404話 「ドッグファイト、天空の侵入者」
スザク軍は依然として清翔湖を死守。
それが可能だった最大の理由は、鳥神の軍勢に勢いがなかったからだ。
せいぜい監視か威力偵察程度で、こちらの状況を探るくらいなものであった。
それに加え、杷地火があらかじめライザックから預かっていた大量の弾薬があったからだろう。(ポケット倉庫で収納。アンシュラオンが手紙と一緒に届けた)
状況が変わったのは翌日。
侵攻開始、八十一日目。
雪が強まった昼前、突如として敵が突撃を仕掛けてきた。
「緊急対応! 上空炸裂弾を使え!」
シンテツの指揮で迎撃を開始するが、残り少ない対ヒポタングル用の武装を眷属に使わねばならないほど彼らの勢いは凄まじかった。
スザクも無弾銃で迎撃。
闘気を込めた弾丸を連続発射することでレーザーを生み出し、眷属らを焼き払う。
上空に一瞬だけ穴が生まれるが、それで倒せる魔獣は百羽が精一杯。
単独の戦力で考えれば、それだけでも相当な戦果ではあるものの、この大群の前では焼け石に水。
穴はすぐさま塞がり、敵が大挙して押し寄せてくる。
こちらの弾幕をすり抜けた鳥の群れが急降下。海兵たちを攻撃。
鉤爪で鎧を引っ掻き、クチバシで突き、種族によっては強靭な翼で切り裂こうとしてくる。
一羽一羽はたいした攻撃力をもたず、一撃を加えたら急上昇して離脱するが、その時にはすでに準備を整えた後続の群れが接近していた。
「また来るぞ! 近接武器で薙ぎ払え!」
海兵は盾や手斧、剣といった武具で対応。
武器を振れば鳥の首や翼が吹っ飛ぶものの、そうして近接戦闘に持ち込まれると肝心の弾幕が薄くなる。
そうなるとさらに敵の接近を許すことになり、スザク軍の上空がじりじりと敵に占拠されてしまう。
こうなれば、あとは一方的。
まるで竜巻の如く鳥の群れが襲いかかり、その勢いに海兵たちにも被害が続出。
「くそっ! 鳥どもが! 焼き鳥にしてやるよ!」
「ぎゃっ! こいつら、目を狙いやがる! ざけんな!」
鳥の攻撃はかなりしつこく、弱い攻撃でも目といった急所に当たればただでは済まない。
当然ながら空からの攻撃であるため、宙すべてが敵の領域。
死角から襲いかかってくる鳥たちもいて海兵たちは苦戦する。
「引くな! 引けば呑まれるぞ!」
スザク自身が陣頭指揮を執りながら、なんとか敵の猛攻を凌ぐ。
が、この段階で『バイキング・ヴォーグ〈海王賊の流儀〉』を発動していること自体が、今の危機的状況を如実に証明している。
ただでさえ雪で視界を奪われ、寒さによって動きが緩慢になる中、物量戦を仕掛けられることは最悪の事態である。
だが、このデメリットは敵側にもいえることだ。
(彼らとて寒さの影響は受けるはずだ。特に鳥はその傾向が強いだろうし、向こうの被害だっていつも以上に増える。それがここまで苛烈に攻撃を仕掛けるとなれば、やはり『命令が下った』のか)
マスカリオンは交戦には消極的だった。
その方針がたった一晩で変わるとなれば、上からの命令があったと見るべきだろう。
唯一の希望は、敵が単軍である点。
事前の情報でも周囲に他の軍勢は存在しておらず、あくまでマスカリオン軍だけが先行する形になっていた。
理由はわからないが、どうやら他の軍は動きを止めているようだ。
(今一番怖れるべきは敵の全軍が集結してしまうことだ。敵がこちらを甘く見ているのならば、それを利用すればいい)
「よし、予定通りに清翔湖から退く! シンさん、急がせて!」
「はっ! 撤退だ! バンテツ、退路を作れ!」
「任せろ!」
バンテツの部隊が清翔湖とは反対側、南東にいる鳥の群れに砲撃を開始。
集中砲火で一時的に敵の圧力を減らし、屈強な海兵らが壁を作っている間に、若い兵から銀鈴峰側に撤退していく。
「砦も燃やせ!」
防衛のためにわざわざ建造した防塞も自ら焼き払う。
もちろん、ただ燃やすのではもったいない。
一キロ四方もある砦内に大量に詰め込まれた木材に引火。
強烈な勢いで煙が噴き出し、上空にいた鳥たちを覆い尽くす。
こちらにも刺激臭のする煙玉を仕込んであるので、それを嫌って鳥たちの群れが散っていく。
「僕が殿を務める!」
