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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
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425話 「最終決戦 その5『増援と援軍』」


 ファテロナは、メイドの動きに釣られたグラヌマーハの影に隠れ、完全に姿を消す。


 そして、破邪猿将がスザクに攻撃を仕掛ける瞬間を狙い、『飛影』を発動。



(うふふ、スザク様には申し訳ありませんが、将討伐の戦果はこちらがいただきます。そう、これが本当の私! 汚く卑しい闇の女なのです! デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ!)



「イエス、アイドゥー!!!」



 破邪猿将の影から出現したファテロナが、血恕御前で具足の継ぎ目を狙う。


 暗殺者ならではの視覚外からの攻撃は簡単に避けられるものではないうえ、彼女には毒がある。少しでも入れば致命傷になる可能性は高かった。


 そのあまりに完璧な立ち回りに、スザクですらまだファテロナの存在に気づいていないほどだ。


 しかしながら直後、ファテロナの瞳に『白い線』が映り込む。


 それは彼女の肩口から胴体を進み、下に突き抜けていき―――ブシャーーッ!


 ヒヤッとした感触とともに皮膚と筋肉が大きく切り裂かれ、噴き出した大量の血液が深緋色の髪にべったりと貼りつく。



(私の動きに気づいた? いえ、あの状況下でそんなことはできません。これが『野生の勘』というやつでしょうか)



 破邪猿将は、スザクに振って外れた大剣を背後にまで振り抜くことで、ファテロナを迎撃したのだ。


 彼自身はファテロナの存在には気づいていなかったが、第三の目である『破邪眼』による自動カウンターが発動した結果である。


 破邪猿将は、血が飛んで初めてファテロナに視線を向ける。その目には侮蔑の感情しか宿っていなかった。


 そう、邪魔が入るのはわかっていたこと。それに文句などは一切ない。すべて承知の上で叩き斬ればよいだけのことである。


 胴体まですっぱりと斬られたファテロナは、反射的に大きく飛び退いたので追撃は受けなかったが、かなりの大ダメージを負ってしまう。


 傷口は大剣が発する熱で収縮しているものの、剣が魔獣サイズなので傷が深く、ドクドクと流れ出る血が止まらない。


 これでもベルロアナの能力で強化されていたことで、この程度で済んだのだ。何もバフを受けていなければ一撃死だったはずだ。



「フフフッ…フヒヒ! や、やってくれますね。いいでしょう! この血を全部受け止めて! 死ぬ時は一緒よマイダーリン!! いぇえええーーーっす!! カモッ!! 指輪は給料の三ヶ月分、リボ払いで!」



