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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山 最終決戦」編
405/617

405話 「大群の弱点」


(戸惑っているようだな。これでもう空は、お前たちの独壇場じゃない)



 アンシュラオンは、戻ってきた監視用のモグマウスから情報を取得。


 闘人を使うことで自身は遠くにいながらも、マスカリオン軍が混乱している様子を把握することができる。


 戦果は上々。


 カーテンルパによって、マスカリオンのプライドはズタズタだ。


 彼らの意識を空に向けることでスザク軍への追撃も封じつつ、足止めすることに成功する。


 ただし、カーテンルパは空を飛ぶため、生み出した場所が近すぎるとこちらの居場所がバレてしまう欠点がある。


 それゆえに、できるだけ関係ない場所で生み出す必要があり、途中まで土中を移動させる都合上、風気ではなく水気で作っていた。


 風の闘人という名称からも、本来は風気で生み出すことで最大速度が出せるのだが、風気はあまり得意ではないうえに発散しやすいため、今回は耐久性を重視した結果といえる。



(所詮、カーテンルパは移動用の闘人で戦闘力は低い。無理に敵を倒さず、ひたすら攪乱に専念させるとしよう。そのほうが効率が良いだろう)



 アンシュラオンは、これ以後も定期的に『カーテンルパの子機』を送り込み、嫌がらせを含めた襲撃を続ける。


 この時、闘人を『強くしすぎない』ことが肝要になる。


 集団で攻撃すればかろうじて倒せるレベルに落とし込むことで、マスカリオンは軍勢の移動範囲を大幅に狭めて被害を減らそうとし、清翔湖から動けなくなる。


 これにより、もっとも警戒していた空からの偵察を封じることができるのだ。


 もし強行して部隊を派遣しても、数が少ないのならばカーテンルパの子機で撃破すればよいだけだ。


 だが、ここで新たな動きが起こる。


 マスカリオン軍が動きを止めた三日後、『破邪猿将軍』が進軍を開始。


 やはり彼らの間では対立と牽制が発生しているようで、互いに協力する姿勢は見られない。あくまで単軍として動いているようだ。


 破邪猿将軍もこの期間で大量の眷属を新たに加えており、その数は十数万に及ぶほどになっている。


 ただし、熊に比べれば機動力に優れる遊撃部隊が中心であるが、多種多様な猿型魔獣を抱えているため、その動きは思ったより鈍かった。


 それぞれの種族で固まっていることもあってか、小競り合いや喧嘩が多発し、その都度グラヌマが仲裁に入ることもしばしばあった。


 破邪猿将が極めて高い統率力を誇っているとはいえ、効果が及ぶのは同族間だけのこと。ここまで大きな群れとなると簡単に命令も行き渡らない。


 このあたりが人間と魔獣の大きな違いだろう。


 日本人ならば当たり前にやれる集団行動でも、個人主義の外国人の場合は、ありえないくらいにまとまらないのと同じである。




 そして、侵攻開始八十七日目。


 地球ではクリスマス・イブと呼ばれる日。


 猿の眷属たちが、マスカリオン軍が清翔湖付近にとどまっている様子を「臆病者」と嘲笑しながら通り過ぎていく。


 彼らはマスカリオン軍の代わりに、スザク軍の追撃の任にあたっているのだ。


 通常ならばマスカリオン軍も帯同するのだが、人間側が空への対抗手段を持つことがわかったため、クルルも彼らを温存する形にしたようだ。


 追撃を破邪猿将軍に任せ、マスカリオン軍は清翔湖の防衛を継続。


 安っぽい挑発は受け流し、猿神の軍勢が通り過ぎるのを冷ややかに眺めていた。



「ふん、猿どもめ。お前たちも痛い目に遭えばよいのだ」



 と心の内では思っていたのかもしれない。


 一方、出番が来た猿たちは、意気揚々と岩場を移動。


 すでに第二海軍という最大の敵を倒したことで、自分たちの勝利は目前である。


 彼らは侵略してきた人間を逆に狩るつもりで、余裕の表情で突き進んでいく。


 長く伸びた隊列、いや、隊列とも呼べないほどの雑な陣容は、単なる猿の大移動にしか見えない。


 当然ながら警戒も緩く、これから死闘が始まるような気配もない。


 唯一グラヌマだけは注意深く周囲を探っているものの、偵察部隊ではないので観察力には乏しいうえに、彼らでさえ第二海軍と戦った時の緊張感はすでに失われていた。


 むしろ一度死闘を演じていたからこそ、その弛緩はいつも以上。


 人間であれ魔獣であれ、ずっと緊張状態を維持することはできないのだ。


 そのまま移動すること一日半。


 ちょうど清翔湖と銀鈴峰の中間の位置で『異変』が起きた。



