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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
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430話 「六翼魔紫梟戦 その2『疑念と初手』」


「お前がビビっている根拠を挙げてやろう。まず最初に、お前は生粋の戦闘型魔獣じゃない。精神攻撃で相手を操作するタイプは、総じて後方での活動を得意とする。そもそもが表に出るタイプじゃないんだ」



 すでに判明している通り、クルルザンバードは操作系の寄生型魔獣だ。なぜ寄生するかといえば、自らの力が弱いからである。


 これがゴリゴリの前衛戦闘型ならば、わざわざ他者を利用する必要はない。ましてやハイザクの身体を必要とはしないだろう。



「随分と私の情報を知っているようだ。あの黄色い連中から聞いたのか?」


「魔獣に関しては、それなりの知識があるからな。人間に寄生するタイプは初めて見たが、寄生型そのものは珍しくはない。本体そのものの力は弱いんだ」


「その通りだが、こうして強い依代を手に入れれば弱点を埋められる。それを含めて私の力ではないかな?」


「そのわりには逃げ回っていたな。おそらくは魔獣を暴走させるための準備期間だったんだろうが、それそのものがお前の弱さを象徴している。最初から逃げ腰でこちらの誘いにも乗らず、ずっと避けていたじゃないか」


「私は自己の能力を完璧に把握している。単体ではなく全体を通じて戦略的に動くことに特化しているのだ。お前こそ私の力を怖れていたはずだ。だから慌ててやってきたのであろう?」


「たしかに厄介な相手だ。おかげで面倒事が増えたよ。じゃあ、一つ訊くが、お前の言う都市だか国だかがあるのならば、当然ながら『仲間』がいるはずだよな? どれくらいの戦力があるんだ?」


「超常の国には、あらゆる力がある。億の兵に数百万の騎士、千に及ぶ守護者が存在する。末端の兵も加えれば数十億以上になるだろう。世界で最大かつ最強の国だ」


「そりゃすごい。お前レベルの敵が千もいたら、さすがに手も足も出ないな。では、なぜ【単独】でやってきた?」


「………」


「守護者っていうくらいだ。すでに統治している場所か要人を護らせるのが仕事のはずだ。それなのに、どうしてこんな未開の場所にやってきたんだ? 地位と身分のあるお前が単身でやってくること自体おかしいうえに、マングラス程度の連中に捕まる失態まで演じている。こりゃどういうことだ? なぁ、教えてくれよ」


「………」


「何も答えられないのか? お前の言っていることには、まったく根拠がないんだよ。そんな国、本当にあるのか?」


「………」



 クルルは押し黙る。


 言い返すことはいくらでもできたが、どうしても脳裏の隅にある違和感が拭えないからだ。



(なぜ私はここにいる。陛下から領土を預けられ、そこの統治を任されていたはず。だが、その後の記憶がない。なぜだ…なぜ…)



 三大魔獣に命令していた時もクルルザンバードには記憶の欠損が見られた。指摘されている通り、言っていることに矛盾点があるのだ。


 それは彼自身が誰よりも理解し、一番苦悩していることだった。



(最後に覚えているのは『やつら』が攻めてきた時だ。私も兵を動員して戦ったところまでは記憶にあるが…結果はどうなった? いや、愚問だな。どんな敵であれ超常の国が負けるわけがないのだ。…しかし、私が守護していた『わがきみ』はどうなされたのか。それだけが気がかりだ)



 各守護者は与えられた領土を統治しているものの、あくまで代理人であり、その本当の支配者は別にいる。


 守護者にとっては彼らを守護することが一番の任務。クルルザンバードにも守護していた存在がいたはずだ。


 クルルが潜伏している間に多様な人間を調べていたのも、その中にその人物がいないかどうかを兼ねてのことであるが、この段階で守護する存在が『人型』であることを示してもいる。


 そして、もう一つの大きな疑念がある。



(そもそも私はなぜ、ここを統治しようと思ったのか。そんなものは下位の守護者候補の仕事のはずだ。栄誉ある中位守護者の私がやることではない。…くっ、記憶が欠乏していることがこれほど怖ろしいとはな)



 クルルが思ったより狼狽したことで、アンシュラオンはさらに詰める。



「事実として、お前は独りだ。だから『不安だった』んだよな? 誰かがお前に命令したことは間違いないようだが、そこに疑念を抱いていた。このまま戦っていてもいいのか、と。そりゃそうだ。後詰めがない戦いなんて怖くて仕方ないもんな」


「陛下への忠誠心に疑念などは抱かぬ! 守護者は誇り高い地位だ! わが国の強大さは揺ぎなきものなのだ!」


「そうかな? 本来、魔獣は誰の命令も受けない。せいぜい同じ群れのリーダーか、同属かつ格上の種族にしか従わないもんさ。翠清山の魔獣が特殊だったにせよ、お前が生み出した魔獣の軍勢自体がおかしいんだよ。なぜ軍団を作ろうと思った?」


