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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
33/614

33話 「どうしてあなたは髪の毛を愛するのか? なぜなのか? 僕には理解できない。したいとも思わない」


(現実に立ち向かおう。オレはいつだって、そうやって困難を打開してきた。姉ちゃんからも逃れられたじゃないか。時間がないんだ。すべてあの子のためだと思えば我慢できる!)



 サナへの想いを奮い立たせ、改めてその男、エンヴィス・ラブヘイアを見る。


 深い草色の髪を肩口まで伸ばして綺麗に整えている。目の色は青。顔立ちは悪くないので、女性にモテようと思えばなんとかなるだろう。


 着ているモスグリーンの厚手のコートには、所々に鉄鎖が入っているようで、たまにチャリチャリと音がしていた。


 腰にはロングソードと予備の短剣。武器に特別な力はなさそうだが、使い込んでいる様子がうかがえる。


 また、特に臭いというわけでもないので、傭兵のわりにはなかなか小奇麗にしているように見えた。



 だが、変態である。



 これが重要なのだ。こいつは変態だ。


 しかし傭兵は強ければ許される。それもまた重要な要素であった。



「で、お前は強いのか?」


青毛級狩人ブルーハンターのライセンスを持っています」


青毛級ブルー。オレの白牙級ホワイトの二個下の第四階級か」



 下から数えて無足級ノンカラー赤鱗級レッド、そして青毛級ブルー。計算では第四級の根絶級魔獣を倒せるレベルにある。


 根絶級は『街に近寄った場合、根絶すべき危険な獣』なので、それくらいの敵は倒せるということだ。



(殺そうとしたわけではないが、オレの拳を受けて生きている。耐久力はそこそこあるのかもな)



 アンシュラオン(リング付き)の手加減パンチで死ななかったことだけでも賞賛に値する。そこらの一般人ならば即死だったはずだ。


 だが当然、こんな変態のことをアンシュラオンは信用しない。


 遠慮なく自分で調べてみた。



―――――――――――――――――――――――

名前 :エンヴィス・ラブヘイア


レベル:22/50

HP :110/780(殴られたから減っている)

BP :120/280(殴られたから減っている)


統率:F   体力: D

知力:F   精神: E

魔力:D   攻撃: D

魅力:F   防御: D

工作:D   命中: D

隠密:C   回避: D


【覚醒値】

戦士:1/3 剣士:1/3 術士:0/0


☆総合:第八階級 上堵じょうど級 剣士


異名:危険な変態毛髪男

種族:人間

属性:風

異能:毛髪診断、毛髪収集癖、孤高の剣士、広域剣術強化、毒耐性、変態

―――――――――――――――――――――――



(ほぉ、戦士と剣士の因子が1か。つまりこいつは、れっきとした武人だということだ)



 因子が1もあれば立派な武人である。


 この0と1との間には、計り知れない差があるからだ。


 0でも戦気を出せる人間はいるが、1になれば【技】を修得できる。これが最大のメリットとなる。


 ラブヘイアは剣士なので、おそらく剣王技ソードスキルを修得しているものと思われる。


 ちなみに剣王技は、普通に『けんおうわざ』と呼んでもかまわない。覇王技は、『ロードスキル』あるいは『はおうわざ』。魔王技は、マスタースキルあるいは『まおうわざ』である。特に決まりはない。


 ただ、覚えられる技には因子レベルが関係しているので、因子レベル2の技は、どんなに強くても1の人間には覚えられない制限がある。



(知力と魅力はカスだが、魔力、工作、体力、攻撃、防御、命中、回避がD。Dってのは一人前のレベルを指すから、総合的に考えれば、それなりに体力があって、そこそこ器用で使える剣士といったところか)



 それに加えて、隠密がCである。


 完全に変質ストーカーとしか思えないが、このCがあったからこそ、考えに没頭していたアンシュラオンにも接近できたのだ。


 もちろん敵意があれば遠くからでも一瞬でわかるが、まさか髪の毛を嗅ぐとは思わなかった。



(しかし、『毛髪診断』って何だ? 初めて見たぞ。名前から察するに、そのままの意味か?)



 そもそも珍しいから異能なのだ。初めて見るものがあっても仕方ない。


 これは当人に訊いてみる。



「お前は、髪の毛から何かを調べられるのか?」


「おおお、それに気が付かれるとは、さすが私の…」


「次の言葉を言ったらお前を丸刈りにする。永久脱毛だ。転職先は僧侶かボディビルダーだけとなる。わかったな?」


「では、なんとお呼びすれば?」


「普通にアンシュラオンでいい。で、どうなんだ? 何かわかるのか?」


「はい。相手の本当の美しさがわかります」


「美しさ?」


「どんなに偽っていても美は隠しきれません。ああ、あなたほどの美しい髪の毛には初めて出会いました!! もう私は虜なのです!!」


「ひぃっ」



 本気でつらい。やめたい。



(ふむ、やはりスキルには個人特有の『ユニークスキル』があるようだな。この『毛髪診断』もそうなのだろう。…使い道がまったくない死にスキルだけどね)



「お前はいつも単独で動いているのか?」


「はい。あまり組んでくれる人がおりませんので、独りで魔獣を狩ることが多いのです」


「うん、当然だな」


「それに気が付かれるとはさすが…」


「うん、誰でもわかることだぞ。自覚しろ、自重しろ、自分で自分を恥じろよ。そうしないと近いうちに被害者から闇討ちに遭うぞ」


「はぁ…理不尽な世の中です」


「正しい世の中だ。少なくともこれに関してはな」



(スキルの『孤高の剣士』は何だろうな? 詳細までわかればいいんだが、さすがにそこまで便利じゃないか。こういった感じのスキルは、能力に影響を与えるものが多いのはわかっているんだが…)



 ちなみに『孤高の剣士』は、単独で戦闘に入ると攻撃の能力値に1.3倍の補正が入る強力なスキルである。


 タイマンでも集団戦でも自分が独りならば必ず強化されるため、単独で動く傭兵やハンターにとっては極めて価値があるものだ。



(『広域剣術強化』も初めて見たが、たぶん広域技に補正がかかるんだろうな。あとは『毒耐性』か。両方ともあって損はないスキルだ。だが、データ公認で『変態』とはな…怖すぎるな)



 世界から変態と認められる変態は希少だ。


 おめでとう、ラブヘイア君!



