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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
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426話 「最終決戦 その6『総力戦』」


「赤鳳隊もいきます! 援護しますよ!」



 やってきたのはサナたちだけではない。


 ソブカ率いる赤鳳隊も戦闘に参加。


 彼らも術式武具を手に入れたことで戦力を増し、数こそ少ないが随所で光る動きをする。



「わしらもいくぞおおおお! オジキに恥をかかせるなよ!」



 そして、敵からすれば一番の想定外は『黄劉隊』の参加である。


 ユシカとコウリュウはアンシュラオンと帯同(監視)しているが、隊員の大半はこちらに回っていた。


 怪力の虎男(本名ガイフー)を中心に、片手が鎌の男(右鎌男のヨウジャン、左鎌男のゾウジャン)や衝撃波を放つ海老男(本名ワンビン)、三つの腕で刀を振る男(本名サンダオワン)等々、アンシュラオンと戦った面子が敵陣に突撃。


 さすがに数が多いので個別の紹介は割愛するが、とりあえずガイフーと呼ばれる虎男が最古参の副将格であり、コウリュウのことをオジキとして慕っているようだ。


※『オジキ』はマフィアの幹部クラスを呼ぶときの敬称。一番偉い親分は『オヤジ』と呼ぶ。マングラスの場合、家長のグマシカがオヤジで、幹部であるコウリュウとセイリュウがオジキにあたる。マングラス傘下にいる末端の各組の組長もオジキと呼ばれるが、彼らからすれば格上のコウリュウは『兄貴』となる。


 ユシカは魔獣との戦いに哀れみと躊躇いを抱いていたが、それは彼個人の思想であり、黄劉隊自体はゴリゴリの武闘派だ。


 いざ敵との抗争になれば力を振るうことに迷いはない。相変わらずの戦闘力で次々と敵を討ち取っていく。



(さすがマングラス最強の実働部隊。隊長のコウリュウさんがいなくても、これだけの戦果を挙げますか。まだまだ彼らを打倒するには準備が必要ですねぇ)



 ソブカにとっては敵だが、今は都市の覇権の前に北部が生き残らねばならない。


 本来は敵である二つの勢力が、アンシュラオンという強力な接着剤によって一時的に協力。


 その怖ろしいまでに尖った戦闘力により、熊の軍勢が一気に半壊していく。


 一番警戒しなくてはならない空を飛ぶグレートタングルたちも、マスカリオンの命令で参戦を禁じられているので特段の動きはない。


 今のところは離れた場所で熊の輸送を続けているものの、あくまで監視にとどめている状況であった。



「…じー。ぶんぶん」



 その様子を見ていたサナは、熊の相手を赤鳳隊と黄劉隊に任せ、自分たちは進路を銀鈴峰側に向ける。


 手を振って白の二十七番隊に標的の変更を伝えると、破邪猿将軍の背後に突撃。


 これによって猿神の軍勢を四方から囲む状況が生まれた。(スザク隊は正面突撃している)



「ついに来たか! 遅すぎるぞ! だが、最高のタイミングだ!」



 グランハム側からすれば、もっと早く援護が欲しかったところだが、あまり登場が早すぎても敵が対応してしまうだろう。


 サナたちが何が起きても反応できる場所にいたため、敵の援軍に即座に対処しつつ、素早く奇襲を成功させることができたのだ。


 その前にアンシュラオンがマスカリオンの足止めに向かっていたからこそ、サナたちへの警戒が薄れたので、すべてが連動しているといえる。


 後方が崩れたことにより前への圧力が劇的に減少。グランハムにも全体を見る余裕が生まれる。



「戦士隊は最後の踏ん張りを見せろ! 他のすべての隊は私に続け!」


「おうっ!!」



 メッターボルンの戦士隊が血みどろになりながら、身体を張って敵を圧し込む。


 その隙にグランハムが残った全戦力を投入し、サナたちの攻撃によって脆くなった箇所に攻撃を集中することで完全崩壊。


 破邪猿将軍の半数は統制を失い、散り散りになって逃げ惑う。


 所詮は魔獣と言いたいところだが、これだけの攻撃を受ければ人間の軍でも同じことが起きただろう。



「雑魚は追うな! 今こそ勝機だ! 敵の中核部隊を討つ!」



 踏ん張って踏ん張って踏ん張って、ようやく得た勝機だ。


 未来が見えれば人間は勇気と活力が湧くものである。一人一人が今まで以上の働きをすることで形勢逆転に成功。



「あと少しですわ! がんばりますわよ!」



 休んで回復したベルロアナも、武器を弓に変化させて敵陣に撃ち込む。


 光の矢は上空に舞い上がると何十にも分裂して落下。


 アラキタが使った『雨囲うい射天矢しゃてんし』に似ているが、こちらは本物の矢を使わない『三星昂射さんせいこうしゃ』の分裂版で、同じく因子レベル6の『天星昂射てんせいこうしゃ』という技になる。


