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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
36/614

36話 「狩りの開始、弱者の叫び」


 魔獣の狩場に着いたのは、それから一時間半後。


 途中からラブヘイアを荷台に乗せて走ることにしたので、多少ながら時間の短縮にはなった。


 まだ日は落ちておらず、太陽の輝きが周囲をくっきり照らしている。



(けっこう日が長いから、暗くなるまでにはまだ時間があるな。問題は大物が昼行性か夜行性かってことだが、そこは種族によってだいぶ違うしな。ひとまず地形と生態系を確認しておくか)



 アンシュラオンは偵察のために単独行動を開始。素早く駆け抜け全体を把握する。


 魔獣の狩場はラブヘイアが言っていたように、全長三百キロにも及ぶ巨大な山林地帯であった。


 まず目に入ったのが大草原。深い森も含む広大なもので、荒野から一転して豊かな緑の大地が見渡す限り広がっていた。


 草原の北側の山脈には岩石地帯が広がっている。草木はあまり生えておらず、垂直に近い切り立つ崖も数多く見られる。岩も崩れやすく、足場はかなり悪いだろう。


 その西側には地盤の緩い砂地が広がっており、時々地面が動いているので大型魔獣がいる可能性が高い。



(弱そうな草食魔獣は草原や森にいて、それを狙う肉食魔獣は高所の岩石地帯にいる。砂地には大型魔獣が潜んでおり、肉食獣が落ちたり迷い込んだりするのを待っているようだ)



 食物連鎖の最下層である草食魔獣にとってはなかなか生きづらい場所だが、豊かな食料がある場所なので、群れに多少の犠牲が出ても出向く価値はあるのだろう。


 彼らは繁殖力が高く、多少食べられても子孫を残していける。それもまた自然を生きる能力の一つである。


 偵察を終えたアンシュラオンがラブヘイアと合流。



「どういたしますか?」


「大物がいそうなのは砂地だ。だが、まだ隠れているな」


「我々が行けば出てくるでしょうか?」


「どうかな。魔獣のレベルが上がると知能も上がるから、獲物以外が近寄っても反応しないことが多い。一度巣穴に逃げ込まれると引きずり出すのは面倒だ。相手が好戦的なら別だが、雰囲気的には微妙だな」



 今までの体験から魔獣には二通りいる。


 一つ目は、人間が怖れるような好戦的なタイプ。こちらは自分より大きな相手にも積極的に向かっていく。


 二つ目は、待ち伏せして獲物を狩るためだけに行動する慎重なタイプ。巣穴を持つ種族に多く、危なくなると逃げる。



「砂地は静かだから、生息する魔獣は待ち伏せタイプの可能性が高い。迂闊に動いて場を荒らすより、餌を用意したほうが早そうだ。まずは岩石地帯を掻き回して肉食獣を砂地に追い出す。そうすれば自分から出てくるだろう。そこを叩く」


「なるほど、見事な作戦です」


「よほど珍しいタイプでもない限り魔獣狩りは簡単だ。餌があれば食いつくからな。まあ、殲滅級になると一気に雰囲気が変わるから討滅級までの話なんだが、それまでは普通の獣と大差はないさ」


「驚きました。慣れているのですね」


「そういう環境で暮らしていたからな。嫌でも慣れるもんだよ」



 アンシュラオンとラブヘイアは、岩石地帯の東側に移動。


 今のところ魔獣たちはおとなしいままだ。



「オレはこの位置から西に少しずつ全体を押し上げていくから、お前は北側に回って肉食獣を追い込め。ひたすら風衝でも放って、できるだけ隠れながら遠くから攻撃するんだ。そうすればやつらはパニックになって西側に逃げるしかない。タイミングはオレが仕掛けてからだ」


「わかりました」



 やり方は、追い込み方式に決定。


 ラブヘイアは北側に移動したので、ここからは別行動となる。



(さて、このあたりの魔獣はどんなもんかな)



