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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
327/618

327話 「人間の戦い その4『化け物 対 化け物』」


「ルカ! 我らの全力をもって御役目を果たします」


「わかった!」



 ここで二人の美姫から異様なオーラが噴出。


 それに合わせて竜美姫の顔が、より竜寄りになり、鬼美姫の顔も鬼寄りに変化していく。


 身体も同様に膨れ上がり、大きさも今までの三メートル大からもう一回り大きくなったことで、魔獣の側面がさらに出てきたように見える。


 一番の変化は見た目ではなく、内包された力が一気に解放された点だろう。


 つまりはアンシュラオンが低出力モードから高出力モードに変えたように、【本来の力】を解き放ったのである。


 それによって能力にも変化があり、ステータスが跳ね上がる。



「みんな、気をつけて! 特攻を仕掛けてくるよ!」



 アンシュラオンが叫んだように、これは消耗を度外視した短期決戦モードだ。


 相手が命がけで勝負を挑んできた証拠である。



「今度は逆に、私が貴様を押さえる!」



 鬼美姫がアンシュラオンに向かっていく。


 能力が強化されたことで脚力も増して、一瞬でアンシュラオンを捕捉。


 その腕力で振り下ろされる刀の一撃は、速度もパワーも上がっており、まさに剛刀と化していた。



(速くはなってもまだ雑味が残っている。これくらいの練度なら避けられるけど、オレやアル先生はともかく小百合さんたちが巻き添えになったら危険か。仕方ない。受け止めよう)



 アンシュラオンは余波のことを考えてあえて避けず、両手の戦刃で受け止めるが、半分ほどまで食い込まれる。


 一撃受けるごとに戦刃が大きく削れるほどのパワーなので、そのたびに戦刃を作り直す必要があるほどだ。



「そのまま押さえているアル!」



 アンシュラオンが攻撃を受け止めている間に、アルが背後に回って攻撃しようとする。


 散々鬼美姫を苦しめてきたコンビネーションだ。



「私とて学習能力はある。危険なやつは近寄らせない」



 が、鬼美姫はそれにも対応。


 背中側の二本の手から液体金属を散弾状に放出。アルを牽制して寄せ付けない。


 それだけにとどまらず、体表が波打って液体金属が滲み出てくると、伸びたまま凝固。鋭利な刃になって身体を軸に回転を始める。


 鬼美姫の能力である『金属武器生成』と『金属武器操作』である。


 魔獣の身体を生み出した能力の派生版で、同じ要領で自由に武具を生成することで、あらゆる状況に対応するスキルだ。



(発剄を潰してきたか。最低限の対応力はあるようだ。魔獣の力を持ちながら人の知恵も持つ魔神の本領かな)



 アンシュラオンは敵の猛撃を受けながら、新たに出現した刃も回避していくが、相手の圧力を受けきるだけで反撃までには至らない。


 被弾覚悟で強引に攻める手もあるものの、それはアンシュラオンの戦闘スタイルではないからだ。


 最小限の力で最大限の結果を出すために、今は防ぐことを優先すべきと判断する。



「ご主人様、援護します! 精神を縛れば!」


「貴様も危険だ」


「っ…!」



 手が足りないアンシュラオンを見てホロロが魔石で援護しようとするが、液体金属の散弾で妨害される。


 背中側の両腕はもはや銃のような使い方をされており、遠近両方で隙がない。


 しかもその気になれば腕や武器の数を増やせるので、どの角度にも対応できるようになっていた。



「ホロロさんは力を溜めておいて。今は相手の攻撃を凌ぐことを優先する」


「かしこまりました」



(このレベルになると簡単には対応できないか。アル先生とグランハムも対応に苦慮しているくらいだから仕方ない。すでに人間相手じゃないからな)



