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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「琴礼泉 制圧」編
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398話 「サナ VS 火乃呼 その2『人刃一体、闇を打ち砕く力』」


(基本は左手の脇差を防御用に使いつつ、右手の太刀で相手を攻撃する。攻防一体の動きは、まるでユキネさんの戦いそのものだ。それができるのも戦士の動きがあるからこそだな)



 ユキネは剣士でありながら身体能力に優れる武人だ。


 肉体強度という意味ではなく、スピードと反射神経に優れているので、敵が戦士であっても翻弄することができる。


 サナに関していえば、課題であった腕力が改善された点も大きい。


 今までは『剛腕膂将ごうわんりょしょうの篭手』によるサポートに頼っていたが、戦士因子の上昇により片手でも太刀を振り回せるようになっていた。


 単独では剣気の出力が足りないので致命傷は与えられないが、十分攻撃として通用する威力といえる。


 そして何より、動きに深みと『色気』がやや出てきたことにも注目だ。



(うーん、くすぐられるようなエロさだな。まだまだ蕾だが、それがまたそそる。サナちゃんも女として成長してきているんだなぁ。お兄ちゃんはドキドキしちゃうぞ!)



 あくまで武人としての色気なので性別は関係ないのだが、ユキネを真似ることで相対的に色香の面でも魅力的になったことは事実。


 それだけ彼女が日々、すくすくと成長していることがわかるだろう。



(ちくしょうちくしょうちくしょう!! なんでこうも好きにされる!)



 一方の火乃呼は、簡単にいなされることに激しく苛立っていた。


 いくら完成形のディムレガンの鎧とて、こう何度も直撃を受けると徐々にダメージが蓄積していくものだ。


 いや、それ以上に心に『ドス黒い感情』が渦巻いていく。


 それが溜まり、溜まり、たまりかねて、ついに爆発!!



「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 火乃呼の鎧から爆炎が噴き出す。


 これ自体は炎爪を使う際、内部に逆流しないための冷却機構であったが、彼女が発する炎の量がどんどん増えていき―――全身が焔紅に包まれる!



「ううううっ…許さねぇ!! おれを圧迫するもの、おれを苦しめるもの、おれを認めないもの、全部全部―――ぶっ殺す!!!」



 サリータが借りた鎧にもあったように、背部から炎が噴き出す。


 しかし、その炎があまりに強すぎるために、まるで生物かのように炎が荒れ狂い、【炎の翼】へと変わっていった。


 放出される炎の量も数倍に増えた結果、腕も足も肥大化。



「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」



 火乃呼が雄たけびを上げながら爪を振る。


 サナは黒兵裟刀で受けるが、背部から放出される炎の翼の加速力と爪の質量の増加により、あっさりと弾かれてしまう。



「死ね死ね死ね死ね、消し飛べぇえええええ!」


「っ―――!」



 火乃呼の両腕から炎の竜巻が吹き荒れ、サナに襲いかかる。


 さきほども受けた衝撃波に炎が絡みつき、アルの『赤覇・双竜旋掌そうりゅうせんしょう』と同じ現象が発生したのだ。


 至近距離でこれをやられたら、よけることは不可能。


 サナは飛び退きながら防御。


 二本の刀を盾にして両手で顔を防ぎ、かろうじて炎から逃れる。


 しかし、この炎も『焔紅の息』であるため、彼女が身に付けていた鎧が焼け焦げ、中の鎖帷子も半分ほど溶けてしまった。



「ふーーーー、ふーーーー! ウオオオオオオオ!」



 続けて火乃呼が、防御を考えない連続攻撃を放ってくる。


 肥大化した腕を振り回すごとに、大地が溶けて液状化していく。


 これにサナは防戦一方。


 地面の変質は足運びでなんとかなるが、鎧のほとんどの箇所から炎が噴出しているので、簡単には近寄れないのだ。



(火乃呼のやつ、ついにキレたのか? それは想定内だが、想像以上に暴走しているようだな。ディムレガンの発する炎は『血液』のはずだ。となれば、それだけの量の血を失っていることを意味する。あのままいくと自滅だな)



