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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
335/618

335話 「大日本帝国の記憶」


「なっ―――!」


「あはは、驚いてくれたね。やった! 嬉しいな! 驚いてくれるってことは、それだけ興味を持ってくれたってことだよね?」


「お前が……お前も転生者なのか?」


「そうだよ。地球からきた魂の一つだ」


「ふん、本当かどうか怪しいもんだな」


「あれ? 疑っているの?」


「お前はオレの情報を見ている。転生者と偽ることくらいはできるだろう」


「そうかもしれないね。でも、嘘はついていないよ。ボクは地球でキミと出会ったことがある。だから知っている。辻褄は合うでしょう?」


「どうかな。信用する根拠がない」


「疑り深いなぁ。そういうところも好きだけどね。じゃあ、少し昔話をしようか」



 影が形を変えて地球儀になる。


 そして、世界の中心にある島をクローズアップ。



「『大日本帝国』。かつてのあの国は素晴らしかった。規律があり、倫理や道徳があり、国民全員が目的をもって精進していた。そんな国でキミは生を享けた」



 『彼』は産まれた時は病弱だったが、肉体が成長するにつれて本来持っていた才能が開花。


 身長こそ少しだけ低かったものの、顔も整っており肉体も丈夫。頭脳も明晰で、誰も困らせることがない利発な子供であった。



「キミは勉強でも一番だったし、武道でも常にトップだった。小学生の頃には中学校を超えて、高等学校のレベルに至っていた。もっとも怖ろしいことは、それでも加減をしていたことさ。なぜならば『目立つのが危険』だと知っていたからだ」



 少年の強みは、頭脳でも肉体でもなく、その洞察力と本質を見抜く力にあった。


 どこの世界でも出る杭は打たれるもの。注目されることは、逆に敵を増やすことだと理解していた。


 だからこそ、わざと徐々に力を落としていき、できるだけ十番以内には入らないように加減した。いつでもトップになれるのに、身を護るためにあえてそうしたのだ。


 それによって「神童も子供のうちだけか」と言われるようになり、注目は薄らいでいった。



「キミは他人にあまり興味を持たなかった。努力はするけど、好きなこと以外はしない子供だったね。そのままだったならば、キミの人生は普通で終わっていただろう」


「………」


「でも、転機があった。それが【十年戦争】だ」



 大日本帝国の歴史において、もっとも激しい十年の記憶。


 それが、『日本 対 世界』の十年に渡る戦争である。



「世界で唯一、人類全体の人権と平等を訴えていた日本に対し、植民地支配を主体とする他国は、それを受け入れなかった。その後の数々の不当な嫌がらせを受けて、ついに日本が立ち上がった戦いが十年戦争だ。まあ、名目上は、だけど」



 きっかけは何でもよかった。人間の欲望がなくならない限り、覇権争いはいつでも起きるものだ。


 そして、大日本帝国は以前から準備していた通り、世界最大の軍事国家へと成長していく。


 ただし、問題もあった。



「経済、軍事、資源、文化、どれにも優れていた日本にとって一番の懸念は、人口の少なさだ。逆にいえば少ない人数で世界最大国家になったのだから、一人一人が優れていたといえる。そんな中で、キミが目をつけられないわけがない」



 徴兵制度によって、彼は陸軍士官学校に入学することになった。


 ここでも少年は手を抜いて適度な位置をキープしていたが、そこでさまざまな出会いを果たす。


 初めて自分と対等に競うことができる『仲間』に出会ったのだ。



「天才は天才を知る。知に秀でた者たち、武に秀でた者たち、世渡りや計略に秀でた者たち、いろいろな人間がいたね。理解しあったり反発したり、まさに青春だ」



 厳しい訓練も多かったが、それ以上に彼にとっては楽しい時間だった。


 今まで失っていた学生時代を取り戻したのだから、当然のことだろう。


 しかし、戦況は常に変わっていく。


 人口が少ない日本軍は、大陸・欧州攻略戦において戦力不足に陥り、青年兵による新部隊の設立と投入を決めた。



「陸軍特殊強襲部隊『駿雷しゅんらい』。懐かしいだろう? 青年たちで構成されたにもかかわらず、日本軍最大級の戦果を挙げた驚異的な部隊だ。まさに若き英雄たちだよね」


「…薄汚い口で、その名を語るな」


「キミにとっては大切な思い出だからね。しかし、キミはすぐに軍を離れてしまった。理由は何だったかな? 人を殺しすぎたせいかな?」


「その程度の理由で辞めるか、馬鹿が」


「そうだったね。キミは生まれながら人を殺すことに抵抗を持たなかった。そういう才能があった。それが今にも大きな影響を与えているんだね。でも、優しい面もある。理由は母親の看病だったかな? 女性には本当に優しいよね」


