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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「アーパム財団」編
445/618

445話 「分割案の成立」


「で、会議の結果はどうなったんだ?」


「ひとまず現状ではこうかな」



 アンシュラオンが一枚の地図を取り出す。


 そこには四種類で色分けされた翠清山脈が描かれていた。



挿絵(By みてみん)



「この黄色いところがオレの領土。青いのがハピ・クジュネの領土。橙色がグラス・ギースの領土。赤いのが魔獣自由自治区だね」


「すごいな。ほとんどの要衝をゲットじゃないか」


「勝利の立役者だからね。これくらいの利権はもらわないと割に合わないよ」



 アンシュラオンの領土を地図で見ると、翠清山の南南西の森から琴礼泉、清翔湖、三袁峰ときて、灸瞑峰にまで細長く伸びている。


 ロリコンの感想通り、翠清山の要衝の大半をゲットしたと言っても過言ではない。


 難点としては山頂付近が多いため、自分の領土内だけで移動しようとすると地形的に大変な点だが、危険を承知で魔獣自治区を通過すれば近道なルートもあるし、ヒポタングルが仲間にいるので空から移動できることも利点だろう。


 しかしながら、これも簡単に決まったわけではなく、それぞれに細かい理由が存在する。



「まず、オレが一番欲しかったのは、琴礼泉から清翔湖にかけてのエリアだ。古くから良質な水と鉱物が獲得できるエリアだし、水源そのものを確保できたことは非常に大きい」


「何をするにも水は必要だもんな。持ち込むことはできるが、わざわざ山の外から持ってくるのは手間と費用がかかる。現地で水が手に入るのならば、それに越したことはない」


「さすがロリコン。一応商人なだけはあるよ」


「一応は余計だ。これから開発が進めば山に入る人間も増える。かなりの収益が見込めそうだな」


「湖には魚もかなりいるからね。強い魔獣も多いけどあくまで魚だから、上手くおびき出せれば狩るのは意外と簡単だ。保存しておけば冬場の貴重な食糧源にもなる」



 山で一番大事なものは、やはり水だろう。


 雨や雪が多く降る翠清山では、一時的な川が生まれることもあるが、大半は清翔湖から供給されているものだ。


 その証拠に、仮に清翔湖の周囲を完全に覆ってしまえば、翠清山は一斉に水不足に陥るに違いない。


 これは非常識なたとえだが、それだけ水の価値が大きいことを示している。



「しかし、よく三袁峰まで取れたな。ここは激戦区だったんだろう? ハピ・クジュネ側から抗議はなかったのか?」


「遺品回収の面からもライザックは抵抗していたけど、今のハピ・クジュネ軍じゃ猿神を従えることはできないからね。もしオレの領土でなければ、猿神が力を取り戻して反撃に出る可能性もある。その時は助けるつもりはないって、はっきり言っておいたんだ」


「それで折れたのか。魔獣が怖い気持ちはよくわかるから他人事じゃないな。というか、猿神のほうはちゃんと従っているのか?」


「まだ半々かな。リーダーの破邪猿将が死んだせいもあって、種族内での支配体制が定まっていないみたいだ。そのせいで意思統一が難しい状況にある」


「そんなんで大丈夫なのか? お前は問題ないだろうが、他の人間が攻撃されたらやばいだろう?」


「上位種族のグラヌマーハたちがこっち側だから、そんなに大きな反乱は起きないと思うよ。それに関しては、むしろサナの功績だけどね」



 猿神の軍勢は、最終決戦後に『停戦』に合意。


 サナが力を示したことで、彼らもアンシュラオンたちならばよいと決断したようだ。


 ただ、時間的な問題で細かい話は後回しになっており、ひとまず停戦しただけにすぎない。内部では後任のボス猿を決める権力闘争が繰り広げられていることだろう。


 そして、海軍がまたやってこようものならば、彼らも本気になって抵抗運動を続けるに違いない。


 そうなれば泥沼は必至。


 まだ猿神の軍勢は力を残しているので、山でのゲリラ戦を仕掛ければ、今のハピ・クジュネ軍では対応できない。むしろ返り討ちだ。


 結果、アンシュラオンの預かり案件となったわけだ。



「この三袁峰も調査次第だけど、いろいろとお宝が眠っている可能性もあるんだ。第二海軍が最初の制圧地に指定したくらいだから間違いなく何かあるだろうね。鉱脈の線も濃厚だ」


