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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
416/618

416話 「最後のピース その3『厄災の皇龍』」


 まず仕掛けたのは、アンシュラオン。


 一瞬で懐に入り込むと鋭い蹴りを放つ。


 コウリュウはガード。


 するが、防いだ腕が押されて後ろに弾かれる。


 体勢が崩れたコウリュウに、アンシュラオンの連撃。


 脇腹への強烈なボディブローから流れるように足を払い、さらに崩れたところに発剄を叩き込む。


 コウリュウはギリギリで身体を捻って力を流すが、攻撃にも防御にも中途半端な姿勢になってしまう。


 そこにアンシュラオンの『虎破』が炸裂。


 アンシュラオンは変幻自在の多様な戦い方を好むので、あまり基礎技の虎破は使わないが、クロップハップ戦で見せたように技の熟練度はトップレベル。


 ノーモーションの高速発動仕様にもかかわらず、その威力は壮絶。


 まともにくらったコウリュウの腹をぶち破り、筋組織が断裂する音が外にも響く。


 だが、コウリュウも優れた耐久力で耐え抜き、反撃の蹴りを放つ。


 が、アンシュラオンはそれを正面からガード。


 力ずくで押し返しながら、完全に動きが止まったコウリュウに技を発動。


 覇王技、『水覇・水天竜撃すいてんりゅうげき』。


 打撃とともに刃状に変質させた水気を相手に叩き込みつつ、その勢いで敵を上空に巻き上げて敵をズタズタに引き裂く技である。


 マキとの模擬戦で使った『百流澪爆拳ばくりゅうれいばくけん』と同じ因子レベル3の技だが、あちらが手数重視に対して、こちらは一撃の威力に優れている。


 水覇・水天竜撃を受けたコウリュウは、体表にまとわせた炎で水気の刃を防いだものの、完全に蒸発させることはできずにダメージを受ける。


 そこにアンシュラオンの追撃。


 フットワークを生かした打撃で追い込み、コウリュウに反撃の機会を与えない。



(パワーとスピードが劇的に向上している! ギアを上げてきたな!)



 コウリュウは、明らかな変化を感じていた。


 本気の戦気を展開したアンシュラオンの攻防力は、低出力モードの軽く二倍以上。一撃一撃の重さが本質的に異なり、質量のすべてが内部に浸透するので骨身にしみる。


 今まで防げた打撃も肉体の力だけでは吸収しきれず、体勢を崩してから攻撃してくるためガードも簡単ではない。


 技のキレも上昇し、通常攻撃を挟んで放たれる覇王技に一切の無駄がない。完璧なタイミングで状況に合わせた最適な技を繰り出してくる。


 ガンプドルフが怖れたように、アンシュラオンは技のつなぎ目がほぼ存在しないのだ。一度呑まれると、そのまま最後まで持っていかれてしまう。



(だが、これくらいは想定内! 私が得た力を見せてくれる!)



 コウリュウの瞳孔が【蛇眼】に変化。


 それと同時に筋肉の質も急速に変質を始め、より頑強に、より弾力を帯びたものになる。


 その明らかな兆候は、腕に現れた。


 自ら発した炎によって黄色い武術服の袖が燃え尽き、露わになった両腕が真っ赤に染まったかと思えば、血管が浮き出るように『赤鱗』が生まれる。



「いくぞ! ここからが本番だ!」



 コウリュウが、アンシュラオンを強引に振りほどいて間合いを生み出す。


 この状態ならば、本気のアンシュラオンのパワーにも対抗できる。ただし、これだけの技量を見せられて、まともにぶつかるほど愚かではない。


 コウリュウはジュエルを吐き出し、それを手で握り潰すと『蛇矛じゃほこ』が出現。どうやら空間術式で隠し持っていた武器のようだ。


 蛇矛はハイザクが持っていた矛と似た長柄の武器だが、先端が蛇のようにうねった造りになっており、これで斬られると傷口が粗くなるので、出血が増えて怪我が治りにくくなる特徴がある。


 コウリュウは、蛇矛で高速の突きを繰り出す。


 その速度は凄まじく、達人級の武人でもいくつもの残像が見えるほどだ。


 アンシュラオンは戦刃を使って対応。


 繰り出される攻撃をいなしていくが、簡単に反撃とはいかない。


 リーチの差があるうえに常にこちらの先を読み、四肢の付け根を狙う動きをしてくるので、どうしても初動が遅れるのだ。


 三本腕の男と同じく腕力で強引に繰り出しているのだが、その根底には基礎を土台とした技術があった。



(武器を扱う技術も高い。これは相当の鍛錬を積んでいるな)



