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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
37/630

37話 「出現、四大悪獣デアンカ・ギース」


 四肢をもいだエジルジャガーは大いに役に立った。


 これを持って岩山を移動するだけで、周囲の肉食魔獣は一斉に逃げ出していく。


 たまに立ち向かってくるものもいたが、即座に排除。むしろ新しい泣き声要員にされて、恐怖が拡散する手助けをすることになる。


 数匹は傷つけたあとにあえて逃がして「東側にヤバイのがいる」という情報を仲間内に流させる。



「お前はお役御免だな。楽にしてやろう」



 バチュンッ、という音とともにエジルジャガーが消失した。


 戦気を放出して全身を一瞬で焼き尽くしたのだ。痛みを感じる暇もなかっただろう。


 四肢をもぐのは残虐な行為であったが、アンシュラオンにとっては効率的かどうかだけの話である。


 こうでもしなければ『家族想い』のエジルジャガーは逃げることはなかったので、これが一番効率的なやり方だと思ったにすぎない。


 善悪すら超越し、アンシュラオンはただただ純粋であった。その白さが、すべてを惹き付ける。



(おっ、ラブヘイアも動き出したか)



 そのタイミングに合わせてラブヘイアが北側から攻撃を仕掛ける。


 彼の攻撃はたいしたことがなかったが、一度パニックに陥った魔獣たちは激しく動揺している。まだ危険なやつがいたのかと焦りながら、必死に西の砂地に逃げ込んでいく。


 当然ながら普段の彼らは砂地には近寄らないが、ただただ恐怖の対象から逃げることしか頭にないので、死地に自ら飛び込むのだ。


 たまに南側の草原地帯に逃げようとする魔獣もいたが、それも確実にアンシュラオンが殺していったことで、その血の臭いが抑止となる。



 ただし、それに混乱したのは砂地の魔獣も同じ。



 突如として獲物が大量にやってきたのだ。たとえるならば、なぜか浜辺に打ち上げられたアジやイワシの大群と同じである。


 理由はわからずとも、獲物が自らやってくれば獲りに行きたくなるのが生物の心情である。それは人間も魔獣も同じだ。


 どばっ、と大きく砂が盛り上がったのと同時に、陸上イカのような魔獣が出現。触手を使ってエジルジャガーたちを捕食していく。


 その様子を見た同類のイカたちも次々と姿を見せ、その場はまさに入れ食いパニックと化した。



―――――――――――――――――――――――

名前 :ハブスモーキー 〈砂喰鳥賊〉


レベル:42/50

HP :1780/1780

BP :280/280


統率:E   体力: C

知力:F   精神: E

魔力:E   攻撃: D

魅力:F   防御: D

工作:D   命中: D

隠密:C   回避: E


☆総合: 第四級 根絶級魔獣


異名:砂地の肉喰い鳥賊イカ

種族:魔獣

属性:土

異能:粘膜防御、腐食墨

―――――――――――――――――――――――



 ハブスモーキーと呼ばれる第四級の根絶級魔獣である。


 体長は二十メートル近くあり、中型魔獣に分類されている。よくテレビで話題になる大型のダイオウイカの地上版、といえば少しはわかりやすいだろうか。


 このハブスモーキーの好物は、エジルジャガーのような陸上肉食獣だ。突然の大漁に嬉しそうに食べまくっている。



「大漁、大漁。撒き餌は成功だな」



 それを見たアンシュラオンは笑う。


 すべて計画通りだ。



「アンシュラオン殿! これはまたすごい光景ですね!」



 そこにラブヘイアが合流。


 さすがの彼もこの光景には驚いているようだ。声も少し上擦っており、興奮している様子がうかがえる。



「ラブヘイア、お前もそれなりに役に立ったな。おかげで今日はいい釣り日になりそうだ」


「このようなことが起きるとは…ハブスモーキーの群れなど初めて見ました。通常は一匹見かけるかどうかです」


「あのイカだが、どの部位が高く売れる?」


「ハブスモーキーは頭の奥に玉のようなものがありまして、それが比較的高く売れるようです」


「玉? ジュエルなのか?」


「術式には使われない鑑賞用として女性に人気があるようです。品質にもよりますが、一つあたり三十万以上で売れるようです」