「お供しますぜ!」
殿はスザクとバンテツの戦士隊が担当。
勢いが減った敵を少しずつ削りながら、ゆっくりと後退していく。
その様子をマスカリオンが上空後方から眺めていた。
空から見ると人間など蟻のようだが、スザク率いる精鋭部隊は異様なほどに強く、眷属ではまったく相手になっていない。
スザクの目はまだ生きている。勝つ意欲がある。だからこそ強いのだ。
―――(たったあれだけの数を潰せんとは、なぜこうも手ごわい。あの男…スザクもまた人間の『英雄』だということか。英雄が一人いるだけで群れは強くなる。それは魔獣も人間も変わらぬな)
マスカリオンはスザクが英雄の一人であると認めていた。
まだまだ若いが、成長すれば本物の獅子になっていくはずだ。
本音を言えばここで激突することは避けたいが、今はそれも許されない。
マスカリオンが視線を向けたのは逃げるスザク軍ではなく、少し離れた空を飛んでいる数羽の『梟』だった。
『フーパオウル〈言流梟〉』に似ているが、彼らとは違って翼が発達し、より飛行に特化した魔獣といえる。琴礼泉近くにもいたケウシュの近縁種だろう。
それはよいのだが、問題はその梟が『監視役』である点だ。
梟の身体には紫の羽根が埋め込まれており、他の梟を介することで情報をクルルに逐一報告することができる。
今回マスカリオンが攻撃を仕掛けたのも、あの梟によって攻撃命令が伝えられたからだ。
しかも梟は、時たま催促するように甲高い鳴き声を発するものだから、なおさら癇に障る。
―――「煩わしいやつらめ。この爪で切り裂いてやりたいくらいだ」
これにはグレートタングルたちも苛立ち、敵意の視線を向ける。
クルルの使いとはいえ、自分たちより下位の魔獣に命令されることはプライドが許さないのだ。
だが、これが多様な種族が集まる魔獣軍で動くということ。
マスカリオンは、グレートタングルたちをなだめて落ち着かせる。
―――「視られているのならば従順を装うべきだろう。今は逆らうべき時ではない」
―――「下手をすれば操られる、か。厄介で姑息な魔獣よ」
―――「それも強さだ。戦に勝つにはそうした力も必要になる」
―――「忌々しいが直接意識を奪われるよりはましか。だが、我らの長はマスカリオンのみ。それだけは譲れぬぞ」
―――「………」
(もし軍勢を動かしたいのならば、直接我を操作すればよいだけのこと。今までの情報から考えれば、『操る相手が強者になればなるほど操作数が減る』ということか)
当然だがクルルの能力にも限界がある。
三大魔獣も操れるには操れるが、これだけの大群を離れた位置から制御することはなかなかに大変だ。
そのうえ、さまざまな場所を監視する必要がある。
クルルは誰も信じていない。絆や信頼で繋がった主ではなく、あくまで力で支配しているにすぎない。
それゆえに人間陣営を含むあらゆる場所に監視を置きつつ、必要最低限の干渉で魔獣軍を動かす仕組みを作っていた。
そのおかげもあってか、三軍はそれぞれの将に指揮権が与えられたままだ。
魔獣軍はあえてクルルに反逆する必要がなく、目的も人間の排除で統一されているので監視の目も緩いのである。
とはいえ、無用にサボっていれば目をつけられる。
たかだか四千のスザク軍に一週間もだらだら対応していれば、こうして『督促状』がやってくるわけだ。
―――「やるからには一撃で仕留める。『敵の眷属』を狙え」
マスカリオンたち中核部隊も行動開始。
グレートタングルを大隊長、ヒポタングルを部隊長とする群れを生み出し、眷属を細かくコントロールし始める。
これだけの群れが統率されれば、脅威が何十倍にもなるのは必定。
まずは特殊な木々を燃やすことで、戦闘機のアクロバット飛行のように大量のスモークを生み出し、地上と空の間の視界を封じる。
これは上空炸裂弾で海兵側もやっていることだが、この数でやられると空がまったく見えなくなる。
今までは適当に撃っていても当たったが、ヒポタングルが指揮する隊が散開したことで命中率が激減。
当たってもたいした被害を与えられなくなり、無駄弾を撃つことを躊躇して弾幕も薄くなる。
そこからの―――爆撃!
