420話 「最後のピース その7『協定』」
「人は活動によって活性化し、より力強くなります。豊かになることは罪ではありません。災厄によって一度築いたものが壊されたからといっても罰ではありません。それでは何のために生きているのかわからなくなります」
「人は間違いを犯しすぎた。災厄はそれを抑制するシステムだ。罪を認めておとなしくするほうが賢い生き方なんだ」
「ユシカさん、仮にそうであっても、すでに事は起きてしまっているのです。あなたが黄劉隊を連れて外に出ていること自体が、それを証明しています」
「俺たちが来たのは後始末のためなんだぞ。それが終わったらすぐに戻る」
「後始末とは?」
「翠清山の魔獣を焚きつけた存在の始末だ。今回の一件に関しては、少なからずマングラスにも責任はある。被害を最小限に抑えるために、元凶を討たねばならないんだぞ」
「これはこれは、まさかの事態ですねぇ。その元凶とは、三大魔獣を操っている新種の魔獣のことですね。何か情報をお持ちならば教えてください」
「断る」
「我々の目的もその魔獣です。ならば、その一点においては協力し合えるのではありませんか?」
「やつはマングラスが討つ。それが責任の果たし方だ」
その後もソブカは説得を続けるが、ユシカは首を縦に振らない。
マングラスには『自分たちだけが重荷を背負う』という雰囲気が漂っている。それが他派閥には傲慢に映るのだろう。
が、ここでアンシュラオンが素朴な質問をぶつける。
「なぁ、どうしてここにいた? 山にいる目的はわかったが、なぜこの地点にいたか、という意味だ」
「…態勢を立て直していただけだ」
「立て直すということは、一度その魔獣と接触したな。その様子だと【負けた】か」
「っ…! なんでそんなことが…」
「わかるんだよ。お前からは負け犬の臭いがする。だからそんなに焦っているんだろう」
「貴様、若に向かってなんたる口を! 侮辱も甚だしい!」
「コウリュウ、お前も勝ち目がないと踏んだから逃げたんじゃないのか? まあ、そんなお荷物を抱えていれば全力も出せないよな」
「言わせておけば!」
「やめろ、コウリュウ。負けたのは事実だ。やつの力を見誤った。適切な戦力を投入できなかった俺たちのミスなんだぞ」
「くっ…セイリュウがいないことが悔やまれます」
コウリュウは単体でも強いが、双龍の名の通り、セイリュウと二人で戦うことで真価を発揮する。その点においては必ずしも負け惜しみとはいえない。
が、負けは負け。
クルルにも負けてアンシュラオンにも負けた。まだ命があることのほうが不思議なのだ。
「こちらも撃滅級魔獣だとは想定しているが、そんなに強かったのか?」
「ランクだけの問題じゃない。能力が特殊すぎる。お前でも簡単にはいかないんだぞ」
「その可能性もあるから慎重に行動しているんだ。お前たちがその魔獣とどう関わっているかは知らんが、やる気がないなら早く帰れ。お望み通り、グラス・ギースでひっそりと息を潜めて暮らせばいい。それならオレと関わることもないだろう」
「お前はグラス・ギースには来ないのか?」
「悪いが、ああいう閉鎖的な場所は好みじゃないんでね。事実オレの家はハピ・クジュネにあるし、スレイブ集め以外でそっちに戻る予定はない。話を聞いている限り、お前たちの心配事はグラス・ギースの安全だけのはずだ。仮にオレがお前たちの言う災厄の魔人だとしても、グラス・ギースに近寄らなければ問題はないはずだ」
「………」
ユシカは、じっとアンシュラオンの様子を探る。
魔人であることには違いないが、災厄の魔人という雰囲気ではない。なぜわかるかといえば、彼は一度【本物に出会ったことがある】からだ。
(俺にはわかる。こいつは災厄の魔人なんだぞ。他の誰にもわからずとも俺にだけはわかるんだ。身体に埋め込まれた因子が、こいつが災厄の魔人だと告げている)
かつてのアンシュラオン、という表現が正しいかはわからないが、ユシカが見た災厄の魔人は、まさに破壊の権化であった。
