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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
31/614

31話 「ハローワークでハンターになろう!」


 ハローワークはスレイブ館と同じく木製の造りで、ここが森ならば、のどかなログハウスかと思えるような外観である。


 ただ、普通の建物より数倍大きく、それこそ学校かと思うほど巨大な三階建ての建造物であった。



(石畳にログハウスってのも、ちょっと違和感はあるんだけどね。基本は岩と木材を固めて建物を造っているみたいだ。あの城壁も大きな岩を集めて固めているしね)



 今のところ鉄鋼を使った建築物は見ていないが、この世界は術式ジュエル文化なので、素材自体を術式で補強している可能性が高い。


 軽く触って調べた結果、地震くらいでは崩れない頑丈さはあるようだ。表面も思ったより硬い。



「よし、さっそく入ろう!」



 正面玄関の扉を開けて、中に入る。


 そこには大きなホールがあり、さまざまな格好をした人間がいた。


 武器を持っている者もいるので、おそらく傭兵なのかもしれない。一般人も大勢いる。


 室内は落ち着いており、役所と銀行が入り交じったような独特の雰囲気が漂っていた。



(今までの場所とは全然違うや。えーと、左側は待合室かな? 受付は…あっちか)



 しばらく人々の流れを観察し、状況を整理する。


 左側に大きな部屋があり、何十人という人間が座ったり準備運動をしていた。待合室か何かだろうか。


 反対の右手奥には五つの窓口が見える。人々が入れ替わり立ち代り話しかけているので、おそらくあちらが受付だ。



(ここで人間を見ているだけでも楽しいけど、時間がない。さっさと行こう)



 空いていたので真ん中の受付に行くと、そこには黒い制服を着た黒髪ボブカットの美人のお姉さんがいた。


 さすが全世界に支部がある組織。制服は銀行のそれに似ており、清潔感があって綺麗だ。質も良いようで、一目で生地自体が高級品だとわかる。



「こちらへどうぞ」



 受付のお姉さんは、アンシュラオンが来るのを見て笑顔を浮かべる。営業スマイルではない好意的なものだ。


 大きな組織になればなるほど、子供相手でもしっかり対応してくれるものだ。それだけでハローワークへの信頼感が増す。


 商売にとって受付役がいかに大切かを思い知る瞬間である。中身はボロボロでも、受付だけ良ければ少しは長生きできるに違いない。



(門のお姉さんの時みたいにいきなり抱きつきたいけど、窓が邪魔だな…。仕方ない。公共の場だし、ちょっと事務的に対応するか)



 ちなみに門も公共の場である。



「あの、魔獣を狩りたいんですけど、許可が必要って聞いて…」


「はい。魔獣の討伐申請ですね。身分証はございますか?」


「ないんですけど…ないと駄目ですか?」


「いえ、身分によって取り分が変わる仕組みなのです。この都市の市民権があれば取り分が二十パーセント多くなります。それ以外に、公益ハンターなら別途優遇制度もございます」


「取り分ってことは、魔獣を狩ったら利益の何割かを納税するってことですか?」


「ええ、そうです。身分証がない一般ハンターですと、半額程度の納税義務がございます」



(半額か…。今の状況だと、ちょっと嫌だな。でも、仕方ないか。まっとうな生き方ってのはそういうもんだ)



 半額の税金は多いように思えるが、市民権があれば納税額は三割になるので、それほど暴利ではない。


 こうして優遇措置を採用しているということは、強い者にはなるべく市民権を取らせて、自分の勢力に取り込みたいということだろう。


 ただ、もう一つ気になる用語があった。



「『ハンター』って何ですか?」


「魔獣を専門で狩る傭兵のことですね。ここでは便宜上、魔獣討伐申請をなさる方全員をそう呼んでおります。たくさん狩って公益ハンターに認定されれば、どの都市の管轄内でも自由に魔獣が狩れます」


「へー、すごいですね。ハンターはオレでもなれますか?」


「年齢制限はございません。子供でも現役の傭兵はたくさんおられます。ご登録なさいますか?」


「登録って強制なんですか?」


「いえ、任意ですよ。登録しないでやっている方もおられますが、登録すると施設の設備を使用できます。裏にある素材置き場とか解体室等ですね。それに身分証もお渡しできます」


「市民権とは別の身分証ですよね?」


「はい。別扱いですね。ただ、それに匹敵する価値はあります。ハンターは都市の安全のために歓迎される傾向にあります。森と密接な関係にある都市などは生態系の管理もしておりますので、ハンター登録しないと入れないこともありますし、入って不便はありませんね。登録は無料です」


「じゃあ、入りたいです。必要なものってありますか?」


「お名前と血液サンプルだけでけっこうです」



(血液サンプル。DNA検査とかか?)



