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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「琴礼泉 制圧」編
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370話 「杷地火の決断」


 ユキネが煜丹に連れられて避難場所に向かっている頃。


 入れ違いざまに杷地火を含めた九人の男性が出立していた。



「逃げ遅れた若いのが何人か捕まったみたいだな。どうする?」



 男性の一人が杷地火に話しかける。


 今回一緒に来た者は全員、杷地火と同年代のアズ・アクスの中核メンバーである。


 残った爐燕や夫婦たちは彼らより少し上の世代なので、年上と子供たちを安全な場所に置いてきたことになる。



「それも海軍の出方を見てからだ。皆もわかっていると思うが、一番の優先は『女の避難』だ。それ以外に関しては妥協も必要になる」



 その言葉に全員が頷く。


 これは女性への暴行を危惧したものではなく、ディムレガンの中では女性の生存を最優先にするという暗黙の了解がある。


 数が少ない彼らにとっては、女性こそがもっとも大切な財産だからだ。


 そうなると残酷なようだが、男性の場合は『見捨てる』選択肢も十分にありえる。



「今のところ火乃呼と熾織以外の女の避難は完了しているようだ。まずはその二人の安全の確保か」


「熾織は問題ないだろう。燵賀と一緒だろうし、何よりも彼女は我々より強いからな。若い頃は軽々と三人くらいの男を放り投げていた荒くれ者だよ」


「一番殴られていた燵賀が最後に射止めるのだから、恋愛はよくわからんもんだな。まあ、殴られ慣れている燵賀がいれば身を張って守るだろう」



 ここにいる男性陣は、杷地火以外は全員が人間の女性と結婚している。


 言ってしまえば争奪戦に敗れた者たちだが、それに勝ったら勝ったで、いざとなれば女性のために自分を犠牲にしなければならない運命を背負うこともあり、なかなかヘビーな人生といえる。


 彼らが家族を置いてこんな山に来たのも、ディムレガンの女性たちを守るためでもあるので、種族全体で女性を守る意識が強いことがわかるだろう。



「では、問題は火乃呼か…。あの性格では簡単には逃げてくれんだろう」


「そうだな…無茶をしなければよいが。あの子が暴れたら誰も手が付けられんぞ」


「あいつのことは父親の俺がなんとかする。それより戦闘になるかもしれん。準備はいいか?」


「ああ、任せておけ。武具を作る時間は腐るほどあったからな。準備は万端だ」



 彼らも燵賀同様、全員が重鎧に身を包み、強力な術式武具で武装していた。


 各人が優れた鍛冶師であり、自分の能力に合わせたカスタマイズが可能なので、誰もが専用武具を持っていることは心強いものだ。


 しかし、霧の中とはいえ、これだけの数で移動すれば目立たないわけがない。


 杷地火たちが村の広場に進むと、周囲にいた海兵たちが集まってくる。


 その中にはロクゼイの姿もあった。



「ロクゼイ、お前が来たのか」


「その声は杷地火か。そちらから出てきてくれて助かったぞ。これ以上、手間取るわけにはいかん。早く撤収する。準備を急げ」


「いきなりやってきたわりには随分と上から物を言う。そのやり方で我々がおとなしく従うとでも思っているのか」


「今は手段を選んでいる場合ではない。お前たちの安全が第一だ」


「それはそちらの都合だ。こちらに受け入れる理由はない。まずは捕らえた者を解放してもらおうか」


「解放はする。ただし、お前たち全員が一緒に来ることが条件だ」


「解放が先だ。そうしなければ収まりがつかない」



 杷地火の言葉に他の者も頷く。


 その間にも海兵がじりじりと間合いを詰めるが、ディムレガン側に従うそぶりは見えない。あくまで徹底抗戦の構えである。



「ライザック様はお前たちを歓迎する。そこは安心しろ」


「だろうな。もとよりそれしか道はない」


「ならば、そろそろ時期であろう。さあ、来るのだ」


「解放が先だ」


「杷地火、もういい。そんな『演技』をする必要はない。お前がライザック様との間で交わした【契約】は守られる」


「演技…契約?」



 その言葉にディムレガンたちが首を傾げる。


 彼らの注目が集まったのを確認してから、ロクゼイは今回の一件の内情を話し出した。



「そうだ。お前たちが翠清山に来たのは偶然ではない。ライザック様との【密約によって派遣】されたのだ」



 爐燕の発言でもわかるようにディムレガンのリーダーは杷地火であり、彼の決断が最優先される。


 彼が首を縦に振らなければ、仮にスパイが誘導したとて山に来ることはできない。



 ならば、単純明快に内通者は―――杷地火!!