しかも魔人は、ラングラスの長と結託して当時の都市を滅茶苦茶にした。
災厄の魔人が怖ろしいのは、人間としての性質を持っているがゆえに非常に狡猾で残忍な点だ。心の隙間に入り込み、人々を悪の道に誘惑する。
そうしてジングラスの戦獣乙女は殺され、ハングラスの長も殺され、ベルロアナの先祖も殺されてしまった。一人一人確実に。
そして、災厄の日。
都市は四大悪獣に襲われ、防衛力が著しく低下していたグラス・タウンは手も足も出なかった。ユシカもコウリュウもセイリュウも地獄の炎に包まれながら、その場で息絶える寸前であった。
かろうじて生き延びられたのは、地下に保存されていたマングラスの秘宝の力と、それを管理していた『傍系の男』がいたからだ。
(『ジジイ』がいなければ、俺はあの時に死んでいた。…いや、一度死んだんだ。こんな身体じゃ人間として生きているとはいえない。だからこそ、何があっても災厄を防がねばならない。そう決めたんだぞ)
マングラスが災厄の魔人に対して敵意を抱くのは、至極当然のことだ。
逆に今の子孫たちがアンシュラオンに対してあまり警戒を抱かないのは、『当時の記憶を失っている』からである。
生き残ったユシカたちは、逃げ延びた五英雄の血筋を守りこそしたが、そこに憎しみを植え付けなかった。それだけ悲惨な記憶だったからだ。
そして、三百年かけてマングラス単独での防衛計画を練ってきた。さまざまな魔獣の力を受け入れたことも、その選択肢の一つである。
(でも、何かが違う。以前のような禍々しい気配がない。まるで毒気だけすっぽりと抜け落ちてしまったような…)
「お前の姉が災厄の魔人だと言ったな?」
「ああ、そうだ。それは確定している」
「災厄の魔人が二人…何が起きているんだ?」
「知るか。そもそもそっちが誤認しているほうがおかしいんだよ。それにな、今気づいたが、次に災厄が起きるとしたら『姉ちゃんが引き起こす』ことになるんだよな? お前たちにとっては災厄を引き起こす存在が災厄の魔人のはずだ」
「だからなんだ?」
「断言するが、もし姉ちゃんが本気でグラス・ギースに攻め入ったら、一日も防衛できないぞ。いや、一時間すら怪しい」
「これが俺たちの本気じゃない。都市に戻ればいくつもの防衛策がある。仮に四大悪獣が一斉に攻めてきても対応できるんだ」
「まるで話にならない。レベルの桁が違う。おそらく一撃で城壁が全部吹っ飛ぶ。二撃目で街ごと領主城までが消し飛ぶ。そして、三撃目で地盤ごとグラス・ギースが地図から消える」
「馬鹿な! そんなことはありえない! 都市には『裏側の結界』だってある! 撃滅級魔獣の一撃だって防げるんだぞ!」
「その撃滅級魔獣すら、あの人は一撃で何十体も殺せる。オレだって本気の姉ちゃんが相手なら一分間も戦えない。お前たちが相手にしようとしているのは、そんな化け物なんだよ。それを理解しているのか?」
「…ありえない。そんなに強くはない…はずだ」
「お前たちはオレにも勝てなかった。だったら本物の災厄の魔人に勝てるとは思えない。少しは現実を見ろよ」
「ぐぬぬ…」
何も言い返せないのは悔しいが、アンシュラオンの言う通り、災厄の魔人が以前と同じ強さであるとは限らない。
実際にマングラスの戦力は、かつての災厄の魔人のデータに合わせて調整されている。当時のままならば防衛は可能であるが、それ以上ならば負けてしまうだろう。
「アンシュラオン、お前の目的は何だ?」
「オレは自由に暮らしたいだけだ。今回翠清山の戦いに参加したのも、可愛い妹や妻たちに不自由をさせないためだ」
「何を言っている?」
「お前が訊いたんだろうが。オレが欲しいのは金と女と、姉ちゃんから追われない安住の地。それだけだよ。その中でも女性が最優先だ。オレだけを愛する女性をたくさん集めたいんだ。おっぱいに囲まれて暮らす。男にとってこれ以上の幸せがあるのか?」
