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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
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428話 「追跡チーム その2『呪詛』」


 計十五人となった追跡チームは、さっそく探知を開始。


 まずはソラビロが、フードの隙間からいきなり『触角』を出す。


 見た目はユニコーンのような長細い角状で、表面にはフワフワとした毛が生えており、定期的に発光しているのでなかなかに特徴的だ。


 どうやら能力を使う時だけ生えてくるらしいが、見慣れていないハンターたちはさすがにぎょっとした様子だった。



「それは?」



 のけぞっているハンターの代わりにジュザが質問。


 彼は視覚で物を見ないので、迸る異質なエネルギーを感じ取っていた。



「私の異能です。こうすることで直径千キロメートルの索敵が可能になります」


「千キロ…というと翠清山を覆ってしまえるくらいでは?」


「その通りです」



 ソラビロには探知系の魔獣の因子が移植されており、探知方法はいわゆる『反響定位』と呼ばれるもので、コウモリやクジラが超音波で標的の位置を知る原理と一緒だ。


 アンシュラオンの索敵が最大一キロから二キロ、姉に至っても五キロ(波動円による探知の場合)であることから、それがどれだけ広範囲かがわかるだろう。


 黄劉隊の役割は、広大な西部からやってくる脅威を見つけて駆除することなので、最低でもこれくらいの範囲でないと役には立たないのだ。



「しかし、これだけでは探知するものが多すぎるので、半分以上は無意味な情報になります。重要なことは、ここから情報を厳選することです。その役割は弟が担当します」



 今度は弟のヒロゾラが出てきて、フードから同じような『角』を出す。


 そして、ソラビロが広範囲の索敵を行いながら、ヒロゾラも同時に『反響定位』を行っていくが、こちらは兄が得た情報を精査して、さらに細かい条件をつけて絞り込んでいく。


 こうして二つの力が合わさることで、特定の個体を見つけ出すことができるわけだ。


 しかしながら、今回の追跡は簡単ではない。



「我々は一度、標的を見つけ出しています。ただし、その際は『マーキング』があったので早期の発見が可能でしたが、現在は外れているようです。おそらくは新たな依代に移った際に消えたのでしょう」



 マングラスが傷ついたクルルを拘束した時、特殊なマーキングを刻んでいた。


 標的に小型のアンテナ(目に見えないほどの小さな針)を刺すことで居場所を特定できる能力で、その効果は、以前パミエルキがアンシュラオンを追跡した際にも説明した『視々眈々(ししたんたん)』と同レベルの効果を発揮するため、かなり優れた能力といえるだろう。


 しかし、クルルは隠密に長けているうえ、ここは魔獣だらけの翠清山だ。アンテナがあったとしても見つけ出すのは大変だった経緯がある。



「では、あなた方でも時間がかかってしまうものなのでしょうか?」


「通常ではそうです。ただし、我々も何もせずに撤退したわけではありません。すでに手は打っています」



 ソラビロが、小さな水晶玉を取り出す。


 一見すると魔力珠に似ているが、これは『相手のデータをコピー』する術具である。


 原理的にはハローワークが発行するハンターカードと同じで、周囲の生体磁気を記録して当時の状況を再現(推測)することができるものだ。


 カードと異なるのは、敵側の『術式』も記録できる点だろう。


 クルルが羽根を放って突き刺した時、ソラビロたちはその術式情報をコピーしていた。ハイザクの生体磁気も直接交戦したユシカたちによって記録されている。


 それらの情報をフィルターにかけて余計なものを排除していけば、より精密なレーダーが完成するというわけだ。


 とはいえ、前回発見できたのはクルルがハイザクを狙って本体を出してきたからであり、現在は常時術式を展開しているわけでもなく、生体磁気を活性化させているわけでもない。