 岩場には所々に肉食獣の影がある。狩りに行っていない魔獣たちは午後のお休みタイムのようだ。


 その中から、とりわけ数が多そうな種類を選ぶ。



―――――――――――――――――――――――

名前 :エジルジャガー 〈草原猫虎〉


レベル:18/30

HP :350/350

BP :80/80


統率:D   体力: E

知力:F   精神: E

魔力:F   攻撃: C

魅力:F   防御: E

工作:F   命中: D

隠密:E   回避: E


☆総合: 第五級 抹殺級魔獣


異名:荒野のやんちゃ猫虎

種族:魔獣

属性:風

異能:家族想い、噛み砕き

―――――――――――――――――――――――



 エジルジャガーはまさにジャガーの親類であるが、大きさは二メートル半を超えるので地球にいるものより大きく、さらに凶暴である。


 さきほど倒したワイルダーインパスを主食にするくらいなので、あれを簡単に倒せるくらいの戦闘力を有している。実際に攻撃は『C』と高い。


 狩りは四匹から六匹による家族単位での群れで行う。子供はどんなに大きくなっても、自分が子供を作るまでは親と一緒に生活する習性があるらしい。


 これもラブヘイアから聞いた情報である。こうした情報が得られるのもハンターを雇うメリットだ。



「あれがエジルジャガーか。そういえば前に見かけたな。だが、あいつらも雑魚だ。あんなものを狩って持っていったら逆にホワイトハンターの恥だな。追い立てたいが…どうするか。おっ、いい岩があるじゃないか」



 十メートルくらいの大きさの岩を発見。



「お昼寝タイムのところ悪いが、起きてもらうとしようか。狩りの始まりだ!」



 持ち上げ―――投げる!


 巨大な岩がまるで野球ボールのように飛んでいき、岩山の上部に直撃。


 その衝撃で岩山に亀裂が入り、大きな山崩れが発生。上空から大小の岩が大量に降り注いだ。



「―――!?!?!」



 それに驚いたのがエジルジャガーたち。


 危機察知能力の高い彼らは即座に逃げ始める。突然岩場が崩れたのだから当然の反応だ。



「よしよし、西側に逃げろ。…ん? 反応の鈍いやつらがいるな。まったく、まだ目が覚めていないようだな。野生動物あるまじき反応だ。しょうがない、起こしてやるか」



 お昼寝タイムだったせいか、まだ半分眠そうな個体がいる。


 アンシュラオンが岩場を移動して近場に降り立つと、そこにいたエジルジャガー五匹の視線がアンシュラオンにじっと向けられた。


 まだパニックなのか、「なにこいつ?」という視線である。



「おい、お前らが慌てて逃げないと意味がないだろう。もっと必死になって逃げろ。びびって逃げろ。恐怖におののいて逃げろ。死に物狂いで逃げろ」



 当然、人語を理解できるわけがないエジルジャガーなので、その言葉に従うわけもない。


 ただ、アンシュラオンから発せられる敵意や侮蔑の視線によって、目の前の存在が敵であることは理解したようだ。


 五匹は威嚇を開始。



「ぐるるるっ!」


「なんだ、その目は? まさかオレと戦うつもりか? ははは、これは面白い。お前らの危機センサーは完全に狂ってるな。いいぞ、これはこれで本当に愉快だ」



 階級が上がれば上がるほど、魔獣はアンシュラオンを避けるようになる。危険だとわかるからだ。


 だが、あまりに弱すぎる彼らは、目の前の相手の力量がわからない。


 火怨山ではあまり見られないその反応が新鮮で、アンシュラオンは愉快な気持ちになる。



「だがな、違うぞ。それは違う。お前たちの役目は逃げることだ。餌になることだ。オレに殺されることじゃない。…が、少しばかりの調教は必要だな。ほら、こいよ。その牙は飾りか? ほらほら、こいよ」



