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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
421/619

421話 「最終決戦 その1『憂いと挑発』」


 侵攻開始、九十八日目。


 スザク軍の動きに合わせて破邪猿将軍が進軍を再開した一方、マスカリオン軍はいまだ清翔湖で待機を続けていた。


 彼が頑なに動かないのは、戦力の維持だけが目的ではなく、今後の戦いを見据えているからだ。


 未来が見えるからこそ、マスカリオンは憂う。



(人間は生息数が段違いに多い。本当の消耗戦になったら不利になるのは我々のほうだ。弱い、弱すぎる。なんと弱い種族なのだ)



 翠清山だけの戦いに限れば圧倒的な数ではあっても、外に出れば簡単に覆る頼りないものである。


 よく地球でも獣害事件が話題に上るが、『種全体』で考えれば圧倒的に人間のほうが強い。


 たとえば数十万人が犠牲になろうとも、何十億人もいる人類からすれば、まったくもって微々たる犠牲にすぎないだろう。


 そのうえ本気で駆逐しようと思えば、爆撃や化学兵器、戦術核を含めた大量破壊兵器を有しているのだから、海以外であれば絶滅させるのはそう難しくはない。


 この世界でも北部以外の場所から大量の人間がやってくれば、翠清山の魔獣が絶滅する可能性は十二分にある。


 それを想像するだけで、身震いするほどの恐怖を抱くのだ。



(…迷うな。少なくともこの地域から人間を排除しなければ、我らの未来はない。今は『やつ』に利用されようと、何もせずに死ぬよりは戦って死んだほうがよいに決まっている)



 マスカリオンは『種としての敗北』をすでに悟っていた。


 おそらく魔獣軍の中で、この思考に行き着いたのは彼だけだったはずだ。


 他の者たちはそこまで理解力がないか、あるいは人間を侮りすぎており、その先に待ち受ける破滅に気づかない。クルルがいようがいなかろうが最終的には敗北が待っているのだ。


 そんな悲壮感を隠し持つマスカリオンに、西側から『三つの人影』が接近。


 ヒポタングルの監視がスザクたちに向けられていたことで、完全に不意打ちの形になる。


 まずは先頭を走っていたアンシュラオンが、空に向かって水気弾を発射。


 水気弾は眷属を貫きながら上空に到達すると、大爆発。


 押し出された水気が、細かい針となって撒き散らされる。


 覇王技、『水覇・天爆針てんばくしん』。


 『水覇・天惨雨』の派生技で、水気を針にして放射する因子レベル5の技だ。雨より範囲は狭まるが、それだけ威力を増した『水気の手榴弾』のような技である。


 技を受けた魔獣は針に貫かれて死ぬか、掠っても自慢の翼をボロボロにされて落下する個体が続出。


 しかもそれが連続して発射されるものだから、敵としてはたまったものではない。


 逃げ惑う暇もなく次々と眷属たちが撃ち落とされ、あっという間に大きな穴が生まれる。


 仮に敵が反撃を試みても少数ならば無視。だいたいは攻撃の余波で死ぬか、防御の戦気に触れて消失するだけだ。


 その後もアンシュラオンは、さまざまな派生技を使いながら空の敵に対応。さして苦にもしない様子で敵陣を疾走していく。


 詳細な情報を得たことで無理に力をセーブする必要がなくなったのだ。すでに頭の中では、クルル戦まで想定した力配分が計算されている。



(パワーも技量も桁違いなんだぞ。これが本気になったアンシュラオンの力か)



 後ろを走っているユシカは、改めて技の多彩さに驚愕していた。


 マングラスにもさまざまな技術が蓄積されているものの、因子レベル5以上の技については明るくない。『水覇・天爆針てんばくしん』に関しても初めて見るものだった。


 それもそのはずで、因子レベル5は『下界における最上位の技』だからだ。


 因子レベル5からは『第二応用』とされる分野で、4の応用をさらに複雑化させた技の形態に入る。簡単にいえば小学生から中学生に上がり、二次関数等の高度な応用問題をやるようなものである。