 考えてみれば極めて自然な話である。捻りもなにもないが、逆にこうでなければおかしいだろう。



「すべては計画通りだ。底上げの政策は早急に実行せねばならなかったが、お前たちが反発することもわかっていた。だから一時的なガス抜きのために距離を取ったにすぎん」


「では、人間用の武器も作っていたのは…」


「我々の作戦を援護するためでもある。このような場所では武器を輸送するのも大変だからな」



 ライザックは、アズ・アクスとの軋轢を『演じて』みせた。


 実際に大量生産は必要であり、どうしても急がねばならない事情があったが、その反面、職人たちが反発するであろうことも予想していた。


 そのため杷地火と事前に話し合い、喧嘩別れを装ってディムレガンを翠清山に送り込む。


 その目的はすでに述べられてきたように、資源の調査と武器庫としての役割だ。もし可能ならば敵の情報を流すことも想定していたが、これに関しては監視の強化と伝書鳩の遮断によって失敗に終わっている。


 しかし、青年たちが街を恋しがっていたように、時間が経てば不自由さを感じて戻りたくなったことからも、この方法は一応の成功を収めたといえるだろう。



「ロクゼイ、それをこの場で話したら意味がない」


「仕方あるまい。余計な誤解が生まれるよりは、事実を明かしたほうが早かろう」


「これだから軍人というものは短気でいかん。そもそもお前が温和な手法を取っていれば、最初からこんな面倒は起きなかった」


「こちらにも事情があるのだ。過ぎたことを言うな」


「杷地火、やつの話は本当なのか?」


「否定するつもりはない。ライザック側と密会したのは事実だ」


「…そうか。やはりな」



 他の者たちのショックは思ったより少なかった。


 燵賀を含め、一部の青年たち以外は状況の不自然さに気づいていたのだ。もしかしたらそうではないか、と。


 さすがに二年以上も一緒にいれば、薄々は察するものだろう。



「ライザックは、アズ・アクスの価値を一番理解している男だ。最初はやつのほうから接触してきた」


「戻ったあとはどうなる?」


「しばらくは距離を保ったまま馴染むのを待ちつつ、我々は依然と同じく武器を作り続ける。その頃には翠清山の開発も少しは進んでいるという予測があった。貴重な資源はこちらに優先的に回されただろう。本来ならば作った武器を隠し、一年前のあの時に我々も離脱する予定ではあったが…」



 順調に思えたライザックの計画にも、いくつかの想定外の出来事があった。


 最大の誤算は六翼の存在ではあるが、あれは誰にも予測できないとしても、猿神との最初の接触の際に撤退に追い込まれたのが厳しい。


 それによってディムレガンも、街に戻るチャンスを失ってしまったといえる。



「黙っていてすまない。結果的に皆を危険な目に遭わせてしまった。すべて俺の責任だ」


「里火子さんは知っているのか?」


「あえて伝えてはいないが、あいつのことだ。ある程度は勘づいているだろう。炬乃未も鍛冶師として休眠期だった以上、知らないほうがよいと思って伝えていない。あの子は嘘がつけないからな」


「…そうか。事情はわかった。お前がリーダーである以上、決定に文句はないさ。だが杷地火よ、お前がその提案を受けたことが一番の驚きだ。裏取引は嫌いだったのではないか?」