 その言葉には一瞬ドキっとする。


 やましいことはないが、自分の遺伝子データを取られることには抵抗がある。悪用されたら怖いものだ。


 そのアンシュラオンの顔を、採血に怖がっている子供、と捉えたお姉さんが優しく説明してくれた。



「大丈夫です。採血パッチを貼るだけですから。その色でハンターのランクを決めるのです」



 お姉さんが、無色透明のパッチを見せる。


 画鋲のような小さな針が付いているので、肌にぱちんと貼り付けることで血を採るもののようだ。



「色が変わるんですか?」


「はい。血液に触れると色が変わる仕組みなんです。これはハンターの皆様が安全に狩りをしていただくための措置です。自分の階級を知らないと大怪我しますからね」



(そっか。単純に弱いやつを助けるためのシステムか。そりゃそうだね。武人でない人に危ない仕事を任せられないしね)



 ハンターには六つの階級がある。


 上から順に―――



・第一階級 金翼きんよく級狩人 :その者、金色の翼を狩る者なり

・第二階級 白牙はくが級狩人 :その者、白き牙を狩る者なり

・第三階級 黒爪こくそう級狩人 :その者、黒き爪を狩る者なり

・第四階級 青毛せいもう級狩人 :その者、青き毛を狩る者なり

・第五階級 赤鱗せきりん級狩人 :その者、赤き鱗を狩る者なり

・第六階級 無足むそく級狩人 :その者、無き足を狩る者なり



 通称で、上からゴールドハンター、ホワイトハンター、ブラックハンター、ブルーハンター、レッドハンター、ノンカラーハンターと呼ばれる。


 この名前は、それぞれのレベルに代表される魔獣を示しており、それを倒せるくらいの実力者である、ということだ。


 無足むそく級は、足の無い芋虫のような魔獣を狩れる者、という意味になる。


 芋虫といっても酸を吐く危険な駆除級魔獣に相当し、油断すれば成人男性でも簡単に死んでしまうほど危険だ。


 そう、このランクは、それぞれが駆除級以上の魔獣のランクに対応しており、金翼級は第一級の撃滅級魔獣を倒せるハンターに与えられる称号である。


 金色の翼とは、火怨山にも生息する『黄金鷹翼(おうよく)〈常明せし金色の鷹翼〉』のことだと思われる。


 昼間に太陽光を吸収してエネルギーにし、夜になっても余熱で輝いているので実に美麗な魔鳥である。


 何もしなければ温厚なので、アンシュラオンも餌で誘き出して夜間の蛍光灯代わりに使っていたものだ。


 いざ戦闘になると周囲にレーザー光線を発するため非常に強力な魔獣でもあるが、戦闘力だけでいえば撃滅級魔獣の最下層に位置する。


 これを狩れるからといっても、ハンターの道程はまだまだ長いだろう。あくまで最低レベルという意味である。



「はい、ちょっとチクってしますよ」


「怖いけど、がんばるよ。お姉さん、手を触っててもいい?」


「いいですよ。うふふ」



(良い肌をしている。歳は二十代半ばくらいなのに女子高生みたいな肌だ。胸はCカップかな? 髪の毛もさらさらで綺麗だ。うむ、素晴らしい)



 完全に猫を被り、お姉さんを観賞しつつパッチテストを受ける。


 一滴の血がパッチに吸われ、少しずつ色を変える。


 無色から、赤に、赤から青に。青から黒に。


 黒から白に―――かすかに金色にはとどかないあたりで色は止まった。



(あれ? 止まったのかな? 色があるのかないのかよくわからないな…)



 一瞬、無色のようにも見えたが、どうやらそれは白であったらしい。


 その証拠に、目の前から絶叫が轟く。



「す、すごいです!! し、白までいくなんて!?」


「すごい…んですか?」


「はい! すごいです! 上から二番目です。…信じられない。この支部では二百年以上ぶりですよ、たしか! 私も聞いただけなので詳細は定かではありませんが、実に大変なことです!」


「白か。髪の毛と一緒だ」



 なんとなく髪の毛の色で対応しているのではないかと思ったが、自分と同じ色ならば、それはそれでいいだろう。



「じゃあ、これでハンターの身分証を発行してもらえるんですね」


「はい、もちろん! こちらにお名前をどうぞ!!」


「えと、カタカナでいいのかな? アンシュラオン…っと」



 よくよく考えてみれば、文字を書くのはこれが初めてであった。


 少しドキドキしたが、お姉さんは問題なく受け取ってくれた。文字も普通に日本語で大丈夫のようだ。



「しかと承りました! アンシュラオン様の才能は相当なものです! がんばって金を目指してくださいね!」



(きん? かねのこと? このお姉さん、どうしてオレが金に困っていることを知っているんだ? エスパーか?)