(とはいえ、バランス型の剣士としては全体的に悪くはない。今まで見てきた人間の中では圧倒的に能力が高いしな。今からこいつの代わりを見つけるのは難しいだろう。こうなったら変態を逆手に取ろう。『毛髪収集癖』があるならば、この手が通じるかな?)



「じゃあ、取り分は10:0でいいな」


「気のせいでなければ、下がっているような…。むしろゼロになっています。さすがにそれは…」


「髪の毛が欲しくはないか? 白くて綺麗で良い匂いがする、この世界でもっとも上等な髪の毛を」



 これ見よがしに自分の髪の毛を触る。



「っ!! そ、それはまさか…! 私の目の前にある…至高の!」


「死ぬほど嫌だが、本当に嫌だが、泣きたいほど嫌だが、報酬としてお前にオレの髪の毛をひと房やろう。これくらいだぞ。これくらいだからな!!」



 軽く指で握ったくらいの量だ。


 ここ三週間で少し伸びたこともあり、ちょっとくらいならば減っても問題はない。



「そのようなご褒美、よろしいのですか!? はぁはぁ、ごくり! じゅるり!」


「ご、ご褒美…。ぐっ、そう…だ。ご褒美だ。それとも髪の毛は無しで、報酬の折半がいいか? オレはむしろ、そのほうがいいような気がしてきたが。今後のお互いのためにも…いやむしろオレのために」


「そのようなこと!! ぜひとも髪の毛を頂戴したいと思います!! なんなら追加料金を払ってもいいです!! ぜひともお願いいたします!!」



 土下座した。



「そう…か。なら、それで…いいか。お前がいいなら…な」


「ありがたき幸せ!! ぐへへ、じゅるる、はぁはぁ」



(ちくしょう。何か大切なものを失った気分だ。スレイブって、こんなにつらい人生を歩んでいるんだなぁ。こんな変態が雇い主だったら、オレ、死を選ぶわ)



 人生において金よりも大切なことがあると知った瞬間である。


 人間の誇りとかプライドは、やはり重要であると。




 準備を整え、門に戻る。



「お姉さん!」


「あらあら、武人の人は見つかったのかしら?」


「うん、あの人と一緒に外に行くんだよ」


「あら、それはよかったわね……って、よりによってあいつなの? 代わりはいなかったの?」


「お姉さん、知ってるの?」


「ええ、まあね。ちょっとした有名人ですもの。何かされなかった?」


「うん、ちょっと変な人なんだよね。オレの髪の毛を触って、匂いを嗅いで、よだれを垂らしてはぁはぁするんだ。大人って、みんなああいうことするのかな?」


「…へぇ、そうなの。少し待っててね。そこのあなた、ちょっとこっちに」


「え? 私ですか?」


「そうよ、早く来なさい」



 お姉さんは、ラブヘイアを裏に連れて行く。


 アンシュラオンからこっちが見えないことを確認すると、ラブヘイアを壁に押し付け―――



「この変態が!!! 恥を知りなさい!!」



 ドゴンッと腹をぶん殴る。

 


「はぐっ!? ぶはっ!! な、なぜいきなり!? なんですかこの仕打ちは!?」


「人間のクズが! あんたみたいなやつがいるから、ここの治安が荒れるのよ! あの子に何かしたら、ただじゃおかないからね!!」


「いやもう、ただで済んでは…ぐはっ、うぼっ! ひぎゃっ! ひでぶっ!」



 ガス、ボス、バキ、ドカ、グシャ!!


 お姉さんの鉄拳制裁がラブヘイアに叩き込まれ、そのたびに壁にめり込んでいく。これまた漫画のようだが現実だ。



「ひーーっ!」


「クズがぁ!!」


「おたすけえええーーー!」



 五分後。


 ボロボロになったラブヘイアが放り出された。


 あちこちの骨が折れ、顔面の半分が崩壊している。



「お姉さん、どうしたの? 何かあったの?」


「ううん、大丈夫よ。もう何も心配いらないわ」


「そうなの?」


「うん、そうよ。もしあいつが何かしたら、また教えてね。今度は二度と立てないようにするから」


「ほんと!? ありがとう! お姉さん、大好き!」


「んふふ、気をつけて行ってきてね。じゃあ、リングは回収しておくわね」


「行ってきまーす! またね!」



 門番のお姉さんに元気に挨拶をして、いざ旅立ちである。


 しかし東門を出ると、ラブヘイアが困惑した顔で訊ねてくる。



「あの、どうして殴られたのでしょう? なにかすごい罵倒されたのですが…意味がわからないです」


「意味がわからないのは、お前の存在自体だろうが。全部自業自得だ。さっさと行くぞ」


「は、はい…。やはり理不尽な世の中です…」


「極めて正当な世の中だ。お前が恥を知れ。というか、お前も武人なのにリングは付けていなかったな? どうしてだ?」


「この都市のハンターとして長く活動していると、そうした措置は免除してくれるのです」


「ふーん、オレはなったばかりだから、まだ駄目かな? まあ、どっちでもいいけどね」



 こうして不本意ながら、変態との共同作業が始まる。



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