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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「琴礼泉 制圧」編
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395話 「火乃呼の矯正 その3『剣の価値』」


 アンシュラオンが爐燕の剣を使い、猿が火乃呼の剣を使って剣戟を交わす。


 互いの剣が触れ合うたびに火花が散り、ガキンガキンッと甲高い音が響いていた。


 この勝負はあくまで、『刀剣の質』を決めるためのものだ。


 では、その質とはどうやって決まるのだろうか?



(打ち合うたびに、ずっしりとした頑強な質量を感じる。金属の結晶構造が根本から異なっているんだ)



 アンシュラオンがまず感じたのは、剣の【純度】の違いだ。


 両者の剣の『素材』は琴礼泉で採掘したものなので、ほぼ同じ。


 一族でもっとも優れた火乃呼には、特別良い素材が与えられるものの、そこまで大きな差があるとも思えない。


 ならば、いかに不純物をなくして純度と密度を上げるかが、単純に剣の硬度を上げることに繋がっていくはずだ。


 火花が散るたびに爐燕の剣が少しずつ『まかれる』。


 火花が散るということは、それだけ刀身が削れていることを意味しているので、小さな刃こぼれが増えていくことになる。


 対して火乃呼の剣には、初撃に与えた傷がわずかに残っている程度である。



(爐燕さんもかなりの腕前の鍛冶師のはずだが、ここまで差が出るものなのか。なんだかんだ言っても、さすがの実力だな)



 爐燕の剣も良質な剣と呼べるものだが、同じ素材とは思えないほどに密度が異なっている。


 その理由は、まさに『鍛錬の技術』の違いにある。


 刀剣に使われる鉄や鋼の類は、叩くたびに金属の結晶構造が変化していく傾向にあり、原子の並び方によって物の強度は劇的に変化する。


 どれだけの熱量をどのタイミングで加えるのか、どれだけの力でどこを叩くのかで、同じ金属でもまったく異なる性質を持つことになるわけだ。


 これが火乃呼の場合は、異様に高いレベルにあった。


 ハンマーを扱う技術だけならば爐燕も負けないだろうが、彼女の能力である『焔紅せんくの息』は、通常の燃料では達しえないほどの高温を生み出し、金属から不純物を滅して一気に純度を上げてしまう。


 これは『呪詛』すら滅してしまうほどの神聖な力を帯びたもので、この段階で通常の鍛冶師を簡単に置き去りにするだろう。


 しかも彼女の灼熱のハンマー自体が、ディムレガン最高の血と炎によって生み出されているため、金属に与える影響は計り知れない。



(そして何より『剣の方向性』がまるで違う。家庭用の包丁を作らせても、そこらの剣よりも戦闘に向いているんだ。あの性格通り、攻撃に適したものになっている。バランス型の爐燕さんの剣だと競り負けるな)



 次に違いが出るのは、やはり『鍛気たんき』の質だ。


 武人が放つ戦気と同じく、鍛冶師が発する鍛気には当人の気質が色濃く表れる。


 爐燕の鍛気は、愛嬌の良さや面倒見の良さが全体的なまとまりを与えつつも、一か八かの『博打打ち気質』が垣間見られ、『面白みのある剣』が生まれることが多い。


 ユキネがもらい受けた『残殷刀ざんいんとう白影命月びゃくえいめいげつ』などは、その真骨頂で、彼の能力が最高に上振れした際に出来た名刀といえる。


 が、攻撃、払い、防御、流し、すべてに対応できる反面、どっちつかずの性能になりやすい。


 一方の火乃呼の気質の特徴は、以前述べたように圧倒的な【攻撃性】にある。


 攻撃こそ最大の防御といわんばかりに、攻撃に全振りしたような勢いある炎が、すべてを薙ぎ払うような圧力を与えてくる。


 かといって、全体のバランスが大きく崩れているわけでもない。単純に強くて硬いうえに、柔軟性と耐久性すら持ち合わせている。



「どうした、アンシュラオン! 散々偉そうなことを言って、そのざまかよ!」


「うるさいやつだな。まだ始まったばかりだろうが」


「へっ、その余裕がどこまで続くかな! いけ、猿!! そのまま圧しきれ! 爐燕の剣なんて削り切っちまえ!」



 この質の差は、もちろん火乃呼も見抜けるので、笑顔で煽ってくる。



(まったく、感情が表情に出るから、何を考えているかわかりやすいやつだよ。アイラと同類だな。さて、そろそろ本気でいくか)



 剣の質は、試す必要もなく火乃呼作のほうが上。


 持っているポテンシャルが他の鍛冶師とは違いすぎる。ディムレガン最高の鍛冶師と謳われた実力に偽りはない。


 がしかし、剣とは何のために存在するのだろうか?


