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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「琴礼泉 制圧」編
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393話 「火乃呼の矯正 その1『二流以下』」


「お見事です。制圧だけではなく、ディムレガンまで傘下に収めたようですね」



 ここでボロボロのソブカたちも合流。


 一瞬、烽螺と炸加がぎょっとした目で見たが、ソブカは何食わぬ顔で無視。


 スパイ争奪戦に負けた身なので、話題そのものを持ち出さないのは、潔いのか狡猾なのか。


 どちらにしても、今はそんなことを言っている場合ではない。


 アンシュラオンもソブカと素知らぬ顔で会話。



「第二海軍が壊滅したそうだ」


「…やはりそうですか。認めたくはありませんが、事実ならば致し方ありません」


「戦況の変化に勘づいていたのか?」


「ええ、猿神たちの動きから想定はしていました。もしかしたら敵の狙いは、最初から第二海軍だったのかもしれません」


「最大戦力を罠にはめるのは定石だ。魔獣の統率が執れていた段階で注意すべきだった」


「その通りです。対する我々は、グラス・ギースとハピ・クジュネの利権争いでバラバラに行動していました。そこが敗因でしょうか」


「敗因? まだ負けていないぞ」


「っ……まさか、まだ戦うと?」



 これには、さすがのソブカも予想外だったのだろう。


 本気で驚いた様子だ。



「お前らしくもないな。いつものギラギラした目付きはどうした? ピンチこそチャンスだろう?」


「しかし、戦力を大きく失った今、まずこちらに勝ち目は…」


「敵もそう思っているだろう。ならば、まだ勝機はある。そこの『言葉がわかるフクロウ』から必要な情報を集めておけ。作戦立案は任せる。特に【地形データ】に関しては執拗に問い詰めろ」


「本気…なのですね?」


「当然だ。それとも都市に逃げ帰って震えて眠るか?」


「わかりました。私も覚悟を決めましょう」


「ソブカ様! 勝ち目などありません! 今すぐ山を下りるべきです!」


「ファレアスティ、わからないのですか? すでに【刀は抜かれた】のですよ」


「っ…」


「ふふ…私としたことが、ついつい弱気になっていたようですねぇ。【最強戦力】は、いまだここにあるのです。逆に、今だからこそ勝算が高い」



 ソブカの瞳に熱い炎が宿ったのが見えた。


 下剋上を狙う野心ある者の目だ。



「ではフクロウさん、いろいろと教えてもらいますよ」


「目付きが怖いんですけど!?」



 ソブカはさっそくケウシュから事情聴取を開始。


 アンシュラオン同様にヤバいやつから再度詰問されるとは、あのフクロウも災難なものだ。


 面倒なことはソブカに任せ、アンシュラオンは杷地火に武具を見せる。



「杷地火さん、これらの武具の修復をお願いしたいんだけど、どれくらいでいけるかな?」


「この陣羽織は里火子のものか。烽螺、やれるな? お前にとっては初めての仕事だ。その意味はわかるな?」


「お、おう! 職人は依頼されてこそ一人前だ! 任せてくれよな! 死ぬ気で仕上げてやるぜ!」


「修復は三日もあれば十分だろう。なんとしても間に合わせる。他の武器や鎧の調整も任せておけ」



 これから敵の軍勢との戦いが待ち受けているのだ。準備は万端にしたいものである。


 ただし、現状でサナの防具を直せるのは、里火子と同じ能力を持つ烽螺だけだ。


 この日数は、どちらかといえば彼に対する時間制限ともいえる。



「しかし、あの人間の言葉ではないが、本当に勝てるのか?」


「詳細な情報がもっと欲しいのが本音だけど、敵が操作タイプだとわかった以上、勝算は十二分にあるよ。新しいボスが強制的に支配しているのならば、その頭を潰せば終わりさ」


「それは道理だが…いや、いまさら問うこともあるまい。すべて、わがあるじに任せよう」


「じゃあ、三日後にロクゼイのおっさんたちと一緒に山を下りてもらうよ。できるだけ危険は避けたいからね。都市に避難しておいて」


「了解した」



 こちらも予定通り、ディムレガンには退避してもらう予定である。


 今回の戦闘を見ていても、彼らを戦力として計算することはできない。そのほうが安全だろう。


 がしかし、ここで異議を申し立てる者がいた。



「親父! なんでこんなやつの言うことを聞くんだよ!」


「決まったことだ。口を挟むな」


「いきなりおかしいだろう! 海軍と対立するのはいいけど、ここの魔獣たちとの関係はどうするんだよ! やっぱりこいつらは敵じゃないか!」


「我々は、より強い者と手を組む必要がある。ハピ・クジュネと手を切ったのならば、なおさらだ」


「それなら翠清山の魔獣でいいじゃないか!」


「竜人は魔獣ではない。魔獣よりも人間のほうが相性が良い。お前も気づいているはずだぞ。所詮は魔獣たちにとっても、我らは道具にすぎない。都合の良い相手にすぎないのだ」