 本気を出してきた魔神の力は、やはり人の領域を超えていた。


 特に物理面に特化した鬼美姫を止めるのは簡単ではない。小百合やホロロの覚醒状況では、このレベルにはまだ対応できないだろう。


 そして、そんな相手が二人いるのが問題。


 現状でも分断はできているものの、強化されたせいで単独でも十分戦えるようになっていた。


 アンシュラオンが鬼美姫の対応に回ると、空いた竜美姫が自由に攻撃できてしまう。


 今度は最初から宙に浮かび、周囲に一メートル大の金宝玉が三つ浮いていた。


 これはアルが使っていた『魔力ブースター』と同じものかつ、市販では絶対に売っていない極めて高性能なものである。


 竜美姫は、因子レベル5で扱える『灼熱業球』を展開して巨大な火球を生み出すが、ブースターを使うことで力はさらに増して、合計四つの火球が出現。


 かなり距離があるにもかかわらず、その熱気だけで肌が焼けそうになる。



「魔神の誇りにかけて本気で参ります」


「あれはまずいですねぇ…回避を!」



 これにはソブカも緊急退避を選択し、他の者たちも慌てて回避。


 予測通り、落ちてきた火球は地面すら溶解して吹き飛ばし、その熱によって第二防塞の屋根が焦げるほどであった。


 直撃すれば、人間など跡形も残らないだろう。



「キブカランさんの服は火を弾くんじゃないんですか!? なんとかなりませんか!?」



 火球から逃げながら小百合が叫ぶ。


 彼女は空間跳躍ができるのでましなほうだが、それでも次々と落ちてくる熱波の余波は免れない。



「限度があります。本物ならばいざ知らず、これはあくまでレプリカですからね。耐えても一発といったところでしょう」


「ソブカ様、このままでは攻撃が届きません! 一方的にやられます!」



 ファレアスティも『耐術壁』の術符を何度も更新しながら、必死に火球に耐えていた。


 竜美姫は徹底して空中から火球をばら撒いているので、銃弾が通じない以上、地を這う人間にはどうしようもない。



「相手は空ですから、はっきり言って我々の戦力ではお手上げです。それこそ戦艦の主砲でもなければ撃ち合うことは難しいでしょう。ミナミノさんには打開策はありませんか? 熊のように眠らせることは?」


「私の跳躍なら届くかもしれませんが、その後の攻撃が問題ですね。たぶん術式に対してかなりの耐性がありそうですし、鬼のほうと違って精神体もがっしりガードしています。やるにしても弱らせないと…」


「ミナミノさんの能力も通じないとなると…さて、どうしますか」


「穴をあけてください。そこから毒を注入します」


「きゃっ!?」



 影からファテロナが、にゅっと出てきた。


 しかもファレアスティの真下から出てきたので、股に頭が突っ込む形となる。



「ナイス叫び声! ファレアスティ様も乙女なのですね。安心いたしました」


「何を馬鹿なことを言っている! それよりいきなり出てくるな! 驚くだろう!」


「影から出るのが暗殺者の嗜み…いえ、お約束でございます。それを守らねば芸人としては失格。足を折ってお詫びするしかありません」


「相変わらず訳がわからないことを…。だが、毒は効かないはずではないのか?」


「毒を甘く見てもらっては困ります。竜種の粘膜が邪魔をするだけであって、そのさらに奥に注入すれば効果はあります」


「その穴をあけるのが難しいのだろうが。そもそも地上に落とさねば無理だ」


「それに関しては妙案があります」


「妙案だと? どうするつもりだ?」


「簡単なことです。『化け物には化け物』をあてればよいのです」


「アンシュラオンは鬼の相手で手一杯だぞ」


「ご安心ください。化け物ならば、もう一人おります」



 次にファテロナが出現した場所は、金髪ツインテール少女の真後ろ。


 ぽかーんとアホ面をして戦場を眺めているベルロアナのところである。



「お嬢様、出番でございます」


「ファテロナ? 出番とは何かしら?」


「いくら待機していろと言われても本当に何もせずに棒立ちとは、さすがでございます」


「え? いけなかったのかしら? 言われた通りにしていたのだけれど…」


「よいのです。それこそがお嬢様の魅力なのです。そして、これだけの熱気を受けても火傷の一つもないとは…まさにザ・化け物! イッテラッシャイ、ミテラッシャイ! これがうちの最終兵器だああああああああああ!」


「はへ? ファテロナ、なにを―――」



 ファテロナがむんずとベルロアナを掴むと、ちょうど竜美姫の真下、爆心地に放り投げる。



「ひー、隠れろー! 怪獣大合戦が始まるぞーーー!」


「へ? わ、わたくしはどうすれば―――あひゃぁあっ!」



 いきなり敵の近くに放り出されたベルロアナは、当然ながら竜美姫の集中砲火を浴びる。


 いくら彼女とて、これだけの火炎の中に晒されれば無事では済まない。皮膚が焼け、美しい髪の毛も色を失っていく。



「あちゃちゃちゃちゃっ! 熱いですわー!」



(人間は他者を犠牲にするもの。この者も囮にしたのでしょうか? しかし、他の人間が動く様子はない。これにいったい何の意味が…?)



 竜美姫は若干困惑しつつも、人間の危険性はすでに味わっているので攻撃の手を緩めない。


 ベルロアナは完全に孤立。一方的に攻撃されてしまう。



「あの女、いったい何をするつもりだ!? いくらベルロアナとて、あんな化け物とは戦えまい! ソブカ様、どうされますか?」


「彼女はこのままでよいでしょう」


「見殺しにしますか?」


「いえ、そうではありません。五英雄筆頭であり金獅子の力を受け継ぐ彼女は、ファテロナさんが言うように化け物ですよ。熱いなどというレベルを超えているのに、あの程度で済んでいるのです。今この場でアンシュラオンさんを除けば、もっとも潜在能力が高いのは彼女なのです」