 しかも一般には秘匿されている情報であり、基本的には師匠から弟子への口伝でしか覚える方法はない。


 伝授以外で学ぶには因子を活性化させて独学で得る方法もあるが、当人の資質に大きく影響される要素であるため、狙った技の習得は極めて難しいといえる。


 覇王から直々に技を伝授されたアンシュラオンは、この点において圧倒的なアドバンテージがあった。歴代覇王が体得した技の真髄がしっかりと継承されているのだ。



(俺たちがやってきたことは何だったのか。こいつを倒すためだけに生き延びたのに…すべて無駄だったのか)



「おい、何もしないのならば一緒に来るな!」


「ぶべっ!! 何をする!」



 ショックを受けているユシカに、アンシュラオンが土を投げる。


 いきなりの理不尽な行動ではあるが、後ろからただ見つめられるだけなど、アンシュラオンからしても苦痛以外の何物でもない。



「ストーキングしか趣味がないとは、なさけないやつめ。陰鬱な雰囲気がすごいから近寄るな」


「うるさい! 俺にはお前を監視する役目があるんだぞ! どこで悪さをするかわからないからな!」


「それなら少しくらいは働け。それとも高度な戦いには、ついてこられないのか? まあ、ワンパンだしな、ワンパン。ははは! はずかしー!」


「お、お前!! 何度も言うな!」


「だってさ、いかにも『俺がやるんだから下がってろオーラ』を出しておいて、ワンパンはないよな。あれはマジで笑ったぞ。あんなに恥をかかせるなら手加減してやればよかったよ。ゲラゲラゲラ!」


「ネチネチ、ネチネチと! お前のほうが陰湿だろうが!」


「ただ走るだけならアイラだってできるんだ。やっぱりお坊ちゃんには実戦はきつかったかなぁ。気遣ってやれなくてごめんな」


「いいだろう! マングラスの本当の力を見せてやる!」



 ユシカがポケット倉庫を取り出すと、一斉に大量の人間が出てきた。


 否。


 よくよく見ると、それは『精巧な人形』。


 大きさはまちまちだが、腕や肩に銃火器を取り付けて武装している点は同じである。



「ポケット倉庫にそんなものを入れていたのか」


「ポケット倉庫? 『出し入れポン』だろう」


「はぁ? なんだそりゃ?」


「この術具の名前だ」


「どう見てもポケット倉庫だろう」


「なんだその名前は! 出し入れポンが正解だ!」



 と、無駄なことで言い争う両者だが、ポケット倉庫も出し入れポンも同じ術具を指す言葉である。


 もっと言ってしまえば、両方とも正式名称ではないので不正解なのだが。



「で、そいつをどうするんだ? お人形ごっこはガンセイだけで十分だぞ」


「闘人を操れるからといい気になるなよ。なにもお前みたいに戦気で作る必要はないんだぞ!」



 ユシカは両手の指から『念糸ねんし』を生み出すと、それらを人形と結合。


 念糸は以前アルが、サナの魔石に介入する際に使ったり、魔力珠の結合にも使ったことからも一般的な術式といえる。


 しかし、ユシカが生み出した念糸の数は百に至り、結合された百体の人形を同時操作。


 一斉―――砲撃!


 マシンガンやバズーカはもちろん、砲台やガトリングといった重火器が眷属たちの群れに発射される。


 数には数。


 大量の砲撃によって、空を埋め尽くす黒い鳥影に大きな穴が生まれた。



(こいつらが使っている銃は普通じゃないな。明らかに違う技術体系のものだ。スザクの武器に近いかな?)



 アンシュラオンは、人形の高い戦闘力に違和感を覚える。


 人形の中には黄装束の隊員と同じく、真空の刃や空圧を放っているものもいるが、やはり通常の武器とは威力が桁違い。武器の機構そのものが違うのだ。


 グラス・ギースより繁栄しているハピ・クジュネでも、こんな武器は見たことがない。


 となると、これも西部から来た技術か、あるいはスザクのようにどこかの遺跡から手に入れたものなのだろう。



(こんな技術を兵隊にも利用しているんだから、衛士隊よりも強いのは当然か。ソブカの気持ちもわかるな)



 このことから黄劉隊の一般隊員は、兵器を移植した『機械人間』であることがわかる。言ってしまえば全員が鷹魁のようなものだ。


 機械のほうが因子を移植するよりも拒絶反応と副作用が少なく、比較的楽に隊員を増やすことができる。さらに人材を管理する勢力なので数も多い。強いのも納得である。


 しかし、逆側の立場からすれば、このような危険な技術を独占しているマングラスは脅威に映る。


 かといって技術を公開してしまえば、悪い意味でグラス・ギースが目立つことも理解できる。そこで平行線が生まれているわけだ。



「手が足りない! コウリュウ!」


「はっ!」



 ユシカがいるところには必ず彼がいる。


 コウリュウは手から炎の槍を生み出すと、遠投!