「…俺はいつだって一族全体の利益と繁栄を考えてやってきた。伝統を守り、技術を伝え、新しい才能を育む。今回もそう思って決断したことだ」



 杷地火は多くを語らなかったが、ディムレガンとアズ・アクスの問題点は仲間たちも知っている。


 出生率の低さによる職人の減少と技術の劣化は、彼らにとっては死活問題だ。それに伴って売り上げも減ってきている。


 いくら有名な工房といっても、いつまでも職人気質だけではやっていけないのだ。都市との癒着を嫌っていた杷地火も時代の流れに合わせる必要があった。



「話し合いは終わったか? もはや我らが争う意味はない。ライザック様は、お前たちに十分な見返りを用意するだろう。魔獣側に加担したことも不問にするはずだ」


「………」


「杷地火、こんな場所に未練はあるまい? 早く準備を―――」


「オヤジィイイイイイイイイイイイイイ!」



 場がまとまりかけた時、遠くから火乃呼が走ってきた。


 その手には、ぐったりとした海兵を掴んでいる。どうやら偶然遭遇した際に戦闘になって倒したらしい。


 この濃霧の中でもある程度は見えているようであるし、一対一かつ不意打ちでは、さすがに火乃呼のほうに分があったようだ。


 火乃呼は海兵を投げ捨てると杷地火の前で止まる。



「火乃呼か」


「親父、何やってんだ! こいつらはハピ・クジュネの海兵だろう! なら、敵だ! 戦おうぜ! 話し合いの必要なんてないぞ!」


「………」


「火乃呼、無駄な抵抗はやめろ。ライザック様はお前を許すおつもりだ。早く戻ってこい」


「あ? 誰だよ、おっさん! 気安く声をかけるな!」


「何度か会ったはずだが…」


「知るか! 臭いから近寄るな!」


「臭くない!!」



 ライザックとかなりの面識がある火乃呼なのだから、ロクゼイとは何度か会っているのだが、関係ないことはすぐに忘れるので覚えていないようだ。


 相手がこちらを知っていると思って声をかけて「え? 誰だっけ?」と言われると、なんとも反応に困るものだ。


 ロクゼイも心が砕けそうになるが、ぐっと我慢である。



「うぐぐ…まあいい。ともあれ、お前たちの役割は終わった。あとは撤収するだけだ。ご苦労だった」


「はぁ? 何言ってんだ。いまさら戻るわけねぇだろうが。で、ライザックも来てるのか? いるなら呼んでこい」


「ライザック様は都市におられる。ここに来るほど暇ではないからな。私がその代理だ」


「ああ!? ふざけるなよ! あいつ自身がここに来て、どうしても戻ってきてほしいって土下座するのが筋ってもんだろうが! それがなめた真似しやがって! 絶対に許さねえぇええええ!!」



 火乃呼の身体から『熱気』が湧き上がる。


 あまりに怒りが強いせいで血が沸き立ち、その圧力が外に漏れることで発生する火系統の竜人の特徴の一つだ。


 直接的な炎ではないが、触れるだけで大火傷は間違いないほどの火力である。


 この反応を見てもわかるように、火乃呼は簡単に従うような女性ではない。



「杷地火、お前の娘だろう。説得しろ!」


「…火乃呼、お前はどう思う?」


「ああ? 何がだ!」


「もし俺がお前たちをわざと翠清山に連れてきたとしたら、どうする? ライザックと秘密裏に通じていたら、という話だ」


「何言ってんだかよくわからねぇ! つーか、親父は親父だ。いつだってごちゃごちゃ面倒くさいことを考えていて、嫌なことでも我慢してやってるような人だよ。だから作る武器もこじんまりしてるんじゃねえか! もっと好きに打てよ! 何度も言ってるけどな、親父の考え方は古いんだよ! おれたちはもっと先に進まないといけないんだ!!」


「お前はディムレガンの未来を作れるのか? 才能だけでは無理だぞ」


「だから、んなもん知るか! おれはもう自分を抑えるのは嫌なんだよ! 好きに生きさせてくれよ!! だからあんたも好きに生きろ! 少なくともおれは、ライザックのやり方は気に入らない! 気に入らないやつのために武器は作らない! それだけだ! それでいいんだよ! あんたもそうじゃないのか!! なぁ、親父!!」