 『オルワンフェス・ゴールド〈金獅子の咆哮〉』発動時は、ベルロアナの因子は戦士と剣士が8まで覚醒するが、今までの攻撃を見ている限りは、因子レベル6までの発動にとどまっているようだ。


 これはベルロアナがまだ少女であり、それ以上の技には身体が耐えられないことが原因だと思われる。潜在意識が無意識に歯止めをかけているのだ。


 だが、このレベル帯の敵に対して因子レベル6の技は過剰。空から降り注ぐ光の雨が敵を蹂躙する。


 それに続いてグラス・ギース軍も突撃。最後の粘りを見せて敵の数を減らしていく。


 そして、彼らが切り開いた道に走り込むのは、黒い少女。



「…じー」



 サナの目が逃げ惑う猿たちの行動を予測し、無駄な接触を避けつつ最短距離で中央に向かっていく。


 理想的な足運び、全体の流れを見る戦術眼、器用な武器の持ち替え。翠清山で得たすべての経験を生かして突き進む。


 人を惹き付けるのはアンシュラオンだけではない。不思議なことに他の者もサナが生み出した流れに続いてしまう。


 護衛のサリータたちが付き添うのは当然だが、ベルロアナも彼女が進む道を追いかけ、背後が危険にならないようにサポート。


 右に左に真っ直ぐに。


 一閃一閃が稲光の形を取り、迅雷となって戦場の中心部に踊り出る。


 目の前には、マキやファテロナと戦っている中核部隊のグラヌマーハの群れ。


 サナを見つけた個体は、足元から突然出現した人間の少女に一瞬戸惑ったが、反射的に剣を振る。


 しかし、すでに準備ができている彼女の前で、それは悪手。


 無意識に剣を振ったことで不安定な体勢になり、サナは軽々と回避するだけではなく、その速度のまま大地を蹴って高速斬撃を繰り出す。


 全力の剣気と青雷を乗せた刀身が、グラヌマーハの首を捉えて―――斬!!


 刃は腱を断ち切り、筋肉を遮断し、骨を抉り、ゴリィンと小気味よい音を立てて首が飛ぶ。


 あのグラヌマーハを、特殊個体になれば右腕猿将や左腕猿将にもなる討滅級でも中位に位置する猿の精鋭を、たった一撃で屠る。


 乱戦の中で敵が混乱していたことを考慮しても、トップスピードに乗った時のサナの攻撃力は群を抜いていた。これも翠清山での戦いによって著しく強化されたポイントといえる。


 勢いのままサナの瞳に闘争本能が宿り、身体に力が満ちる。


 魔石とのシンクロ率も上昇していくことで青雷狼と融合を開始。魔神戦では半分しかなかった頭部も、今はしっかりと狼を模した兜に覆われている。


 融合化したことで身体能力が劇的に向上。一瞬で破邪猿将にまで至り、ファテロナ同様に背後から彼の足を狙う。



「ギッ!」



 破邪猿将はファテロナにやったように、スザクに振った剣をあえて素通りさせて背後のサナを狙う。


 が、ここでサナが急ブレーキ。


 足から生えた青雷の爪を使って大地を噛み締め、速度を緩めないままに軌道を変化!


 右足を狙うと見せかけて、左ふくらはぎに―――『一閃』!


 高速スライダー以上、たとえるのならば壁に当たったボールが百二十度変化したように、突然軌道を変化させれば簡単には見切れない。


 刃は破邪猿将の具足を破壊しながら肉を切り裂き、さらに雷撃の追加効果が発生。


 バチンッ!と全身を駆け巡る激しい衝撃に、破邪猿将の動きが止まる。


 これには破邪猿将も驚きを隠せない。破邪眼の自動カウンターを初見で回避した者は今までいなかったからだ。これも火乃呼との戦いによって体得した体術が生きた形になる。


 ただし、身体が大きすぎるせいか感電の効果も若干薄く、すぐさま大剣を持つ手に力を込めて離脱中のサナを狙う。



「うおおおおおおおおおおおお!」



 しかし、破邪猿将がサナに追撃を見舞う前に、すでにサリータが飛んでいた。


 全力の爆熱加速で一気に突っ込み、破邪猿将の腕に盾ごと体当たり!


 その剛腕を弾くほどではなかったものの、外側から押されたために手が懐に入ってしまい、次の剣撃のための行動に移れない。


 サリータは激突の衝撃で斜め上に吹っ飛んでいったが、猿神の王に一撃入れればたいしたものだ。


 続いて、サリータにワイヤーを引っ掛けて一緒に飛んできたベ・ヴェルが、投げ出されるままに破邪猿将に暴剣を叩きつける!