 素材の良さ。鍛気の質の良さ。それはあくまで『品質』に関わる問題にすぎない。


 アンシュラオンがすっと身を引き、剣を『下段』に構える。


 猿が打ってくるタイミングに合わせて剣を振ることまでは同じだが、剣戟の音が異なっていた。


 ガキンガキンッから―――カシュンカシュンッ


 直接的な激しい激突から、互いの刃が滑るような瑞々しい音に変わっていく。



(下段? 海軍でもあまり見たことがねぇ持ち方だ。何を狙ってやがる?)



 火乃呼もアンシュラオンの剣の持ち方に違和感を覚える。


 だいたいの剣士は中段から上段に構えることが多く、大半は切っ先を相手に向けた中段の構えが多い。


 当たり前だが突くにしても斬るにしても、相手への距離が近いほうが有利だからだ。


 では、下段の唯一の長所は何かといえば、『防御』に優れることだ。


 アンシュラオンは、下からいなすように剣を当てている。一応剣戟のていは取っているものの、まともに打ち合ってはいない。



「逃げてんじゃねえぞ! 真面目にやれ!」



 火乃呼が野次を飛ばすが、アンシュラオンはどこ吹く風。


 淡々と攻撃をいなす作業に集中している。


 それによって剣への負担は明らかに減り、刃こぼれすることもなくなった。



(これで重量と質量のハンデを減らすことができるか。火乃呼のやつはすっかり忘れているが、あっちの剣のほうが二倍はでかいんだ。それだけでも有利なんだぞ)



 たとえるならば、剣の一撃をナイフで弾くようなもの。


 得物が大きく長く、さらに厚みがあるほうが重量が乗るので強いに決まっている。


 これまで爐燕が作った人間用の剣で耐えられていたのは、アンシュラオンの剣捌きが非常に上手かったからだ。


 『剣士因子』が自動的に剣の扱い方を教えてくれるので、なんとなくやっていても対応はできる。これが『才能』の部分だ。


 ただし、今やっているのは因子に頼らない『技術』の部分である。



(オレも剣を語れるほど精通はしていないが…せっかくだ、珍しいものを見せてやるよ)



 猿の剣が真上から振り下ろされる。


 アンシュラオンは下段に構えた剣を、下から擦り上げるように跳ね上げ、切り払うと同時に刃の位置を入れ替え―――



「はっ!!」



 気合を入れて、上から相手の剣の棟に叩き落とす!


 刀身がカツンと棟に食い込むと、そのまま―――バッキンッ!


 二倍はあろうかという大きな剣を、へし折る!



「なっ…!!」



 その光景を、火乃呼は驚愕の眼差しで凝視。


 いきなりの反撃、しかも一撃必殺の太刀筋に言葉も出ないで立ち尽くす。



「ふー、久々だったが上手くいったな」


「て…てめぇ、何をしやがった!!」


「べつに? 普通に斬っただけだぞ」


「嘘つけ! 何かしただろう!? 剣王技か!?」


「剣気は出ていなかっただろう? 剣王技は使っていない」


「そ、それは……たしかに剣気は出ていなかったが…」



(そう、『剣王技』は使っていない。だが、【剣技】は使わせてもらった)



 大日本帝国、【六甲陸練ろっこうりくれん式剣闘術】、『龍勢のち』。


 敵の攻撃を迎撃しつつカウンターを加える技で、相手の剣や刀の切っ先を地面に押し当てながら上から叩くことでへし折る、あるいは曲げてしまう武器破壊にも使える剣技である。


 この『六甲陸練ろっこうりくれん式剣闘術 』は、アンシュラオンが所属していた陸軍士官学校で教えられていた代表的な軍隊式日本剣術であり、得手不得手関係なく修得が義務付けられるものだ。