「真珠のようなものかな? 売れるなら問題ないな。それ以外はどうだ?」


「あとは足などが各十万くらいで売れます」


「イカだから足が十本で、百万か。いや、触腕はどうなんだ? あれも足に含めて換算してくれるのか? まあいいか。どちらにせよ八十万以上だ」


「あれだけいれば足だけでも相当な額になります」


「一つ気になっているんだが、あのぬらぬらと光っているのは粘膜じゃないのか?」



 データを見た時から気になっていたが、ハブスモーキーの体表にぬらぬらとした粘液が張り付いている。


 スキルの名称から考えて防護膜なのだろうが、見た目も相まって非常に気持ち悪い。



「そのようですね…」


「そのようですね、じゃない。あんな気持ち悪いものに触るのは御免だな。オレが倒すから、その代わりにお前に足を切ってもらおうか」


「そ、それは…! 私も嫌なのですが…」


「じゃあ、お前が倒すか?」


「それは無理です…」


「決まりだな。さっさと仕留めてお前が部位を回収だ。連れてきてよかったよ」


「できれば戦力としてお役に立ちたかったです…」


「仕方がない。お前の安全のためだ(嘘)」



 女の子の身体がぬるぬるならば大歓迎だが、魔獣がぬめっているのは最悪だ。



「もう動かれます?」


「もう少し待つ。あれだけいればすぐに逃げたりはしないだろう。生物は腹が膨れれば動きも鈍くなるしな。あんな馬鹿食いをしていれば簡単に巣穴にも戻れなくなる。目の前の欲につられるとは単純なやつらだよ。…それにだ」



 アンシュラオンは、視線を強める。



「あれは所詮、根絶級なのだろう? ならば、それを狙ってさらに上級の獲物が来るかもしれない。それを狙うのも面白い」


「しょ、正気ですか!? あれでも十分な魔獣ですよ!」


「ブルーのお前たちにとっては、だろう? オレはホワイトだぞ」


「そうですが…あれほどのものでも満足なさらないとは…」


「逆に訊くが、お前には欲がないのか? このまま生きていてもお前に明るい未来はあるのか?」


「どういう意味でしょう?」


「どうせ手に入れた金を毛髪収集にでも使っているのだろう。下手をすれば今回のように髪の毛を報酬にすらしかねない。ならば、さほど金も残っていまい。正直、生活もカツカツなんじゃないのか?」


「ど、どうしてそれを!」


「お前の行動を見ていればわかる」


「さすがアンシュラオン殿です。お恥ずかしい限りですが、まったくその通りです。私は髪の毛がないと生きていけず…」



(えー!? 本当だったのか。自分で言っておきながら、かなり引くな。マジもんだよ。本当の変態だよ!)



 ラブヘイアをさらに軽蔑しつつも、一応はパートナーである。背負った以上、この男のことも考えてやるのが漢というものだ。



「今回、金以外のものはお前にやろう。それは【名声】だ。あれにつられて討滅級が出てきて倒せば、お前はブラックハンターの名をもらえる」


「仮にそうなってもアンシュラオン殿の功績で…」


「一緒にコンビを組んでやっているんだ。お前の功績でもある。まあ、ハローワークのお姉さんにはオレがホワイトだとわかっているから誤魔化せないかもしれんが、対外的にはお前が主軸で戦ったことにしておくつもりだ。あまり目立ちたくないしな」


「しかし、その名声は実力に見合わないものでは? 自分で言うのもなんですが、私にブラックの資格があるとは思えません」


「そうだな。たしかにお前の言う通りだろう。だが、仕事は増えるぞ。仕事が増えれば金もチャンスも手に入る。実力なんてものは、そこで必死であがいて身に付ければいい。順序が逆だと思うか? そう思うならばそれもまた人生だ。お前の好きにしろ」



 新卒の若造がいきなり重役に任命されたとて、それがまっとうできるとは限らない。実力不足や期待に潰されて消えていく者もいる。


 しかし、そうでない者もいる。そこでチャンスを生かす人間もいる。実力を身に付けてのし上がる者もいる。


 どちらも間違いではない。どちらを選ぶか、である。



「どうする? オレはどちらでもかまわん。ただ、思ったより実入りがありそうだ。これを全部もらってはさすがに気が引ける。せめて名声くらいはくれてやろうと思っただけだ。あとは自分で選べ」


「………」



 ラブヘイアは黙って考えている。



(実力に見合わないランクに行くのは嫌か? まあ、死ぬ可能性も高まるしな。思ったより謙虚…)