「噴火は大丈夫なのか?」


「もう収まっているよ。普通の火山だったら森とかも枯れて完全に裸地になるんだけど、あそこの植物はちょっと特殊だからね。そのあたりも問題なさそうだ」



 三袁峰は活火山のわりに頂上付近までびっしりと高い樹木が生えていたが、これは樹木自体が特殊な性質を持っていたからだ。


 森での戦いでもそうだったように、翠清山にはかつての初代ラングラスがさまざまな秘宝(特別な薬品や種子)を持ち込んでおり、通常よりも植物が強い傾向にある。


 それによって噴火の熱気や灰にも強く、直接マグマによって焼かれていないものは無事に残っている。



「ただ、クルルザンバードとの戦いで山自体がけっこう壊れたからね。猿たちもしばらくは難儀するかもしれない。その補填を先にしないと、お宝の発掘まではいけないだろうね。あの周辺では猿神の協力は必須だし」


「そういえば、新しい鉱物資源がうんたら言ってなかったか?」


「炸加のやつ? あれに関してはだいぶ発掘が進んでいるよ」


「もうそこまでいったのか? 折衝に手間取っていたわりには早くないか?」


「ふふふ、オレを侮ってもらっちゃ困るなぁ。すでにクルルザンバードが掘ってくれたんだよ」


「え? 魔獣のボスがか?」


「だいたいの場所は炸加が予想していたからね。やられたふりをしながら発掘ルートを回って、あいつに山を壊してもらっていたのさ。これで大幅に手間が省けたよ。山脈も平らになったから移動もしやすくなったはずだ」


「余裕ありすぎだろう。それで負けていたら洒落にならなかったぞ」


「準備万端なら負けることはないと確信していたのさ。思ったより強かったから少し手間取ったけど、十分許容範囲内だったかな。オレにはまだまだ余裕があったし、相手が調子に乗ってくれないと逃がす可能性も残っていたんだ。何度考えても、あれがあの状況下におけるベストな選択だった」


「お前の強さが、もうよくわからないな。常識を超えすぎているぞ」


「勝てたんだからいいじゃないか。結果よければすべてよし、さ」



 炸加が予想した鉱物資源の在処は、琴礼泉から北側かつ、清翔湖と三袁峰の中間地点にあった。


 ちょうどアンシュラオンがクルルと最後の戦いを繰り広げた場所なので、最初からここを目指していたことになる。すでに述べた通り、クルルにその発掘をさせたわけだ。


 場所に関しては、もともと琴礼泉にいた子猿からサンプルの提供を受けていたことからも、そう遠くない地点であったことは予想できる。


 もっと言ってしまえば、清翔湖の底のほうから三袁峰を巻き込んだ琴礼泉にかけての大きな一帯が、特殊鉱物の埋蔵地だったわけだ。


 琴礼泉で採掘されていた希少金属も、もとをただせばこの鉱床の一部といえる。


 現在は壊れた山脈の整地がてらに、暇な猿神たちに石を集めてもらっている。それを山に残った炸加が選定して、サンプルをこちらに送っている状況だ。



「そっちはいくらになるんだ?」


「埋蔵量は予想より多いって聞いているね。かなりの額になるんじゃないかな?」


「またボロ儲けですかぁああ!」


「いやいや、そんな簡単じゃないって。これに関してはグランハムとの話し合いもあるし、まだまだ調査や厳選が必要になるから、やることは一杯さ。でも、自分の領土になったんだから焦ることはないかな。魔獣たちの仕事も作ってやる必要があるしね」