「さっきからくだらない話ばかりする。お前が言っていることは所詮、オレのデータを読み取っただけの薄っぺらい朗読だ。お前が転生者である証拠にはならない」


「ああ、そうだったね。ついつい楽しくて忘れていたよ。でも、寂しいなぁ。キミはボクのことなんて忘れてしまっている。ボクも『あの場にいた』のにね」


「…お前が?」


「同じ士官学校にいたんだよ」


「………」


「ふふふ、必死に思い出しているね。嬉しいよ。ボクのことをそんなに考えてくれるなんて」


「お前、気持ち悪いな」


「はっきり言われるとショックだなぁ。まあいいや。キミとこうして出会えているんだからね。うーん、証拠か。そうだな…じゃあ、もう一つの事件を挙げようか」


「事件だと?」


「そうさ。キミが起こした事件のことさ。まさか忘れたわけじゃないよね? あれだけの惨劇だったんだ」


「………」



 十年の長きに渡る戦争で、最終的に勝利を掴んだのは大日本帝国だった。


 戦勝国として莫大な富と土地を得た日本は、今まで以上に豊かになっていった。


 が、物が溢れ、人々の欲望が加速したことで同時に堕落の道を歩み出す。


 今まで大日本帝国が人類をリードしてきた規律や道徳、信仰心といったものが消え失せていき、不正や悪徳が横行するようになっていく。



「不思議だよね。戦争で勝ったはずなのに劣化していくなんて、なんとも不思議なことだ。逆に領土が広がったせいで劣悪な異文化が入り込んでしまい、知らずのうちに汚染されてしまったんだ。これじゃ、どっちが勝ったのかわからないよね。…と、事件のことだったね」



 そんな時、一つの事件が起きた。


 とある『陸軍中将の暗殺事件』である。



「中将だけではなく、その部下の家族親類に至るまで皆殺し。どれも晒し首にしたうえで、身体を滅茶苦茶に切り刻んだ痕跡あり。いやー、猟奇的で凄まじいね。説明するだけでも吐き気がする。でも、仕方ないよね。【仲間の仇討ち】だったんだから」



 中将たちは、大陸の兵站を横流ししていた。


 結果、前線にいた部隊は物資が枯渇し、厳しい状況に追い込まれる。


 その中には、陸軍特殊強襲部隊『駿雷しゅんらい』もいた。


 孤立無援で戦い続け、その才能ゆえに多くの敵を打ち倒したが、彼らにも限界はある。そこで多くの仲間が死んでいった。


 飢えや疲労で実力を発揮できなかった者。支援なく玉砕した者。素手で戦うしかなかった者。どれも凄惨な死に方ばかりであった。



「当時、キミは本国にいて何もできなかった。軍属から離れていたこともあり、このことを知ったのは戦後だ。さぞや悔しかっただろう。その時のキミの激情は…ああ、思い出しただけでもゾクゾクするよ」


「だからどうした。お前が転生者である証拠にはならない」


「話は最後まで聞こうよ。じゃあ、どうしてキミは捕まらなかったの? そもそもキミはどうやってその情報を得たのかな?」


「…?」


「戦後の混乱期とはいえ、これだけのことをしたんだ。さすがに犯人くらいはわかるよね。でも、キミは何もお咎めなしだったどころか、別の犯人がでっち上げられてリストにも挙がらなかった。おかしいでしょう?」


「何が…言いたい?」


「それ、ボクがやったんだよ」


「―――っ!?」


「ボクの所属はどこか知ってた? 陸軍特殊諜報機関、『忌竺いみじく』。いくつもある諜報部隊の中でも特に悪質な戦争犯罪を取り扱う機関さ。あまりにも危険な情報ばかりで、戦後に解体されてしまったけどね。ボクも死んだことになって新しい戸籍をもらい、別人として生活していたんだ。そんなある日、キミと再会した」