 興奮(狂乱)したファテロナが、傷口を掻き混ぜながら血毒を撒き散らそうとする。


 このあたりが元賞金首。いざとなると周りを平然と巻き込もうとする。


 戦場全体にさらなる緊張が走るが―――



「待ちなさい!!」



 追いついてきたマキが、ファテロナの胸に平手打ち。


 掌から入り込んだ鉄が薄く広がってまとわりつき、出血を止めてしまう。


 普通に打ち込むと細胞を侵食して増加してしまうが、マキが能力を制御したおかげで表面だけでとどまっていた。



「あああ! なんてことを! 私の玉のお肌に異物がぁあああ! キーーッ! 離れろ! ガリガリガリッ!」


「こら、剥がさないの! 止血してあげたんだから感謝なさい! それに、放っておいたら毒を撒くつもりだったでしょう!」


「ノーノー!! 誹謗中傷被害妄想マルチ被害!」


「嘘おっしゃい! 使うなら限定的にしなさい! 味方を巻き込まないように!」


「なにこいつ、うぜー! 命令スンナヨナー」


「うるさいわね! ほら、後ろ!」



 ファテロナの背後に迫ったグラヌマーハの剣を、マキが拳で弾き返す。


 その拳にも一瞬だけ痺れが残るほどの強い一撃である。


 破邪猿将だけが脅威なのではない。この群れ全体が討滅級の上位種で占められているのだから放置はできない。


 今現在も近くでアルが奮闘して敵を引き付けているからこそ、これだけの圧力で済んでいるのだ。



「破邪猿将はスザク様に任せて、私たちは少しでも取り巻きの数を減らすわよ!」


「ボスを倒すのが主命なれば、それを成就するのが武士の本懐でござる!」


「武士ってなによ!? いいからやる!」


「アァアアーー! ヤメロー! チクビツマムナー」



 よくわからない奇声を発しつつも、マキとファテロナは取り巻きのグラヌマーハと戦闘開始。


 一見すればスザクの援護に回った形であるが、逆にいえば彼女たちには、破邪猿将と戦うだけの力がないことを示している。



(破邪猿将は思っていたよりも遥かに強いわ。私も前回失敗して警戒されているし、この状態でまともにやりあえる相手じゃない。残念だけど、今はスザク様しか戦える状態にないわね)



 ハイザクが被弾無視だったせいでわかりづらいが、破邪猿将の斬撃の正確性は極めて高い。


 しかも攻撃力はガンプドルフ級。鉄化で強化したマキでさえ、一撃で落とされる危険性がある。


 それを考慮すれば、真正面から戦っているスザクのほうがおかしいのだ。今はシダラたちも危険視した若獅子の才能にかけるしかない。



(感じる! 僕の血潮が燃え盛っている! これが本当の海賊の血なのか!)



 スザク自身、破邪猿将と戦うごとに力が増し、因子が覚醒していく実感を得ていた。


 第二海軍の仇敵とも呼べる魔獣ではあるものの、その威風堂々とした戦いぶりに邪気は存在しない。ただただ純粋で力強く、自らの強さをアピールしてくる。


 やはり翠清山の魔獣は他とは異なる。より人間らしさを抱いているのだ。



「グランハム、そろそろもたないぞ!」



 しかし、中央で激闘が繰り広げられている一方、戦線を維持する側のグランハムは非常に忙しい。


 勢いで押せたのは最初だけで、敵側の圧倒的な物量に呑まれつつある。


 その結果、メッターボルンたち戦士隊にも数多くの負傷者が出ており、もはや壊滅は時間の問題であった。



(アンシュラオン、まだか! せめて闘人の援護がなければもたぬぞ!)



 アーシュラはすでに消えてしまったので、こちらには奥の手がない。


 スザクが成長して破邪猿将と互角になっても敵の精鋭部隊は健在。マキやファテロナたちが粘っているが、体力がいつまでもつかわからない状況である。


 そのうえ『最悪の事態』が起きる。



「何か近寄ってくるぞ!」



 山頂の監視部隊が警告を発する。


 その視線は下ではなく『上』に向けられていることが重要だ。


 監視の目が捉えたものは、空を飛ぶ『グレートタングル〈鷲爪河馬〉』の群れだった。


 数はおよそ八十頭で、それだけでもかなりの戦力ではあるのだが、問題は彼らが運んでいる『大きな籠』にある。


 籠にはいくつもの縄が付いており、それをグレートタングルたちが引っ張りながら、さらに風の術式も使って浮かせているようだ。それにより通常のヒポタングルよりも重いものを運ぶことができる。


 彼らは少し離れた場所で籠を落とすと、中から何かが出てきた。



 それは―――【熊】



 籠は大雑把に造ったものではあったが、一つで約五十頭の熊を運ぶことできる大きさがあった。


 これは普通の熊に近い『グスマータ・デビル〈岩掘悪熊〉』を基準としたものなので、それより小さい眷属たちならば二百頭以上は運べる計算になる。


 籠はリレー方式で次々と輸送され、対面の山にはすでに推定で約一万の熊神の兵が集結していた。


 それでも輸送は止まらず、時間をかけるごとに敵の数は増えて山肌が黒く染まっていく。


 その光景に監視部隊は言葉が出ない。脳裏に浮かぶのは最悪の未来だけであった。


 緊急報告を受けたグランハムも、さすがに顔色を失う。



(ここで共闘か!! たしかに第二海軍がその戦術で負けたとは聞いているが、最悪のタイミングだ!)