 タイプとしてはベ・ヴェルと同じく武器型戦士なのだろうが、それを極めていけば、ここまで武器を使いこなせるのだと感嘆する。


 これだけの技術は一朝一夕では身に付かない。最低でも十数年、おそらくは何十年もの月日を費やしたと思われる。


 外見は若いが異形ぞろいの中で年齢を推測するのは難しい。もしかしたら見た目より歳をとっているのかもしれない。


 その代わり剣士ではないので攻撃力が低い、と思ってはいけない。


 たしかに剣気こそ使っていないものの、蛇矛が炎を吸収して赤く輝くと存在感が一気に増す。


 増したのは迫力だけではなく、攻撃力も激増。


 穂先が指を切り裂き、アンシュラオンの手に赤い血がしたたる。


 攻撃のために戦硬気で強化していた戦刃を破壊し、防御の戦気すら貫いたのだ。相当な攻撃力である。



(ただの武器じゃないな。あれも術式武具か。しかし、妙な圧力を感じる。この感覚はどこかで……そうか、デアンカ・ギースの原石だ。あの時に感じた『呪詛』に似ているんだ)



 コウリュウの蛇矛から発せられる圧力は、すでに火乃呼によって浄化してしまったが、デアンカ・ギースの『災厄呪詛』にそっくりであった。


 仮に解呪せずにそのまま武器に加工したとすれば、目の前にある蛇矛のような武器になっていたのだろう。


 世間ではそれらを【呪具】と呼び、武具にしたのならば『呪式武具』と呼ぶべきものとなる。


 攻撃した相手に呪詛の追加効果を与え、何かしらのバッドステータスをもたらす。アンシュラオンにはなぜか通じないが、一般の武人からすれば極めて厄介な能力だ。


 しかし当然、普通の人間が扱えるものではない。


 呪詛の強さが攻撃力に転じた分、その反動は使用者に跳ね返ってくる。一流だといわれていた錬金術師のナーラシアでさえ、汚染されて死にそうになっていたほどだ。


 見たところコウリュウに特段のデメリットは生じていないため、そこにも違和感を覚える。


 だが、敵の事情を考えるよりも対応するほうが先決だ。


 アンシュラオンは火乃呼製の剣を取り出して迎撃するも、一度、二度、三度斬り合った時には、刀身が傷だらけでボロボロになってしまった。


 末端の雑魚ならば一万近く切り捨てた剣が、たった三撃ももたない。あの時よりも強い剣気を放出していることを考えれば、この蛇矛がいかに危険かがわかるだろう。


 状況を把握したアンシュラオンは、即座に卍蛍を抜いた。


 潤沢な剣気が注がれて生命を宿した刀身が、蛇矛を斬り返す。


 さすが業物である。卍蛍ならば十分対応が可能だ。


 互いの刃が幾度も激突しては、甲高い音と波紋のような衝撃が降り注ぎ、周辺に激しい剣撃の傷跡が残される。


 コウリュウは蛇矛だけに頼らない。


 蛇矛を振り回して薙ぎ払うと同時に、接近して蹴りを放ってくる。


 アンシュラオンも同じく、切り払いながら打撃を繰り出していく。


 両者ともに戦士としての力量が高いため、戦い方としてはスザクに近いだろうか。武器と格闘の両方が使えるのだ。


 しかし、ここでも上回るのはアンシュラオン。


 コウリュウの武器の間合いを測り終えると、穂先に注意しながら斬り込み、さらに肉薄。


 相手の打撃に合わせて的確にカウンターを入れていく。


 それを嫌ったコウリュウは右手で蛇矛を操りながら、左手で炎の槍を生み出して投擲。


 アンシュラオンを懐に入れさせないように牽制するが、こちらも凍気で対抗。炎の槍を凍らせて霧散させていく。


 相変わらず懐が深く、あらゆる攻撃に対応できるため、戦況は徐々にアンシュラオン有利になっていった。


 だがしかし、まだコウリュウには余裕がある。



「それでこそ災厄の魔人だ! お前のような存在に、人間として何百年研鑽を積もうが意味はない! だから、だからこそ!! 我々は災厄すら利用する! 見るがいい、私が取り込んだ【厄災】の力を!!」



 コウリュウの両腕の赤鱗が浸食を開始。


 胴体、足を経て、最後は顔まで赤くなっていき、『人間の皮』が蛇の抜け殻のようにボロボロと剥がれていく。


 高まった凄まじい熱量によって粘膜が蒸発し、もくもくと大量の煙が発生。身体が一度溶け出して再構築を始めているのだ。


 アンシュラオンは、その隙を逃さず水檄波を放つが、到達する前に蒸発。


 本気の戦気を放出しているので、正真正銘全力の水檄波だったのだが、コウリュウの周囲に展開された炎を突破できない。



(普通の炎じゃない。これは―――)



