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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
309/618

309話 「五重防塞攻略戦 その2『魔獣の陣容』」


 これによって防塞の壁に大きな穴があき、驚いた魔獣たちが慌てて表の様子を見に来る。



(猿か? だが、グラヌマじゃないな)



 アンシュラオンの視力は、五キロ先でもはっきり視認することができる。この程度の距離ならば、魔獣の細かい表情まで確認できる自信があった。


 防塞から出てきたのは『ルレモンキ〈工手猿〉』と呼ばれる猿型魔獣で、グラヌマに支配されている下級猿の一種である。


 彼ら自身は第五級の抹殺級なので特筆すべき戦闘力は持たないが、手先が器用で木や岩を加工する技術を持っているので、よく三袁峰のツリーハウスの修繕に駆り出されている光景が見られる。


 ルレモンキの能力や性質を考えると警備兵ではなく、今回の要塞建造の『土木作業員』だと思ったほうがしっくりくる。


 その証拠に彼らは、破損した箇所を調べてジェスチャーで味方に指示を出していた。


 次に目に入ったのは、『ロッテアコダ〈素磨夫熊〉』という熊型魔獣で、こちらは錦熊の支配下に入っている熊の一種である。


 平均的な熊の能力に加えて押す力に長けているため、通常戦力かつ物資運搬用に配備した魔獣だと思われた。


 知能は猿よりも劣るので、違う場所に岩を持っていきルレモンキに文句を言われている姿が見える。自分が何をやっているのかも理解していないのだろう。


 どう考えても主体的に要塞建造に関わる魔獣ではない。



(もっと頭の良さそうなやつはいないかな? …おや? なんか人型のやつがいるぞ。頭に角…『鬼』か? うん、見た目は完全にそうだな)



 破壊した防壁の隙間から、かなりの数の武装した人型の存在を確認。


 だが、もちろん人ではない。



―――――――――――――――――――――――

名前 :ブイオーガ 〈破槌小鬼〉


レベル:63/70

HP :1050/1050

BP :420/420


統率:C   体力: D

知力:C   精神: D

魔力:C   攻撃: D

魅力:E   防御: D

工作:C   命中: D

隠密:D   回避: D


☆総合: 第四級 根絶級魔獣


異名:働き者の小鬼

種族:魔獣

属性:風、虚

異能:集団行動、低級戦闘指揮、勤勉、忠誠心、低級魔獣語、風耐性

―――――――――――――――――――――――



 身長は人間と大差ない百七十センチ程度で、やや猫背。肌の色は茶色く、目はぎょろっとしていて額には角、口には牙が見える。


 ファンタジーならばゴブリンと間違われそうだが、彼らは『鬼獣きじゅう種』という系統の鬼型魔獣だ。


 人間とは似ていても種そのものが違うので、当然ながら異種交配はしない。そこはぜひとも注意していただきたい。お兄さんとの約束だ!



(ステータスは平均的で取り立てて長所はないが、逆にいえば何にでも使える一般兵としては重用されそうだな。数が多くてレベルも高いが、何よりも『武具を装備』していることが気になる)



 グラヌマが当たり前に武具を装備しているので忘れそうになるが、魔獣が武装する段階で異常である。


 少なくとも武器を理解するだけの知能と、扱うための技術が必要だ。



(この鬼たちは怪しいな。これだけの魔獣がいれば事前に説明があってもよさそうだ。それとあっちのほうは上位種か?)



 彼らの中にはひときわ大きな個体がおり、能力が全体的に向上した『ブイダイオーガ〈破槌烈鬼〉』という上位種もいる。


 人喰い熊との戦いも経験したので、これくらいの能力の魔獣がいても不思議ではない。


 が、彼らも大きな槌を持って武装しており、なおかつ猿や熊に『命令』している様子が印象的だ。



(あいつら、もしかして他の魔獣と会話ができるのか? たしかに能力の中に『低級魔獣語』というものがあるが…)



 以前から気になっていたのは、魔獣たちに指示を出す者の存在だ。


 ディムレガンと魔獣との間もそうだし、魔獣同士でのやり取りも種族が違えばまったく異なるはずだ。人間同士以上に、彼らは完全な異種族なのである。


 それを繋げる者が必ずいると踏んでいたが、その片鱗が見えたのは大きい。



(とはいえ、さすがにこの距離からじゃ何を話しているのか聞き取れないな。あとで一匹か二匹くらい捕縛して問い詰めてみるか。…ん? なんだ? 何かいるぞ)