 マスカリオン軍は、ただ待機していたわけではない。


 アンシュラオンとの戦いにグレートタングルたちが参加していなかったことからも、自身が動かない代わりに熊の輸送を手伝っていたことがわかる。


 熊神の軍勢はアンシュラオンが削ったとはいえ、最低でもまだ六万以上はいるはずだ。


 もしスザクが破邪猿将に勝っても、増援がやってくれば確実なる死が訪れるだろう。



(嘘でしょっ!! これは本当にまずいわ!)



 マキたちにも動揺が走り、せっかく生まれた起死回生の機運が萎んでいく。


 猿神の軍勢の中にもそれに気づいた者がいたのか、キーキーと甲高い声を出している個体もいた。


 唯一、破邪猿将だけは不快そうな表情を浮かべたが、それを黙認する様子が見て取れる。彼も勝利のためならば、援護を受けることもやむをえないと考えているのだろう。


 もう駄目だ。おしまいだ。


 そんな感情が人間側に走る。


 しかし、その中にあってベルロアナだけが、なぜか遠くを見つめていた。


 彼女には焦った様子はなく、なんとなく安堵しているようにも見受けられる。



(ベルロアナ様、何を…?)



 その様子が気になりマキが視線を追うと、熊の軍勢の後ろ側面から突撃してくる部隊があった。


 まず最初に見えたのは、青く光るいかづち


 凄まじい勢いで雪山の傾斜を駆け抜け、そのあまりの速さに背後で発生した雪崩がスローモーションに感じるほどだった。


 『彼女』は敵軍の眼前に到達すると同時に、魔石を全開放。


 青い雷をまとった狼が出現し―――



―――「バォオオオオオオオーーーーーンッ!」



 『サンダー・マインドショックボイス』が、熊の群れを切り裂く。


 軽く掠っただけでも、そこから雷撃が侵入して肉体と精神をズタズタに引き裂くので、普通の魔獣は防ぎようがない。


 密集していたことが災いし、この一撃でおよそ五百の熊が絶命。青い咆哮が突き抜けた先では、ただただ破壊の痕跡と熊の死骸だけが残されることになる。


 サナはそこで一度止まって、雷を充填開始。


 その間に敵陣に飛び込むのは、魔石獣との融合を果たしたホロロ。


 彼女が山の傾斜から跳躍すると、まるで浮遊するかのように落下が遅くなり、敵の頭上に陣取る。


 そこから大量の羽根を放射し、熊たちに突き刺さると能力が発動。


 神経を直接蹂躙するあまりの激痛に白目を剥いて、バタバタと倒れていく。


 敵であれば全力での行使が可能なため、その威力はいつもの数倍。青雷同様にショック死する個体もいれば、神経が焼き切れることで意識はあっても二度と動けなくなる個体が続出。