油を使った火計だけではなく、こちらも以前やったように手製の爆弾を使い、上空からひたすら爆撃するという地獄の攻撃手段に出る。
狙いは、人間側の眷属。
つまりはスザク以外の海兵だ。
航空部隊の多くはスザクたちを通り過ぎ、戦線から離脱中の若い兵を狙って攻撃。
スザクの遥か後方で断続的な大小の爆発が発生し、多くの海兵が爆風によって身体を破壊されていく。
飛び散る手足や臓物も、荒れ狂う爆炎に呑まれてすぐに燃え尽きる。
第二海軍も味わった地獄絵図が、スザク軍でも再び描かれようとしていた。
「マスカリオン! 僕はここだぞ! 大将の僕を狙え!」
スザクも高圧縮した闘気を無弾銃に供給し、因子レベル5の『灼熱業球』に匹敵する高火力の弾を打ち込むが、倒せるのは眷属ばかり。
肝心のグレートタングルたちは『眷属の壁』を利用し、射程範囲には入ってこない。
この徹底した戦いぶりは何度も味わったが、この戦力差でやられると非常にまずい。
「耐えろ! 耐え抜け!!」
「スザク様に敵を近寄らせるな!」
海兵は第二海軍がそうしたように、自らの将を守るために身体を張る。
それ自体は軍人としても自然なことだが、兵力が少ないスザク軍がこれをやってしまうと致命的。
少しずつだが確実にダメージを受け、新兵以外にも倒れる者が増えていく。
「シンさん、僕が囮になる! このままじゃ全滅だ!」
「それだけはいけません! 前とは状況が違います! やるのならば私とバンテツが行きます!」
「くっ…」
ここでシンテツまで失えば軍が瓦解してしまう。
ハイザクほどではないにしても、スザクも部隊運用をそこまで得意とはしない。
あくまで人を魅了することに長けているだけで、ギンロと同タイプの優秀な副官があってこそ輝くのだ。
(仮に僕が前に出てマスカリオンを倒しても、最後は数に呑まれて全滅する。これでは第二海軍と…兄さんと同じになる!)
撤退すらままならない現状にスザクが歯軋り。
最初からわかっていたことだが、数に圧倒的な差がありすぎる。これを覆すことは難しい。
しかしながら、それは難しいのであって不可能ではない。
突如として上空から魔獣の悲鳴とともに、大量の死骸が降ってきた。
それは百羽や二百羽どころではなく、数千羽の死骸が大量に湖に落下。
落下してきた個体はどれもが激しく傷ついており、中にはバラバラになっているものさえいる。
しかも犠牲になった個体の中には、眷属だけではなくヒポタングルも含まれているではないか。
それを狙って湖の魚が大量に集まり、再び入れ食いタイムが始まる。
(これは…まさか!)
スザクの視線が、魔獣が落ちてきた前方の空に釘付けになる。
シンテツも戸惑いながら同じ方向を見ると、魔獣が生み出したスモークを切り裂いて『何か』が飛んでいるのがわかる。
その何かは縦横無尽に動き回り、次々と上空の魔獣たちを切り刻み、ついには大隊長のグレートタングルにも激突。
その分厚い筋肉で受け止めると思いきや、まさかの―――貫通!
「馬鹿…な……ゴブッ……」
何も理解できないまま、彼は絶命。
他のヒポタングルと同じく湖の魚の餌になってしまう。
これには余裕だったグレートタングルたちにも動揺が走り、誰もが謎の存在を凝視。
マスカリオンも目を丸くして、ソレを見つめる。
(なんだアレは…? 魔獣ではない。生物でもない。あんなものは初めて見る!)
