことも多かったが、ようやく街の雰囲気に慣れて、いつもの明るい笑顔がよく見られるようになった。


 やはり女性は笑顔が一番である。


 が、彼女の笑顔には、また違う意味合いが含まれていた。



「アンシュラオン様! 『集計』が出ましたよー!」



 小百合が持ってきた書類は、先日ロリコンと話していた収益に関するものだった。


 その山のような書類の束を見て、思わずアンシュラオンが引く。



「かなり多いね…」


「山では相当数の魔獣と戦いましたからね。それだけでも集計が大変ですし、カードに記録されていない部分のデータ収集にも時間がかかっていたのです」


「そっか。カードを紛失した連中もいたしね。ハローワークは金を支払う立場だから、そのあたりはしっかり見極める必要があるのか」


「莫大なお金が動いていますから、今回は通常よりも精査が厳しめですね」



 街に戻ってから忙しかったのはアンシュラオンだけではない。


 小百合もハローワークに通い詰めで、さまざまな面での折衝を担当していたのだ。


 特に揉めたのが、誰がどの魔獣をどれだけ倒したか、という根本的な問題である。


 あまりの激戦にハンターカードや、今回支給された作戦専用カードを紛失した者たちが大勢おり、当人たちもあまり覚えていない状況だった。


 当然ながら、それをいいことに戦果を誤魔化そうとする連中が出てくる。


 そういったずるい発想をするのは実際のところ、あまり戦っていない臆病者が大半であり、最後まで山で死闘を演じた者たちは正直に申告していたようだ。


 その段階から人間としての質の差を感じさせる。クズはクズ。強者は強者なのである。


 しかし、内部が腐っているとはいえ、天下のハローワークだ。


 そこはしっかりと大勢の調査員を派遣し、周囲の者たちからもヒアリングすることで詳細なデータを収集することになる。


 さすがに口裏を合わせられると面倒なのだが、ここでも彼らはクズっぷりを発揮。


 他人の幸せを願う者はほぼ皆無で、「あいつは森でサボっていた」とか、「あいつも山には行ってなかった」等々、醜い足の引っ張り合いによって大きな不正を防ぐことに成功する。


 が、それゆえに時間を使ってしまい、ようやく今日になって正式な書類が出来上がったのである。



「それで、結果はどうなったの? ああ、オレたちの利益分だけでいいよ」



 書類には収益とともに、山で使った弾丸やら術符といった消耗品の経費も書かれているので、そこまで見ていたらキリがない。


 経理はすべて小百合に丸投げしているので申し訳ないが、興味があるのは結果。得られるお金だけなのだ。


 彼女もそのことはよく知っているのか、利益だけをまとめた書類を見せながら説明してくれる。



「それでは発表しまーす! じゃじゃーん! アンシュラオン様に支給される報奨金は、細かい端数を除いて【約二百五十億円】になりました!」


「すごっ!! そんなにいったの!?」


「今回は大きな枠組みで動いたので、これでも少ない単価計算になっているくらいなのです! ですが、そこは私がガツン!と言ってやりましたよ! 集計課の課長が逃げても追いかけて、ガツンと! 這いつくばって逃げても、さらに追いかけてガツンと!」


「そ、それは…うん、お手柔らかにね。今の小百合さんって、けっこう武闘派だからさ。相手が死なない程度にしてくれれば…」


「アンシュラオン様がいなければ、この戦争自体に勝てていませんからね! もっともらってもよいくらいです!」


「そ、そうだね。そのあたりは全部任せるよ」


「はい、お任せください! 1円たりとも取り逃しはしませんよ!」



(頼もしい奥さんだなぁ。オレは大雑把なタイプだから、家計をしっかり管理してくれる人は本当にありがたいよ)



