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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
412/617

412話 「一騎当万 その2『スキルの獲得』」


 アンシュラオンは、熊神の眷属一万頭を斬殺。


 その頃になると剣の刀身はボロボロになり、刃こぼれして折れる寸前に至る。



(そろそろ交換かな。ついでに槍も試そう)



 アンシュラオンは傷んだ剣を投げつけて、ハリュテンを岩壁に磔にすると、続いて背中から槍を取り出す。


 こちらも火乃呼が作った槍で、見た目はそこらの傭兵が使う一般的なものだが、軽く突くだけで易々と魔獣の肉と骨を貫く逸品であった。


 しかし、逆に切れ味が良すぎて倒した感覚が残らないのは困りもの。


 槍は剣と比べて刃先が小さく、あくまで突いたり叩いたりすることが重要視されるため、敵が多いと使いにくい側面がある。


 その槍も投擲することで、五十頭近くのハリュテンを貫いたまま崖に落ちていった。


 そしてまた、新しい剣を取り出して斬殺を繰り広げる。


 そう、アンシュラオンにしては珍しく『武器を使い捨てにした戦術』を取っているのだ。


 それは当然、敵が大群だからだ。



(放出技は楽だが無駄が多い。戦気の消耗を最小限にして、緊急時に万全の対応ができるようにするんだ)



 最大の標的は、三大魔獣すら超える敵の親玉である。


 問題は敵のデータが乏しいため、どんな隠し玉を用意しているか想像できないことだ。


 雑魚に付き合って消耗してしまうと最悪の事態に陥る可能性が高まるし、クルル以外にもジ・オウン級のヤバい存在が潜んでいるかもしれない。


 また、こうしている間も各種闘人や、サナたちに付与した命気の管理を同時に行っているので、脳内では凄まじい情報処理が行われている。


 自分独りならばともかく、他の者たちを守りながら戦うのだから、その段階で多大なハンデを背負っているといえた。


 が、そんな状態でも熊神の軍勢を独りで圧倒していることが怖ろしい。



「おっ、逃げるか?」



 アンシュラオンが二万頭のハリュテンを殺すと、群れが完全に恐慌状態に陥って逆走を開始。


 さほど道幅のない山道でもあるため、仲間にぶつかりながらも必死に逃げていく。


 中にはその拍子に自ら崖に飛び降りる個体もいたが、かつて魔獣の狩場でエジルジャガーを追い込んだ際も恐慌状態に陥ったことを踏まえれば、この魔人と対峙することがいかに恐怖であるかがうかがい知れる。


 しかし、一応は軍団だ。


 クルルの支配力が影響したのか、逃げたのは一部の個体であり、次第に魔獣たちの目に『赤い殺意』が宿り始める。



「フーーフーー、グゴゴゴゴッ!!」



 興奮した怒り状態、とでもいうべきか。


 軽い暴走が始まったらしく、低い唸り声を上げて飛びかかってくる。


 アンシュラオンは応戦するが、数に任せた乱暴な突撃にそれだけでは間に合わなくなっていった。


 これに対しては剣撃の威力を上げることで対応。一撃で数十頭を切り裂くことでスペースを空けていく。


 その代わり剣への負担が増していき、さきほどの半分以下の数で刀身に限界がやってくる。


 素早く剣を取り換えて再び応戦。


 戦いが激しさを増していくごとに敵の勢いも増し、多少下がりながら斬撃を繰り出すことになる。



(この圧力は危険だ。無謀な敵が仕掛ける消耗戦ほど怖いものはない。やはり新しいボスには『魔獣を暴走させる力』があるらしい。能力も若干向上しているようにも見える。精神に影響を与えてストッパーを外しているんだ)



 大軍に寡兵が勝つためには、敵の戦意が低くなければならない。


 慢心と保身が敵を惰弱にするからこそ、精鋭で突撃すれば打ち破れるのだ。


 しかしながら、こうやって『暴走』してしまうと見境がなくなり、魔獣本来の危険性が顕著になっていく。


 そう、これが怖い。


 アンシュラオンが力を抑えているもう一つの理由は、むやみに刺激して敵が暴走しないようにするためである。


 他の場所でこれが起きてしまうとソブカの戦略自体が壊れてしまうのだ。



(どうした? まだ出てこないのか? オレはここにいるぞ)



 アンシュラオンは、ある程度の隙をわざと作りながら戦っていた。


 されど、今のところ敵のボスからの『お誘い』はない。



(慎重なやつだな。おそらくはこの戦いも見ているだろうに、まだ乗ってこないか。何を考えている? そもそもやつの目的はなんだ? 人間を滅ぼすことか? それとも単純に魔獣側の利益か? そこがまだ見えてこない)