 多少見つけやすくなっただけであり、追跡が困難であることには変わりがなかった。


 であれば、外堀から埋めればいい。



「標的は眷属を操っています。その回線を辿ってみましょう」



 クルル自体は動かずとも眷属を経由して情報をやり取りしている。そのわずかな波動を検知すれば、本体を見つけ出すことも可能になる。


 細かい話は割愛するが、その後の追跡チームはソラビロとヒロゾラを中心としながら、依然として自慧伊やハンターQの能力も併用してクルルを追い続けた。


 各人の思想や手法の違いにより、道中にはいろいろと悶着もあったが、敵のボスを見つけ出すという大きな目的の下で団結。


 クルルの連絡網は何重にもダミーを交えて慎重に構築されていたものの、各段に精度を増した索敵によって一枚一枚剥がされ、探索の範囲も狭まっていった。


 そして、ついにクルルを発見するに至る。



 彼がいたのは―――【三袁峰の頂上】



 ハイザクを乗っ取ったのが、ここからかなり南東にある琴礼泉と清翔湖の中間くらいだったことから、魔獣軍と入れ替わるように北西に移動していたことになる。


 魔獣軍が東に向かって進軍しているのだから、後方に位置するこの場所がもっとも指揮に最適ともいえるため、ある意味では想像通りではあった。


 ただし、生体磁気の様子から常時ここにいたわけではないので、『いろいろ動きながら最終的にこの場所に戻ってきた』という言い方が正しいのかもしれない。


 クルルを発見したことに追跡チームは色めき立つ。この功績は大きいだろう。


 が、唯一の誤算があるとすれば、それを敵にも察知されてしまったことだ。


 教訓を学んでいるのはこちらだけではない。敵側も一度発見されたことで対策を立てており、探知の波動を常時監視していたようだ。


 ソラビロが警告を発した時には、クルルも移動を開始。


 凄まじい速度で一直線に向かってくるので、あっという間に追いつかれてしまう。



(そんな…あの距離をこの短時間で!)