 もともとハングラス側からの情報提供で得た知識だ。独り占めはできない。


 ただし、開発に関してはアンシュラオン側の協力が不可欠なこともあり、その手数料でもかなりの額が見込めるだろう。


 これには猿神たちを護衛につけたり、採掘の手伝いをさせることで魔獣の仕事を作ることも可能だ。



「その前に魔獣たちに人間社会のルールを教えないといけないけどね。とりあえず等価交換なら理解できるだろうから、その線でいく予定さ。もちろん魔獣側が損をしないように常に監視する必要がある」



 アンシュラオンが確約したように、そこは絶対に守らねばならないルールだ。


 ただし、こちらも魔獣側にとって有益なものとそうでないものを選定する必要があるだろう。


 鉱物の大半は魔獣にとって無価値なので、それをもらう代わりに安定した治安維持や食糧の提供(自然保護含む)、あるいはグラヌマには剣、ヒポタングルには上質な水といった、彼らが求めるものを与えればいい。



「赤い部分は【魔獣自由自治区】ってあるが、どういう意味なんだ?」


「今まで通りの魔獣の住処さ。結局、翠清山が広すぎることと、魔獣の勢力が強い場所は人間の手に負えないんだ。かといって魔獣の乱獲が起こったり、反対に人間側の被害が続出したら困るから、オレの領土の周りはしっかり監視するけどね」


「なるほどな。じゃあ、ハピ・クジュネの領土に関しては、どうしてこうなったんだ?」


「言ってしまえばオレが良いところを取ったから、その残りの部分を選ぶしかなかったんだけど、中央東部分に関してはハピ・クジュネが昔から調査を続けていた場所で、どこに何があるのか把握しているし、計算がしやすかったんだろうね」



 ハピ・クジュネが選んだ場所は、銀鈴峰を除く中央東一帯だ。


 ここはスザクが言っていたように、新たな『交通ルート』を作る計画があり、ハピ・クジュネ側としても最低限取らねばならないエリアだったわけだ。


 唯一の誤算としては、混成軍の侵攻で森がかなり荒れていることと、銀鈴峰そのものが獲得できなかったことだろう。


 その原因は、もちろん『熊』にある。



「銀鈴峰だけ赤いのはどうしてだ?」


「うーん、熊の連中は頭はそこまで悪くないんだけど、基本的に肉食で獰猛だからね。説得もあまり通じなかったんだ。だからオレの領土には選ばなかった」



 猿神同様に熊神にも説得を申し出たが、彼らは対話を拒んで逃げるように散っていき、現在は海軍が撤退したあとの銀鈴峰に立て籠もっている状態である。(眷属たちは元の住処に戻っていった)


 アンシュラオンも忙しいので、特に問題が起こらない限りは放置を決め込んでいる。



「空いているのにハピ・クジュネも取らなかったんだな」


「地図上では領土になっているけど、実際はそこまで実効支配ができているわけじゃないんだよ。オレはヒポタングルやグラヌマがいるから、とりあえず現地のやつらに治安維持を任せられるけど、他の二つの勢力の領土はスカスカだね。ほとんど人を配置できていないのが実情さ。銀鈴峰を管理する余裕なんてないよ」


「なまじ自分の領土になると、いらぬ責任が生まれるってことか?」


「そういうことだね。もしそこで熊が暴れたら海軍を派遣しないといけなくなる。もっと言えば、オレの『領民』の誰かがそこで食われたりでもしたら【賠償問題】になるからね。それなら放置していたほうが得策なんだよ」



 領土という言葉は良く聞こえるが、実際は莫大な経費がかかるうえ、その管理責任も負わねばならない。


 それ以上のメリットがあれば別だが、見込みがない状態で投資したら赤字確定だ。


 海軍の再編成に金がかかるライザックからすれば、まったくもって割に合わないものとなる。


 それに加え、銀鈴峰は一年の大半を雪に覆われた地域である。何かしらの希少物が出てくればよいが、ハピ・クジュネ側も前哨基地の意味合いしか見い出していなかったことからも、あまり期待はできないだろう。


