表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
358/618

358話 「新たなる魔獣の王 その4『魔獣の国』」


「お前たちはまだ教育が足りていない。多少の粗相もあろう。それを許すのも私に与えられた役割だ。楽にせよ」


「…っ」



 ここでマスカリオンたちが解放される。


 そして、クルルは恍惚とした表情で『陛下』を語り出した。



「超常なる王とは、世界を支配する偉大なる御方。人間も魔獣も魔神も、そのすべては陛下にひれ伏すのだ。世の富、世の武、世の理は陛下のもとにあってこそ輝くのだからな」


「…な、なるほど。その陛下は、いずこにおられるのでしょうか?」


「我々下賤なる存在が陛下の所在を知る必要はない。が、普段は『首都』におられるはずだ」


「その首都とは?」


「完全なる叡智が宿った荘厳な巨都である。無限に等しき太陽の力と、それを守る数億の軍勢が守っている最強の都市だ。とはいえ、私程度の『守護者』が謁見などは許されぬ。所詮は小間使いにすぎぬよ」


「あなた様ほどの魔獣が…ですか?」


「当然だ。私はこの能力が評価されて奉仕者の一人に選ばれただけだ。それだけでも名誉なことである。お前たちも偉大なる陛下に従うことだけで満足せよ」


「は、はい。喜んでお仕えいたします」


「それでよい。だが、もし満足できぬというのならば、その意思もろとも『改竄』してやってもよい。最悪は労働力だけあれば問題ないからな」


「いえ!! それは結構です! 心から忠誠を誓います!」


「ふん、お前のような知能の高い魔獣にはわかるであろう。逆らうだけ無駄なことなのだ。私を超える守護者も何千といるのだからな。しかし、最初は恐怖で従っていても、そのうち太陽の尊さを知れば悦びを知る日も来るだろう。その時を待つがよい」


「はっ…」



(いったい誰のことなのだ? そもそもこいつはどこから来た? とても真実とは思えぬが…嘘を語っているようにも見えん)



 クルルは、なぜか『超常の王』という存在に敬服しているようだ。完全に屈服し、心の底から忠誠を誓っている様子がうかがえる。


 しかし、マスカリオンはそんな都市の話を聞いたことは一度もないし、そんな王の名も知らない。


 当然外の世界について無知なこともあるが、そんなものがあったら世界中が大騒ぎになるはずだ。


 しかし、受け入れていればとりあえず身の安全は保証されるため、『今のところ』は従っているだけである。



「王よ、これからどうされますか?」


「次は人間の都市を再度襲撃し、すべての人間を支配下に置く」


「支配下に? 殺すのではなく?」


「そうだ。『スレイブ』にするのだ」


「スレイブ…とは?」


「選ばれていない下賤な人間は、すべて使役する道具にせよとのご命令である。そういう場合は、スレイブがもっとも効率がよいのだ」



 聴き慣れない言葉にマスカリオンが首を傾げるが、そもそも何も理解していない魔獣もいる。


 たとえばこいつだ。



「人間、コロス! クウ!」


「黙れ」


「グオオ!?」



 錦王熊が、再び音波によって動きを封じられる。


 この段階で知能の違いを感じるだろうが、たいていの魔獣はこの程度の頭脳しか持たないことも事実だ。



「頭の悪い魔獣は素直に従っていればいい。そもそもお前たちは、魔獣同士で争うことしかできぬ低俗な者であったはずだ。私がいなければ人間に滅ぼされていたことを忘れるな。手足は脳の指令に従って動くものだ。理解したな?」


「…グウウ」


「ですが王よ、どうやってそれを成すのですか? 人間の世界に疎い我々では難しいことです」


「そこは問題ない。どうやら低級の術式とはいえ、ここには『スレイブ・ギアス』が存在するようだ。それを少し改良すれば本来の力を発揮するだろう。私が媒介すれば数十万単位で支配が可能となる」


「我々には理解できぬことです」


「かまわぬ。それらは私の仕事だ。お前たちは命令に従い、末端の戦力として力を振るうがよい」


「…はっ。それで、その後は?」


「まだ陛下を知らぬ未開の地があれば、そこを支配下に置くつもりだが……ふむ、マスカリオン・タングル。お前が訊きたいのはそういうことではないようだな。よかろう。他の地域も支配した暁には、この地に『魔獣の国』を築くがよい」


「くに?」


「魔獣が生み出す群れのようなもの。そのさらに巨大な枠組みだ。その自治権をお前たちにくれてやる。あらゆる魔獣は陛下のものであり、『超越者』に支配される以上、すべては平等だ。自らの国を持ち、争うことなく暮せばよかろう」