「………」


「ああ、わからないと思うよ。普通の情報屋を介してキミに提供していたからね。ちょっとデータバンクを操作して、別の犯人をでっち上げたのもボクさ。多少足がついたけど、いくつか機密を持っていたからね。それと交換ってことにしてもらったんだ。つまり、キミを救ったのはボクだ」


「それで恩を着せたつもりか? 反吐が出るな」


「声色が変わったね。本気で怒ってる?」


「オレはな…誰かに自分の人生を操られるのが大嫌いなんだ。オレは自由だ。誰にも縛られない! 当然、お前にもだ!!」


「…いいね。キミは素敵だ。この世界に来ても何も変わっていない」


「いまさらそんなことを明かして何が目的だ? どうせ終わったことだ。何の意味もない」


「勘違いしないでよ。恩に着せるとか、君を怒らせることが目的じゃないんだ。だってボクは―――」




―――「キミを愛しているんだから」




「はぁ?」


「ちょっと、その反応はないんじゃないの? 告白するのにも勇気がいるんだよ」


「告白? 正気か?」


「酷いな。ボクはずっと君を見ていたんだよ。ほら、この時も、あの時も、そんな時も」



 士官学校の教室の扉の隙間から。


 彼の家から二百メートル離れた部屋から望遠鏡で。


 彼が通う喫茶店に務めて、裏方の厨房からこっそりと。



「キミは一度もボクのことを見てはくれなかった。寂しいよ」


「ただのストーカーじゃねえか!」


「あははは、少しは信じてくれたかな」


「まだわからない。作り話の可能性もある」


「そうかもね。ただ、この世界に転生する際に与えられる能力は、以前の性質に合ったものになる。キミの場合は本質を見抜く『情報公開』。そしてボクは『影』だ。そこは納得してもらえるだろう?」


「そこだけはな。そして、お前がマジもんの変態だってこともだ」


「ボクたちは似た者同士だと思うんだけどね。キミが来るのをずっと待っていたんだ。その想いは信じてほしいな」


「…ずっと? お前、この世界にいつ転生した?」


「この『個性』が転生したのは、数千年前だよ」


「時間が合わない。オレと同時期に生きていたのならば、あまりに差がありすぎる」


「時間は止まらない。それはキミが言った通りだ。でも、今みたいに時間の流れ方は違う。キミが地球圏霊界で過ごした時間と、この世界での時間の流れる速度は異なる。それは知っているよね?」


「時間は、あくまで『体感』でしかないということだな」


「その通り。肉体を持たない魂の場合は個人差が大きいんだ。退屈な勉強の時間が長く感じるのとは対照的に、遊園地はあっという間に過ぎ去る。それと同じさ。それ以前にボクのほうが、キミより先に死んでるんだけどね。時期が早くて当然だよ」


「………」


「ふふ、まだ不審に感じているようだね。しょうがないなぁ。もう一つだけ教えてあげよう」




―――「大日本帝国に生まれる前は、キミはどこにいたの?」




「っ……」


「【転生の回数】は一度じゃないだろう? 地球圏霊界でも平均して四回。真なる魂のイニシエーション〈通過儀礼〉を遂げるには十二回という説もある。だから言ったのさ。キミが何者か知りたくはないのか、と。まあ、これはボクに関しても同じことがいえるけどね」


「…何を知っている? お前もオレも、ただの転生じゃないのか?」


「いろいろと知ったのは、こっちに来てからさ。ボクという存在は、概念みたいなものだと言っただろう? そこにはボク以外の魂も多数存在しているんだ。『地球以外の星』から来た【影】もいるよ。地球と同じ進化レベルにある星は、太陽系だけでも一億以上はあるからね。不思議じゃないだろう?」


「女神様がそれを望んでいることは知っている。それならお前の存在も女神様は知っているということだな?」


「当然さ。ボクもまた彼女との【契約】でここにいるからね。ほら、気が合うでしょ?」


「状況が似ているだけであって、気が合うこととは関係ないだろうが。論点をずらすな。だから詐欺師なんだよ、お前は」


「これは性分だから仕方ないね。まあ、昔話はこれくらいでいいかな。今度はボクたちの今後の話をしようじゃないか。改めて訊くけど、どうしてキミは人間と一緒にいるんだい?」