 ソラビロも十分な距離を取って安全に配慮していたつもりだが、敵のほうが一枚上。


 以前と違い肉体的に強化されたクルルは、アンシュラオン以上の速度で走ることが可能になっていた。



「またお前たちか。しつこいな」



 ハイザクの姿をしたクルルが、若干鬱陶しそうに黄装束の面々を見据える。


 その姿は、以前見た時よりもしっくり馴染んでおり、彼が時間をかけて依代の支配を強めていたことがわかる。


 また、死体から剥ぎ取って加工したのか、鈍色の鎧まで着ていた。魔獣とはいえ人間の素体を使う以上、常時裸は違和感があるのだろうか。学術的にも興味深い現象である。



「せめてマーキングを―――」


「小細工はさせぬよ」



 ソラビロが能力を発動させようとした瞬間、身体が粉々に吹き飛ぶ。


 ジュザたちがそれに気づいたのは、飛び散った彼の血肉の一部が自身の身体に付着した時だった。


 目の前にはいつの間にかクルルがいて拳を繰り出していたので、おそらくは殴ったのであろうことは想像できる。



「ソラビロ!」



 ヒロゾラが確認するまでもなく、ソラビロは即死だった。


 いくら自己修復能力があるとはいえ、ここまで破壊されてしまえば戻りようがない。


 続いて、クルルの視線がヒロゾラに向く。



「くっ…グエンシ!」



 クルルの前に、三体のグエンシが立ち塞がる。


 彼らの両手はユシカが使った人形同様に武器腕になっており、真空の刃を発射するが、そのどれもが身体に到達する前に掻き消える。


 生身の状態でもユシカたちの攻撃を防いでいたのだ。軽く戦気を発するだけで攻撃をすべて無効化できる。


 クルルは一体目のグエンシを拳で破砕し、二体目のグエンシを蹴りで粉砕。三体目のグエンシを両手で引きちぎる。


 護衛のグエンシがまったく意味を成さない圧倒的な力の差があった。



「皆さんは逃げてください! これがあれば探知ができます!」



 しかし、ヒロゾラも精鋭中の精鋭である黄劉隊の一人だ。


 三体がやられている間に能力を発動してマーキング。それをさきほど使っていた水晶玉とリンクさせて放り投げる。


 ジュザがそれをキャッチした瞬間、クルルの拳が放たれて、ヒロゾラが兄同様にバラバラに砕け散る。


 まさに命をかけた最期の仕事であった。



「逃げましょう! 勝ち目などない!」



 グエンシの戦闘力は追跡チームで一番だ。


 彼らが秒殺された以上、ジュザたちは一目散に逃げ出すしかなかった。



「支配下に入れる必要性もなさそうだ。不確定要素は排除するか」



 クルルはジュザたちを追う。


 自ら追いかけるのは依代の使い勝手を試す目的もあるのだろう。


 今度は一瞬で殺さず、少しずつ時間をかけて仕留めていく。



「ひっ…ひぃいい! 来るな来る―――ぎゃ!」


「助けて…助けてぇえええ! ぷぎっ!?」



 ハンターが一人、また一人と潰されていく。


 クルルからしてみれば、追跡が専門のハンターなど雑魚中の雑魚。蟻を潰すよりも簡単な作業だ。


 ジュザも投げナイフで牽制するが、当然ながら皮膚どころか鎧にすら傷一つ与えられない始末。


 彼も中の下のレベル帯とはいえ、北部ではかなりの実力者に数えられる武人だ。その攻撃で1ダメージも与えられないのだから、いかに絶望的な状況かがわかるだろう。



「ひぃ、ひぃっ…もう走れね! ぜーぜーー!」



 ここでハンターQの体力が限界を迎える。


 魔獣の追跡が専門の彼ではあるが、敵の臭いに紛れて隠れるのが得意なだけで、ひたすら長い距離を走ることは苦手としている。


 何よりも戦闘タイプではないので、身体能力はあまり高くないのだ。


 そこにクルルが迫る。


 が、追いつかれる寸前にQの足元からモグマウスが飛び出てきて、クルルに噛みつく。



「『やつ』の眷属か。これも目障りだな」



 クルルがモグマウスを握ると、ぐちゃっと音を立てて霧散。命気が周囲に飛び散った。


 その間に二匹目と三匹目のモグマウスが出現して爪で引っ掻くが、鎧にわずかに傷を付けた程度で、それ以上には届かない。


 クルルが闘気を発すると、そのモグマウスたちも焼け爛れていく。闘気の火力がスザクの非ではないのだ。


 モグマウスが五十匹もいれば、デアンカ・ギースのような殲滅級魔獣でさえ倒せることを思えば、たかが三匹とはいえ、即座に排除できるクルルの強さがうかがい知れる。


 そして、さらにクルルが近寄ろうとすると、ジュザの足元から氷が噴き出し、一体の美しい女性を生み出す。


 氷の闘人、クシャマーベである。


 アンシュラオンが魔獣軍との戦いでクシャマーベを派遣しなかったのは、すでにジュザたちの護衛につけていたからだ。それだけ追跡チームが重要であることがわかるだろう。(四大闘人は一体ずつしか生み出せない制約が存在し、その分だけ能力が上がる)


 彼女は車輪盾を生み出してジュザたちの壁になった。それと同時に回転する盾から凍気が噴射されて、クルルを氷漬けにしようとする。


 クルルはそれをよけようともしない。する必要がないからだ。


 発した闘気が凍気と激突。激しい水蒸気を巻き上げながら、クシャマーベに襲いかかる。


 クシャマーベは車輪盾を回転させて闘気の濁流を防御。最初は拮抗していたが少しずつ圧されて、じわじわと削られていく。



「さすがに強固だな。だが―――」



 闘気などクルルにとってみれば児戯に等しい。さらに昇華させて『覇気』を生み出すと、黄金の光が溢れて劇的に強化。


 クシャマーベの凍気はすべて覇気によって防がれるだけでなく、悠々と近寄ってきて、パンチ一発!!


 拳が車輪盾に突き刺さると大きな亀裂が広がり、覇気の放出に耐えきれなくなったクシャマーベが爆散!


 アンシュラオンが有する闘人の中で最強の防御力を誇る彼女が、たった一撃で破壊されてしまう。



「力の発動までの時間が短縮できているな。悪くない成果だ」



 だが、これは当然の結果。


 倒したことよりも覇気を出す工程が楽になった事象を喜んでいる。



(なんだ…この怪物は!! こんな存在がいていいのか!?)



 ここで初めてジュザは、なぜアンシュラオンほどの人物がここまで慎重になるかを理解した。


 クルルから発せられるオーラはアンシュラオンすら超えている。あまりに眩すぎて天地の感覚がなくなるほどだったからだ。


 しかし、闘人のおかげで時間稼ぎができた。


 その間に周辺の魔獣掃討に出ていた命虎が戻ってくると、ジュザとハンターQを背中に乗せて走り出す。


 命虎は一気に加速。猛スピードでクルルから離れていく。



「ふぅ…なんとか助かりましたか」


「はーはー、死ぬかと思た」


「今回ばかりは本当に駄目かと思いましたね。…ん? 自慧伊さんは?」


「え?」



 思えば敵に見つかった時から彼の姿を見ていない。


 その自慧伊がどこにいるかといえば、クルルのすぐ近く。


 覇気の放出を止めた一瞬の隙をつき、隠れていた茂みから飛び出して背中に包丁を突き刺していた。


 クルルがすぐにジュザを追わなかったのは、その姿があまりに異様だったからだ。



「魔め! 見つけたぞい! わしの獲物じゃ!」



(なんだこの生き物は?)