「一斉射撃!」



 猿たちの視界の上。


 高所にあった岩場が突如盛り上がると、そこから大勢の人間たちが出現して銃撃を開始。


 攻撃はあらかじめ準備されていたものらしく、規模もかなりのものだった。


 通常弾から貫通弾、火炎弾に雷撃弾といった術式弾はもちろん、術符による火焔や風が吹き荒れ、さらにドカンドカンと大型重火器の音も響く。


 そのたびに眷属たちが吹き飛び、四肢がもげた個体、焼け焦げた個体、切り刻まれた個体の死骸が岩場に転がっていく。



「手を休めるな! 一気に畳みかけろ!」



 部隊を指揮していたのは、灰色の髪を束ねた精悍な顔つきの男。


 その部下たちも非常に高い練度で、弾幕が途切れないように計算して間断なき銃撃を続けている。


 いきなりの奇襲に、猿たちは完全に浮足立つ。


 まさか人間側から襲ってくるとは思わなかったからだ。


 中には抵抗しようとした個体もいたが、他の群れの猿が邪魔で満足に動けず、吹き荒れる高火力の攻撃の前にあっけなく散っていく。


 その最大の理由は『地形』にあった。


 この岩場は山の中腹一帯に広がる一般的な地形で、アンシュラオンたちが琴礼泉で陣取った場所にもよく似ている。


 周囲に木々は少なく、大きな岩がゴロゴロと乱立する間に大量の砂利が入り込んだ、たとえるのならば富士山の岩場を強調したようなところだ。


 猿たちの高い機動力は樹木によって支えられる面が大きいため、ここでの移動力は他の魔獣と大差ない。


 そこを狙い撃ちしているのだから、猿側からすればたまったものではないだろう。



「ははは! 面白いように当たるぞ! 狙いをつける必要もない!」



 普段は銃を使わないメッターボルンも戦車用の砲台を肩に担ぎ、部下に装填を手伝ってもらいながらバズーカのように使用。


 この距離ならば火器管制システムなどは必要ない。見渡す限り猿山なのだ。適当に撃っても必ず当たる。



「どうせ邪魔になる! 全弾撃ち尽くせよ!」


「了解!」



 他の隊員たちも重火器で敵を蹴散らしていく。


 これらの火器の大半は戦艦の砲台を筆頭に、攻略した五重防塞に集められていたものだった。


 そもそもどこから持ってきたのか不明だが、おそらくは魔神の眷属に使わせる実験でもしていたのだろう。あるいは魔獣たちの知能テストのためだろうか。


 それともジ・オウンが言っていたように、一方的な戦いにならないためだろうか。


 どちらにしても使えるものはすべて使うだけだ。


 あっという間に全弾撃ち尽くし、ガラクタとなった火器は惜しむことなく投げ捨てる。



「次のフェーズに移る! 急げ!」



 弾薬がなくなった瞬間、グランハムの命令で警備商隊が一気に後退。


 その動きは、あまりに見事だった。


 いくら予定通りであっても、これだけの実戦をこなした直後である。


 多少は遅れる者が出るのが普通なのだが、彼らは誰一人として乱れることなく、全員が一斉に走り出す。


 それにより奇襲は完全に成功。


 ほぼ損害無く離脱していく。



「キキッ!」


「ギィーー!!」



 これに対して猿たちは、怒りの形相で追いかける。


 まだ生きている仲間すら踏み越えていることからも、明らかに頭に血が上っていて周りが見えていないことがわかる。


 クルルの支配下に入ったといっても、やはり魔獣たちは本能的だ。無我夢中で警備商隊を追っていく。


 さすがに荒れ地での機動力は人間よりも猿のほうが上。


 次第に尻に食いつかれていき、武器を得意の斧に持ち替えたメッターボルン率いる戦士隊が、猿の眷属たちと激突する。



「雑魚相手に押し負けるなよ! 第二商隊の意地を見せろ!」


「おうっ!!」



 第二商隊は、まとわりつくチユチュを蹴散らし、琴礼泉でも戦ったボビヤンダーたちを力ずくで斬り倒していく。


 敵の勢いは激しく、屈強な戦士隊といえども被害は出るが、メッターボルンの粘り強い指揮で撤退戦を見事こなしていた。


 ここで敵の増援が一斉に襲いかかってきたら危なかったのだが、猿たちの状況判断能力と危機意識が低かったことで、敵側はまったく連携が取れていない。


 むしろ数の多さが災いし、各群れがぶつかって渋滞を起こすことで『長い行列』を作ることになる。


 なぜ行列が生まれるのかといえば、知らずの間に『地形が狭まっている』からだ。


 そして、そのまま『岩場の深み』に誘導したところで―――



「今だ! 第二商隊に当てるなよ!」



 グランハムの号令で、待ち伏せていたモズたち第三商隊の面々が【罠】を発動。


 崖上から大きな岩が落ちてきて、長く延びきった猿の群れに命中!