 アンシュラオンは、ある程度の額を手に入れると満足してしまうので、細かいところでかなり損をしている。


 当人としては「そのあたりは関係者間で金が回ればいい」とも考えているため、ゲイルのような味方を増やすことにも繋がるが、多くの女性たちを養う観点からは問題もある。


 そこを経理に強い小百合がサポートしてくれるのは、とてもありがたいことだ。


 話を報奨金に戻すと、もともと今までのレートを考えても、根絶級一体で百万円前後の報酬を得ていた。


 たしかに小百合の言う通り、山で数多くの根絶級と戦ったことを思えば、もっと額がいってもおかしくはない。


 ただし、魔獣素材を別枠で換金できることからも、討伐金自体が安くなることは致し方がないだろう。


 アンシュラオンも素材は素材で管理しており、どれをどう活用するかは厳選中なので、実際の利益はさらに多くなるはずだ。(単身で戦った熊神戦のように、素材を剥ぐ時間がなかった魔獣も多くいるが)



「それでも二百五十億はでかいなぁ。すごく嬉しいよ」


「アンシュラオン様の場合、特殊個体を倒したケースが多かったことも評価されております。それと、さらに追加の打診がありました」


「打診? どんな?」


「今回倒した『クルルザンバード〈六翼魔紫梟ろくよくましきょう〉』という魔獣に関して、【情報を秘匿】してほしいとのことです」


「情報を漏洩するなってことだよね? どのレベルで?」


「すべての情報に関してですね。もっと言えば【最初から存在していなかった】ことにしてほしいそうです」


「あいつの情報って、ハローワークのデータベースにもなかったんでしょ? むしろ登録すべきじゃないの?」


「私もそう思ったのですが、この件については『上層部』から圧力がかかったようです。その証拠に、実際に【金服きんふく】の人から打診されました」



 ハローワークも公の機関なので階級が存在する。


 一般事務員から各課の課長といった中間管理職に加え、さらに上の支部長まではいいだろう。よく耳にする役職だ。


 現在の小百合も臨時の上級職員扱いとなっているので、課長クラスの地位にいることになる。彼女が課長相手に強気に出られるのも、そのためだ。


 ただし、これらはあくまで『支部』での立場であり、ハペルモン共和国にある【本部】とは権限がまったく異なる。


 本部はまさにハローワークの中枢であり、そこで働く者たちはエリート中のエリートばかりだ。


 その中でもっとも高い権限を持つ上層部は、金の刺繍が入った特別な服を着ることから、内部では『金服』と呼ばれている。



「その人って支部長よりも偉いんだよね?」


「そうですね。ハピ・クジュネの支部長もペコペコしていました」


「小百合さんは、その…何か言われなかった?」


「私ですか? 特には。ただ、アンシュラオン様と一度会ってみたいとは言われましたね」


「そ、そうなんだ。大丈夫かな…」


「大丈夫ですよ! 金服といっても所詮は事務職ですし! いざとなったらガツンとやってやればいいのです!」


「そこは穏便にいこうよ! ね? いろいろと面倒事が増えたら困るし…」


「そうですか? まあ、私もトラブルがないほうがいいですけど…。ハローワークっていつも動きが遅いですから、文句がある時はガンガン言ったほうが通りがよくなりますよ」


「う、うん。その時はまたお願いするよ」



(そういう話じゃないんだよなぁ。小百合さんの不正とかバレてないよな?)



