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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
422/617

422話 「最終決戦 その2『その先にある未来』」


「よくぞキタ! キサマの相手はワレだ!」


「へぇ、本当に人間の言葉がわかるんだな。お前にもっと早く会いたかったよ」


「それはこちらもオナジだ! この前の借りをカエスぞ!」



 マスカリオンが、翼を広げて細かい光の粒子を放ってくる。


 アンシュラオンは、カーテンルパの出力を上げて回避。


 ジェット噴射で空に舞い上がり、槍を投擲する。



「ヌルイ!」



 大気を切り裂いて迫ってきた槍を、マスカリオンは爪で弾き返す。


 ただ弾くのではない。


 飛ばされた槍の柄は大きく『抉れ溶けて』いた。


 アンシュラオンは初見なので以前の姿は知らないが、今回のマスカリオンは『完全武装』である。


 素の爪である『覇鷹爪』はもともと強力な武器だが、スザクに割られたことからも絶対的なものではないし、まだ完全に治っていない。


 それを保護しながらもっと攻撃力を上げるために、爪の上からさらに大きな爪型の武器を装備している。


 『天将てんしょう竜勢火風りゅうせいかふう』。


 火乃呼が打った術式武具で、火と風の魔石を組み込んでいるため、ただ振るだけでも鋭い斬撃と一緒に強力な炎を生み出すことができる。


 マスカリオンは術が使えるので必要ないが、離れたところから振っても風の刃で敵を切り刻むことができる優れものだ。


 それに加え、銀翼をコーティングする形でカミソリ状の刃をそなえ、身体にも動きを阻害しない程度の鎧を着込んでいた。


 鎧はいくつもの鎖帷子を重ねたサナの陣羽織に近いもので、空を飛ぶ都合上、できるだけ軽量化した様子がうかがえる。(烽螺は製作に携わっていない。もっと大味に鎖を重ねたもの)



「空はワレの世界! 二度とオクレは取らぬ!」



 マスカリオンが風の術式を展開。


 こちらもジェット噴射のごとく、急加速で上昇。


 アンシュラオンもカーテンルパで追うが、それをさらに引き離す勢いで突き進む!


 銀翼の飛翔は一万メートルを超え、さらに千、二千と昇り続けて一万五千メートルにまで到達。すでに翠清山どころか、北部の人間が暮らすエリアがすべて一望できる領域にまでたどり着く。



(あいつ、すごいな)



 これには素直にアンシュラオンも感嘆。


 カーテンルパ単独ならば追いつくこともできるが、さすがに自分を乗せてそこまで行く自信はない。


 厚い雪雲を突き抜けて穴が生まれ、そこから太陽の光が降り注ぐ光景は、なんと神秘的なのだろうか。


 おそらくマスカリオンにしても、あれだけ高い場所まで飛ぶのは初めてだと思われる。それだけ空にかける想いが強いのだ。


 しかし、これは攻撃するための準備段階。


 マスカリオンは―――急降下!


 音速を超えて空気の壁をぶち破り、周囲に衝撃波を撒き散らしながら一直線に向かってくる。


 こちらもフェイントを交えながらカーテンルパを加速させるが、マスカリオンの目は、この速度で落下しながらも敵を完全に捕捉していた。


 その姿は、まるで小さな隕石の落下。


 アンシュラオンが牽制で放った戦弾も、勢いの強さと折り畳んだ銀翼によって弾かれる。



(いい気迫だ。ますます欲しくなる)



 マスカリオンもスザクとの戦いによって成長していた。一度死ぬ覚悟を決めた者が強いのは人間と同じである。


 回避を諦めたアンシュラオンは、剣を使って迎撃。


 弾丸のように上空から襲いかかる爪を狙って剣を叩き込む。


 両者の得物が激突!


 凄まじい火花が空に散る。


 敵が重力加速度を利用したため、パワーは互角。アンシュラオンは戦いながらも闘人を完全に制御しているので足場が崩れる心配もない。


 多少押されて清翔湖の上を滑空することになったものの、攻撃を防ぐことに成功する。


 が、次の瞬間、マスカリオンの武器が光り輝くと、火と風が交じり合い―――爆発!