 が、たかだか数百キロの重さでは、十メートル級の破邪猿将はびくともしない。軽く身体を動かす程度が関の山だ。


 特殊な防具の恩恵があるサリータはともかく、通常レベルの武人が相手にできるような魔獣ではないのだ。これは仕方がない。


 ただし、ベ・ヴェルはこれでいい。


 その背後から伸びてきたユキネの剣硬気が、破邪猿将の首を狙う。


 破邪猿将はこの連携にも見事に対応。


 身体を捻って強引に大剣で切り払い、一撃でユキネの剣硬気を破壊。粉々になった白い剣気が宙に霧散する。


 剣硬気は剣気の塊なので間合いを伸ばせる反面、刀身自体の攻撃力が加算されないデメリットもあるので競り負けるのは当然だろう。


 が、彼女もこれでいい。



「破邪猿将ぉおおおおおおおおお!」



 ここで本命のスザクが風聯と雷聯で、二連一閃!!


 サナたちに気を取られたことで無防備な体勢で受けてしまい、頑強な鎧に亀裂が入って、中にまで到達。刃を伝って血が垂れる。


 やはり危険なのはスザクだ。他の雑魚よりも遥かに厄介である。


 しかしながら、どうしてもサナだけは無視できない。


 破邪猿将がスザクに反撃しようとした時には、すでに準備を終えた彼女の第二撃目が襲いかかろうとしていた。


 今度は刀ではなく、左手で取り出したのは、銃。


 発射された弾丸は破邪猿将の肩に当たると爆発。周囲に煙を吐き出して視界を潰す。


 まさかこんなことをしてくるとは思わなかった破邪猿将は、どうしても対応が遅れてしまう。


 そこに再び加速したサナが跳躍。顔を狙って剣撃を見舞う。


 咄嗟に破邪猿将が動いたことで口元に命中するが、それでも唇を切り裂き、歯茎を抉って前歯が砕けて―――バチーンッ!


 青雷によって口内が真っ黒に焼け爛れる。



「キ゛キ゛キ゛ィ―――!!!!」



 これには破邪猿将も激怒!!


 『聖剣化』のスキルが発動し、白熱した大剣で『豪腕剣舞』。荒れ狂った台風のように周囲一帯を手当たり次第に破壊していく。


 一騎討ちが破綻したため、それに伴ってグラヌマーハがサナやスザクに押し寄せて中央でも本格的な乱戦が勃発。


 ただでさえ入り乱れる戦いが、泥沼の様相を呈する。


 しかし、この乱戦は予想外のものではなく、あくまで『サナが演出』したものだ。


 荒れ狂った代わりに隙が多くなった破邪猿将に対し、サナは雷撃や術符を使った中距離攻撃に徹することで、少しずつダメージを蓄積させていった。


 猿神が自身よりも遥かに大きいことを利用し、グラヌマーハたちを隠れ蓑にしつつ、隙間からチクチクと攻撃することで反撃を受けないで済んでいる。


 これにはスザクも舌を巻く。



(なんて勝ちに徹した戦い方をするんだ! これがサナさんの戦い…いや、アンシュラオンさんの闘法か!)



 スザクは別行動が多かったため、ア・バンド戦を含めてサナの戦いを見るのは初めてである。


 その実力はアンシュラオンの妹に相応しいものであるが、それだけの力がありながら無駄なリスクを負わないように工夫を凝らしている。


 ただし、これだけサナが活躍しても、あくまで『囮』だ。


 ここでの真打ちは、敵の注意がサナに集中したことでフリーとなったホロロと小百合である。


 ホロロが飛ばした羽根が破邪猿将に突き刺さると同時に、タイミングを合わせて小百合の能力が発動。破邪猿将の精神体を隔離しようと試みる。


 が、巻き込まれた側近のグラヌマーハ数頭を昏睡させることはできたが、破邪猿将自身は『破邪眼』が術式を妨害。


 『聖剣化』があらゆる術式を破壊する能力を持っているのだから、破邪眼にも同様の力があってしかるべきだろう。


 だがしかし、ここで好きにさせないのがサナという存在である。


 小百合が精神攻撃を仕掛けた瞬間には死角から接近。大きな腕を駆け上がって眼前に跳躍すると、破邪眼の根本に刀を突き立てる!



「ッ―――!!」



 刃は額に刺さり血が噴き出るが、潰すまでには至らない。


 驚いた破邪猿将が大剣を振り回したため、サナは退避するも、この一撃は大きかった。



「サナ様、ナイスです! 一気に引き上げますよ!」



 一時的に破邪眼が停止したことで、聖剣化が解けて術に対する耐性が大幅に低下。


 そこを狙って小百合が精神体を掴み取る。


 破邪猿将は抵抗するが、そのたびにホロロの術式が神経に強烈な痛みを与えるので集中できない。


 そして、ついに破邪猿将の精神体を引きずり出すことに成功。


 魔神ですら隔離できるのだ。いかに強いとはいえ、討滅級の域を出ない彼に抵抗できるわけがなかった。



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