「嘘だ…そんな俗的なこと……」
「嘘をつく理由がない。欲しいものを欲しいと言っただけだ」
そのアンシュラオンの言葉に、ソブカも深く頷く。
「本当ですよ。私が得た事前情報と、自分の目で見てきた事実から間違いはないと断言できます。アンシュラオンさんは激しい変化をもたらす存在ですが、少なくとも無秩序に破壊を好むわけではありません。むしろ、より人間臭いとも思えますねぇ」
こんな欲望塗れの発言を保証されても恥の上塗りなのだが、本当なのだから仕方ない。
だが、ユシカにとってはショックが大きすぎたのか、狼狽にも似た困惑の瞳を向けている。
彼らが死ぬ気で災厄への対策を立てている間、この男はおっぱいのことしか考えていなかったのだ。理解できなくて当然だろう。したくもない。
「まだ完全に覚醒していない…のか?」
「お前がそう思いたいのならば、そう思っていればいい。だが、今のままでは災厄は防げないどころか、場合によってはグラス・ギースは孤立する。ますますジリ貧だな」
翠清山の魔獣が勝てば交通ルートが使えなくなる。
海沿いのハピ・クジュネは再建が可能だが、北にあるグラス・ギースは完全に補給路を断たれてしまうだろう。
ただでさえ寂れているのに、今度は人々の食糧の確保すら危うくなれば、都市内部が荒れるのは必至。災厄の前にトラブルが続出して自滅するおそれもある。
「さあ、どうする? それでもまだ引き篭もるか? それとも諦めるか?」
「何があっても諦めない! 立ち向かう力を求め続けるしかないんだ!」
「単独では無理だ。そして、過去だけを見ていても何も変わらない。姉ちゃんのことも知らなかったんだ。すでにお前たちのデータは古いことが証明されている」
「マングラスに表に出ろと言いたいのか? 他の派閥と協力しろと?」
「グラス・ギースの派閥問題に興味はない。どうするかは自分たちで決めろ。ただし、この翠清山の戦いを早く終わらせないと被害が拡大する。長引くと金ばかりかかるからな」
「俺たちに…何をさせたい?」
「その魔獣の詳細な情報を渡せ。事前に能力を把握しておけば、勝率がぐっと高まる」
「お前を信じろと?」
「信じるもなにも、それくらいは無条件で渡せよ。結果的にマングラスの失敗の尻拭いをするんだからな」
「…わかった。情報は渡す。しかし、お前の手伝いはしない。俺たちは俺たちで動く」
「それで十分だ。好きにしろ」
「コウリュウもいいな?」
「すべては若のもの。異存はございません」
ユシカは歯軋りをしながらも、まずは目的の達成を優先。
大きな機密を隠しつつ、今までの経緯をアンシュラオンたちに伝える。
その内容に一番驚いたのはソブカだった。
「【西部】からの魔獣…ですか?」
「そうだ。大災厄の時も四大悪獣たちは西からやってきた。今でもたまに違う魔獣が西からやってきては『災厄の芽』を撒き散らすんだぞ」
「災厄の芽とは?」
「今起こっていることと同じだ。やつらに触れると、大なり小なり魔獣に異変が起こる。だから早期の討伐が必要になる」
「そのような情報は初耳ですねぇ」
「マングラスの機密だからな。お前たちが気づく前に俺たちが処理していた。それが黄劉隊の役割の一つでもある」
「ハローワークを通さず、ですか?」
「当然なんだぞ。西からの魔獣の侵攻を抑えるのは、グラス・ギースに課された重大な使命だ。ただ、ある程度の情報が漏れるのは仕方ない。それをコントロールするのもマングラスの責務だ」
「なるほど、すでにハローワークには手を回していると。人材を管理するマングラスらしいですねぇ。癒着の温床ですか」
「人聞きが悪いことを言うな。人を動かすためには金とコネクションが必要だ。どこの派閥もやっていることなんだぞ」
世界的機関のハローワークとはいえ、そこで働くのは小百合のような一般人が大半だ。職員の安全確保のためにも、どうしても地元の勢力とは良好な関係を築くしかない。