「…火乃呼」



 いつからだろう。


 鍛冶よりも経営が気になってしまったのは。


 いつからだろう。


 自分が作りたいものではなく、相手に迎合するものを打つようになったのは。


 いつからだろう。


 自分より才能のある娘に気を遣うようになったのは。



「お前は俺の娘なんだな…」


「当たり前だろ! おれはいつだって…これからもずっとあんたの娘だ! だからこんな場所にだってついてきた! おれは親父を信じる!」



 火乃呼は大人になってもあの頃のままだ。自由に武器を打ち、好き勝手に振る舞う。


 けっして火に愛された才能を自ら閉じ込めるような真似はしない。それを強要する者とは戦い続ける強い意思があった。


 そして何よりも自分を、父親を信じてくれているのだ。


 その言葉を受けて杷地火も心を決める。



「ロクゼイ、向こうの工場に人間用の武器が大量に置いてある。それを持っていけ。代金はいらん。見返りもいらん」


「何を言っている?」


「ライザックに対する義理立ては終わりだ。これから我々アズ・アクス…いや、ディムレガンはハピ・クジュネとは手を切る」


「ば、馬鹿なことを! 冗談を言っている状況ではないぞ!」


「冗談ではない。これが最善だと判断しただけだ。一度離れてみてよくわかった。このままやっていても未来はない。火乃呼の才能一つ受け止められない都市に何の価値がある?」


「少し待てばお前たちの時代が来る! また打てばよかろう!」


「そういう話ではない。我々は『種として限界』なのだ。もはや普通の手段では存続できないところまで来てしまった。ライザックは優秀だが、所詮は人を扱うことしかできない男だ。未来を受け入れることはできても作り出すことはできない」



 杷地火が両手に持っていた剣同士を強く打ちつけると、発生した火花が炎となってまとわりつく。


 それを何度も繰り返すと、剣は自らの刀身を削る代わりに、より激しい火焔となって猛々しく燃え盛った。



「見ろ。火は叩いて叩いて、とことん叩いてこそ美しく輝き、強くなる。我らに足りないのは切磋琢磨する環境。自らを追い込み、自らの命をかけてでも優れた力を生み出そうとする気概!! 心意気!! それこそ火乃呼が持つ力であり可能性だ!!」




「ライザックごときに―――うちの娘をやれるかぁああああああああああああああああああああああああ!!」




 杷地火が剣を振ると、巨大な火焔となった大量の火花が降り注ぎ、海兵たちを薙ぎ払う。


 術式武具、『代命償火だいめいしょうかの剣』。


 刀身自体が火の魔石で作られているため、今やったように武具自体を傷つけることで火焔を生み出す術具である。


 当然使えば使うほど刀身が削れていき、最大火力で放つと十数回で使い物にならなくなるが、消耗品と割り切ればディムレガンでも十分な戦闘力を有することができる逸品だ。


 こちらは一点物ではなく、予備が複数本存在する特殊武装である。



「火乃呼も炬乃未も、ライザックなどにやれるか! これが俺の決断だ!」


「ついに目覚めたのか! やればやれる人だと思ってたぜ! こうだよ、こうでなくっちゃな!! さすがはおれの親父だ!」



 さりげなく本心が出ていた気もするが、杷地火もずっとモヤモヤしたものを感じていたのは事実だろう。


 このままでいいのか、このままで未来はあるのか。


 この二年以上の間…否、もう何十年もずっと自問自答を繰り返して出した結論であり、今しがた思いついたことではない。


 ついに杷地火は―――ハピ・クジュネを見限ったのだ!


 これは大事件である。



「ロクゼイよ、さっさと逃げ帰ってライザックに報告するのだな。我らはもうハピ・クジュネには属さぬ! 自らの力でのし上がる!」


「ありえぬ…なぜこうなった! いや、なぜ裏切った! ハピ・クジュネの力なくしてどうやって生きていく!」


「お前はまだ知らぬようだな。残念ながら第二海軍は全滅したそうだ」


「っ…」


「それだけではない。魔獣の軍勢はさらに膨れ上がり、これから都市に向かって大挙して押し寄せてくるだろう。はたしてハピ・クジュネは生き残れるのか? 大都市は生き残っても他の都市はどうだ? そもそも北部に未来はあるのか?」


「貴様! 有利なほうにつくというのか! 恥を知れ!」


「それの何が悪い。お前たちは、なぜ自分たちが勝つと断言できる? この状況下で覆せるとは思えん。それに、まだ魔獣のほうが素直で礼儀正しいものだ。どちらが好意的に見えるか、一度鏡でも見てみるとよかろう」