 続いて魔石獣と融合化した小百合が飛び込むが、雑魚が多いので精神攻撃は使わずに物理で対応。


 ポケット倉庫から大量の岩を吐き出すと、『跳躍移転』を使って次々に飛ばしていく。


 軽く手が触れるだけで高速で飛んでいく岩は、ぶつかる側にはしっかりと質量が乗るので吹っ飛ぶだけではなく、それ自体が邪魔をすることで動きを封じてしまう。


 そこに再充填を果たしたサナが、青雷狼を使って再び蹂躙。


 援軍で登場したばかりの熊たちは、黒焦げになったり痙攣してのたうち回ったりと、損壊した身体を引きずる阿鼻叫喚の図と化す。


 強襲が成功したことを受け、ホロロと小百合は一度サナの後ろに戻る。


 そこでようやく、ユキネたちが追いつく。



「もう派手にやってるじゃない! 速すぎなのよ!」


「す、すごい。我々は追いつけもしなかったのに…」



 サリータも全力で走っているのに、あの魔石組三人は秒で置いていく。それだけ身体能力の向上が著しいのだ。



「俺らの役目は援護だ! 嬢ちゃんたちを守るぞ!」



 下がったサナたちを追い越してゲイル隊が前に出ると、混乱した熊たちに追撃。


 その手際は見事で、傷ついて動きが鈍った熊の急所を狙って一撃でとどめを刺し、まだ反撃してくる個体に対しては盾を使って押し返す。


 黒鮭傭兵団は人数の都合上、Eランクにとどまっているものの、その実力は警備商隊にも劣らない。


 しかも今は、ディムレガンからもらった術式武具を身に付けており、戦闘力が各段に上昇。討滅級の魔獣でさえ、手負いならば問題なく対処が可能となっていた。


 熊の攻撃を受けても鎧に付与された『物理耐性』によって衝撃は半減され、各箇所に導入された補助機構が動きをサポート。スムーズに反撃にまで移行できる。


 手に持った斧は大きいわりに振り回しやすく、強靭な魔獣の筋肉や骨すらも一刀両断できる。


 その姿は、もはや歴戦の戦士。一人一人が名有りの武人に匹敵する活躍を見せる。



「こいつはすげぇ! やっぱり武具は大切だな!」



 これにはゲイルも嬉しそうだ。


 傭兵にとって優れた武具は自身の安全を保障するものだ。場合によっては金よりも喜ばれるだろう。



「我らもサナ様を守るぞ!」


「右側は任せな!」



 サリータも左腕猿将戦で借り受けた鎧を正式にもらい、最低限のチューニングを受けたことで身体にもフィット。


 サナに近寄る敵を、盾とボムハンマー〈爆破杭槌〉で迎撃。


 背中の噴射機構(爆熱加速)を身体に負担がかからない程度に上手く使って敵を弾き飛ばしつつ、隙があればボムハンマーで攻撃を見舞う。


 あくまでサナを守ることに集中し、継戦力を維持することに徹しているので安定した活躍を見せていた。


 対するベ・ヴェルは、ガトリング砲を持ち出して豪快に射撃。


 味方がいない場所ならどこでもいいと言わんばかりに、乱雑に敵を薙ぎ払い、弾幕を乗り越えてくる個体がいれば、片手で暴剣を振るって蹴散らす。


 その姿は、昔話に出てくる荒くれ者の鬼を彷彿させる。


 もう何をやってもいいと割りきったせいか、荒っぽさに磨きがかかり、それが良い方向に転んでいるようだ。


 難点であった防御も烽螺が編んだ鎖帷子を身に付けているので、そこらの魔獣の爪程度は簡単に弾き返してしまう。


 こうしてサナの安全が確保されれば、ユキネも安心して攻撃に専念できる。


 左腕猿将を討ち取って自信がついたのか、本来の翻弄する動きで敵陣を攪乱。剣撃に関しても気迫が乗った剣豪の圧力で敵を寄せつけない。


 白影命月の強化を受け、十メートルまで伸ばした剣硬気を振るって、ばっさばっさと敵を切り裂いていく。


 敵が息を吹き返して反撃の様相が見えれば、そこでまたサナが雷撃放射。思考や理性を一瞬でズタボロにして、またもや敵陣はパニックに陥る。


 ちなみにアイラの姿が見えないが、彼女は火乃呼たちと一緒に待機中である。良く言えば護衛またはお目付け役、悪く言えば戦力外ともいえるが、火乃呼の相手ができる数少ない人材なので適材適所だろうか。


 こうして敵側が増援を送れば、こちらもアンシュラオンから白の二十七番隊という強力な援軍が送られることになる。


 彼女たちの登場により、場は一気に人間側に傾く。



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