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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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39話 「白き英雄の側面 その2『超接近戦』」


 デアンカ・ギースの強力な一撃が炸裂。


 地面ごと吹き飛ぶのだ。そこらのマンション程度ならば粉々に砕かれ、あっさりと倒壊していたレベルの威力である。


 しかし、それを受けたアンシュラオンは苦笑を浮かべていた。



「やれやれ、間合いを見誤るとはな。少し感覚が鈍っているか? 姉ちゃんや師匠には見せられない失態だな」



 触手によって吹き飛ばされて岩盤に叩きつけられたが、しっかりと生きていた。


 もともとパミエルキと同じ強靭な肉体を持っているし、戦気を使えば身体能力をさらに強化できる。


 触手の攻撃で圧されたが戦気を貫通したわけではない。防御機能は維持されていた。


 予想以上に相手の触手が伸びたので防御が遅れ、衝撃で少しばかり額を切ったものの、それ以上でも以下でもない。一瞬で治って終わりだ。


 岩盤から出てきたところで、慌ててラブヘイアがやってきた。



「アンシュラオン殿! ご無事ですか!」


「この程度で死ぬか。なんともないさ」


「まさかあの攻撃を受けて無傷とは…!」


「防御すればたいした攻撃じゃない。だが、お前は迂闊に近寄るなよ。即死するぞ」



 デアンカ・ギースの攻撃力は高い。スピードもあるので避けるのは至難だ。


 おそらく第五階級の『王竜おうりゅう級』の武人でも数発くらえば死ぬレベルである。


 アンシュラオンだからこの程度なのだ。ラブヘイアならば、かすっただけで死亡確定だろう。



「なかなかいいパンチを持っている。耐久力もあるからタフそうだ。これから弱点を探しながら、しばらく打ち合う。お前は最低でも三百メートル以上は離れろ」


「う、打ち合う!? あれとですか!?」


「いちいちうるさい。黙って従え」


「は、はい! わ、私はどうすれば…やはり後方で見ていたほうが…」


「ラブヘイア、なさけないことを言うな。ホワイトハンターの戦いを見せてやると言っているんだ。こんな幸運は滅多にないぞ。オレは気まぐれで横暴だからな。お前のために何かしてやることなど、おそらくこれが最初で最後だ。だから任せておけ」


「アンシュラオン殿…」


「オレが打ち合っている間、お前は適当に風衝で攻撃をして注意を逸らせ」


「私の攻撃などが通じるのでしょうか?」


「目とか耳とか、相手が嫌がりそうなところを攻撃すればいい。人間だって小蝿がうろちょろしていたら気になるだろう。あれと同じだ」



(小蝿程度にもなるのだろうか…?)



 正直あれだけの相手に小蝿だと認識してもらえれば、それだけで自信がつきそうである。それほどの敵だ。



(だが、アンシュラオン殿が私のために動いてくれる。やらねばならない!)



「わ、わかりました! やってみます!」


「やりすぎるなよ。敵意を感じたらすぐに逃げろ」


「はい!」


「では、いくぞ! 殴られたら殴り返す! それがオレの流儀だ!」



 アンシュラオンが、再びデアンカ・ギースの前に歩み寄る。


 やはり待ち伏せタイプのようで、自分から積極的には近寄ってこない。しかし、一歩でも間合いに入れば再び攻撃を仕掛けてくるだろう。


 その証拠に触手を持ち上げ、いつでも放てる格好になっている。



「やる気になったようだな。そうだ。それでこそ戦う価値がある」


「―――っ!!」



 アンシュラオンが前方に殺気を放つ。


 少し離れた場所にいたラブヘイアですら、思わず恐慌状態に陥りそうになるほど強烈なものだ。


 デアンカ・ギースは『精神耐性』を持っているので恐怖状態にはならない。が、それによって本能が刺激。


 再び凄まじい勢いで触手が放たれる。その一撃は砲撃に匹敵する恐るべきものである。


 だが、まだタイミングが早い。アンシュラオンの殺気によって刺激されたがゆえの反応でしかない。


 アンシュラオンは十分な余裕をもってガード。右手で触手を流しながら、そのまま駆け抜けて距離を詰める。


 挑むのは【超接近戦】。



(どうせ間合いが変化するのなら接近戦のほうがいい。あの防御力と耐久力だと遠距離では少し厳しいしな)