「オレが人間だからだ。全部聞いていたくせに、二度言わせるな」


「弱い人間と一緒にいるのは、そんなにも楽しいことなの? キミはすでに自己顕示欲をほとんど捨て去っているはずだ。わざわざ目立つ必要もないだろう。金魚の中にクジラがいたら際立ちすぎるよ」


「同じ転生者のよしみで仲間になれ、とでも言いたいのか? 死んでもお断りだ」


「本心ではそうなってほしいけど、残念ながらその必要はない。ボクとキミの役割は違う。でも、パミエルキを解き放ってしまったのはキミだ。キミがいるからこそ彼女は愛に狂う」


「ははは、お前も姉ちゃんが怖いらしいな。ざまあない。せいぜい苦しめよ」


「アンシュラオン、本当に忘れているんだね」


「何をだ?」


「ボクは覚えているよ、キミとの【約束】をね」


「ストーカーのお前とか? ありえないな」


「信じてくれないんだね。これも仕方がない。ただ、ボクにもボクの予定があるんだ。キミが本当に【予定通り】なのか試させてもらおうか」



 『影』からいくつもの影が生まれて、むくりと立ち上がる。


 平面的な影だったそれは、いまだ平坦ではあるが、妙な不気味さを宿していた。



「ボクはここの空間を完全掌握している。言ってしまえば、この場限定で全知全能の絶対神になれるわけだ」


「てめぇ…何をするつもりだ!!」


「ふふふ、いくらキミでも怖いみたいだね。誰だって自分が動けない時に動ける存在は怖いものさ。でも、キミが怖いのは自分が傷つくことじゃない。それは散々味わって耐性ができている。キミが本当に怖いのは―――」



 影が動き出すと、周りにいた人間に絡みつく。


 小百合もホロロも、アルもグランハムも、ベルロアナやソブカたちも動けないどころか、今起きていることを意識すらしていない。


 だが、影はいつでも好きな時に動くことができる。



「さて、この影が彼らの首を切ったらどうなるだろう?」


「所詮は幻影だ。止まった世界で何をやっても止まったままのはずだ。何も起こらない」


「普通ならね。でも、キミが『見ていてくれる』のならば大丈夫だ」


「…どういうことだ?」


「さっきの現象は覚えているでしょう? 突然ボクが見えるようになった。それはなぜだと思う?」



(まさか、こいつは…こいつの能力は―――)



「気づいたようだね。ボクという実体は、キミが観測してくれる限り存在し続けられる。とても簡単な話さ。キミがボクの行動を観測して『現実にしてくれれば』、それが【確定した今】になる」


「それこそ虚言で机上の空論だ! 観測しただけで実体にはならない! そもそもその考え自体が間違っている!」


「キミだってこの世界で意思が力になることを何度も経験してきたはずだ。焦っていること自体が、事の深刻さを理解している証拠だよ。たとえばこうやって傷をつけると―――」



 影の一つが、アルの腕を軽く切る。


 最初は何も起きなかったが、じわじわと血が流れて服が滲んできた。


 時間が静止した世界で、なぜか血だけは実際に動いている。


 これはアンシュラオンが『観測した』せいだ。



「【観測したものが実体化】する。それがお前の能力か!」


「『シュレディンガーの猫』。有名な話だよね。すべては可能性の世界であり、確率の世界では何が起きても不思議じゃない。キミが魔神を倒したように、経験と力によって不確定な未来を確定させることもできる。ただ、それがボクは能力によって実現できるんだ。すごいと思わないかい?」



(こいつの能力はまずい! オレが見てしまうだけで『可能性が現実』になってしまう! くそっ、目は閉じられない! 視線が固定される! しかも間違いなく術士因子が10はあるぞ! こんなやつに術の才能を与えるなよ!)



 時間停止は、あくまで術の力にすぎない。それだけでも凄いが、影の本当の能力は別にある。



 それこそ―――『観測実現』



 一番危険な精神を持った存在に、一番危険な才能スキルを与える。


 これがもし女神の仕業だとすれば、一瞬だけでも女神を呪いそうになるほどだ。




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