 もはや頭の中が金で一杯のアンシュラオンにとっては、金翼がかねにしか見えない。



「あっ、それともう一人、大人のハンターを紹介してほしいんですけど」


「仕事の依頼ですね。公募ではなく、ハンター登録者からの斡旋という形でよろしいですか?」


「はい。その人への報酬は、狩った額の折半とかにしてもらえると嬉しいです。三十分以内に来られる人限定でお願いします」


「では、その条件で探してみましょう。少々お待ちください」



 ハローワークの優れているところは、こうして一緒に仕事をする人間を探せるところだ。


 その時に仕事がなくても条件に適合すれば仕事を回してもらえる。


 入り口の左手にあった部屋は、そういった者たちが待機する部屋であったようだ。



(便利だな。ここに来れば人材には困らないや。スレイブを基本として、それでも間に合わなければ利用するのもいいかな)



 そう考えていると、お姉さんが候補を見つけてきてくれた。



「お待たせいたしました。三名おられますね。さきほどの条件以外にご希望はございますか?」


「一番強い人でお願いします」


「わかりました。では、この方になります」


「エンヴィス・ラブヘイア、男、二十八歳。男…か。女性はいます?」



 即答である。男と組むと思うだけで反吐が出る。



(ゼブ兄とかならいいけど、他の男はお断りだね)



 唯一アンシュラオンが組んでもいいと思うのが、兄弟子のゼブラエスである。当然、自分より強いということもあり絶大な信頼を置いている。


 脳筋ではあるものの人間的にナイスガイであることもポイントだ。身内の中で誰か一人を選べと言われたら、迷わず彼を相棒に選ぶ。


 正直、ゼブラエスと出会わなかったら、アンシュラオンはもっと粗暴で危険な人間になっていただろう。


 自分より強い男であり、姉のパミエルキともかろうじて渡り合える兄貴分がいたからこそ、アンシュラオンはまだ正常な倫理観を維持できていたのだ。


 もし姉だけに育てられていれば、こんな日常的な会話すらできなかったかもしれない。


 知らないところで世界を救った男。それがゼブラエスであった。



(あー、しまったな。ゼブ兄とくらいは連絡が取れるようにしておきたかった。まあ、いきなりの脱走だったから仕方ない。って、姉ちゃんが暴れなければ脱走する必要なんてなかったんだよな)



「あの、アンシュラオン様?」


「あっ、はい! 見つかりました?」


「申し訳ありません。空いておられるのは全員男性です。女性もおられますが、もともと数が少ないうえにアンシュラオン様のレベルとなりますと、足手まといかと…」


「そうですか…。女性なら全然足手まといでもいいんですけど…時間もないですしね。急いでいるので、その人で我慢します。とても、とても残念ですけど。ところでその人って、表のハローの人より強いですか?」


「え? ミスター・ハローですか?」


「はい。あの人、強いですよね? 最低でも、あれくらい強いといいんですけど…」


「申し訳ありません。そこまでは存じ上げません。ですが、ラブヘイアさんはかなりの腕前ですので、きっとご希望に添えると思いますよ」


「そうなんですか。じゃあ、その人でお願いします」


「では、あちらの待合室でお待ちください。すぐに呼んできますね」


「はい! ありがとうございました!」



 アンシュラオンは、お姉さんにもらった白牙級狩人ホワイトハンターのカード(鋼鉄製で破損修復術式が込められたジュエル付き)を持って待合室に行く。


 その姿を見送り、ふとお姉さんは何か引っかかった。


 それはアンシュラオンの左腕に、きらりと光るリングを見た時。



(あれ? もしかして、あのリングを付けたまま検査しちゃった? あれって武人の力を抑制するやつじゃなかった?)



 あのリングは『ヘブ・リング〈低次の腕輪〉』といって、武人の力を半減させるものである。


 仮に武人が街で暴れても被害が少なくなるようにと、領主が錬金術師に作らせて最近導入されたものだ。


 この数十年後に開発される『リグ・ギアス〈怠惰の鎖〉』の初期型といってもよい優れた代物である。


 それを付けて測定すれば、いくら血液検査とはいえ影響を受ける。


 あのパッチは因子を調べるものではなく、血液内部に残された生体磁気の濃さを測定するものだからだ。


 リングは常に生体磁気を吸収し続けるので、検査結果は最低でも【三段階は下】に出るはずだ。



(でも、白牙級って出たじゃない。そうよね。その上は一つしかないし、間違ってないわよね。うん、大丈夫。あれはただの腕輪よ。あの子が可愛くてついつい見逃したなんて、あるわけないわ)



 お姉さんは、自分のミスを忘れることにした。


 そんなものは最初からなかったのだ、と。




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