 いきなり背中にフンドシ一丁の老人が張りついてくれば、誰でも不審がるだろう。


 しかもこちらが戦気を放出していない生身状態とはいえ、鎧の隙間にぶっすりと包丁を突き立てているではないか。



「クカカカッ! 驚いたか! この包丁は魔を何十匹も殺した『呪具』じゃ! 侮るでないぞ!」



 なぜ刺さるかといえば、武器に『種族特効』がついているからだ。


 自慧伊の言う『魔物』とは、他者に強い精神操作を及ぼす魔獣を指すが、魔神も魔と呼んでいたように『改造された因子』に対して強い抵抗作用を持つ。


 もっと大きな定義でいえば、『天然ではないもの』に特効を持つと考えればよいだろうか。


 ということは、このクルルザンバードという魔獣にも、魔神同様に何かしらの手が加わっていることになる。



「カカカカッ! 滅びろ! 滅びろ! 滅びろぉおおお! クカカカカッ!」



 自慧伊は狂ったように包丁を突き刺す。


 その目は、まさに狂人そのもの。


 憎しみなのか愛情なのかもわからない、ただただ強い感情だけが宿っていた。


 それをクルルは棒立ちで受け続け、自身から流れる赤い血を静かに眺めていた。



「なるほど、人間同士の戦いではこういうこともあるのか。油断大敵だな。いい勉強になった」



 クルルが肉体を活性化させると、その傷すら即座に修復。戦気を生み出して老人を焦がす。


 それでも自慧伊は包丁から手を放さなかったが、意思とは無関係に指が炭化して落下。全身にも大火傷を負う。



「ごっ…ごげぇええええ! ま、魔…めぇ!」


「相変わらず人間という存在はよくわからぬ。だが、それを導くのも私に与えられた使命だ。まあ、お前は落第だがな」



 クルルは地面に転がった自慧伊を大きな足で踏みつける。


 腹が割れると同時に、あまりのパワーで胴体ごと四肢が吹き飛ぶ。


 しかし、胸から上だけになった老人には、まだ息があった。



「カカカカッ! 貴様は…死ぬ! 死ぬぞ!! どこに逃げても、あの小僧がお前を追いかけて必ず殺す!! 殺すのじゃあぁああ! クカカカカ、怯えろ! 怯えて泣き叫―――」



 自慧伊の言葉は最後まで続かなかった。


 続いて放たれた蹴りで、その頭部まで消し飛んだからだ。


 クルルは、砕け散った自慧伊の残骸をつまらなさそうに見下す。



「私が逃げているだと? …いいだろう。そろそろ白黒はっきりつけてやろうではないか。人間の抵抗勢力を打ち破り、この地域一帯を陛下に捧げるのだ。そのために相応しい舞台を用意してやる」



 クルルが六枚の翼を広げると、深い紫色の波動を出しながら振動。


 それが次第に大きくなっていくにつれて、大地にまで伝播して小さな揺れを生み出す。


 それに伴い、転がる石も茂る草木も、大気も含めて、あらゆるものが深い紫色に染まっていった。


 大地が染まれば、今度はその影響が近くにいる魔獣にまで伝播。


 たまたま近くにいたネズミ型の魔獣の目が突如として真っ赤に染まり、しばらくもがいていたと思ったら、いきなり立ち上がって走り出す。


 ネズミはひどく狂暴性を増しており、自身を制御できずに仲間の魔獣にまで噛みついていく。


 その噛みつかれた魔獣も目が赤くなり、また違う個体に噛みつく。その連鎖によってどんどん数を増やしていった。



「感じる…感じるぞ! 私の中に宿った凄まじい力を! さあ、この地で無残に死んだ縛られし魂たちよ! 怨嗟の炎を燃やして呪詛となり、『災厄』を引き起こせ!」



 クルルの身体、その中心に植えられた『災厄の種子』が活動を開始。


 三袁峰で死んだ数多くの魔獣と海兵たちの『負』を増幅させて呪詛に換え、爆発的な速度で翠清山全体を汚染していく。



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