 普通の腕力ならば空に届くわけもないが、見た目にそぐわない剛力から放たれた槍は、斜め一直線に突っ込んで激突。


 一撃で数十羽といった眷属たちを串刺しにして、燃やしながら破砕する。


 アンシュラオンにやられた傷は完全に癒えていないものの、人間形態では問題なく動けるまでに回復しているようだ。(『自己修復』スキルは時間経過で復活する)


 ここでもマングラスの連携は見事で、ユシカの死角を的確にカバーすることで負担を減らしていた。



(『マングラスの双龍』が一角、剛のコウリュウか。パワーとスピードに特化した戦士かつ、単純な物理戦闘では低出力モードのオレと互角の実力者だ。ユシカも煽れば上手く動いてくれるし、こいつらのおかげでピースがそろったな)



 琴礼泉を出た時、アンシュラオンの中には一抹の不安があった。


 もっと強大な敵がいたら。それが複数いたら。アラキタのようにクルルに身内が操られたら。


 そんな心配事がたくさんあったのだが、それらをユシカとコウリュウ率いる黄劉隊が埋めてくれた。


 何よりも彼らは、クルルに操られない貴重な存在だ。安心して場を任せることができる。



「ユシカ、ここは任せる」


「なっ…どこに行く!?」


「マスカリオンと遊ぼうと思ってな。あいつには少し話があるんだ」


「この状況下で話だと!?」


「この状況下だから都合がいいんだ。じゃあな、がんばって踏ん張れよ」


「ま、待て…ぐっ!」


「たかが低級魔獣どもが、若に近寄るな!」



 アンシュラオンが持ち場を離れた瞬間、一気に敵の圧力が増大。


 ユシカたちは追うことすらできず、否応なく乱戦に巻き込まれる羽目となる。


 しかし、コウリュウが全方位に炎を放射することで、近寄る眷属らは一瞬で消し炭にされていた。あの猛者がいれば後れを取ることはないだろう。


 それを見届けたアンシュラオンは風の闘人カーテンルパを生み出し、背に乗って空を飛ぶ。


 火乃呼の剣を取り出すと、コウリュウのように敵陣に投擲。


 こちらも凄まじい勢いで眷属を蹴散らしながら、わずかに込めた剣気を遠隔操作することで、ブーメランのような軌道を描いて広範囲を蹂躙。


 続いて槍を投げれば、これまた一直線に空を切り裂き、眷属の背後にいたヒポタングルに命中。


 肩と翼を貫かれた個体は、徐々に高度を落として地面に墜落していく。



「ほらほら、早くどかないと翼がなくなるぞ! さっさと道を開けろ!」



 アンシュラオンは、そのまま強行突破を敢行。


 雑魚はカーテンルパで蹴散らし、ヒポタングルたちは翼を狙うことで撃ち落としていった。


 その姿にマスカリオンも興味を引かれる。



(あの人間が『アレ』を生み出していたようだな。あちらが本体か)



 乗っている人間は初めて見るが、カーテンルパは嫌というほどよく知っている。


 アンシュラオンの狙いは、間違いなくマスカリオンだろう。


 これ見よがしにカーテンルパを使っていることからも、自分を挑発しているのだ。


 スザク相手にあれだけ無視を決め込んでいたマスカリオンであるが、堂々と空で勝負を仕掛けられれば受けるしかない。



―――「よかろう! 自ら名乗り出るとは面白い! お前たちは手を出すな!」



 マスカリオンが大声で号令を出すと、アンシュラオンから魔獣が離れていく。


 アンシュラオンもあえて追わず、軽く投擲で牽制するにとどめて待っていると、そこに銀の翼が舞い降りてきた。



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