 アンシュラオンが強い気配を感じて最上部の第五防塞に目をやると、そこの防壁の上に一体の大きな魔獣が降り立った。


 大きく野生的な翼、身体を覆う頑丈な鱗、鋭い妖艶な目、頭に生えた曲線状の何本もの角。



 そこにいたのは、銀杏ぎんなん色の―――【竜】



 しなやかな動きで翼を折り畳み、要塞の最上部に鎮座してアンシュラオンをじっと見つめていた。



(竜だと? 火怨山の麓の山にいる飛竜に似ているが、少し形状が違うか。撃滅級の竜はもっととんでもない感じだから、それよりは下だろうが…翠清山には竜もいるのか。下界では初めて見たな)



 ハビナ・ザマに向かう前の森で竜の名が付く『イブゼビモリ〈擬爪竜ぎそうりゅう〉』という魔獣には出会ったが、あれは竜を真似た単なるトカゲである。


 一方で、しっかりと名前に『竜』または『龍』の名を関する魔獣は、まさにキング・オブ・モンスター。魔獣の中でも非常に強力な能力を持っている種族だ。


 目の前の竜も大きさは全高百メートル近くあり、横幅も翼を広げるとそれ以上ありそうである。



(こいつも翠清山の魔獣のリストの中にはいなかった。竜ほどの魔獣ならば、猿や熊以上に危険だと通達があってしかるべきだろう。…と、相手もそろそろ反撃の準備が整ったか)



 防塞に動きがあり、再び敵側が主砲をぶっ放してきた。


 一応はアンシュラオンを狙ったようだが、こんな小さな的に当たるわけもなく、全然違う場所の山肌に激突して大きなクレーターを生み出していた。



「やれやれ、オレが出会った戦艦ならともかく、お前たちが使ってこの距離で当たるもんかよ。大雑把にも程があるだろうに。しかし、見れば見るほどよくわからない集団だな。まあいい。一度後退だ」



 アンシュラオンは再び戦弾を撃って牽制しつつ山を登り、反対側の斜面にいるグランハムたちと合流。


 さきほど見た情報を伝える。



「鬼に竜だと? すまぬが、あまり魔獣に馴染みがなくてよくわからぬ。キブカランはどうだ?」


「私も専門外ですねぇ。ハンターQに訊いてはどうでしょう?」


「そうだな。専門家に訊いたほうが早かろう」



 グランハムもソブカも首を傾げたので、ここは専門家のQを呼ぶ。


 彼は森で倒した人喰い熊の頭部を嬉しそうに被ってやってきた。


 が、鬼と竜の情報を聞かせると、思わずヘルメットが転げ落ちるほどの興奮した様子で食いついてきた。



「鬼!!? どんなやつだ!? 竜!!? ほんとか!? 大きさは!? 色は!? 形は!?!」


「近い近い。興奮しすぎだって。ほら、ヘルメットも落ちてるよ。粗末にしたらゴンタが泣くぞ」


「すまね。でも、気になる! 鬼、鬼はどんなだ!」


「鬼に関してはかなりの数がいたね。千は軽く超えると思うよ。大きさは人間くらいだけど鎧や槌で武装していたのが印象的だった」


「武装する鬼…聞いたことはねぇ。毛はあったか?」


「毛は少なかったかなぁ? 毛深いってほどじゃなかったよ」


「…鬼人種に似たのがいるけど、あれは亜人だからこのあたりにいるとは思えね。たぶん鬼獣の仲間なんだろな。どっちにしても翠清山での目撃例はねえ」


「竜のほうはどう? 銀杏色の小綺麗な竜だ」


「そっちも知らね。竜なんていたら目立つ。いろいろ種類いるけど、猿たちより上物だ。もっともっとずっと西のほうで目撃例があるくらいだ」


「じゃあ、竜も翠清山にはもともといない種なのか?」


「ん。そうなる」


「他の地域の魔獣が、翠清山の魔獣と合流した線は?」


「ありえる。交流ができる能力があれば、それも可能だな。うん、できる。できるな。でも、利害が一致しないと駄目だ。人間と同じだ」


「うーん、魔獣たちにとっての利害関係か。餌場の共有とか譲り合いとかか? こっちの魔獣は火怨山とはちょっと違うから読めないな」



(ただ、これで魔獣たちが強気な理由がわかったな。やつらの戦力は、オレたちが知っている以上に膨れ上がっているってことだ。こっちだって時間をかけて傭兵隊を加えたんだ。あいつらだって戦力増強をしていてもおかしくはない。ともすれば、こっちが準備する前から戦う用意ができていた可能性もある)



 ハンターQの情報によると、竜も鬼もこの付近にはいないようだ。それだけ種族としては珍しいらしい。


 そんな魔獣が熊神の縄張りで目撃されている以上、彼らの中で何かしらの協定が結ばれていると考えるべきだろう。


 この戦いが始まる前から合流していたとすれば、警戒網に引っかからないことにも頷ける。



「小鬼の武器もディムレガンが作ったものなのかな?」


「彼らの人数と翠清山に行った時期を考えると、そこまで大量生産ができるとは思えません。せいぜい猿を中心とした三大種族に用意するだけで精一杯でしょう。人型で背丈も人間に近いのならば、人間用の武具を流用している可能性もありますねぇ」