 再構築が完了。


 コウリュウの頭部から角が二本生え、広がった赤い鱗が硬質化を始めて身体を引き締めていく。


 ぱっと見れば赤鬼にも見える姿だが、よくよく観察すると、やはり『竜』に似ている。


 が、アンシュラオンが知る竜人のディムレガンの特徴とは異なり、より野性的でより禍々しく、より攻撃的なデザインだ。


 その正体は―――



「わが真名は、皇龍コウリュウ! 【厄災の皇龍】なり!!」



―――――――――――――――――――――――

名前 :皇龍(人型)


レベル:150/150

HP :23000/23000

BP :3200/3200


統率:B   体力:S

知力:B   精神:AA

魔力:S   攻撃:S

魅力:B   防御:A

工作:D   命中:AA

隠密:D   回避:AA


【覚醒値】

戦士:8/6 剣士:6/2 術士:3/0


☆総合:第四階級 魔戯まぎ級 龍人


異名:マングラスの双龍、厄災の皇龍

種族:人間、龍人、魔獣

属性:光、火、炎、臨、土、活、実

異能:災厄耐性、擬似転神、人工龍人、灼熱の血流、炎龍鱗、絶対忠誠心、物理耐性、銃耐性、術耐性、爆炎吸収、即死無効、毒耐性、精神耐性、自己修復、自動充填

―――――――――――――――――――――――



(龍人? 竜人とは違うのか?)



 火乃呼たちディムレガンは『竜紅人』。竜人の一種である。


 一方の『龍人』は、同じ竜の血を宿しながらもより魔獣の因子を覚醒させた存在であり、今のコウリュウのように優れた身体能力を持っている。


 見た目も「人が竜に近づいた」ディムレガンとは反対のアプローチで、あくまで「龍が人の形態」になったと形容したほうが正しいだろう。


 彼らは基本的に人里離れた自然の中で細々と暮らしているので、出会うこと自体が稀である。


 ただし、コウリュウは最初から龍人であったわけではない。元はアルと同郷の『三皇天子礼国さんこうてんしれいこく』出身の普通の武人であった。


 それがマングラスの因子改造によって『皇龍』の力を移植され、【人工龍人】になったのだ。



「わが力を見よ!」



 コウリュウが掌から炎を放出。


 アンシュラオンが凍気で攻撃するも、それを呑み込みながら迫ってくる。


 迎撃を諦めて咄嗟に飛び退くと、炎の激流はアンシュラオンの背後の森を一瞬で焼き尽くしてしまう。


 それは燃えるという段階を飛び越えて、『消失』と呼ぶに相応しい惨状。炎が侵食した範囲、およそ二百メートルが掻き消える。



(この威力はまずいな。いや、逆にこれを見ればサナたちは近寄らないか。連れてこなくてよかったよ)



 コウリュウの実力は予想以上である。サナが魔石をいくら使おうが、現状ではまず勝ち目はない相手だ。


 しかし、自分の心配はしない。相手が使った力はよく知っているものだからだ。


 火属性の最上位属性、【臨気りんき】。


 水の最上位属性である命気が『回復』や『融合進化』を促すのに対して、臨気の本質は『消失』と『浄化』である。


 命気も汚れを浄化するが、臨気の浄化とは破壊の極地であり、消し去ることでの根源的浄化を意味する。『民族浄化』と同じく力による強制的な排除を促すのだ。


 コウリュウはもともと火属性が得意なマキに似た武人であったが、皇龍の力を取り込んだことで、当たり前のように臨気が使えるようになっていた。


 今までの蛇矛での攻撃に加えて、身体から荒れ狂う臨気を放出することでアンシュラオンを近寄らせない。



「かつての災厄で大地を席巻した双龍の片割れ! 大地を喰らい、何千万という人々を焼き殺した魔獣の力を思い知れ!!」



 アンシュラオンの命気を見ればわかるように、最上位属性がもたらす恩恵は計り知れない。


 蛇矛が臨気を吸収してますます赤く輝くと、またもや攻撃力が跳ね上がる。


 アンシュラオンは卍蛍で迎撃するが、何度も斬っていると刀身が真っ赤に加熱されていく。


 サナが火乃呼と戦った時のように、このまま続けるといくら卍蛍とて、そのうち刀身が溶け出してしまうかもしれない。(逆にいえば、臨気を受けても耐えられる卍蛍が本物の業物である証拠)



(この熱でこいつの武器が壊れないのはおかしい。もしかして『専用武器』なのか?)



 推察通り、コウリュウが使っているのは特殊な専用武器である。


 たとえば火を操る魔獣の身体は、なぜ自身の熱で溶けないのだろうか。それに対する耐性がそなわっているからだ。


 この蛇矛も本物の皇龍の角から生成された『災厄遺物』であり、身体そのものでもあるので溶けるはずがない。


 むしろ臨気を受けて加熱されることで、本来の強さを発揮するのである。


 コウリュウが蛇矛を振り回すごとに、大地が燃え尽きていく。


 アンシュラオンも被害がサナたちに及ばないように、場所を移動しながら戦う。



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