「そんなの、そいつだって同じかもしれないだろう! だったらおれは、縁のある魔獣を選ぶぜ!」



 ここで火乃呼が、アンシュラオンの勢力下に入ることを猛烈に反対。


 他のディムレガンはリーダーの杷地火の決断に素直に従っていることから、彼女の存在は異質といえる。


 だが、ここで杷地火から重大な発表がなされる。



「火乃呼、お前はアンシュラオンの【嫁】になれ」


「は…?」


「聴こえなかったのか? お前は主の嫁になれ。嫁になれずとも奉仕のために仕えろ。いや、是が非でも嫁にしてもらえ。わかったな」


「はぁああああああああああ!? いきなり何言ってんだぁあぁああああああ!?!! どう考えても『政略結婚』だろうが!」


「だからなんだ?」


「いやいやいやいや!? どうしちまったんだよ、親父ぃいいいい!?」


「主よ、こんな娘だがもらってくれるか?」


「え? いいの? そりゃディムレガンの女性には興味があるけど…ぐへへへ、じゅるり」


「こいつ、いやらしい目付きをしてるじゃねえか! こんなに女をはべらせているやつに、可愛い娘を渡していいのか!? なぁ、いいのか!?」


「絆と縁を深めるために、娘を差し出すのは当たり前のことだ。お前こそどうしたのだ?」


「嘘だろう!?」



 杷地火の目がマジである。


 火乃呼のためにハピ・クジュネとも縁を切った男が、いともあっさり娘を差し出すのだから、当事者が混乱しても致し方がない。


 が、ディムレガンにしてみれば種族の存亡がかかっている。


 より強者に娘を渡すことで服従の意を示すことができるし、あわよくば【子供をもうける】ことができるかもしれない、との目論みもある。


 とはいえ、あれだけ自由奔放に育てられたのだ。簡単に受け入れるわけがない。



「おれはお断りだね! 絶対に嫌だ!」


「これも一族のためだ」


「嫌なもんは嫌だ! 他人の意思で好き勝手されるのは、もう我慢できねぇんだよ!」


「彼は里火子と炬乃未も認めた存在だ。これ以上の人選はない」


「おれの人生だ! 自分の生きる道は、おれ自身が決める! そんなに嫁にやりたいのなら、炬乃未をやればいいだろう!」


「ふむ、炬乃未か。あの子ももらってくれるか?」


「え? いいの? 遠慮なくもらっちゃうよ。ぐへへへ」


「おやじいいいいいいいいい!」



 うっかり言い返した言葉を本気で捉えてしまうほど、杷地火と火乃呼の間には温度差があった。


 逆にいえば、杷地火は完全にアンシュラオンに魅了されているのだ。



「おふくろと炬乃未が認めたとしても、おれには関係ないね!」


「炬乃未が鍛冶師として復活したのだ。ほかの誰にそれが促せる。冷えきった我らに熱を加えてくれるのは、アンシュラオン以外にはいない」


「へっ、どうだか」


「実際に見ればわかる」



 杷地火は、預かったサナの『黒兵裟刀』を火乃呼に渡す。


 彼女も鍛冶師だ。


 嫌々ながらも手に取るが―――



「なんだよ、たいした刀じゃないな」



 火乃呼は黒兵裟刀を一目見て、そう呟く。



「もっとよく見ろ」


「見たさ。あいつらしい『こじんまりとした武器』だな。まあ、あのチビが使うなら、こんなもんでいいんじゃないのか」


「本気で言っているのか?」


「あ? それ以外に何かあるのかよ。あいつは昔から華がないんだ。そういうところは親父に似てるよな」



 火乃呼に他意があるわけではない。悪口を言おうとしているわけでもない。


 たしかに黒兵裟刀は、サナに合わせて作られているので、強力な術式武具と比べると数段見劣りする。


 検分した爐燕は高い評価を下したが、才能が突出している彼女からすれば、これが事実なのだ。



「火乃呼…」


「なんだよ。鍛冶に関しては、おれのほうが上だ。親父にだって文句を言われる筋合いはないはずだぜ」


「………」



(火乃呼の悪い癖は直せない…か。こうなったのは親である俺の責任でもある。だが、言葉では届かぬ。今はせめて山から下りることを了承させるしかない)



 そう思い、杷地火が再び火乃呼に口を開こうとした時だ。


 強烈な寒気と悪寒が襲いかかる。


 反射的に後ろを振り返ると、そこには火乃呼を鋭く見つめるアンシュラオンがいた。



「おい、さっきの言葉は取り消せ」


「な、なんだよ。何のことだ?」


「炬乃未さんを侮辱するな。あの人は、自分が今持てる力をすべて注いで武器を作ってくれたんだ。その想いを踏みにじるようなことは言うな」


「おれは身内だし、本当のことだからいいだろう? 言っておくがな、鍛冶のことでお前にも何か言われる筋合いはねぇんだよ。親父は懐柔できたかもしれないけど、おれはお前に下ったりしないからな。それは覚えておけよ!」