「そのようなことが可能なのですか!?」


「それができるかどうかは、お前たち次第だ。我らに反抗しなければ他は問わぬ」


「………」


「どうする? 私はどちらでもかまわぬぞ。どちらにせよ、お前たちは誰かに支配されるしか道はない。この地の蛮族に支配されて隷属するか、それとも超常の王に支配されて名誉ある奉仕者となるか。好きなほうを選ぶがよい」


「我々が求めるのは自由。自由な空だけでございます」


「ならば従え。この地においてそれを認めてやろう」


「わかりました。従います」


「契約は成った。約束は守るぞ。安心してその身を捧げるがよい」



(人間たちは大勢いる。仮にこの地の人間と和睦したとて、また南の地から人間がやってくれば争いが起こる。その繰り返しだ。それならば、より強い魔獣につくほうがましだ。少なくともこいつは人間ではないのだからな)



 人間自体に嫌悪感を抱いている以上、まだ同じカテゴリーにいる魔獣のほうがよいと考えるのは自然だろうか。


 言葉の違い、文化の違いの程度の差によって、わかりあう余地も少なくなるものだ。もはや人間とわかり合う日はやってこないだろう。


 今この瞬間、両者は完全に決別したのだ。


 マスカリオンの言葉に満足そうに頷くクルルであったが、突然黙る。



「どうされました?」


「…いや、なぜか記憶に欠如が見られるのだ。ここはこんなに寂れていたか? 偉大なる首都に比較的近しい場所ならば、もっと栄えていたはずだが…。いや、私の使命は陛下の支配をさらに強めること。余計なことは考えなくてよいのだ」



 何も考えることはない。自らもまた超常なる王の僕なのだ。下僕は下僕らしく与えられた命令をこなすだけでいい。


 クルルは、頭を振りながら違和感を払拭。



「だが、その前に山に残っている人間を叩き潰すとしよう。『反乱軍』の鎮圧も私の使命の一つだからな。それを撃破したのちに都市に打って出る」


「我ら三軍、いつでも動けます」


「焦ることはない。いまやこの軍に勝てる者は、この地には存在せぬ。お前たちも人間との戦いで消耗したはずだ。号令が出るまで準備に専念せよ」


「はっ」


「ああ、そうだった。唯一お前たちを脅かす存在が一人だけいる。監視はつけているが、その者が来たら無理に戦わずに私に報告せよ。無駄に戦力を削ぐわけにもいかないからな」



 そう言うとクルルは消えていく。


 まだ依代を手に入れたばかりなので最終調整が残っているのだろう。


 強烈な圧力から解放された三大ボスたちは、一気に弛緩。



「ふぅ…ひとまずは乗り切ったか」


「おい、手羽先。いつまであんなやつに従えばよいのだ?」


「誰が手羽先だ! この馬鹿猿が!」


「んっ…違ったか? 河馬先か?」



 破邪猿将が額に手を当てながら首を傾げる。


 『慣れない言語』に、彼もいまだ困惑しているのだ。



「ンゴッ…ゴゴゴッ。言葉は…ムズカシ。肉クイテー」



 一方の錦王熊に関しては、さきほど叱責されたように知能が低く、そもそもの発言内容が低俗だ。


 それはともかく、ここで重要なことは『言語』の存在。


 そう、彼らは【共通の言語】で話しているのだ。


 これこそ魔獣界における革命であり、和製英語が大好きな政治家が「ザッツ・レボリューション!」と叫びたくなるような異常事態でもあった。



(やれやれ、会話が可能になったことで、ますますこいつらの馬鹿さ加減がわかるようになったな)



 通常、種の異なる魔獣同士は言語によるコミュニケーションを取らない。当たり前だが猿と熊と鳥の言葉は違うからだ。


 相手の考えていることが理解できなければ、自然と敵対心が増していくものである。人間社会でも言葉の違いによる相互不理解は珍しいことではない。


 今までもそれが原因で、三大魔獣たちは互いに敵視し合い、けっして関わろうとはしてこなかった。


 それが、あの魔獣の登場で劇的な変化が起こる。


 彼の支配下に入ることで精神同士の結びつきが発生し、互いの言語が『自動翻訳』されるのである。


 これこそクルルの能力の一つである『思念自動言語化』だ。


 もともと言語とは、自己の思念を相手に伝えるための手段であり、考えていることがわかれば言語そのものは不要になるはずだ。


 つまりは言語自体はそれぞれの種族で異なるのだが、精神を介することで相手の思考を自動的に読み取るのである。


 その処理速度が速いので、相手の言語がそのまま翻訳されたように感じるわけだ。言い換えてしまえば、超高速の翻訳機が脳内に内蔵された状態になっているといえる。


 ただし、脳や精神のパターンはそれぞれで異なるため、どうしても完全なる結果が訪れることはない。今のように意図していなくても、違った言葉に置き換えられることがままある。