 すでに狭い地形に誘い込まれているため、いくら猿たちでもどうしようもない。


 せめて木があれば登れたのに、と嘆きながら岩の下敷きになって圧死する個体が続出。



「油断するな! 追撃だ!」



 それだけでは死なない魔獣もいるため、さらに上から銃撃の嵐で数を減らしていく。


 グランハムら第一警備商隊も崖上に移動し、弾薬を補充して銃撃に参加。


 普段訓練を欠かさない正確な射撃により、的確に敵を撃ち殺していく。


 こうして警備商隊は、猿の眷属およそ五千の撃破に成功する。


 ここまでの損害は軽微。最高の展開である。



「総隊長、また増援です!」


「わらわらと来てくれる! 羨ましい限りだ!」



 しかしながら、いまだ敵の数に衰えは見られない。


 ここで敵側も『バーナーマン〈手投蛇猿〉』の亜種を投入。投石による反撃を開始。


 魔獣の腕力で投げる石は、それだけで弾丸並み。かつての森での戦いを彷彿させる中距離戦が繰り広げられる。


 その間に他の猿たちが、リスク覚悟で接近戦を仕掛けるために岩場を登ってきた。



「退くぞ!!」



 ここでもグランハムは迷いなく後退を選択。


 そもそも正面からぶつかれば、この数の差では勝負にならない。退くのが当たり前だ。


 しかし、ただ逃げるだけではない。


 迎撃しつつもあえて敵を尻に食いつかせながら、どんどん敵を『南西』の方角に引き寄せていく。


 明らかな誘導なので人間が相手ならば止まったかもしれないが、魔獣からすれば逃げる敵は追いたくなるものだ。何も考えずに突っ込んでくる。


 簡単に誘いに乗ってくれるのはありがたい反面、その分だけ隊にかかる負担は大きい。


 すでにメッターボルンの第二商隊は疲弊し、一時後退。


 代わりに第一警備商隊が前(最後尾)に出ているが、中距離戦を本職としている彼らが身体を張らねばならない事態に陥っていた。



「くそっ! 数が多いな!」



 二頭の猿と交戦中のレックスが悲鳴を上げる。


 一頭は銃で額を撃ち抜いて倒したが、その隙に接近されてしまい、もう一頭の猿に腕を噛まれてしまう。


 魔獣を引きずりながらもなんとか体勢を整え、ナイフで首を切り裂くが、生命力が強いのでなかなか死なない。


 そうして時間を使ってしまうと、敵の後続がどんどんやってくるので、また複数の敵と対峙することになる。



「レックス! 離れろ!」



 そこに同じ隊の仲間が大納魔射津を投げ込み、敵が爆風に巻き込まれている間にレックスを逃がす。


 レックスは噛まれた箇所に布を巻いて止血しながら、片手で弾薬を装填して迎撃を続ける。


 その様相は、まさに命がけ。


 表情は常に真剣で、汚れや擦り傷を気にしている暇もない。トイレに行きたくても垂れ流しだ。


 まさにアンシュラオンが常々サナに教えているような、一瞬のミスが命取りになる真剣勝負の連続であった。


 機動力では猿にも負けない凄腕の彼らだが、半日以上も追撃を受ければしんどいのは当然だろう。



「はぁはぁ、距離が近すぎるんだよ! 装填する暇もねえ!」


「贅沢を言うな! こっちはもう弾すらねえよ! おかげさまで剣だけはたくさんあるけどな! ほら、予備をくれてやる!」


「ったく、剣は苦手なんだよ! 疲れるからな!」



 と、ぼやきながらも剣で猿を切り裂く。


 琴礼泉から持ち込んだ刀剣類が大量にあるので、近接武器だけには困らないが、銃と比べると反撃を受けやすいのが難点だ。


 それに加えて疲労もピーク。


 まとう戦気も少しずつ弱くなり、敵に与えるダメージも減っていく。



「ザ・ハン警備商隊の誇りを見せろ! ここで勝てば、得られる利益は莫大なものとなる! 我らは恩義と富のために戦うのだ! それこそ傭兵の醍醐味! 欲しいものは自分で手に入れろ!」