 アンシュラオンは戦気でガードするが、バランスを崩したことで空中に放り出されてしまった。


 だが、即座にカーテンルパを呼び寄せて着地。再び上昇して事無きを得る。



(危なかったな。カーテンルパに身体を固定していたら、あのまま湖に墜落だった)



 移動中は命気で身体を闘人に固定しているが、咄嗟にそれを解除したことで衝撃を散らすことができたのだ。


 しかし、持っていた剣が爆発の衝撃で破損。ヒビが入って黒ずんでおり、刀身が死んでいた。


 それだけマスカリオンの勢いが激しかったともいえるが、武器の質の差が如実に出た結果だろう。


 『天将てんしょう竜勢火風りゅうせいかふう』の最大の特徴は、火と風の複合術式を発生させる点である。


 言ってしまえば、引き裂いた相手に防御無視の爆発の追撃を加えるもので、威力も大納魔射津以上の厄介な代物だ。


 魔石の力が尽きるまで何度でも使用できるうえ、マスカリオンの魔素を吸収して回復できるので継戦力もある。



(火乃呼のやつ、面白そうな武器を作りやがって。相変わらず素材が良ければ良いほど実力を発揮するな。敵に回すと本当に面倒なやつだよ)



 今までの戦いでもわかるように、大量に作らせた剣が簡単に折れているが、これは逆に火乃呼が良い鍛冶師の証拠でもある。


 なぜならば同じ衝撃を受けても、マスカリオンの武器は損傷していないどころか、さらに強度を増しているからだ。


 武具に使う素材が良ければ良いほど、彼女の鍛気はよく混じり合い、素材の良さを引き出していく傾向にあった。逆に一般に流通するような粗雑な素材では、超高温の焔紅を受け止められないのである。


 だから切れ味や硬度は増しても靭性や粘度が足りず、たいして使っていないのに自身の攻撃力に負けて自壊してしまう。それが壊れやすい理由の一つになっていた。



「こんなブキを作るニンゲンは怖ろしい存在だ! 放ってはオケヌ!」



 マスカリオンは、再び急上昇。


 アンシュラオンは『水覇・天惨雨』を放つが、高速移動中は衝撃波を生み出しているため、それらが防護膜となり大きなダメージにはならない。


 遠隔操作で槍を投げつけてみても爪や翼でガードされる。マスカリオンの鎧は翼も保護しているため、攻防力が劇的に上昇しているのだ。


 そうしている間に高高度に上昇されてしまえば、さすがに射程距離外となり、手も足も出なくなる。



(地形が空であることが最大の強みになっている。最初に警戒していた通り、一番やりにくい魔獣だ。そして、一番賢い魔獣だ。武器の使い方をよく理解しているし、人間のことも侮っていない。何よりも覚悟がいい。あれだけ高く飛べば自分にもダメージはあるはずだ)