 それは受け手の先入観や発信側の感情と思想によって影響されるものであり、どうしても歪みは生まれてしまうのだ。



(しかし、いくら不完全とはいえ、他種族同士の対話を可能にさせること自体が恐るべき能力だ。やはり力の次元が違いすぎる。さすがにあのような化け物が何千もいるとは思いたくはないが、超常の王がいるというのは、あながち嘘ではないのかもしれんな)



 今回の作戦においても言葉がわからねば、ここまでの連携は取れなかっただろう。


 人間側の機密情報の収集と、それに基づいた的確な行動予測、魔獣側の連携。この三つがそろってこその戦果である。


 ただし、支配される側に不満がないわけではない。



「おい河馬、何度も言わせるな。いつまでアレに従っているつもりだ。どんどん要求が増えていくではないか。今回の戦いで一番被害を受けたのは我々だぞ」



 破邪猿将が苦々しく咆えるが、当人のいる前では言えないので、まさに負け犬の遠吠えである。


 とはいえ、プライドの高い猿の王が誰かの下につくのを我慢している段階で、彼は彼なりにグラヌマの将来を考えていた。



「アレが何者であれ、力によって我らを制したのだ。ならば従うのが山の掟でもあろう」


「ふん、気に入らんな」


「それはあの媒体になった人間のことも含めてか? 貴様が見逃したことは知っている。群れの仲間が見ていたからな。いったいどういうつもりだ? 目立つ動きはするなと言っておいたはずだぞ」


「借りを返したにすぎん。そもそもお前が来たせいで決闘が邪魔されたのだ。それも気に入らん。あの人間は俺の獲物だった」


「猿たちと慣れ合うつもりはない。一時的に協力していることを忘れるな」


「それはこちらの台詞だ。人間を山から駆逐するまでの辛抱であろう」


「…だとよいがな。アレの様子を見ていると本格的に人間と戦争をするつもりだぞ。さらに戦火は拡大しそうだ」


「人間を支配すると言ったことか? それ自体はかまわんことだ。今の人間はだいぶ弱くなっている。昔のような強者は少ない」


「私が言っているのは、我々もアレの道具に成り下がるという話だ。支配されれば消耗品として扱われるだけだぞ。人間もアレも我らの未来など考えてはいないからな」


「ならば殺すしかない。人間が脅威でなくなれば、次の敵はアレだ」


「それができぬから困っているのだ。お前たち猿は、すぐに他者を侮る。それで負けていたら世話がないぞ」


「なんだと? 我ら誇り高き戦士を愚弄するか!」


「キーキーわめくな。事実であろう」


「いまさら臆病風に吹かれたのではないだろうな。もしそうならば空を飛んで逃げればよい」


「飛んでどこに行くのだ。西は魔境、東は魔窟、北は悪魔どもがいる地獄だ。南も人間どもの勢力が増えているという。ならば我らはここで暮すしかないのだ。それに、やつは強すぎる。お前とて種を絶滅させたくはなかろう? アレは反抗した者を許すほど甘くはないぞ」


「…では、アレが言う『クニ』とやらを作ればよいだけだ」


「ほぉ、そこは理解していたか」


「要するに我らがこの大地を支配するというのだろう? アレに従うのは不本意だが、それくらいしなければ人間どもは抑えることはできん。一人一人は弱いが繁殖力は我らの何百倍のようだからな」


「その通りだ。すでに『盟約』すら忘れている人間とは共存することはできぬ」


「盟約…か。三百年前は、我らも山を守るだけで精一杯であった。その負い目もあったがゆえにおとなしくしていたが…もうそれは破られた」


「ああ、仕方がない。戦うしかないのだ。熊もいいな?」


「ここ、アツイ。雪山、帰りたい。肉シャーベットうめー」


「………」


「………」



 こうして魔獣側の準備は完全に整った。


 山にいる人間の軍勢を打ち倒し、その勢いのまま各都市に攻め入る予定である。


 彼らが目指すのは、魔獣の国。


 人間に干渉されない自分たちだけの楽園なのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

励みになりますので、評価・ブックマーク、よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