 意気込む彼女とは対照的に、アンシュラオンの表情は冴えない。


 すっかり忘れそうになるが、小百合は支部長を巻き込んで、かなり好き勝手やっている。


 ライザックに小百合の不正を交渉材料にされたことはあるものの、ハローワークから直接指摘されるとさすがに対処に困るのだ。


 支部長自身も『先抜き』をしていたし、それが露見すればクビは確定だ。内心では金服が来たことを一番嫌がっているに違いない。



「で、その人が秘匿してほしいって打診してきたんだよね?」


「はい。私たちだけではなく、すべての関係者に通達していました。でも、せっかくアンシュラオン様が倒したのです。そんなに簡単に頷けませんよね」


「オレはべつにいいけど…」


「駄目ですよ! アンシュラオン様はご自身を小さく見せる傾向にありますからね! 小百合が代わりにガツンと言ってやりました!」


「もう言っちゃったの!? やめてぇええええ! 事を大きくしないでぇえええ!」


「大丈夫ですって! そうしたら今度は、『三十億円』出すから秘密にしてくれって泣きついてきましたので」


「えええ!? どんな人なの!?」


「うーん、髭に眼鏡をかけた五十代半ばくらいのおじさんでしたけど、胡散臭いので私は好きじゃないですね」


「…そうなんだ。しかし、三十億か。悪くない額だし、もちろん受けたんだよね?」


「はい! 少ないってガツンと言ってやりました!」


「小百合さん! 協調性って大事だよ!! 最低限の社会のルールってあるからさ!!」


「そうですか? 抗議したおかげで、それなら『五十億円』出すからって言われましたよ」


「その二十億分に違う負担がかからないか心配だよ…。でも、そんなに秘密にしておきたいのかな。何やらきな臭いね」


「ですよね。データベースには、金服の人しか入れない特別なエリアがあるみたいなんです。もしかしたら、そこに何かあるのかもしれません」


「こっちは金さえもらえればいいから、あまり突っ込まないでね。ほら、オレの顔を立てると思ってさ、五十億で決めちゃおうよ」


「わかりました。肝に銘じます」


「そうそう、欲深いと逆に損をしちゃうこともあるからね。五十億もらえるなら十分すぎるよ。ほかには何か言ってた?」


「あの五重防塞で戦った鬼と竜に関しても秘匿してくれと頼まれました。ただ、あれに関しては、そもそもデータが残っていないんですよね」


「磁気カードに記録されていなかったの?」


「そのようです。せっかくアンシュラオン様が竜退治をしたのに…残念です」


「それはたぶん『あいつ』の仕業だね。まあ、そっちも了承したよ。それが二十億分になったと思えば良い売値さ」



(くくく、三百億か。ウハウハだな)



 これにハイザクの身代金…ではなく、救出代金として百億が入ると四百億円になり、一気に大金持ちの仲間入りである。


 さらにさらに、話はこれだけではない。



「先日確認しましたが、ハングラスからも『五十億円』が振り込まれていました」


「ああ、鉱物資源の件ね。でもさ、前金をもらっているから、五億円多くない?」


「それも街に残っている第四商隊に確認しましたが、間違いではないようです。手数料として取っておいてくれと言われました」


「ふーん、気前がいいなぁ。もらえるものなら遠慮なくもらっておくけどね」


「詳細な商談については、改めてグランハムさんが来訪されるとのことです」


「ハングラス側とも本格的な話し合いをしないといけないね。資源は確定しているから、お互いに利益が出るとは思うけど」


「そちらの鉱物に関しても最初の試算が出ました。かなり山が壊れてしまったので、土砂などの片付けで時間がかかっておりますが、推定で【二千億円を超える】そうです。これも現段階の埋蔵量と相場での計算ですので、さらに山から発掘されれば軽く倍以上にはなりそうです」