「アンシュラオン殿の髪に直接鼻をつけて吸えれば本望―――」


「ここで戦死扱いにしてもいいんだぞ!! あの魔獣に殺されたとか言えばいいしな!! もっと頭を使え!! 本当に馬鹿か、お前は!!」



 違った。ただの変態だった。



「わかりました。ありがたく頂戴いたします。努力してみます」


「そうするといい。仕事が増えて金が入れば良い武具だって手に入るだろう。武器だって力の一つだしな―――と、何か様子がおかしいぞ?」



 変態が落ち着いたのを見計らった頃、それは出現。


 密集したハブスモーキー三匹に、地中から伸びた巨大な太い触手が張り付く。


 一本、二本、三本と増え、さらにハブスモーキーを締め付けていく。


 あの魔獣自体二十メートルはあるが、それを遥かに超えるであろう大きな魔獣の一部が地中から姿を見せ―――




「ギャフフフフフウウウウウぉオオオオオオオオおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」




 大きな口で捕まえたイカをかじり出した。


 ハブスモーキーが生きたまま噛み千切られ、悲鳴を上げる。



「へぇ、面白そうなやつが出てきたぞ。根絶級のハブスモーキーを食べるってことはそれ以上、討滅級の魔獣かな?」



 呑気に状況を楽しんでいたアンシュラオンの隣で、「ひぃっ」という声が漏れた。



「なんだ、ラブヘイア。またびびったのか? まったくお前は臆病なやつ…」


「ちちち、違います!!! 違うのです!!」


「何が違う。お前が変態であるという事実が違うのならば大歓迎なんだが…」


「そ、そうではないのです! あああ、あれは! ま、まさか!! あれは…!!」


「そんなにびびるやつか? たしかに触手は大きそうだが…」


「びびって当然です! あれはおそらく―――【デアンカ・ギース】! 第二級の『殲滅級魔獣』です!!!」


「ほぉ、第三級の討滅級魔獣が出てくるかと思ったら、第二級魔獣のお出ましか。これはラッキーだな。最高の展開だ」


「ラッキーなどと! 危険すぎます! このあたり一帯を支配している超危険種ですよ!」


「さらにそそられる」


「そんなレベルではありません! あれは【大災厄】においてグラス・ギースを破壊した魔獣の一体なのです!」



 デアンカ・ギース〈草原悪獣の象蚯蚓ゾウミミズ〉。


 『ギース〈災い〉』の名前を冠する魔獣であり、何百年も前からこの地に生息する【四大悪獣】の一匹である。


 この地域が、なぜ人が寄り付かない場所なのか。火怨山に生息する魔獣も当然そうだが、この地にも強大な魔獣がいるからである。


 彼らは非常に縄張り意識が強く、近寄るものは何であろうと排除する。戦艦でさえ、あの魔獣ならば撃沈できるほどの力がある。


 実際、通りかかる輸送船を襲った事例はいくつもあり、それゆえに西方の地には人が住めない。航路も存在しない完全な荒野だ。


 そして、このデアンカ・ギースは大災厄の時に出現した魔獣といわれており、当時グラス・タウンと呼ばれていたグラス・ギースを蹂躙した存在でもある。


 都市に暮らしていた何万という人々を食い殺し、殺戮の限りを尽くした最凶最悪の魔獣としてグラス・ギースでは【超危険種】として認識されている。


 そもそもあの巨大な城壁を築いたのは、四大悪獣を寄せ付けないためなのだ。



(ラブヘイアは喚いているが…どれどれ、どんなもんかな)



―――――――――――――――――――――――

名前 :デアンカ・ギース 〈草原悪獣の象蚯蚓ゾウミミズ


レベル:150/150

HP :28900/ 28900

BP :5620/ 5620


統率:F   体力: AA

知力:C   精神: S

魔力:A   攻撃: S

魅力:F   防御: B

工作:B   命中: A

隠密:A   回避: F


☆総合: 第二級 殲滅級魔獣


異名:災厄四大悪獣の象蚯蚓ゾウミミズ

種族:魔獣、鬼

属性:土、風、毒

異能:地中移動、拘束、触手乱舞、奥の手、物理耐性、術耐性、即死無効、毒無効、精神耐性、自己修復、自動充填、災厄呪詛

―――――――――――――――――――――――



(たしかに他の魔獣とは桁が違う。これは面白くなってきたぞ)



 アンシュラオンの前に巨大な敵が現れた。


 闘争本能が疼き出す。




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