「…なるほど、こういうことか。お前がライザックと揉めた理由がよくわかったよ」


「ん?」


「オレは最初、あいつが急ぎすぎた結果だと思っていたんだが…どうやら違うらしい。悪いのはお前のほうだったらしいな」


「ああ? なんだいきなり! てめぇに何がわかるってんだ! 素人が口を出すんじゃねえよ!」


「杷地火さん。悪いけど、こいつはいらないや。こんな【二流以下の鍛冶師】じゃ、サナにたいした武器を作ってやれそうにない」


「…は?」


「しょうがない、他の鍛冶師に頼むとしよう。原石の浄化だけしてもらえれば十分か。わざわざこんな場所にまで足を運んだのに…無駄足だったとはな。期待させやがって」



 アンシュラオンは火乃呼を無視して、ぶつぶつと独り言を呟く。


 呪いさえ解ければ他の鍛冶師でもなんとかなるかもしれない。最悪は杷地火や炬乃未、博打覚悟で爐燕に打ってもらう手もある。


 素材の扱いにくさが懸念点ではあるものの、使えないままの粗大ゴミとして持っているよりはましだろう。



「まあいいや。終わったことは仕方ない。ひとまず何があっても三日後には山を下りてもらう。話は戦いが終わったあとにしよう」


「アンシュラオン、すまぬ」


「いいんだ。勝手に期待したほうが悪い。杷地火さんたちはしっかり役立つから心配しなくていいよ。それでオレからの扱いが変わるわけじゃない。ただ、代わりといっては悪いけど、炬乃未さんは欲しいかな」


「こちらは問題ない。話を聞く限り、あの子も拒否はしないだろう。むしろ、そうなることを望んでいるかもしれん」


「そうだと嬉しいけどね」


「こちらとしても助かる。相手がいなくて困っていたからな」


「大切にするから安心して。彼女は本当に素敵な女性だよ」


「お、おい! 勝手に話を進めるな!」


「まだいたのか。役に立たないなら、せめて荷物でもまとめていろ。遅れたら置いていくぞ」


「なっ…てめぇ! さっきからなめた口を叩きやがって! 何様のつもりだ!」


「それはこちらの台詞だ。いいか、お前は『使えない鍛冶師』だと言っているんだ。正直、魅力を感じない。本当に炬乃未さんの姉なのか? それすら疑うレベルだ」


「んだと! おれの作品を見たこともねぇやつが、偉そうにほざくな!」


「お前の作品なら持っているよ。ほれ」


「…卍蛍?」


「いい刀だ。期待以上の仕事をしてもらっている」


「なんだよ。その刀を使っているなら、おれの力を認めているってことだろう? 最初から言えよな」


「いや、それは違う。この刀は良いものだ。が、お前は駄目だ。使い物にならない」


「なんでそんなことがわかる!!?」


「それくらいはわかるさ。今のお前は、杷地火さんどころか炬乃未さん…いや、最悪は烽螺にすら及ばない」


「えっ!? 俺!?」



 いきなり巻き込まれた烽螺が、勘弁してくれといった表情で訴えるが、完全無視である。


 身内と比べられるならばともかく、さすがに未熟な若い男と比べられれば、火乃呼にも火が付く。



「ざけんじゃねえええええ! 今の言葉だけは許せねぇ! おれのどこが、こんな雑魚たちに負けるってんだ! そっちこそ取り消せ!」


「プライドだけは一丁前だな。だが、事実は取り消せない。何度だって言ってやる。お前は二流以下の鍛冶師だ。誰もお前に仕事を頼みたいなんて思わない。ライザックでも同じことを言うだろうさ」


「んなっ…!! こ、このやろう…! だったら勝負しろ! 思い知らせてやる!」


「付き合う理由はないが…まあ、どうせ三日間は暇だ。お前にその価値があるのならば示してみればいい」


「偉そうにしやがって! 吠え面をかくなよ!」


「火乃呼、どこに行く?」


「うるせえ! こいつにおれが打った武器を見せつけてやる!」



 杷地火の言葉も聞かず、火乃呼は行ってしまった。


 おそらくは自分の工場こうばに向かうのだろう。



「いろいろとすまぬ…ワガママに育ててしまった」


「才能があるやつは、一度はああなるもんだ。いくら親だって、こればかりは仕方ないさ。それよりコテンパンにしてもいい? たぶん、へし折っちゃうけど?」


「…かまわぬ。もしそれで立ち直れないのならば、その程度の才覚だったのだ。すべて任せる」


「親御さんの承諾ももらったし、遠慮なく『打ち直し』といくかな」



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