 高高度における高速機動は、マスカリオンにとっても厳しい環境である。


 それでも彼は飛ぶ。その間だけはすべてを忘れることができるからだ。


 その姿を見て、アンシュラオンは叫ぶ。



「マスカリオン! 勝負をしようぜ! オレが勝ったら部下になれ!」


「バカなことを―――イウな!」



 急加速してきたマスカリオンと、新たに取り出した剣が再び交錯。


 こちらの剣も鋭い斬撃と爆発によって破壊されるが、アンシュラオンは笑う。



「いいぞ、マスカリオン! お前の力をもっと見せてみろ! オレは鳥も飼ってみたかったんだ! ただの鳥じゃない! 一番強い猛禽類の鳥だぞ! カッコイイよな!」



 マスカリオンは、その言葉を無視して『天風地威てんぷうちい』を放つ。


 対するアンシュラオンは、因子レベル4の『烈迫断掌れっぱくだんしょう』を上に放って迎撃。


 細かい戦気の粒子が光の風と激突し、何百もの小さな閃光が空を花火のように美しく彩る。


 ただし、これはあくまで囮。


 斜めに急降下してきたマスカリオンが、風の術式を使って強引に急旋回。アンシュラオンの背後に回り込む。


 これはカーテンルパを参考に取り入れた新しい動きであり、従来のヒポタングルにはなかったものだ。



「シネ!」



 背後から爪が襲いかかる。


 しかし、アンシュラオンは自身の力で飛んでいるわけではない。


 カーテンルパの上で軽くステップを踏んで真後ろに振り返り、両手の戦刃で爪を受け止める。剣ではなく戦刃で受け止めたのは、相手との距離が近すぎたためだ。


 それと同時に爆発が発生するが、アンシュラオンはすでにその場にいない。


 カーテンルパを足場に跳躍すると、自らを大空に投げ出したまま蹴りを放つ。


 蹴りはまるで空を滑るかの如く、見事にマスカリオンの肩を狙い撃ち。鎧を着ていても吸収しきれない衝撃に骨が軋む。


 が、これで終わらない。


 アンシュラオンはその場で回転しながら、再び空を滑る動きで蹴りを放つ。


 普通に考えれば、蹴りの衝撃で離れてしまって落下するはずだが、マスカリオンが磁石になってしまったかのように連続ヒット。


 覇王技、『空天くうてん滑蹴撃かっしゅうげき』。


 【ゼブラエスが生み出した】、文字通り空中で蹴りを放つ因子レベル4の技である。


 戦気術を使って身体を制御することは、因子レベル2の『裂空疳蹴撃れっくうかんしゅうげき』と同じだが、こちらは敵にも自身の戦気をまとわりつかせ、それを引っ張ることで空中での連続攻撃を可能とした技だ。


 しかもそれを十回連続で叩き込めば、さらに上位である因子レベル5の『空天くうてん鳴裂滑蹴撃めいれつかっしゅうげき』となる。


 アンシュラオンが使ったのは後者で、凄まじい速度で放たれた十連続の蹴りがマスカリオンの鎧を破損させていく。



「…クッ!」



 思わぬ反撃を受けたマスカリオンは、落下するように急速離脱。



「まだだ。逃がさないぞ」



 アンシュラオンは追撃。


 膨大な剣気で膨れ上がった剣硬気が、およそ三百メートルの長さとなって、逃げるマスカリオンに襲いかかる。



「―――ッ!!」



 マスカリオンは咄嗟に分身。


 かろうじて回避するが、刃は執拗に襲いかかってくるので、敵の間合いから慌てて離れる。


 しかし、今度は剣硬気を放ったまま武器を投擲してきた。


 以前スザクが使った『インジャクスヒュペルソード〈魔光銃剣〉』も刀身を放つことができたが、長さはせいぜい五十メートル程度にすぎない。


 今回は三百メートルの回転する刃かつ、宿ったエネルギーはスザク以上のものだ。(遠隔操作の資質がないと、剣から手を離した段階で剣気は消えてしまう)


 マスカリオンは、両翼を折り畳むことで完全ガードの構え。


 なんとか弾くことには成功するが、翼には恒例行事のごとく大きな傷が残ってしまった。



「キサマあぁああああああ!! よくも―――」



 そうして再び翼を広げた時には、アンシュラオンはいない。


 しかし、それを捜す余裕はなかった。


 視界に映ったカーテンルパは、今までよりも大きくなっており、さらには武装が追加されていたからだ。


 翼下に装備された大筒から、レーザー発射!


 発射しているのは水気であるが、螺旋状に回転力を付与されて吐き出される超圧縮の水は、怖ろしい威力を持つに至る。


 マスカリオンは急速浮上を試みるが、間に合わない。


 水のレーザーが鎧を破壊しながら胸に突き刺さり、背後に突き抜ける。



「グバッ…!」



 貫通する前に身体を捻ったことで致命傷は避けるも、胸は大きく削られて赤い血が噴き出していた。


 『武装闘人』化したカーテンルパは、さらなるエネルギーを与えられて攻撃力が激増。マスカリオンの防御力程度ならば簡単に貫けるようになる。


 ただし、これは闘人による援護射撃にすぎない。


 直後、背後にアンシュラオンが出現。マスカリオンの後頭部を蹴り飛ばす。


 マスカリオンは地面に向かって墜落するが、さらに追撃。


 カーテンルパの子機を大量に生み出して集中砲火。


 何千ものガトリング(水気弾)が襲いかかり、ガードした翼ごと身体をズタボロにしていく。



「ウオオオオオオオオ!」



 マスカリオンは、急加速することで強引に包囲網を突破。


 全速で上空に逃げていくも、すぐ真後ろにはカーテンルパに乗ったアンシュラオンが迫っていた。


 今度はぴったりとマークされてしまい、カーテンルパのレーザーにも邪魔をされて勢いに乗れない。



(ありえぬ! 人間相手に、なぜ空で我が後れを取る! 空こそ我が領域! 絶対の場所なのだ!)