そして人材を管理するマングラスがゆえに、ハローワーク職員は無理にしても、その下請け業者を使って情報を制御することが可能となる。常日頃から仕事で接するのだから、さりげなく賄賂を贈ることもできるだろう。
アンシュラオンがデアンカ・ギースを倒したことも、都市に戻ってからは、ほぼリアルタイムで情報が伝達されていた。それほどマングラスの支配力は強いのだ。
「しかし、西部は荒廃した大地と聞いたことがあります。魔獣の狩場以西は、人も立ち入れぬ魔境です。そんな環境下に生息する魔獣が、わざわざ東にやってくる理由があるのですか?」
「理由は不明だ。なぜか連中は人間に惹かれて東に寄ってくるんだ」
「魔獣ではなく?」
「お前たちも魔獣の暴走は見たはずだ。その目的は人間の排除に繋がっている。災厄の一部分だと認識してもいい」
「だから災厄の芽、ですか。災厄魔獣とは、いったい何なのですか? あなた方は正体を知っているのでしょうか?」
「正体はわからない。俺たちは死骸から取り出した素材や因子を利用しているだけだ」
ユシカとソブカの対話は続くが、それを聞きながらアンシュラオンは思考をまとめていた。
災厄魔獣という言葉でまず思い出すのが、デアンカ・ギースだろう。
(テンペランターのおばあさんは、デアンカ・ギースを『造られた存在』と言っていた。こいつらの人体改造の様子からも、おそらくは遺伝子操作か魔神製造の技術が使われている可能性がある)
ユシカは隠しているものの、彼ら自身が半身半獣なのだから、その技術を一部流用していることは丸わかりだ。
西からやってくる魔獣を捕獲または死骸を研究して、さまざまな技術を取り込んだ結果が、今のあの姿なのだろう。
(そして、魔獣を暴走させているのが、デアンカ・ギースの原石の呪いにもなっていた『災厄呪詛』である可能性が高い。西側にいる魔獣はなぜか『人間への憎悪』を持ち合わせていて、今回やってきた魔獣によって拡散されて今に至るわけか。まあ、それが本当に災厄の魔人のせいかはともかく、現地人からすれば災厄と呼んで差し支えないよな。こうなると西の大地に何かがあるのは確定っぽいな)
と、いろいろと疑問点があるのだが、問題は此度の魔獣が特別だった点だ。
アンシュラオンがユシカに、さらなる情報提供を迫る。
「で、今回は思った以上に強くて、無様に逃げ回っていたところだったんだな。弱いやつがでしゃばるからだ。反省しろよ」
「お前に言われると本当にムカつくんだぞ!」
「事実だろう。そいつは今までと何が違った?」
「…より高い知性を持っていた。そのうえ、魔獣だけではなく『人すら操る能力』を持っていたんだ。それで不意をつかれた」
「アラキタのように、か。しかし、魔獣に比べて人間を操る能力は限定的に思える。違うか?」
「魔獣はやつより格下ならば何でも支配できるが、人間の場合は一定の精神抵抗力があれば阻害できる。現に俺たちはやつには操作されない。そういう対策を練っているからだ」
「それは面白い。お前から見てオレたちはどうだ?」
「災厄の魔人を支配できるやつなんていない。すでに支配下にいる魔人種たちは、お前の支配が優先されるはずだ」
「魔人種…サナたちのことか。それによる悪影響はないのか?」
「魔人に感化された者たちは全員死ぬ。従来ならばそのはずだが…今にして思えば、それは災厄の魔人が同時に滅びるからかもしれない。災厄の完了とともに魔人は消えるんだぞ」
「ふむ、役目が終わると消える、か。単純に力を使い果たすせいかもしれないな。それでも姉ちゃんが死ぬとは思えないが…」
「それと、キブカランとかいったな。お前もだ。精神構造が常人とは異なる」
「それは嬉しい情報ですねぇ」
白の二十七番隊は、アンシュラオンがいるので問題はないらしい。また、小百合とホロロの操作対策も短期間ならば有効のようだ。
一方で赤鳳隊は、ソブカと鷹魁以外は怪しいらしい。
今度は逆に、その鷹魁にユシカが詰め寄る。