彼が初見なのは当然。
なぜならばマスカリオン軍を蹂躙しているのは、地球では『ステルス戦闘機』と呼ばれているものに似ているからだ。
こんなものは、この世界には存在しない。だから知らないのは当たり前。
背部からジェット噴射することで、超高速での空中機動を可能にした『闘人』であり、アンシュラオンが操る四闘人のうちの最後の一体。
風の闘人―――カーテンルパ
飛行が可能な【移動用の闘人】である。
女神の規制によって『機器や道具による飛行』は認められていないが、技や術、翼や風といった自然現象による飛行は可能になっている。
以前も述べたことがあるが、師匠である陽禅公も鳥型の闘人を生み出して空を飛んでいるので、あくまで戦争(殺戮)の原因になる要素が規制されているにすぎない。
そして、カーテンルパも自身のエネルギーをそのまま噴出して移動力に転換しているだけなので、平たく言えばミサイルやペットボトルロケットと同じであり、一時的とはいえアンシュラオンもカーテンルパに乗って空を飛ぶことが可能である。
仮にカーテンルパを使えば、大人数は乗せられないものの翠清山の縦断も短時間でこなせるだろう。
では、これほど便利な闘人がいながら、なぜ今まで使わなかったといえば、【空を飛ぶこと自体がデメリット】だからだ。
火怨山で初めてこの闘人を使った際には、姉に秒で撃ち落とされている。
師匠にも簡単に捕捉されて撃墜され、空を駆けることができるゼブラエスには踏み台にされる始末。
あの化け物たちがいない場所で使ったとしても、その物珍しさからか飛行型の撃滅級魔獣に囲まれて、一瞬で噛み砕かれた記憶もある。
地球でも歩兵のロケットランチャーで簡単にヘリや戦闘機が落とされる事例が起きるが、危険地域で使えば恰好の標的になるのだ。
せっかく生み出しても目立つだけならば、使わないほうがまし。障害物の多い地上で隠れて移動したほうが何倍も有利になる。
そう、カーテンルパは一見すれば便利そうに見えても、火怨山ではまったく役に立たない不遇の闘人だったのである。
仮に下界で使っても自分の位置を教えるだけなので、こちらもやはり悪手となるだろう。
本当にピンチの際の最後の脱出手段にはなっても、静かに暮らしたいアンシュラオンが積極的に使うはずもない。空を飛べるとわかれば他人が放っておくわけもなく、多くのトラブルを抱えるからだ。
唯一の用途は、敵の注意を引く囮程度。
一瞬で潰されるのがわかっているが、それでも陽動したい時に使う消耗品に成り下がっていた。
それが今、この戦場で初めて輝いている。
ただ高速で移動するだけで、ぶつかった敵を吹き飛ばし、ソニックブームに触れた敵を細切れにする。
殲滅級魔獣には勝てないが、この程度の雑魚ならば蹴散らすことは容易なのだ。
その光景にスザクは大興奮。
「援軍だ! アンシュラオンさんの援護だよ!」
「あれが…ですか? たしかに手紙には援軍を送るとは書いてありましたが…」
「あんなことができるのは、あの人しかいない! すごいすごい! 凄いよ!!」
「まるで夢のようです。ますます人間離れしていきますな…」
子供のように跳ね上がって喜ぶスザクに対し、シンテツはもうアンシュラオンを理解することを諦めていた。
しかし、強力な援軍であることには変わりない。
カーテンルパによって敵陣はもうズタズタ。
彼らが警戒していたのは地上からの攻撃だけであり、よもや同じ空で攻撃を受けるとは微塵も想定していなかった。
眷属だけではなくヒポタングルもパニックに陥り、互いにぶつかって墜落する無様な姿を晒すほどだ。
グレートタングルらは、かろうじて立ち直って攻撃を仕掛けてくるが、あまりの速さに当てることすらできず、焦ったせいで味方の眷属に当ててしまう失態まで犯していた。
「今だ! 敵軍は混乱しているぞ! 撤退を急げ!」
これに乗じてスザク軍は撤退。
敵の注意が完全にカーテンルパに移ったことで、追撃を受けることはなかった。
一方、勝利目前だったマスカリオンは激怒。
―――「これ以上、好きにさせるものか! 我が落としてくれる!」
同じく音速を超えてカーテンルパに追いついてきた。
このように一定レベル以上の魔獣にとって音速は対した速度ではない。スピードでは互角といえるだろう。
とはいえ、アンシュラオンが生み出す闘人の戦闘経験値は桁違い。
カーテンルパは、マスカリオンの爪や術式の攻撃をすべて回避しつつ、急速に軌道を変化させて逆に背後に張り付く。
そのまま攻撃をせずに、ぴったりとマスカリオンを追尾。
煽る、煽る、煽る。
翠清山における空の覇者を煽り立てる。
―――「貴様! この銀の翼と空で勝負するつもりか!」
マスカリオンはこめかみに青筋を立てて、さらに激高。
ドッグファイト―――開始!!