 一番困るのが『敵の狙い』が見えないことである。


 たとえば誰かと喧嘩して、こちらが怒りに任せて攻撃した際に、相手から何の反応もない場合は妙な焦りを感じるものだ。


 それが顔の見えないメールやSNSだった時は、なおさら何を考えているのかわからなくてモヤモヤする。


 そうこうしている間に精神的に参ってしまい、攻撃した側から自滅する行動に出るパターンが多い。


 これだけ堂々と単身でいるにもかかわらず動かないとなれば、それと同じく相手が『心理戦』を仕掛けている可能性があった。



(そっちがそのつもりなら、余裕を少しずつ削ってやるよ)



 アンシュラオンが波動円を極限にまで伸ばす。


 三百、五百、八百、千メートルを超えて、千五百、二千にまで至る。


 これまでは千メートル前後が最大だったが、今回はさらに薄く伸ばすことで長距離にまで対応。


 アンシュラオンの戦士因子が上昇したことで生体磁気が増し、たいしたコストもかけずに伸ばすことができるようになった。


 成長しているのはサナだけではない。この男もまだまだ成長期である。



(見つけた。嗅ぎ回っているやつがいるな。そこだ!)



 アンシュラオンが、ノールックで背後に戦気弾を放つ。


 戦気弾は舞い上がって上空二千メートルにまで到達。


 そこには何もないが、そのさらに上空にケウシュに似た梟型の魔獣がいた。



「ッ―――!」



 攻撃を察知したフクロウは慌てて逃げるが、戦気弾が高速で迫りながら追尾しつつ、途中で拡散。


 逃げ惑う魔獣を覆うように無数の光が四方八方から襲いかかり、あっさりと貫いて爆散。


 『クルルの目』を破壊する。



「ふん、コソコソしやがって。ストーキングされる身にもなれ」



 敵が心理戦を仕掛けるのならば、こちらも精神的に揺さぶればいい。


 こうやってことごとく相手の思惑の上を行けば、次第に焦れていくのは向こうのほうだ。敵の狙いはわからずとも、やり方さえわかってしまえば仕返しは難しくない。


 とはいえ、敵の戦力を削ぐことも大事な役割である。このまま戦闘は継続する。


 ハリュテンが勢いを失ってくると、今度はその後方にいたエポラーテルがやってきた。


 非常に獰猛で格上の相手にも向かっていく無鉄砲な魔獣だ。


 アンシュラオンに対しても激しく噛みつこうとしてくるので、剣で切り裂くが、やたら皮膚が硬い。



(雑魚だが防御はBくらいあるか。肉質が妙に脂っこいし、刃にまとわりついて切れ味が鈍る)



 エポラーテルは、大型魔獣に噛みつかれてもダメージを受けないほど防御が固い。肉厚で硬い脂肪がクッションになるからだ。


 そのうえ彼らが飼っている蜂型魔獣が体毛から出てきて、外敵に攻撃開始。


 ブンブンと威嚇の羽音を鳴らしながら、何千、何万といった数で襲いかかってくる。


 それらに対しては戦気の量を増やして対応。近づく蜂を焼き落としていくが、あまりの数に視界が埋まって前が見えない。


 羽音の煩わしさも聴覚を妨害し、判断力を鈍らせてくる。もし味方が複数いれば連携も妨害されてしまうだろう。


 これもエポラーテルの戦術であり、敵が蜂に気を取られている間に急所に噛みつくのが彼らのやり方だ。


 しかし、波動円を展開しているアンシュラオンには、まったく通じない。


 視界が塞がれていても、どんなに敵が小さくても、すべてが空間レーダーに表示されて挙動が丸見え。


 怖れずに突進してくるのはよいが、その勢いを利用して開いた口に剣を叩き込み、すぱっと真っ二つにしていく。


 いくら脂肪が厚くても口腔は脆い。そこを皮切りに攻めれば最小限の力で敵を粉砕できるのだ。


 そしてここで、アンシュラオンに『一つの変化』が起きる。


 ちょうどハリュテンとエポラーテルを含めて、計四万頭の眷属を切り裂いた時だっただろうか。



(なんだ? 動きがやたらゆっくりに見える)