 アンシュラオンが挑発するように石を投げつける。


 それは明らかな敵対行動であり、しかも相手を馬鹿にした行動。それが理解できないほどエジルジャガーは知能が低くない。



「グオオオ!」



 一匹がアンシュラオンに飛びかかった。まだ若いオスのようだ。



「威勢がいいじゃないか。その気持ちは買うよ」



 その飛び込みを軽くよけ、エジルジャガーはアンシュラオンの後方に着地。


 そのまま振り返ってまた飛び込む―――はずのエジルジャガーが、がくっとうずくまる。


 その理由は簡単。



「おいおい、忘れ物だぞ。商売道具を忘れていっちゃ困るな。お前たちにとってこれは大切なものなんだろう? 返してやるよ」



 どちゃっ


 赤黒い液体が混じった固形物が落ちる音がした。


 それは、【足】。


 今飛びかかってきたエジルジャガーの前足である。すれ違いざまに引きちぎったのだ。



「っ―――!?!?!!」



 足がなくなったエジルジャガーはパニック。自分が攻撃を仕掛けたはずなのに、なぜか自分の足がなくなっている。


 理解できなかった。何もかもが理解できない。痛みすら感じられないほど困惑している。



「引きちぎられたこともわからなかったのか? それをお前たちが理解する必要はない。何度も言っているが、お前たちの役目は逃げることだ。…ああ、しまったな。足がなければ逃げられないか。じゃあ、お前はいらないな」



 ようやく状況を理解し、足を引きずりながら逃げようとするエジルジャガーに、アンシュラオンはわざとゆっくり近寄っていく。


 歩いているはずなのに獣より速いその姿は、彼にはどのように映っただろう。


 アンシュラオンは追いついたエジルジャガーの眼前に立ち、軽く手を動かす。


 当人は何が起こったのか理解できなかっただろう。しかし、理解できずとも結果は訪れる。



 突如、血飛沫が舞い―――ずるり、ぼとぼと



 切り落とされた残りの三本の足が、大地に落ちる。



「ニギャオオオオオオオオオオオ!!」


「ははは、いい声を出せるじゃないか。そうそう、そうじゃないとな。それならまだ生かしておくか」



 アンシュラオンが、胴体と頭だけになったエジルジャガーの首根っこを掴んで持ち上げる。


 それを他の四匹に見せ付けた。



「逃げろ。逃げないとお前たちもこうなるぞ」


「ぐるる…がるる…」


「ほぉ、さすがに『家族想い』だな。まだがんばるか? こいつはお前の家族なのか? どうだ? お別れは済んだか? じゃあ、死ね」



 一瞬で間合いを詰めたアンシュラオンの拳が、眼前のエジルジャガーの顔面を破壊。粉々に砕けた頭部は、それが頭であったことすら認識不可能なほどに消失。


 どさり、と頭のなくなった身体が崩れ落ちた。



 それでようやく他の三匹は状況を理解し―――逃げた!



 あの家族想いで有名なエジルジャガーが、真っ先に逃げるという選択肢を取ったのだ。


 魔獣の専門家が見たら腰を抜かすほど驚くに違いない。彼らはけっして家族を殺した人間を許さないからだ。死ぬまで追う。殺すまで追う。


 そんなスキルの効果すら無視するほど、目の前の存在は恐怖の対象だった。動物の生存本能がスキルに勝った瞬間である。



「そうだ、逃げろ。もっと逃げろ。ほら、お前も泣け」


「ニギャオオオ!! ギャオッ! ギャッ!! ギャッオオ!! ギャッオオーーーーンッ!!」



 傷口に手を突っ込み、強引に泣かせる。


 その声は岩山に響き渡り、瞬く間に恐怖という感情が周囲の場を包んだ。


 アンシュラオンには何を言っているか理解できなかったが、エジルジャガーはこう言っていた。



―――「痛い痛い!! 逃げろ! 逃げろ!! 殺されるぞ!! みんな逃げろ!!」





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