 よって、銀鈴峰も実質的にはアンシュラオンの領土に等しい。


 少しずつ時間をかけて熊を慣らせば、おのずと実効支配ができるはずだ。



「熊に関しては、いろいろ試したいことがあるから大丈夫さ。ゴンタの事例もあるしね。近いうちに味方に引き入れるよ。それで三大魔獣全部がオレの配下になることになる」


「改めて考えるとすごい話だよな。よくそんなことを思いつくもんだ」


「それもクルルザンバードのおかげさ。敵の敵は味方。相手も好きで従っていたわけじゃないし、海軍とも敵対していたおかげでオレは敵視されていなかったことも大きいんだ。まさに漁夫の利ってやつだね」


「話題に出しづらかったんだが…グラス・ギースのエリアは、どうしてこうなったんだ? ここってほとんど手付かずだった場所だよな? ほぼ魔獣自治区と同じだろう?」


「ああ、そこね。ハピ・クジュネと同じで、面子を守るためにとりあえず領土を確保しただけだよ。ベルロアナはがんばった一方、グラス・ギースの都市から出ていた部隊は、あっけなくマスカリオンたちに迎撃されて逃げ帰っている。領土を要求するにしても、そのあたりが妥当じゃないかな」


「扱いが酷いな。向こう側はそれでいいのか?」


「開発能力と統治能力がないんだから仕方ないよね。ただ、山の幸はけっこうあるみたいだから、食糧不足になりがちなグラス・ギースには良い選択だと思う。ついでにオレの水も売りつけて万々歳さ」


「やっぱり要衝を押さえているのは強いよな。お嬢様はもうハピ・クジュネには戻ってこないのか?」


「今度は母親を連れてまた来るとは言ってたよ。それも魂胆が見え見えなんだよなぁ」


「魂胆?」


「オレにあえて要衝を取らせたことは、グラス・ギースとハピ・クジュネからしても『予定通り』だったわけだ。自分で開発できないならどうする? 他人に開発させればいいよね」


「あとは『お前との取引次第』でなんとでもなるってことか。危ない場所を開発する費用も浮くから、とんとん…いや、それ以上にメリットがあるんだな」



 グラス・ギースとハピ・クジュネは、自ら交渉を長引かせていたものの、最初からこうなることはある程度予想していた。


 逆にアンシュラオンに旨味のある場所を提供することで、反感を買うことを控えつつ、危険地域の開発を丸投げすることにしたのだ。


 両者ともに三大魔獣とまともに戦う力がない状況では、これ以外の選択肢はないだろう。


 その危険な魔獣たちもアンシュラオンが管理してくれるのだから、これまた相手側にはメリットしかない。


 熊の話をひっくり返せば、領土内で何かあれば『領主であるアンシュラオンの責任』になるからだ。



「ということで、当面は魔獣たちを上手く制御することと、資源の確認に追われることになるんだ。嫌でもまた山に入ることになりそうだよ」


「大変だな」


「他人事じゃないぞ。ロリコンにも仕事をしてもらうからな」


「え? 俺もか?」


「当然だよ。商人は貴重なんだからさ。山から来るものの精査とか管理とか、いろいろやってもらうよ。あっ、ロリ子ちゃんから許可をもらっているから拒否権はないぞ」


「えええええ!? 勝手に決めるなよー! ダラダラ最高ぉお!」


「莫大な金が動くぞ。行商人なんてやるのが馬鹿らしくなるほどのな。金が欲しくないのか? あぁん? ぺしぺし」


「お、お金、超気持ちぃいいい! ぜひともやらせていただきます!」



 札束で頬をはたくと、あっさりと転がってくる。


 こういうところも商人の良いところだ。



(やれやれ、分割が終わったら終わったでやることが盛りだくさんだな。まあ、これがオレの財産になると思えばやる気も出るか)



 あくまで領土が決まっただけで、収益が出るのはこれからだ。


 が、利益が確定している以上、ワクワクするのが人間というものだろう。結果が非常に楽しみである。



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