「それは…使命のために…」


「それを担保してくれるやつがいなければ、使命など意味がない。まさか独りよがりの勝手な判断でやったことじゃないよな?」


「っ…無知なる者に理解はできぬ!」


「思考停止とは見苦しいやつだ。まあ、組織に属するやつが一番怖いのが独断での行動による失敗だ。上下関係が強固ならば、なおさらだろう。だからお前は自ら行動することを躊躇していた。違うか?」


「迷いなどない! 未開の地を統治するのも重要な使命なのだ!」


「百歩譲ってそこは認めてやるとしよう。だが、お前の行動にはまだ疑問点がある。どうして最初から【オレを狙わなかった】?」



 クルルがマングラスから逃げ出し、新たな依代を物色していた時には、すでにアンシュラオンはこの地にいた。


 大災厄後、ずっと人間の脅威だったデアンカ・ギースを倒したことも少し調べればわかるだろうし、大勢の人間の調査をしていた彼が知らないわけがない。


 となれば、まずアンシュラオンを狙うはず。


 ハイザクがいくら優れているとはいえ、アンシュラオンとは比べられない。素体の性能が明らかに上なのだ。



「お前は、わざわざこんな大きな戦いを起こしてまでハイザクを手に入れた。しかしその間、オレは呑気に旅をしていて無防備だったはずだ。どうしてオレを狙わなかった?」


「依代に適応するかどうかには相性がある。この人間が最適だったにすぎん」


「違うな。オレが怖かったから近寄らなかったんだ」


「馬鹿を言うな。なぜ怖がる必要がある」


「お前の避け方が尋常じゃないからだ。ただオレの力を怖がっているだけじゃない何かがある。そう、それは『畏怖の感情』だ」


「自己評価が高いな。嫌いではないが、傲慢だ」


「お前こそ自分を偽るなよ。この翠清山に入ってからも何度もチャンスはあった。だが、そのたびに監視することしかしなかった。怖くて怖くて仕方なかったからだ」


「話にならんな。それで揺さぶっているつもりか?」


「お前が弱者であることは違う観点からも証明できる。あの魔神二人が来た時、お前は監視すらできずに隠れていたな」


「ふん、何を言うかと思えば。魔神など超常の国には溢れるほどいるではないか。あの程度の下位魔神など恐怖の対象にはならぬよ」



(魔神を知っているか。なるほど、こいつの正体が少し見えてきたかもしれない)



 魔神自体は、すでに失われた存在だと聞いている。最低でも新しい魔神は造られておらず、あの二人が最後のシリーズのようだ。


 ハローワーク職員の小百合にも訊いてみたが初耳らしいので、魔神自体はかなりの極秘事項と思われる。何よりもジ・オウンが従えている段階で普通ではないだろう。


 そして、それを当然のように知っていることから、クルルザンバードという魔獣が同様に『古いもの』であることは確定だ。



「しかし、実際に監視は消えた。魔神が原因ではないとなると、やはり刻葉……ジ・オウンが怖かったからだろう。まあ、あいつは本当にヤバいやつだからな。怖がるのはわかるが、その怖がり方も異常だった」



 五重防塞での戦いの時だけ、クルルからの視線が消えていた。


 なぜかといえば、ジ・オウンを怖れたからだ。


 アンシュラオンはまだ知らないことだが、三大権威の一人である魔王がいきなりやってくれば、いかにクルルといえど怖がるのは当然なのかもしれない。


 しかし、ここでも疑問が残る。



「ジ・オウンは、多少ながら魔獣側に加担していたようだ。が、そのわりにお前はあいつを怖がっていたし、魔神側と三大魔獣とはこれといった連携もなかった。あいつが勝手に援護していただけなのか、それともお前が黙認していたのか、そのあたりが極めて曖昧だ」


「何のことだ? ジ・オウンとは何者だ?」


「…? お前こそ何を言っている? あの影のことを知らないのか?」


「訳のわからぬことを。魔神の存在は感知したが、それ以外は何も来ていない。害にならぬから好きにさせていただけだ」



(刻葉を認識していない? もしかしてオレたちだけに姿を見せたのか? それはありえるが…こいつが監視を外したのは事実だぞ)



 あれだけの力があれば、クルルの目からも逃れることは容易だろう。


 が、明らかにクルルはジ・オウンを避けていたし、そもそも超常の国とやらに魔神がたくさんいるのならば、孤独で不安な彼は喜び勇んで会いにいくのではないだろうか。


 このあたりにも矛盾点が見られる。



(クルルザンバードの言動は、かなり変だ。こいつが壊れているだけならば話は簡単だが、はたしてそうなのか? この妙な違和感はなんだ?)