「我はソラでは負けぬ! マケテはならぬのダァアアアア!」



 反転して爪で攻撃しようとしたマスカリオンだが、すでにアンシュラオンは懐に飛び込んでいた。


 爪を掻い潜り、腹に『水覇・波紋掌』を叩き込む。



「ごっ―――バッ!」



 内臓を破壊され、口から大量の血を吐き出す。


 それでもまだ落ちることなく浮遊しているだけでもたいしたものだが、目は血走っており、気合だけで耐えていることがわかる。



「キサマはナンダ!! ナンナノダ!! なぜ空中でこうもタタカエル!! 翼もないオマエが、なぜ!」


「単純にオレのほうが強いからだよ。お前はオレには勝てない。空でも地上でも、どっちでも結果は同じだ」


「キサマもワレらを追い詰めるか! ニンゲンめ! 絶対にユルサヌ! ユルサ―――」


「マスカリオン!!!」


「ッ―――」


「考えを広げろ! 小さな枠組みで考えるな! 魔獣だろうが人間だろうが、善いやつは善い! クズはクズだ! その程度の境目に囚われるな!」


「ニンゲンとワレらは…相容れぬ!」


「オレは違う。オレならば人も魔獣も同時に支配できる!」


「結局は同じドレイであろう!」


「頭を使え。破滅を選ぶな。お前たちが唯一生き残る方法は、オレとともに生きることだけだ。ごくごく少数だが、グラヌマの一部はオレの側に下ったぞ。それ以外にも、こちらに味方している魔獣がいる」


「ザレゴトを!」


「戯言かどうかはすぐにわかることだ。では、違う角度で訊こう。お前たちの新しいボスはどこにいる? なぜすぐに出てこない? もしかして、お前たちを捨て駒に使っているんじゃないのか? 同じ魔獣なのに扱いが酷いもんだな」


「そ、ソレハ…」



 クルルは、マスカリオンたちでは手に負えない人間が一人いるからそいつは自分に任せろ、と言っていたはずだ。間違いなくアンシュラオンのことだろう。


 しかしながら実際は、魔獣軍を捨て駒にして様子をうかがっている。それは配下のフクロウの挙動を見ればわかることだ。


 マスカリオンの動揺を感じ取ったアンシュラオンは、さらに詰める。



「汚いやり方だが利口ではある。お前ならば知っているだろう。この世では、他者を騙して利を得る者たちが勝者となっている。人間の世界では欲望も多いから、なおさらその傾向が強い。このまま抵抗を続けていても、いずれはそういった連中がやってきて根こそぎ奪っていくぞ」


「どうせシヌのならば…戦って…シヌ!」


「誇り高いな、マスカリオン。オレのかつての仲間たちも故郷のために死んでいったが、どうせその誇りすら踏みにじられることになる。最後はすべてを奪った薄汚い連中が高笑いするだけだ。そんな結末をお前は認めるのか?」


「ッ…」



 アンシュラオンの目に宿った怒りの炎に、マスカリオンが竦み上がる。


 この男がどんな手段を使ってでも生き延びようとするのは、前世での体験が大きく影響しているのだろう。


 かつての仲間の姿が、翠清山を死ぬ気で守るマスカリオンに投影されているからこそ、最後の最後まで説得を続けるのだ。



「守る意思があるのならば何があっても負けてはいけない! 今度はオレたちが勝つ側になるんだ! 翼を広げろ! お前はどこにでも行ける! 飛べるんだ! ならばオレのために翼を捧げろ! 忠誠を誓えばヒポタングルの庇護と繁栄は約束する!」


「………」


「迷うな! クルルザンバードはオレが殺す! それをもってオレに下れ! このアンシュラオンの支配下に入るんだ! お前たちの未来はオレが作ってやる!」


「アンシュラ…オン…」



 マスカリオンは、その名前を何度か反芻してみる。


 いきなり出現して、ほぼ単独でマスカリオン軍を蹴散らした男。眷属は殺したがヒポタングル自体に死者はいないという事実。


 普通の人間とは明らかに違う気配と魅力を持ち、魔獣である自分すら惹き付けてしまう謎の存在感と、根拠のない自信で豪語する力強さ。


 その姿にヒポタングルとの和平を生み出し、この北部一帯に平和と繁栄をもたらしたグラス・タウンの初代五英雄の姿が重なる。



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