 火乃呼をとことん怒らせてから叩き折ることこそが、この戦いの目的であったが、今の彼女は普通ではない。


 ディムレガンの『竜』の部分が強調されすぎてしまい、炎によって肥大化した両手足を支え切れずに四つ足になっている。


 その姿は―――火竜


 『竜紅人』と呼ばれるのだから、『紅竜』と表現したほうが正しいだろうか。


 ただし、人為的に造られた魔神の金竜美姫や、その眷属の『バルザインドラゴ〈轟腱火竜〉』とは違い、あくまで人間側の存在である。


 より感情が豊かで人間味のある生命体だからこそ、激しく燃え盛ることができる。



「どうしておれを認めない!! おれのほうが上だろう! だったら従えよ! 好きに打てれば、おれが一番だってわかるだろう! この足手まといどもがああああああああ!」



 鍛冶においては、誰よりも自分が優れている。


 打った作品のどれもが他の鍛冶師とは桁外れの代物で、明らかに才能が違うことがわかる。


 しかし、それを扱う者が未熟がゆえに力を発揮しきれない。


 それは人間も猿も同じだ。



「どうして弱いやつに合わせる必要がある! 邪魔くさいんだよ! うんざりなんだよ!! そんなやつら、もういらないだろうが! 死ねよ!! 全部死ね!! ライザックも死ね!」



 身近で唯一、自分を認めてくれていたと思っていたライザックも、結婚してから変わってしまった。


 都市全体の利益のために優秀な鍛冶師を切り捨てるようになった。


 何度かそれに合わせようと努力して包丁なども作ってみたが、性に合わず、価値を認めてもらうこともできない。


 もてはやされるのは、ちょうどいいレベルの存在ばかり。


 世間でチヤホヤされるということは、『所詮は一般人が理解できる範疇』でしかないことに気づかない。



「くだらねぇ価値観を押し付けるな! 弱くて汚いものを見せつけるな!! くそがあああああああああああ! おれは上に行きたいんだよ! もっともっと上にぃいいいいいい!」



 圧倒的に純粋。


 鍛冶に純粋。


 才能に純粋。


 ディムレガンという特殊な存在の中でも、さらに特異なほどに純粋。


 その純粋さがあるからこそ、邪悪なものを跳ね除けることができる。


 しかし、純粋がゆえに束縛されることや圧迫されることが我慢できない。


 行き場を失った炎が荒れ狂い、自身さえ燃やしてしまう。



(火乃呼の感情が伝わってくる。お前はあくまで鍛冶師なんだな。そして本当は『人を愛している』んだ。だからこそ評価を求める。【あいつ】に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ)



 ジ・オウンこと刻葉ときばは、そんな弱者たちをあざ笑い、情報操作でコントロールすることで利用していた。


 弱者に理解されることなど最初から想定していない。人々をただの労働力(蟻)としか見ていないことに火乃呼との違いがある。


 その意味において、火乃呼は『可愛い』のだ。



(しかし、このままでは危険だな。放置していると死にかねない。止めるべきか―――)



 逡巡するアンシュラオンの前で、黒い影が動く。


 彼女は荒れ狂う炎に飛び込み、刀を振る。



「邪魔くせぇええええええええええ!」



 四つ足の紅竜と化した火乃呼が、大きな爪で薙ぎ払う。


 あまりの炎の暴力と圧力に、サナは焼かれながら弾かれる。


 が、受け身を取って着地すると、間髪入れずに立ち向かっていき、素早い動きで懐に入り込んで強撃を叩き込む。


 そのたびに炎に焼かれて、愛らしい顔に火傷を負い、艶やかな髪の毛も少しずつ縮れて燃えていくが、彼女は止まらない。


 何度反撃を受けても、執拗なまでに攻撃を繰り返す。


 その戦い方は、ユキネのものではない。



(今度はマキさん? …いや、似ているが違う。入る角度が違うんだ)



 マキは足腰の強さを生かしたダッシュで、一気に間合いを詰めてから連撃を加えるタイプの武人だ。


 鉄化能力を使わない場合は、サナと同じく防御面に不安が残るために、基本は攻撃を受けないでかわすことが重要になる。


 今のサナも似た動きをしているのだが、それが真っ直ぐではなく『斜め』に入っているのだ。


 攻撃部位を悟らせないように常に小刻みに動きを変化させつつ、スピードを維持したまま動いている。



(こんな動きを教えたことはないが…戦い方に無駄がない。現状ではもっとも効率の良い戦術ではある)



 サナがやっているのが、ヒットアンドアウェーであることは間違いない。


 そもそもそうしないと相手の炎に呑まれてしまい、一秒とどまるだけで燃え尽きてしまうだろう。


 ただし、それがマキよりも短いダッシュの連続、言い換えればジグザグの高速移動を繰り返すことで、敵の直撃を受けないように工夫している。


 スタミナ面でも、今の彼女ならばしばらくは問題ないはずだ。



(サナが自分流の戦い方を見つけようとしているのか? それもありそうだが、それ以上にこの『感情』は…)



 サナの瞳はいつもと同じように見えて、奥底には真っ赤な『炎』が宿っていた。



 それは―――怒り!!