 アンシュラオンが剣士を相手にしても動じないのは、姉が剣を使っていたこともあるが、こうした前世の経験があるからこそといえる。



(とはいえ、この世界では『技として認められていない』からなぁ。【単なる技術】でしかないのが惜しいところだ)



 覇王技、剣王技、魔王技、すべての技に発動条件があるものの、それは『この惑星限定』という大前提が存在する。


 前世で暮らしていた星では技として成立しても、この星では技として認定されない。


 もっと詳しく説明すれば、剣気を使って補強はできるものの、攻撃力の二倍補正や三倍補正といった『技のメリット』が上乗せされないのである。


 となると、普通の身のこなしや剣捌きにしかならず、あえて修得する意味合いが薄くなる。



(オレが自分でサナに剣技を教えたくない最大の理由が、まさにこれだ。変に日本式の剣術の癖をつけたら彼女の才能が台無しになってしまう。この星にはこの星のルールがあるんだ。強くなるには、それに倣わないといけない。まあ、オレがたまに使う分にはいいけどね)



「…じー」



 と、こうしてたまに使う時でも、サナはその動きを見ているのだが。



「い、今のは無しだ! なし! 無効だ! 今の絶対、技だから!」



 しかし、それを認めない火乃呼が異議申し立て。


 猛烈にまくし立ててくる。



「剣気を使っていないんだから、技でもなんでもいいだろう。結果は出たぞ。お前の剣は折れた」


「そっちの技量が高かったからだ! 使い手の問題じゃねえか! 剣の質じゃ、こっちが圧倒していたはずだぜ!」


「お前の剣は飾り物か? 剣ってのは使ってこそ価値が出る。剣士の技量あってこそだ」



 これは剣だけに限った話ではない。


 アラキタに襲撃された際、ディムレガンの男性陣の鎧が簡単に破壊されていたが、戦いの素人が優れた武具を使ったとしても、熟練した武人には到底及ばないのである。


 しかも今回のアンシュラオンは、剣気を使っていない。


 ただの剣捌きによる技術だけで、火乃呼の剣を叩き折ったのだ。


 だが、火乃呼も簡単に敗北を認めない。



「一回勝負だなんて言ってないぞ! 次だ、次!」


「負けず嫌いだなぁ。まあ、暇だし付き合ってやるよ」


「次の猿、行け! 行けったら行け!!」


「キキッ…」



 次に出た猿の剣も、アンシュラオンは叩き折る。


 今度は下段ではなく、ミリ単位で完全に同じ場所に剣撃を繰り出し、ダメージを蓄積させてへし折った。


 次の猿の剣は、真っ向勝負で削り合いながら、猿の体勢が崩れた一瞬の隙をついて強撃。互いの剣が同時に折れる。



「さすがにもたないか。今度はこれを使うかな」


「てめぇ、なんだそのナマクラは!」


「あ、わかる? でも、これなら一本はいけるかなって思ってさ」


「猿! 絶対にへし折れ! せめて道連れにしろ!」


「おいおい、目的が変わってないか?」



 今度はディムレガンの青年が打った『最高傑作(それでも爐燕の失敗作にも及ばない)』もので勝負を開始。


 かなり良い競り合いになったものの、技量の差でアンシュラオンが火乃呼の剣を叩き割る。



「あっぶな。めっちゃ亀裂が入ってるじゃんか。やっぱり若い連中の剣じゃ怖いな。脆すぎる」


「ぐぬぬぬぬううううう! 次だ! 次!!」


「というか、何本用意してんだよ。そんなにたくさん折られたかったのか?」


「いろいろな剣で、お前の剣を何度も折ってやろうと思ってたんだよ! 悪かったな、こんちくしょう!」



 結果、火乃呼が用意したすべての剣をアンシュラオンが折る。


 こちらも四本失ってしまったが、その三倍の数を折ったのだから完全勝利といえるだろう。



「明日だ! 明日まで待て! とっておきを持ってくる!」


「いや、負けを認めろよ」


「うるせぇ! そのツラ、二度と忘れないからな! 覚えてやがれ!」


「壮絶な捨て台詞だな。とりあえず、こっちが一勝ってことにしておくぞ」



 火乃呼の心を折るには、まだまだこんなものでは足りない。


 翌日もまた勝負が待っていた。



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