 戦士にも遠距離攻撃はあるが、単発攻撃に優れる剣士のものと比べるとやや弱い。それ以上の攻撃となると溜めが必要なので、あの速度では途中で迎撃されてしまう。


 となれば、選択肢は戦士の本領である接近戦。それも触手が伸びきる前の領域。相手の眼前だ。


 実に恐ろしい間合いである。一歩間違えれば致命傷を受けるような距離。ヒリついて、ビリビリして、チリチリする距離。


 その距離こそ戦士の独壇場である。



「グガァオオオオオオオオオオオォォオ!!!」



 デアンカ・ギースから繰り出されるのは、建造物すら破壊する六本の太い触手。それがあらゆる角度から襲いかかってくる。


 すべてが高速で放たれるため、普通の武人ならばどうしても防ぎきれない箇所が出てくるものだ。


 それをアンシュラオンは、六本すべてに対応。



 触手が伸びきるその前に―――叩き落す



 両腕両足で四本を迎撃し、他の二本は寸前に戦気壁を使って防御。


 戦技結界術、『六面迎舞ろくめんげいぶ』。


 前面百八十度の上下左右を六面に分割し、後方を捨てる代わりに前への絶対防御を完成させる技である。


 圧倒的な攻撃力でガードを打ち破れない限り、ほぼ打開するすべはない強力な防御技だ。


 デアンカ・ギースの攻撃力は高く、防御しても衝撃は受けるので飛ばされる。


 その状態で次の触手がすぐに襲いかかってくるので、アンシュラオンは常時宙に浮いたような状況が生まれる。


 それでもダメージはない。


 すべての戦気を防御に回しているため、殲滅級程度の能力ではガードを破ることはできない。


 それができるのも敵の攻撃を見切っているからだ。


 最初にくらった一撃から速度と威力を計算し、それを基準に対応を決めている。そして、最初の一撃こそが最速であったと知る。



(あれがあいつの全力だったのかな? 殲滅級にしちゃ速いけど、こうして距離を詰めていれば問題はなさそうだ。それにしても楽しいじゃないか。久々の運動は最高だ!)



 筋肉が躍動している感覚がある。運動不足で凝り固まっていたものが、少しずつほぐされていく快感だ。


 それと同時に、じわじわと燃えていく血。武人の闘争本能が少しずつ目覚めていく。



(なんと…なんと荘厳で美しい。これが本当に人間の戦いなのか!)



 ラブヘイアは、その光景に見惚れていた。


 自分ならば最初の一撃で即死。死体すら残らないで消え去っていたはずだ。


 その攻撃を雨のように受けても、アンシュラオンはまったく変わらない。むしろ楽しそうに戦っている。


 防御するたびに流れる白い髪の毛が、落ちゆく夕焼けの光で黄金色にキラキラと輝く。


 戦気が燃えている。赤く燃えている。今、彼は燃えている。



(もっと見ていたいが、アンシュラオン殿が私のために戦ってくれるのならば、それに応えねばなるまい! たかが小蝿であろうとも、少しは役立ってみせる!)



「はあああ!」



 ラブヘイアは言われた通りに遠くから風衝を放つ。


 剣圧がカマイタチのように走り、本体に直撃。アンシュラオンの修殺では揺れ動いた魔獣も、彼の風衝程度ではビクともしない。



「駄目…か? 私程度では、やはり駄目…」


「ラブヘイア!! 続けろ!! お前のくそ弱い風衝くらいで、あいつが反応すると思っていたのか! なにを一発で諦めている!! 放って放って放ち続けろ!!!」


「は、はい!!」



 アンシュラオンの声は、この距離でもまったく小さくならない。なぜか心にダイレクトに突き刺さるから不思議だ。


 その声に鼓舞されながら、ラブヘイアはさらに風衝を続けて放った。


 これも言われた通り、目や大きな耳の穴など、自分がやられたら嫌だと思うことをひたすら続ける。


 多くは触手の衝撃波でふっ飛ばされる風衝だが、その中の一発が目元にかすった。


 それは粘膜すら傷つけたか怪しいほどの、とてもとても小さな一撃。人間にしてみれば虫の一撃。


 が、【不快】である。



「ギイイイ!! グギイィイイイイイイイイ!!!」



 全力で殺しにいっているのに、なぜか死なないアンシュラオン。こんな小さな生き物が自分の攻撃を防いでいる事実。


 それに焦っていたところに「痒い攻撃」をされたのだ。


 人が真剣に何かをやっているときに羽筆でくすぐられた気分。イラッとする気分。


 デアンカ・ギースがラブヘイアに注意を向けた―――その瞬間



「余所見をするなよ。寂しいじゃないか」



 アンシュラオンの手から一筋の光が伸びた。


 光は向かってきた触手、注意力散漫となり少しばかり速度が落ちたものにぶつかり、食い込み、抉り―――切り裂く!


 デアンカ・ギースの太い触手が、ぼとりと落ちた。



「ギぉぉアアオオアオアオアオアオアオアオアオアオアオオア!」



 ぼとり、という表現は正しくないかもしれない。


 巨大な鉄筋コンクリートがビルの屋上から落下したような、ドスーーーーーンッという音を立てて、大地に落下。


 その衝撃で大地に大きな亀裂が入った。いかに質量があったかを思い知らされる。



「やる気のない攻撃を見せればどうなるか、よくわかったようだな。これが支払った代償だ」



 アンシュラオンの手刀から鋭い戦気が放たれていた。


 戦気術、『戦刃せんじん』。


 戦気を刃に変質させる技で、打撃ではなく斬撃で攻撃する技だ。


 弾力に優れていた触手は打撃に強い耐性があるため、それを見切ったアンシュラオンが斬撃に切り替えたのだ。


 あの触手乱舞はかなりの圧力であり、もともとパワー系ではないアンシュラオンでは簡単に打開することはできなかった。


 その隙をラブヘイアが作ったのである。



「ナイスだ、ラブヘイア。よくやったな。これはお前の功績だぞ」


「は、はい! もったいないお言葉! 光栄の極みです!」


「弱い者には弱い者なりの戦い方がある。無駄なものなどはない。オレだって最初はレベル1だったんだ。オレほどとは言わんが、お前には才能がある。それを伸ばしていけば名有りの剣士になれるはずだ。諦めるな。あとはそれだけだ」


「…はい!」



(なんだこの熱い気持ちは! 心が燃え上がる熱いもので満たされる!!)



 アンシュラオンが放つ光。彼から発せられる何かがラブヘイアを包んでいく。


 今まで鬱屈していた気持ちが上昇していく。


 今日もいつもと同じだと思っていた退屈な日常が、少しずつ変容していく。


 この白き英雄が自分の前に現れた瞬間から、ラブヘイアの人生も大きく変わっていくのである。



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