 一見すれば冷静でも、実際は【激しく怒っている】。


 だからこそ無茶な突撃を繰り返し、何度も刀で強撃を叩き込んでいるのだ。


 それが結果的に新しい戦い方に繋がっているだけのこと。


 要するに、実はあまりよく考えていなかった、というわけだ。


 

(そうか、怒っているのか。そりゃそうだよな。なにせ自分のために命を賭して刀を打ってくれた人を馬鹿にされたら、誰だって怒って当然だ。お前が感情を表現したいのならば、お兄ちゃんは止めはしない。好きにやってみろ!)



 黒千代と黒兵裟刀の持ち主はサナだ。


 幾度も自分を救ってくれた刀であり、アンシュラオン以上に炬乃未に好意と感謝を抱いていても不思議ではない。


 彼女はその怒りを、感情の赴くままに叩きつけているだけだ。


 状況的には火乃呼と大差はないが、サナの魔石は暴走していない。


 瞳に魔石獣の獣性が表れそうになると、ぐっと我慢して青雷狼を抑え込む。



―――〈勝手に出てくるな。これは自分の戦いだ!〉



 と言わんばかりに威圧し、主人としての威厳を保つ。


 これもまた魔神戦での経験が生きている。


 しかしながら「雷は使うな」と言われているだけであり、魔石を使うなとは言われていないので、青雷狼の身体能力だけは少しずつ引き出していた。


 魔石から力を部分的に引き出すことはジュエリストでも非常に難しい。彼女の感情の高ぶりとともに、魔石とのシンクロ率も上昇していくことがわかる。


 そして、青雷狼から力を『奪うことで』、サナの速度が上がっていく。


 そのたびに動きが鋭敏になるだけではなく、刃を叩きつけた際の威力も向上。


 火乃呼の爪を意図的に狙うことで反撃を遅らせ、敵が攻撃した瞬間には即座に離れるを繰り返す。


 右から左から、前から後ろから、上から下から。


 不規則な短い高速のダッシュと、強弱の変化によって狙いが絞れず、火乃呼は右往左往してしまう。



「なんだよ、こいつはああああああああああ! 潰れろ!! 消えろ!!」



 感情のまま荒れ狂う力は強いが、制御がまったく利かない。


 それではサナの動きを捉えることはできないどころか、さらに自身を焼き尽くすことになる。



「うぐぁああああああ! なんでこんなに苦しい! 熱いんだ!? おれは、おれは!! 一番の鍛冶師のはずだ!! 他の誰にも負けるはずがねぇ! 炬乃未の刀なんか簡単に折れるはずだぁあああああああ! あいつはおれの下にいるんだ!! おれのほうが上に―――」



 そう叫んだ瞬間―――バッキンッ!!


 激しい衝撃が火乃呼の爪に走った。


 慌てて見れば、そこには小さな亀裂が入っている。



「馬鹿な!! 火を通したおれの爪が!! 嘘だ! ありえねぇ!! 叩いたほうが溶けちまうはずだぞ!!」



 されど、サナの刀は溶けるどころか、大きな傷は一つもなかった。


 細かい傷みはいくつもあるが、サナが刀を労わることでダメージを減らし、刀もまたそれに応えようと必死に彼女を護る。


 たしかに鍛冶師の腕前では火乃呼のほうが上。


 性質の違いはあれど、妹の炬乃未が劣っているのは間違いのない事実だ。


 だがしかし、刀は単一の存在ではない。


 持ち主が扱ってこそ真価を発揮する『相棒』なのだ。


 サナが炬乃未と出会い、その理念と『願い』を受け入れた時から、刀との融合は始まっていた。


 それがここで、完全に一致。


 サナが加速を繰り返し、繰り返し、繰り返し―――『雷の軌跡』を描く!


 青雷こそ使っていないが、それは紛れもなく雷光の流れ、稲光そのもの。


 完璧なタイミングで入り込んだ踏み込みは、炎に焼かれる前に完全なる剣撃を放つに至る。


 狙いは、すでに入れた亀裂の部分。



「―――!!!」



 そこに声無き声とともに、最高の一撃が叩き込まれる。


 亀裂はさらに広がり、一瞬で限界を迎えて―――バキバキボッキン!


 完全にへし折れる!!


 その瞬間にはサナは遥か遠くまで移動しており、炎に呑まれる前に離脱を完了させていた。


 当然、黒千代にダメージはない。黒兵裟刀も日の光を受けて美しく輝いている。


 刀が喜んでいる! 叫んでいる!


 これこそが自身の在り方だと! 自身の真価だと!



 ゆえに―――【人刃一体】!!



 サナだけでも届かない。


 刀だけでも届かない。


 しかし、両者の力が加われば二人三脚。


 二つで三倍の力を発揮することができるのだ。



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