表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
330/618

330話 「兄妹演武 その2『サナの可能性』」


 サナの一撃が、鬼美姫に損傷を与える。


 刃にまとった雷が、発剄の要領で内部に浸透することでダメージを与えたのだ。


 もともとアルによって雷神掌が効くことは知らされていたので、これは想定内のことである。



「一回噛みついただけで満足か! ならば死ね!」


「―――っ!」



 だが、浸透したのはわずかな量であり、強大な敵にとっては軽い火傷程度でしかない。


 背中から棘が生まれて、無防備なサナに突き刺さる―――前にストン


 地面から水の刃が飛び出してきて棘を切断。


 覇王技、『覇王水濤断はおうすいとうだん』。


 水気を放って切り裂く『水刃砲』に似た因子レベル2の技だが、ピンポイントで放つというよりは、少し幅を広くして首や手足を落とすことを目的とした技だ。


 アンシュラオンの場合は、さきほどの『地踏打じどうだ』の直後に足で放った技を遠隔操作で移動させ、『停滞反応発動』で遅れて発動させていた。


 サナが攻撃直後に、無防備になることを知っていたからである。


 アンシュラオンの援護を受けて、サナは無事離脱して距離を取る。



「また魔人か! ぐううっ! 邪魔さえ入らなければ、仕留められたものを!」



(このあたりが限界らしいな。技と動きも見切った。アクシデントはまずありえない。まあ、こんなものだろう。多少ブーストはしたようだが、こいつも竜と同じくステータス通りといったところか。脅威にはなりえない相手だ)



 悔しがって感情を露わにする鬼美姫を、アンシュラオンが観察。


 ここで『データ収集』が完全に終わる。


 鬼美姫のパワーとスピードを肉体を通じて感じ取り、戦い方や技量も確認。さらに突然の攻撃にどう反応するのか、咄嗟にどんな動きをするのか、視野はどれくらいか、攻撃範囲はどこまでか、どういうときに感情を出し、何を信条としているのか。


 今までの戦いから銀宝鬼美姫という存在を丸裸にしていた。


 その結果、デアンカ・ギースよりは面倒だが、殲滅級魔獣を超えることはないと判断する。



(仕留めるのはいつでもできる。まだベルロアナにも余力があるみたいだから、もう少しサナの育成を続けるか)



 いまだベルロアナは撃ち合いを続けており、あまりの圧力に竜美姫も対応で精一杯のようだ。


 なぜ彼女が魔神と互角にやり合えているかといえば、最初から全力のフルパワーで戦っているからだ。アンシュラオンとの戦いが残っている竜美姫とは前提条件が異なることが最大の要因といえる。


 それからもサナが鬼美姫につっかけ、その都度アンシュラオンがサポートする展開が続く。



(サナは器用だ。いろいろな欠点もあるけど、そのバランス感覚は非常に優れている。普通は刀を持ちながら戦士の動きなんてできないさ。グランハムが足運びを教えてくれたおかげでもあるが、基礎教育をしっかり施した成果が出ているんだ)



 彼女が武人になる前から『無軌道の動き』を教えていたのは、いかなる資質があっても無駄にはならないからである。


 もしサナが戦士ならば、その動きに身体の強度と格闘術を加えればいい。もし今のように剣士ならば、相手に近づいたり回避するために利用させればいい。もし術士だったならば、間合いを広げるために活用すればいい。


 すべてはサナのため。彼女のために用意された教材だったのだ。


 ただし、教えたからといってやれるとは限らない。これらは高等技術であり、平然とやってのける彼女がおかしいともいえる。


 が、その謎の答えもすでに出ていた。



(見たところ、サナは【因子の劣化が起こっていない】。戦士と剣士の能力を併せ持つのは、一般的には『モザイク〈複合因子〉』と呼ばれるみたいだが…ファテロナさんの『ハイブリッド〈混血因子〉』がデータに出ているのに、サナにはない。となると『トリオブスキュリティ〈深遠なる無限の闇〉』の中に内包されているのは間違いないだろう)



 基本的に上位スキルは、下位スキルを内包する。


 特にユニークスキルになると、スザクの『バイキング・ヴォーグ〈海王賊の流儀〉』のように強力な効果がいくつも付随することは珍しくない。


 そして、サナのユニークスキルの中にも『モザイク〈複合因子〉』が内包されていると思われる。



(いまだ謎のスキルだが、仮説が正しいとすれば【サナの才能は桁違い】だ。因子の劣化が起きないことは、武人の戦いにおいて極めて有利になる。つまりは【オレと同じ戦い方ができる】んだ)