「そこのでかいやつ、どこでその技術を手に入れた?」
「あ? 俺?」
「人間の機械化技術は、まだ表側には流れていないものだ。どこで入手した?」
「知らねぇって。気づいたらこうなっていたんだよ。つーか、あんたらも半分獣なんだから大概だけどな!」
「あっちのやつの人形も…くそっ、あれも流出したのか。他派閥が余計な力を持ってはいけないのに…」
どうやらガンセイの戦闘人形もマングラスが保有していた技術らしい。
否。
正しくは『西の大地から入手』したもののようだ。
クルルが最初に宿っていた存在も半分機械化していたので、そのあたりからも考察が可能である。
「技術の独占はどうかと思いますがねぇ。公表すべきでは?」
「本来ならば機密を知ったお前たちを消すところだが、お優しい若様は無駄な殺生を望まれない。それくらいで満足しておくのだな」
ソブカの提案を即座にコウリュウが牽制。
彼らからすれば、まだ「その程度の技術」といったところなのだろう。
そして、最後に一番重要な事実が明かされる。
「やつは―――『クルルザンバード〈六翼魔紫梟〉』の現在の依代は、ハイザク・クジュネだ。この戦いは最初から、あの男を乗っ取るためのものだったんだぞ」
この情報には、アンシュラオンも衝撃を受ける。
顔には出さなかったが、脳内で処理するのに数秒を要したくらいだ。
(ハイザクを乗っ取った。つまり、クルルザンバードを殺すことはハイザクを殺すことを意味する。あらかじめ知れてよかったよ。スザクに兄殺しは絶対にできないからな)
「依代から追い出す方法はないのか?」
「今のところわかっているのは、依代が死ねば外に出てくることくらいだ。俺たちが接触した際も表には出てこなかったことを思えば、かなり厳しい『制約』がありそうだ」
「制約…か」
能力は制限すればするほど効果を発揮する。これは他の作業をしなければメモリーに余裕が生まれ、高速で動けるのと同じことである。
あらゆるスキルには『コスト』があり、強い能力ほど制限とデメリットも大きくなるものだ。
(『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』にも制約はあるのかな? 今のところでデメリットといえば、暴走するくらいか。いや、かなりの制約だなこれは)
ジ・オウンとの一件を思い出す。
『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』が強すぎるがゆえに制御不能になり、危うく自己崩壊するところだった。
アンシュラオンが享受している範囲の力など、本来の力からすれば、隙間からこぼれた光の一束程度にすぎないのだろう。
ユシカからクルルザンバードに関しての情報を受け取ったアンシュラオンは、即座に方針を決める。
「ハイザクはオレがなんとかする。最悪は殺しても仕方ない。あいつも覚悟はできているだろう」
「そうか。さすがだな」
「お前はオレのことを大量殺人鬼だと思っているようだが、オレは魔人の力を制御しているつもりだ。オレたちに危害を加えることさえしなければ、少なくとも暴走はしない」
「本当に制御できるのか?」
「ならば見張っていればいい。お得意だろう? ストーキングは」
「まさか気づいていたのか!?」
「あんまりじろじろ見るなよ」
アンシュラオンは、ユシカに言われたことをそのまま返す。
三つあった【視線の最後の一つ】は、彼らマングラスのものだった。
正しくは、裏側の存在であるユシカのものだ。
(こいつらはグラス・ギースにいた時からオレを見張っていた。ハピ・クジュネに来てからもな。こうして直接敵意を受けて確信が持てたよ。どうやらこれで打ち止めのようだな)
アンシュラオンが危惧していたさらに裏側の存在も、これ以上はいないようだ。
となれば当初の予定通り、あとはクルルを倒せば終わり。
情報が出そろった今、こちらが狩る側となる。