「ほほー、いいじゃないの。もっと需要が高まれば値段も上がるしね」


「ハングラスとの談合で供給量を調整すれば、市場もコントロールできます。そのあたりは相手側が上手くやると思います」


「あっちは本職の商人だからね。そこは抜かりないか」



 少なくともこの地域においては、カルテルといった価格協定行為に対して罰則は存在しない。


 グラス・ギースとハピ・クジュネは、それぞれ独自の規定を作っているので、そこに抵触しなければ罪にはならないのだ。


 むしろ希少金属はどの場所でも貴重なので、高値であっても積極的に受け入れる都市のほうが多いだろう。


 それこそハピ・クジュネが拒否したら、すでに船が来ている自由貿易郡に売ってもよいのだ。それがライザックへの牽制にもなる。


 よって、仮に半分以上ハングラス側に持っていかれても、こちらの利益は思った以上に大きくなるはずだ。



「鉱物の選定とか管理は、このまま炸加にやらせてね」


「あの軟弱な人で大丈夫でしょうか?」


「鉱物に関しては問題ないよ。あのソブカにリンチされてもギリギリまで粘ったくらいだ。やる気のある人材を使うほうが良い成果が出るからね」



 こちらも引き続き、鉱物資源に関しては調査が進められている。


 そのプロジェクトリーダーこそ炸加であり、当人に強い目的意識があるので意欲に満ち溢れているようだ。


 事実、鍛冶師よりもそちらのほうに才能があることは、ソブカからも認められている。


 ただし、一つだけ満足できないことがあった。



「この資料を見ると、鉱物の種類はどれもが『材料用』だよね?」


「はい。鉱物には大きく分けて三種類ありまして、一つが武具に適したもの、もう一つが建築に適したもの、三つ目が『兵器』に適したものとなっています」



 炸加のサンプル調査からも予想はできたが、黒い石は武具用で、主に品質の高い剣や鎧に使用することに適している。


 タイプとしては、『攻撃』『防御』『物質』に該当するだろう。


 二つ目が建築資材に適している鉱物で、少量でも混ぜることで材質を強化することができるので、安いコストで強固な家を建てることができる。


 現在は街の復興で大量の建築資材が必要になっていることから需要は多く、かなりの売り上げが見込めるだろう。


 こちらのタイプは、『汎用』や『強化』といったタイプの鉱物となる。


 三つ目は、一つ目と二つ目のハイブリッドのような鉱物で、通常の武具にも使えるが、特に『戦艦や防塞用の兵器』に適しているようだ。


 たとえば、戦艦の武装は通常の武具とは出力が異なるので、普通の鉱物だと壊れてしまう危険性がある。


 主砲から放つ強力な砲弾には高位術式が付与されることも多く、中心核の暴発を防ぐためにも頑強な素材で覆う必要性が出てくるわけだ。


 また、撃たれる相手側としては、それを防ぐための装甲板も同様に強固である必要があるだろう。


 北部がさらに戦力を増すためには、商船にしろ武装船にしろ、あるいは本物の戦艦を配備するにせよ、資源がなくては話にならない。


 南部勢力も北部が力をつけては困ることから、簡単に戦艦を売ってはくれないので、こちらも高値での取引が期待されている。


 が、それらは残念ながらアンシュラオンが求めるものではない。



「うーん、『精神』に適したジュエルじゃないのか。スレイブ・ギアスに使えるものがあるとよかったんだけどね」


「申し訳ありません。どうやら翠清山には精神に特化した鉱物はないようです」


「いやいや、いいんだよ。べつに最初からそれが目的だったわけじゃないからね。もしあればと思っていただけさ。今は武具のほうが儲かるから、利益だけを考えるのならばそっちのほうがいいよね」



 世間一般において、スレイブ・ギアスに使われる精神系ジュエルは人気がないのが実情である。


 精神に適したものが少ないこともあるが、需要自体も多くないので積極的に得ようとする業者があまりいないのだ。


 そもそもスレイブ・ギアスに関しては、すでに協会本部から汎用特化のジュエルが定期的に供給されているので、大半はそれで間に合ってしまうことも大きな要因だろう。



(今後オレがもっとスレイブを増やすことを想定すれば、品質の良い精神系ジュエルが大量にあったほうがいいに決まっている。商会が使っている通常のやつでは限界があるし、なかなか上手くはいかないな)



 最悪は妥協する手もあるが、できれば欲しいのが本音だ。


 しかし、何事も先立つものは『マネー』。


 ディムレガンがこちら側にいる以上、今は武具類に使える鉱物が大量にあったほうがいいだろう。


 その後、ハピ・クジュネからも特別報奨金として、さらに五十億の支給も決まった。(『特別永久名誉市民』の称号付き)


 まとめると―――


 ハローワークから、口止め含む300億。(素材は別)


 ハピ・クジュネから、ハイザク救出含む150億。


 ハングラスから50億(前金含めて55億)


 計、約500億円の利益が確定する。


 これによってアンシュラオンの野望は、ますます膨れ上がっていくのであった。



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