 武器が有効な敵には刀を使い、剣術が不利になる相手には戦士として戦える。


 武人の戦いは相性が大きく影響を及ぼすため、万能性という意味合いでも非常に強力な要素となるだろう。


 事実、サナの動きはどんどん良くなっていき、時折アンシュラオンやアルの動きを真似たような体術も見せていた。


 こうした戦士の動きを得たことで、剣士と戦士のフェイントを交互に入れて相手を惑わせることもできる。


 鬼美姫は、突然動きが変わるサナに対応できなくなり、だんだんと攻撃を受ける回数が増えていった。


 そして、近接戦の間合いに入ったサナが、さきほどアンシュラオンがやった『六震圧硝ろくしんあっしょう』を真似た打撃を叩き込む。


 こちらも技こそ発動しなかったが『剛腕膂将ごうわんりょしょうの篭手』で強化されているため、相手が鬼美姫でなければ大きな一撃になっていたことだろう。



「くそ! なぜ急に動きが変わる! なぜ私が、この程度の相手に追いつけない!」



 鬼美姫は、半ばパニック状態に陥る。


 急速に成長し、進化していくサナに対応できないのだ。



(やはり対応力が乏しいな。こいつの能力も最初から想定されたスペックしか出ていないし、もしかしてこれが魔神の特性なのか?)



 鬼美姫の能力は、生まれた時から設計されていたものであり、当人の意識に関係なく仕様通りに動く。


 想定されたパワー。想定されたスピード。想定されたスキル。


 プランに従って完成した彼女は、期待された通りの力を出しているが、それ以上にもそれ以下にもならない。変化が乏しく、技を破られるとそれっきりで、何一つ有効な打開策を打ち出せない。


 まるで―――兵器


 造られた通りの性能しか出せないのだ。これは竜美姫も同じで、ベルロアナの覚醒に対して防戦一方である。


 最低限の適応力はあっても、加速度的に急速に成長するサナにはまったく及ばない。



(これなら十分いけるな。サナに仕留めさせれば、マキさんとの釣り合いも取れるだろう)



 マキが魔獣形態の鬼美姫を撃破したのならば、サナはこちらの完全形態を倒してこそ上位だと知らしめることができる。


 それを想像して、ついついにやけてしまう。


 アンシュラオンにとっては、魔神という存在すらジリーウォンや人喰い熊と同じ。サナの練習相手という意味では大差ないのである。


 いやらしい笑みを見た鬼美姫も、ここでようやく気づく。



(まさか…実験台! この私を使って遊んでいるのか!)



「貴様ぁあああ! どこまで馬鹿にする!!」



 鬼美姫は地面に刃を打ちつけると、液体金属を放出して凝固。完全に固めて鋼鉄の床にしてしまった。


 何度も地面を利用されて不利になった経験を生かしたこともあるが、地面そのものを武器にするためでもある。


 そして、大地を通じて液体金属が広がり、隙間がないほどの『棘床』が生まれていく。


 アンシュラオンは棘の上でも問題なく移動できるが、まだ未熟なサナはそうはいかない。


 具足の硬さで棘自体は刺さらなかったものの、足が―――滑る!


 バランスを崩した一瞬。


 それこそが高度な戦闘において致命的。


 周囲の棘が伸びながら曲がり、サナに襲いかかってきた。



「―――っ!」



 サナは咄嗟に身を捻って回避運動を取るが、三本の棘が身体に突き刺さる。


 ただし、身体の回転はやめず、勢いそのままに肉を引きちぎりながら脱出。


 すぐに飛び退くが、他の場所からも棘が襲いかかってきて、回避で手一杯で攻撃に移れない。



「…はぁはぁっ! …はぁはぁっ!!」



 血を流したサナの呼吸が荒くなっていくが、棘の攻撃はやまずに彼女を追い込んでいった。


 剣士の動きで刀でガードすれば一本は完全に防げるが、他の角度からの攻撃には対応できずに傷を負う。


 今度は戦士の動きでかわせば、ある程度は回避できるものの、反撃するには至らずに小さな傷が増えていくだけの展開になる。


 術符の扱いもグランハムほど精度が高いわけではなく、鬼美姫には通じない。当然、大納魔射津等の小道具も無意味。


 今のサナでは、鬼美姫に手も足も出なかった。



「どうだ、魔人! 眷属などに負ける私ではない! 無意味なことはやめろ!」



 まだ武人として覚醒してから間もないことを思えば、これだけやれるだけでも天才と呼ぶに相応しい。


 しかし、いくら成長速度が驚異的とはいえ、強者との間にある壁は簡単には越えられない。


 ここをどう越えていくかが、今後の彼女の課題の一つといえるだろう。



(まあ、そうだろうな。こいつの言うことも間違いではない。だが、オレの本来の目的はもう一つのところにある)