 グランハムが赤鞭で援護しながら隊員を鼓舞。


 彼らの目的は、あくまで利益だ。


 貴重な資源をハングラスにもたらし、それによって自身らを引き立ててくれたゼイシルに恩返しをしつつ、さらなる見返りをもらって強くなる。


 傭兵としては心燃え立つ言葉であり、窮地において欲望ほど人を強くするものはない。



「おおおおお! 金だ! 金をもらうぞ!」


「俺は高級術式武具をもらうんだ! ガチガチに固めてやるぜ!」


「戻ったら豪遊してやるからなぁああああ!」



 やる気を出した隊員が奮起。魔獣の波を押し返していく。


 とはいえ、警備商隊が持つ強いプロ意識がなければ、おそらくは崩壊していただろう。


 それだけ厳しくつらい撤退戦だったが、彼らは耐えた。


 海兵のような死を怖れない郷土愛や勇ましさではなく、一流傭兵として最後まで生き残って勝利を得るために。


 仲間が一人倒れたら、他の者たちが少しずつ余力を出し合ってカバーし、疲労が溜まっても気合で乗り切る。


 グランハムとハングラスへの信頼が、彼らを最後まで支えるのだ。


 そして、山脈の中腹にぽっかり空いた『盆地』にまで誘い込むと、蜘蛛の子を散らすように一気に散開。


 突然バラバラになって逃げる人間たちに困惑しながらも、各個体が追いかけるが、今度は人間側が反撃する番だ。



「警備商隊は下がれ! ここからはハンターの仕事だ!」



 疲れきった警備商隊と入れ違いで、すでに待ち伏せていたハンター隊が前に出る。


 ここで使われたのは、対魔獣用の武装だ。


 各種毒に爆破槍、落とし穴にトラバサミといったトラップが、猿たちに襲いかかる。


 たしかに猿神と真正面から戦った第二海軍は強かったが、実際のところ魔獣が一番嫌がるのは特異な道具を使った『狩り』である。


 種族によっては群れや世代で経験を共有するタイプもいるものの、眷属たちの大半は大量に産んだら産みっぱなしの生態をしている。


 道具に無知な彼らは、面白いほどハンターたちの罠に引っ掛かり、そこを確実に仕留められていく。



「上手くいったな。大群といえど崩れると脆いものだ」



 その様子を退避したグランハムが眺める。


 敵の抵抗もそれなりにあるのだが、不意打ちや待ち伏せを受けた魔獣はパニックに陥って棒立ちになるか、一目散に逃げようとする。


 彼らは数が多いだけで、明らかに優位な時は猛攻を仕掛ける一方、一度でも崩れれば保身を考えて動くため、被害がさらに拡大することになる。


 警備商隊のように集団戦の訓練もしておらず、強い仲間意識もない。いきなり集められただけの烏合の衆など、所詮はこの程度のものなのだろう。


 逃げようとする個体、少しでも戦おうとする個体、右往左往する個体同士で邪魔し合い、そこを狙われて強力な罠や火器で一網打尽にされていく。



「ふははは、ハンターの戦いも小気味よいものだな。死ね死ね、もっと死ね! 踊り狂って死ねばいい! 俺の鎧の仇だ!」



 同じくメッターボルンもその様子を見つめながら、ヒビが入った鎧に簡易修復用のパテを塗り込んでいた。