 熟練の傭兵でも一瞬で燃え尽き、骨すら溶解する灼熱の中で「熱い」だけで済ましていること自体が異常である。


 そして、そうした極限の状態が、嫌でも彼女の中に眠る血を呼び起こす。


 ぞわぞわと身体の芯から、周囲の熱量よりもさらに熱いエネルギーが湧き上がってきて、ついに臨界に達する。



「熱い熱い…! 熱いと言っているいるいる―――いるでしょうぅううううううにぃいいいいいいいい!!」



 ベルロアナの体表から金色の光が生まれて、火球の熱を弾き飛ばす。


 それに呼応して『金獅子十星天具こんじしじゅっせいてんぐ』が光り輝き、現状に適した武具の形に変化していく。



「さっきからなんですの! なんなんですの! これ見よがしに金色を見せつけて! それはわたくしの! わたくしたちの色! あなたが掲げてよいものではありませんわ!!」



 覚醒した金獅子が、同じく金の名を冠する竜を見定める。


 ベルロアナの手には、以前蟻を倒した時に出現した『弓』が携えられていた。


 怒りのまま矢を竜美姫に向けて、解き放つ!


 輝く光の矢は火球を貫き、爆炎を巻き込みながら一直線に突き進んでいく。


 『全武器種完全習熟』スキルによって熟練の腕前を得ているので、その矢の軌道はアラキタすら上回り、空中にいた竜美姫を的確に捉えて―――激突!


 激しい光のエネルギーが竜美姫を呑み込んだ。


 だが、光の矢は本体に到達する前に霧散。ダメージを与えられない。



「まさか! あれでも駄目なのか!」



 ファレアスティが叫ぶ。


 一撃で女王蟻を吹き飛ばし、吸命豊樹すら破壊した一撃である。それでも効かないとなれば、もはやアンシュラオン以外に魔神を倒す手がなくなる。


 が、金獅子の名は伊達ではない。



「いえ、効いていますよ。見てください。ヒビが入っています」


「…え?」



 光の矢が霧散したのは、竜美姫の周囲に展開された金色の鱗による『防御障壁』が力を受け止めたからだ。


 だが、矢を受けた場所には肉眼でもわかるくらいの亀裂が入っていて、彼女の術式を破壊していることがわかる。



「このおおおお! さっさと落ちなさいな!! この! この! この!!」



 ベルロアナは、次々と矢を放っていく。


 そのたびに新たなシールドが生まれて弾くので、結果的には何も変わっていないのだが、竜美姫にも冷や汗が流れる。



(とんでもない威力の攻撃です。あの武具も古代術式を使っているようですが…エネルギー源は武器ではなく、あの人間そのもの? なんて凄まじい生命力なのでしょう。まるで『黄金の獅子』です)



 竜美姫の目は術士の目でもあるため、ベルロアナの周囲に満ちる膨大な生命波動が見えていた。


 使っている武具が優れているのは当然としても、放つ光は使い手の生命力を使用している。つまりは生体磁気である。


 ベルロアナは、これが非常に巨大で強大。


 逞しく強靭で無尽蔵に湧き出る金色の炎は、人間が持つ意欲や欲望をそのまま表現しているかのようだ。


 その溢れ出る金色の生体磁気が獅子の形となり、彼女にまとわりついて周囲の脅威から身を守っている。


 その姿は、まさに怒り狂う金色の獅子。


 そのうえ、この状態になったベルロアナには追加能力が存在する。




「ファテロナぁああああああああああああああ!」




 金獅子の―――咆哮!!



「はい、お嬢様!」



 隠れていたファテロナが影から出現し、竜美姫に攻撃を仕掛ける。


 相手は空を飛んでいるため直接攻撃はできないが、剣衝を放って牽制くらいはできる。


 ただし、その威力は―――ガギキイインンッ!


 防御結界にぶち当たると、うっすらと切れ目が入るほどの威力が発生。


 衝撃で竜美姫がよろめくほどだ。



(っ…あの人間、さきほどはこのようなパワーはなかったはず!? もしや、あちらの人間が生体磁気を分け与えているのですか!?)



 ディングラスの血統遺伝、『オルワンフェス・ゴールド〈金獅子の咆哮〉』。


 一時的に戦士と剣士因子が限界値まで覚醒すると同時に、ステータス面でもHPとBPが三倍になり、攻撃と防御と魔力が二倍になるという、非常に攻撃的なスキルだ。


 この咆哮が戦場に鳴り響く時、同様の効果が自身の支配下にある者たちにも与えられる。これが以前、アカリが術符を使った際に異常な効果を発揮した理由である。


 ベルロアナの能力の発現によって、ファテロナが言ったように怪獣大合戦が勃発。


 互いに凄まじいエネルギーが行き交う撃ち合いが発生し、周囲に誰も近寄れない状況になってしまった。




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