 サナの限界はすでに知っている。それにもかかわらず戦いを継続したことには意味があった。


 それは当然ながら―――



―――「グルルルルッ」



 サナのペンダントが青い輝きを増し、周囲に幾筋もの雷が迸る。


 そして、身体から血を流すサナを守るように、その雷光が徐々に形を成していき、雷をまとった青い狼を生み出した。


 『青雷狼せいらいろう』、サナの魔石獣である。


 強い攻撃を受けたことで感情が徐々に高まり、彼女が覚えた【怒り】の発露を促す!



「…ふーー、ふーーー! ―――――――――――――――――――――――っ!!」



 声にならない意思の爆発が、魔石獣を刺激。


 青雷狼の目に赤い怒りの感情が宿り、鬼美姫を睨みつけると同時に、サナの身体に青雷がまとわりついて融合を開始。


 超圧縮された雷が鎧のように巻きつき、手足には雷の爪が生え、頭には狼の頭部を模した雷の仮面が生まれた。


 以前の人喰い熊との戦いでも起きた、サナの魔石の半覚醒である。



「…ふー、ふーー!!!」



 『雷狼化』したサナが、掌を向けて雷撃招来。


 雷貫惇の五倍は太いであろう『青雷』が走り、それに触れた金属の地面を液状化させながら鬼美姫の背中に直撃。


 激しい爆音と衝撃が皮膚を焼き、体内にも雷の一部が侵入。身体を突き抜けて損傷を与える。



「ぬっ…! この威力は!?」



 今までとは違うサナの様子と攻撃に、鬼美姫の注意も思わず逸れた。


 本来は絶好の追撃チャンスではあるのだが、前にいたアンシュラオンにも余波を与えているのが問題だ。


 サナは続けて雷撃を放射。荒ぶる雷が鬼美姫を襲い続ける。


 だが、人喰い熊とは違ってそれだけで倒せる相手ではない。


 次に雷撃を受けた鬼美姫の背中は多少ながら焼け焦げたものの、そこまでダメージを受けていなかった。


 背後に集まった青い皮膚が雷撃の大半を弾いたのである。このことからこの青雷は、魔力値を参照した『術式攻撃』であることがわかる。



「…はー、はーー! ふーー、ふーーー!!」



 青雷の効果が薄いとわかると、雷狼化したサナは手に生やした雷爪で攻撃を開始。


 獣の速度で一気に接近し、獰猛な魔獣のように手当たり次第に切り裂き始めた。


 この雷爪も術式に関わるものではあるが、切り裂くと同時に敵の体内に叩き込むため、鬼美姫にもダメージは通るはずだ。


 実際に硬い皮膚にもかかわらず、高圧縮された雷爪によって傷がつき、そこから雷が体内に浸透している。雷が有用なことは間違いはなく、今のサナならば戦力になることを証明する。


 しかしながら魔石獣の使用には、いまだに大きな問題が残されていた。



(たしかに強いが、ベルロアナと同じく力の制御ができていない。あいつの場合は専用武器と血統遺伝があるから自然と一定方向に矯正されるが、サナの場合は無秩序そのものだ。完全に振り回されている。というか、制御するつもりがまったくないんだ)



 今のサナは強くはなっているが、バーサーカーと同じ。


 自身の中にある怒りの感情で攻撃しているだけで、攻撃手段もタイミングも滅茶苦茶だ。放たれた雷撃も周囲に大きく飛び散るので消耗も大きく、そのとばっちりを味方が受ける可能性も高い。


 アンシュラオンは水気で雷撃を流しているので無傷だが、もしここにマキやユキネがいたら感電していたはずだ。威力を考えれば、死んでしまってもおかしくはない。


 少し離れた位置にいるホロロに対しても雷は向かっており、その無秩序さから完全には回避できず、いくつかの裂傷と火傷が見て取れる。



(サナが単独で倒せる相手ならばかまわない。無秩序でも人喰い熊のように勝ててしまうだろう。しかし、一撃で致命傷を与えられない相手や、味方と動きを合わせる戦いにおいては邪魔にすらなる。切り札どころか疫病神だ)



 サナが滅茶苦茶に攻撃を仕掛けるせいで、アンシュラオンとの連携がまるで取れていない。


 それは結局のところスタンドプレーであり、派手に見えても与えるダメージ量は減っているのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

励みになりますので、評価・ブックマーク、よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