「それで話は終わりか?」


「いや、もう一つある。お前が使った暴走の手段についてだ。この術式の雰囲気は今まで使っていたものとはだいぶ異なる。この感じは『災厄呪詛』と同じものだ。災厄を引き起こせるのは『災厄の魔人』だけのはずだ。なぜお前が同じような真似ができる? 何か関係があるのか?」


「魔人など知らぬ。そんなものは存在しな…ウグウウッ!! さ、災厄の…魔じん…などどどどど! さいやく…さいゃくううううウgoゴgogoGOGOGO!!」



(ちっ、またバグりやがったか。壊れた機械を相手にしている気分だ)



 クルルは頭を抱えて悶える。


 これまでの情報から西部には何かがあることは間違いないが、実際はマングラスが対応できる程度の魔獣が散見した程度なので、今のところクルルの発言を全肯定できるだけの根拠がない。


 しかし、それはあくまでアンシュラオン側の意見だ。


 クルルは自らを奮い立たせるように叫ぶ!



「はーーはーー! 私の役目は! 使命は!! 陛下のために愚者を支配することだ!! それ以外はいらぬ! いらぬのだああああ!」


「結局お前は、自分自身のことも理解できていないんだ。そんなやつが、よくもまあここまで荒らしたもんだ。だが、礼を言うべきかな。おかげでより多くの富が手に入りそうだ。戦乱があるからこそ平時では得られない利益が生まれる。ありがとうよ」


「盗人め! それこそ陛下のもの! 物質も生命もすべて、すべてぇええええええ!!」



 クルルが強大な戦気を放出。


 それは即座に闘気に変わって身体にまとわりつく。



「どっちが盗人だ。お前こそいきなりやってきた盗人だろうが。じゃあ、その盗人からオレが掠め取っても罪にはならないよなぁ?」


「貴様は危険だ! ここで殺す! 陛下の敵は殲滅あるのみ!!」


「奇遇だな。こちらも同じ意見だよ」



 アンシュラオンが接近して、いきなり蹴りを顔面に叩き込む。


 相手が気質の操作をしている隙をついた奇襲である。この点に関してはアンシュラオンのほうが上。瞬時に戦気を練り上げて先手を取る。


 続けて三発の蹴りを放ち、着地した瞬間に水覇・波紋掌を腹にお見舞い。


 発剄が浸透して体内が破壊され―――ない!


 水気が内臓に至る前に、体内に瀰漫した闘気によって蒸発。拡散されてしまってノーダメージ。


 さきほど奇襲で放った蹴りも、頬に軽い跡を作った程度で、それもすぐに回復して綺麗な肌になっていた。



(全力で打ち込んでこれか。街で会った時のハイザクを余裕で超えているな)



 ハイザク自体、若さと才気溢れる素晴らしい身体をしており、ガイゾックと並んでアンシュラオンと全力で打ち合える稀有な武人の一人であった。


 ただし、現状では戦気術の扱いも含めて、まだまだアンシュラオンのほうが勝っていたはずだ。


 それがクルルザンバードの力によって明らかに強化されていた。



「こそばゆいな。次はこちらの番だ」



 クルルの蹴りが、足元のアンシュラオンに向かって放たれる。


 アンシュラオンは飛び退いて回避するが、強引に大気を圧し出して生まれた衝撃波が、遥か後方にあった岩山を貫いて爆散。何十メートルもの大きな破壊痕が生まれた。


 アンシュラオンも激しい風圧に押されて、不安定な着地になってしまう。


 そこにクルルの掌から放たれた闘気波動が襲いかかる。


 アンシュラオンは戦気壁を三重に生み出し、闘気が貫通している間に避ける時間を生み出す。


 しかし、闘気はさらに増え続け、全方位から襲来。



(闘気の出力が高い。普通に受けたら抜かれる)



 アンシュラオンは、命気結晶の球体を生み出して防御。


 周囲の大地が一瞬で蒸発する中、攻撃を防ぐことに成功する。


 こちらはコウリュウ戦で見せたものと同じで、厚みも同程度のものだ。


 しかし、接近してきたクルルが拳を繰り出すと、命気結晶に亀裂!


 ビシッと大きくヒビが入り、二度目の拳撃でさらに細かい亀裂が広がって、三度目で完全破壊!


 コウリュウが生み出した大量の臨気すら易々と防げたものが、たった三発で破壊されてしまう。


 だが、すでにアンシュラオンの姿はない。


 結晶が割れると同時に飛び出し、ハイザクの背後を取ると高速練気からの『覇王・滅忌濠狛掌めっきごうはくしょう』を発動。


 技は命中。凄まじい滅気の圧力が対象を呑み込み、身体を破壊していく。


 この技は因子レベル6のものだが、単体火力だけならば因子レベル8に匹敵するものだ。姉でさえ直撃すればダメージは受ける。


 当然ハイザクの身体といえどもダメージは受けるのだが、表面の肉を三センチ程度削り取っただけで終わってしまった。


 闘気による強化があったにせよ、回避はしていないことからも単純に肉体の頑強さで耐えきったのだ。



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