 鬼美姫にも腹の部分を壊されているので、山を下りたら鎧を新調しなければならないだろう。


 が、その代金は、魔獣の命が支払ってくれるはずだ。



「ハローワークからも金は出る。それだけで損害を数倍上回る利益が出るだろう」



 グランハムの試算では、魔獣の懸賞金だけでも相当な額になっている。


 この翠清山の戦いで重要な点は、『外部から大量の資金が注入される』ことだ。


 世界的な大組織であるハローワークは、『大陸通貨』を全世界に供給するシステムの一つとして存在する。


 北部が今まで停滞していたのは、細々と内部で金と物が循環していたからであり、外部から莫大な資本が投入されれば一気に発展とインフレが起こる。


 戦争後に海外から復興と称した投資が殺到することで、高度経済成長が起こることと同じだ。これに例外はない。戦争そのものが金儲けの手段なのだ。


 よって、ハングラスが得る利益も莫大なものとなるだろう。おそらくはグラス・ギースに収まらないほど強大な利権になるはずだ。



「これだけやったのだ。そうでないと困るぞ。しかし、見れば見るほど無謀なことをやっているものだな。昔のお前ならば、こんな賭けみたいな決断はしなかった。安定と規範、それがモットーだったはずだ」



 メッターボルンが傷だらけのグランハムに、酒が入った小瓶を投げる。


 周囲を警戒しつつも受け取り、それを一気に飲み干した男は笑う。



「アンシュラオンがいなければ、いくら私とて戦う前に諦めていたところだ。やつが言うには、寡兵が大軍に勝つことはそこまで珍しくはないそうだ」


「だからといって普通は戦わぬぞ」


「ふっ、そうだな。アンシュラオンとキブカランがそろえば、これだけのことをやってのけるということだ」


「キブカラン…か。あの胡散臭い男が、ここまで頭の回るやつだとはな。この戦果には怖ろしさすら覚えるぞ」



 モズ経由で送られたアンシュラオンの手紙には、お得意の精神論だけではなく、事細かな戦略案も添えられていたことが大きい。


 こちらはソブカが作ったもので、驚いたことに敵が選択する行動や移動ルートまでもが、何パターンかに分けられて『地図付き』で描かれていた。


 あのわずかな時間でケウシュから大まかな地形を訊き出しつつ、敵を誘い込む戦術まで織り込む。常日頃から思考を重ねていなければ到底できないことだ。


 結果は見ての通り。少数で大群を翻弄している。



(キブカランの才能はすでに飛び抜けていたが、アンシュラオンという『手段』を得れば、まさに水を得た魚か。火は火を呼ぶのかもしれんな)



 両者の火が交じり合い、炎となって猿たちを焼いていく。


 戦いにおいて容赦は不要ではあるが、いつわが身も炎に呑まれるかわからない世界だ。


 さまざまな戒めを胸に抱きつつ、グランハムは戦いの意思を固める。



「ここで敵の頭を押さえ込む! 三日徹夜で済むと思うなよ! 一ヶ月戦い続けるつもりでいけ!」



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