ドッグファイトとは、戦闘機同士が互いを追尾しあい、撃墜しやすい間合いを奪い合う空中戦のことだ。
マスカリオンは高速機動でカーテンルパを置いていこうとするが、カーテンルパも加速してついてくる。
マスカリオンは飛行に特化した突然変異体であるものの、軌道自体は鳥と大差ない。
旋回や急降下に加え、術式による急上昇を交えた変化を加えても、所詮は生物の動きでしかないのだ。
それに対して作り物のカーテンルパは、水気を放出すればどんな動きでも可能なため制限がない。
空中を三百六十度、自由に急加速することで、マスカリオンの背後を取り続ける。
―――「振りほどけん! この我についてくるとは!?」
どんなにフェイントを使おうとまったく通用せず、淡々と追尾してくる謎の戦闘機。
それも今まで無敗を誇っていた空中戦で、突如としてその静寂を打ち破る者が出てくれば、冷静な彼も混乱に陥ってしまう。
(馬鹿な! 馬鹿な! 我は空の王者だぞ! 銀の翼だぞ! いったい何が起こっているのだ!?)
―――「マスカリオン! 手助けする!」
苦戦するマスカリオンを助けようと、グレートタングルたちが援護に来る。
だが、それを探知したカーテンルパから、いくつもの『子機』が射出されて彼らの背後を取る。
今回はただ追うだけではなく、ロックオンからの―――射撃!
凄まじい勢いで大量の『水気弾』が射出され、グレートタングルを射貫いていく。
これも闘人が飛んでいる仕組みと一緒で、エネルギーとして供給されている命気あるいは水気を、そのまま武装に転用したものである。
―――「駄目だ! 止められん!」
―――「見ろ! また増えるぞ!?」
生み出された子機はカーテンルパの小型版だったが、その子機がさらなる子機を生み出す。
こちらは戦闘ヘリをイメージした造形となっており、装備されたミリガンもどき(発射するのは同じ水気弾)で、眷属たちに襲いかかる。
もはやマスカリオン軍はスザク軍どころではなく、自分たちの最大の優位性を侵してくるカーテンルパに対応するのが精一杯だった。
そして、リーダーであるマスカリオンとカーテンルパとのドッグファイトは、日が暮れるまでの六時間ほど継続。
散々追い回された挙句、最後のほうでは攻撃も受け、自慢の翼がまたもや傷だらけになってしまった。
―――「くそおおおおおおおおおおおおおおお!! 許さん! 許さん! 許さん!! 絶対に許さんぞおおおおおおおおおおおおおお! 誰だ! これを操っていたのは誰だぁああああああああ! 見つけ出して必ず殺してくれる!!」
エネルギーを使い果たしたカーテンルパをようやく仕留めたものの、それは相手の自滅であり、こちらの勝利とは程遠い。
そこでようやく、何者かがこれを操っていたことに気づく始末。
知性があるからこそ恥を知る。
スザクに追い込まれても感情を爆発させることがなかったマスカリオンが、初めて怒りの咆哮を上げた。
スザク軍、死者288名
マスカリオン軍、死者約18000
アンシュラオンの闘人により、圧倒的かと思えた魔獣軍の出鼻をくじく強烈な一撃が加えられることになった。
この『敗戦』により、マスカリオン軍は進軍を停止。
激しい怒りの炎を燃やしながらも、再びの襲撃をおそれて清翔湖を取り戻すにとどまる。