 急速に敵の動きが鈍くなった。


 否。


 敵の行動速度は変わっておらず、能力値にも変化はない。


 それにもかかわらず、いやに世界がスローに見えるのだ。


 小さな蜂の不規則な動きから羽ばたき一つ一つ、エポラーテルが牙を剥く時にこぼれる無数のヨダレ、合間合間に入ってくるハリュテンの足運びと爪の音。


 そのどれもが、一つたりとも漏らさずに把握できる。


 もともと魔神戦での『六十秒先の未来予測』のように、行動予測能力は群を抜いているので魔獣の動きはのろまに感じられるのだが、それがさらに加速していた。



(敵の変化が理由じゃないのならば、答えは一つだ。オレの『能力が上がっている』んだ)



 アンシュラオンのレベルと能力値に変化はない。この程度の雑魚を倒したところで、百レベルを超える自分には影響はない。


 しかしながら、唯一変化があったところが『スキル欄』。



 そこには―――【一騎当万】



 が追加されていた。



(『一騎当万』? たしかゼブ兄が持っていたスキルだったはずだ。名前からすると『一騎当千』の万バージョンだとは思うが…)



 この『一騎当万』は、アンシュラオンが予測した通り、一騎で千の兵に相当するという『一騎当千』の万単位のものだ。


 実際にこうやって万の敵と対峙してもなお、圧倒しているのだから、『一騎当万』に相応しい戦いといえるだろう。


 効果は単純に、対する敵の数が多ければ多いほど能力値に補正がかかっていくタイプだ。


 それは千を超えて万になるにつれて最高値に到達し、最大で二倍以上の能力補正を受けることが可能になる超スキルである。


 ただし、単騎で挑むことが条件であるため、通常の戦いでは滅多に発動しないスキルかつ、当人の環境によっては『死にスキル』になる可能性も高い代物だ。



(だが、今になってどうして? 何が『獲得条件』なんだ?)



 スキルが増えることは自身の体験および、サナの成長からしてもわかることだが、問題はどうすれば獲得できるかである。


 これに関してはいまだ謎が多く、アンシュラオンも気づけば修得していた場合が大半だ。


 仮に万の敵と戦うことが条件であっても、その前に『一騎当千』があるはずで、それならば火怨山の日常生活でクリアしているはずだ。


 あの過酷な環境下では、毎日強力な魔獣と戦うことが当たり前。千単位の敵と争うことも珍しくはなかった。


 ただし、ゼブラエスの戦い方を想像すれば思い当たる節もある。



(もしかして『真正面から戦う』ことが前提なのか? それならば脳筋のゼブ兄にあって頭脳派のオレにない理由としては納得だが…普通は真正面から戦わないよな。オレだって囮の役割がなければやらなかったし)



 アンシュラオンの予想は大当たり。


 実は『一騎当千』系統のスキルは、まさに【脳筋スキル】なのだ。


 獲得が難しい理由が、『単騎』で、『真正面』から、『堂々と武力のみ』で戦うことが前提かつ、最大の難関が『圧倒して勝つ』ことである。


 まず万の敵を用意すること自体が難しく、そこに単騎で挑む馬鹿を探すのはもっと難しい。さらに圧倒してしまうことも相当難しい。


 ならばと自身よりも遥かに弱い相手を用意しても、敵が戦意喪失してしまうので達成できないだろう。敵が挑んできてくれないことには条件を満たせないのだ。


 結果、多くの者が渇望しながらも、なかなか手に入れられないレアスキルとなってしまう。


 アンシュラオンも通常は、闘人を囮にして逃げながら攪乱する戦法を取るので、普通に生きていれば絶対に縁がないものだ。



(どこで使うんだ、こんなもの。…と思ったが、無いよりはあったほうがいいか。記憶が正しければ、姉ちゃんなんて『一騎当億』だったからなぁ。あの人は何と戦ったんだ?)



 ちなみに姉のパミエルキには『一騎当億』がついているので、どこかで億の敵と戦ったはずだ。


 いくら火怨山とはいえ、億の敵がそうそういるとは思えないので謎は深まるばかりだが、姉ならばやりかねない。実に怖ろしいことである。


 ともあれ、手に入ったのならば遠慮なく頼るべきだろう。


 ただでさえ高い能力がどんどん上がっていき、『S』だった各種能力が『SSS』にまで上昇。


 攻撃も『SS』に到達したことで剣撃のキレも上がり、脂肪の厚いエポラーテルを易々と切り裂くだけではなく、無数に飛んでいる蜂まで綺麗に真っ二つにする凄まじい斬撃を繰り出す。


 それによって、徐々に圧す。


 下がりながら戦っていたのに、いつの間にかアンシュラオンが前に進みながら錦王熊軍を削っていく。



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