「なるほどな。それもありえるか」



 こちらに関してはソブカが推測。


 常識的に考えれば、そちらのほうが効率的だろう。



「いまだに出現していない二体の大ボスに加えて謎の魔獣たちか。ちょっとおかしな流れにいってない?」


「そもそもの問題として、魔獣が軍勢で攻めてくるほうがおかしいですからねぇ。いまさら何があっても驚きはしませんよ」


「たしかに感覚が麻痺してくるな。で、作戦はどうする?」


「防塞は破壊できそうですか?」


「この距離からか?」


「できれば。近寄れば敵も相応の対応をするでしょう。その前に打撃を与えたいのです」


「やれないことはないかな。大技を使えばなんとかなるが、あの竜がどう動くかだよ。最初の一撃で破壊できるのは一個か二個だろうね」


「十分ですね。素晴らしい」


「本当にできるとはな。相変わらず規格外な男だ」


「いやいや、グランハムがそう言うのはおかしいでしょ。そっちがやれって言ったんだからね?」


「頼もしいという意味だ。竜は任せてもいいか?」


「あのレベルの魔獣だと倒せるのはオレしかいないからね。こっちで対処するよ」


「了解だ。では、我々はどうする?」


「突入戦を仕掛けましょう。せっかく要塞を作ってくれたのです。あのまま『我々がもらいうける』のはどうでしょう?」


「魔獣が作った砦をか?」


「我々の拠点とて簡易的なものにすぎません。全部壊してから作り直す手間を考えれば、壊れたもの以外はそのまま使ったほうが合理的です。獣臭さだけは我慢する必要はありますが、そこは洗浄すればよいでしょう」


「たしかに合理的だ。いまさら魔獣の死体処理に躊躇うやつらもおるまい。私はキブカランの案を支持しよう」


「オレもそれでいいよ。具体的にはどういう布陣でいく?」


「まずはアンシュラオンさんが先制攻撃で、砲台がある防塞を破壊してください。あれは命中率が低いですが心理的に恐怖心を与えます。おそらくは相手もそれを狙って配置したのでしょう。人間が使う武器をこっちも持っている、と見せつけるためです」



 猿神が武具を使うと知った時でさえ、人間は恐れおののいた。


 そこに砲台も加わるとなれば、さらに圧力をかけることができるだろう。それ自体が心理戦なので、相手の中に頭が切れる者がいることを意味していた。


 しかし、戦術は人間もお手の物。魔獣に負けるつもりはない。



「砲台破壊と同時に、我々は三つに部隊を分けます。真正面から攻める隊と、左右に分かれて要塞の両側面に回り込む部隊です」


「正面は囮か?」


「そうです。こちらは数が必要ですから傭兵の主力部隊に担当してもらい、敵の攻撃を誘発してもらいます。敵が防塞から出てくれば内部が手薄になりますし、地の利が失われて好都合です。仮に籠城されても、引き付けている間に左右の突入隊で内部に侵入。制圧します」


「左右の部隊編成はどうする?」


「単純な突破力を考えると、我々とベルロアナさんの隊で仕掛けるのが一番ですねぇ。そこに局地戦に長けたハンター隊を加えましょう。以前やった人喰い熊討伐や第三階層制圧と同じです」


「ならば我々ザ・ハン警備商隊とアンシュラオン隊が組み、赤鳳隊とベルロアナ嬢の隊およびハンター隊で、もう一つの部隊を編成すればよかろう」


「…サナと一緒になりたいのが本音じゃないだろうね?」


「お前はベルロアナ嬢と一緒にやりたいのか?」


「そいつは勘弁だね。力の使い方を知らないやつと一緒は怖いよ」


「ほぉ、理由は生理的嫌悪ではないのだな?」


「いつまでも苛めていたら、かわいそうだからね。あれも一応は女の子だしさ」


「ふっ、今までの行軍は無駄ではなかったということだな。ともあれファテロナが何をするかわからん以上、作戦指揮が執れるキブカランが帯同したほうがいいだろう。それだけでは不安だから、数を補う意味でハンター隊の精鋭部隊もつける。これでどうだ?」


「グランハムとサナは一度組ませたから、そっちのほうがやりやすいか」


「それを見越しての派遣ではなかったのか?」


「ううん、まったく考えていなかったよ。単純に技を盗もうと思っただけさ」


「そういうところも相変わらずだな。結果が伴えばそれでよい。今回はこれでいくぞ」



 グランハムの編成は、ソブカ同様に合理的であった。


 どちらに編成されても上手くいけば防塞で合流するのだから、このあたりは能力と傾向性を考えて編成すればいいだけだ。




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