「ぐぬうう! 杷地火ぁああああああ! 裏切者を捕縛しろ! 五体満足は問わぬ! 生きていればいい!」


「所詮は軍人だな、ロクゼイ! それがお前の限界だ! いや、ライザックの限界と知れ!」


「私のことはともかく、ライザック様への侮辱は許さんぞ!」



 命令を受けた海兵たちが一気に間合いを詰めてくる。


 もはや交渉は完全に決裂した。武力衝突あるのみだ。



「杷地火、やつらは手練れだ! 真正面からは不利だぞ!」


「わかっている。火乃呼、無理はしないで撤退するぞ!」


「なんだよ、やらないのかよ! …って、ライザックの部下相手に、おれも生身じゃきついか」


「逃がすか! 追え!」



 杷地火たちは武具の特殊能力を使いながら間合いを取り、ひたすら後退することに専念する。


 しかし、さきほどの一撃は不意打ちだったからこそ効いたが、敵対しているのはあのロクゼイ隊だ。


 術式武具を使ったとしてもまだまだ相手のほうが上であり、徐々に押し込まれる展開になるのは仕方ない。



「杷地火、止まれ! 今ならまだ間に合うぞ!」



 追撃してきたロクゼイが、大きな金棒を振り回す。


 人喰い熊の頭を一撃で叩き潰すほどだ。杷地火も鎧と術式武具で凌ぐが、いとも簡単に吹っ飛ばされる。


 ディムレガンの身体の強さと鍛冶で鍛えた筋肉がなければ、腕くらいは折れてしまっていただろう。



(やはり強いな。普通にやって勝てる相手ではない。ハピ・クジュネを見限ったまではよいが…さすがに少し先走りすぎたか? 俺も娘のことになると冷静な判断ができないらしい)



 たしかに粗暴で扱いづらい娘だが、文句の一つも言わずについてきてくれた子が可愛くないはずがない。彼女のためならば、アズ・アクスを潰してもかまわないとさえ思える。



「どおりゃあああああ!」



 その火乃呼は、鍛冶で使う『焔紅せんくの息』を吐き出して海兵を攻撃していた。


 どんな鉱物でも溶かして柔らかくしてしまう能力ということは、それを受けた武器も―――へにゃり、どろろ



「け、剣が溶けた…!? 剣気で覆っていたのに!?」


「へっ、たいそうなナマクラを使ってやがるじゃねえか! てめぇらにはお似合いだぜ!」


「我々も武具破壊に徹しろ! それが唯一の勝機だ!」



 火乃呼の戦い方を参考に杷地火たちも武器破壊を狙う。


 鍛冶で養った感覚は破壊にも使えるため、その点に関してだけは一流の武人並みの技量を見せていく。


 それを怖れた海兵たちは、なかなか攻めきれないでいた。



「キーーッ! キキッ!」


「しまった! 猿たちが来たか!?」



 そうして時間を使っていると、村の中に猿たちが入ってきた。


 彼らは謎の鎧の集団と戦っていたようだが、村の中に入った瞬間に鎧は自壊して崩れ去ってしまった。



「キキ? キッ?」


「おーい、猿ーー! 何やってんだよ! こっちだ、こっち! 敵はここだぞーーー!」



 敵を失って不思議そうな顔をしているグラヌマたちに、火乃呼が手を振って呼びかける。


 もともとディムレガンの護衛を担当しているので、新たな敵を見つけた猿たちは猛然と向かってきた。



「あれが敵だ! やっちまえ!」


「キーーーッ!」



 ロクゼイ隊が猿の群れと乱戦に突入。


 ちょうど全方位の猿たちを集めていたこともあり、およそ三百頭以上の猿がなだれ込んできて、村の中は一気に混乱に陥ってしまった。



「くそっ! 陽動はどうした!? アンシュラオンは何をやっている!!」


「今だ! 撤退するぞ!」


「杷地火! 後悔するなよ!」


「ふん、俺は父親だぞ! 娘のためなら命がけだ!」


「それは私も同じだぁああああああ!」



 その間に杷地火たちは逃げていく。完全に任務は失敗だ。


 ロクゼイが最初に温和な手段を取っていれば、もしかしたら防げたかもしれない事故ではあったが、それはきっかけにすぎない。


 種の存続の危機にあるディムレガンは、もはやハピ・クジュネには扱いきれないのだ。



次回371話は、年末年始の休み調整のために【1/10 午前一時】にアップ予定となります。

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