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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
306/618

306話 「ハイザク軍の動向 その3『ナカトミ三兄弟』」


 第二海軍が人間らしい巧みな戦術と持ち前のパワーで押し込めば、魔獣は地形の適応性とそれ以上の規格外の力で対抗する。


 今のところ両者の激突は互角といえるだろう。


 ただし、まだ両者ともに主力部隊を投入していない。



「魔獣の戦い方に付き合う必要はない! 一気呵成に殲滅せよ!」



 最初に手を打ってきたのは、ギンロ。


 前衛部隊は引き続き援護射撃を行いながらも、超マッチョな集団を送り込む。


 ハイザク親衛隊『イスヒロミース〈勇ましく進む筋力〉』、長男のジンロが率いるおよそ五百の突撃戦士部隊だ。



「せっかくの戦だ! 猿と腕力勝負といこうじゃねえか!! てめぇら、いくぞおおおおお!」


「おおおおおおお!」


「雑魚は他の連中に任せて、俺たちは大物を叩く!」



 ジンロ隊はグラヌマたちに苛烈に襲いかかる。


 グラヌマの攻撃を真正面から受け止め、あるいはその剣が甲冑に食い込んでもなお、激しい闘争心によって生まれた強い戦気で耐え抜き、それ以上の攻撃を相手に叩きつける!


 彼らの全力の一撃は、魔獣の強靭な筋肉を鎧ごと切り裂き、抉り潰す!


 ジンロも大きな戦斧を振り回して、グラヌマの首を剣ごと叩き斬った!


 彼ら第二海軍の役割はすでに述べたように殲滅であり、その中でも親衛隊のイスヒロミースは敵の精鋭だけを狙う特殊部隊だ。


 より強い者を選んで戦ってきた彼らは、強い!



「どうした猿ども!! こんなもんじゃないだろう! どんどんこい!」



 ジンロは戦士タイプで剣気は使えず、武器を使う際もパワーで叩きつけるウォーリアである。


 当然身体も強く、後ろから襲いかかってきたニュヌロスの棍棒も、身体を地面に沈み込ませながら片手で受け止める。


 この巨大な魔獣の攻撃でもジンロの戦気は貫けない。



「なかなかいいパワーじゃねえか! だが、人間様だって負けてねぇぜ!」



 お返しとばかりに戦斧で敵の足を切り裂き、相手が膝をついたところをよじ登って顔面に鉄拳。


 ぼごんとニュヌロスの頬骨が窪み、脳震盪を起こしてよろよろドスンと倒れ込む。



「部隊長に続け!」



 ジンロの奮戦を見た隊員が、マッスルパワーを全開にして突撃。


 この大きな魔獣も一度倒れてしまえば、ただのでくの坊だ。集団で襲いかかって切り刻む。


 それからもジンロが殴り倒し、他の者がとどめを刺すやり方で次々とニュヌロスを撃破。


 左右から襲ってきた猿たちを掻き分けるように突き進み、逆に分断して各個撃破していく。



「ジン兄たち、張り切ってるね」


「そうそう、あいつはいつも戦いに飢えているからな。いざ戦闘になると見境がないのさ」


「二人とも、油断するでない! すぐに前からも来るぞ!」


「うわ、本当に来た。じいちゃん、すげぇな」



 次男のサンロと三男のカンロが、山の上からやってきた猿の一団を発見。


 第二海軍の中に強い部隊と弱い部隊がいるのならば、グラヌマにも同じことがいえる。


 目の前に出現したのは左腕が肥大化した大猿、『グラヌマーハ〈剣舞猿将〉』の特殊個体である【左腕猿将さわんえんしょう】が率いる群れであった。


 左腕猿将は左手に巨大な斧を持っていた。青い輝きを帯びているので、あれも術式武具に違いないだろう。


 三袁峰に入って、ようやく名有りのボスとの遭遇である。


 率いる猿たちもグラヌマの精鋭であり、後方から奇襲を仕掛けてきた猿とはレベルが違う。



「気をつけよ。やつは普通の猿とは違うぞ。三袁峰を取り仕切る山神のナンバー2じゃ。他の個体も術式武具らしきものを持っておるようだ」


「ジンロとやることは同じだ。前に敵がいたら、ぶっ殺す! サンロ隊、いくぞ!」



 と、サンロが駆け出そうとする前に、真っ先に飛び出した者がいた。


 黒い大きな鎧を身にまとい、矛を持ったハイザクである。


 ハイザクはその巨体に似合わずに素早く突進。


 間合いを詰めると、敵の群れの先頭にいた左腕猿将に矛を打ちつける!


 左腕猿将は斧で迎撃。


 左腕猿将は通常種よりも二回り以上は大きく、ハイザクよりも身長も体躯も上だ。


 が、互いの得物が激突した瞬間―――浮く



「ッ!?」



 左腕猿将の足が地面を離れ、後ろに押し出されて急激に加速。


 背後にいたグラヌマ数体を巻き込んで吹っ飛ばされて、そのまま巨木に身体を打ちつける。


 その衝撃で巨木が揺れ、大量の葉っぱが舞い落ちてきた。



「…ん」



 ハイザクが、ドスンと矛の石突を地面に叩きつけて威圧してから、倒れた左腕猿将を見下ろす。



「キッ! ギッキッキッッ!!」



 その態度に左腕猿将が激怒。


 すぐさま立ち上がって襲いかかってきた。


 左腕猿将の左腕は肥大化していて、そこから放たれる一撃は圧倒的破壊力を生み出す。仮に武装したグラヌマとて一撃で両断するだけの力があるはずだ。


 それをハイザクは矛で迎撃。


 受け止めた瞬間、ハイザクの筋肉もモリモリと盛り上がって、大きい鎧がキツキツになるほど肥大化。


 魔獣を上回る剛腕で斧を軽々と弾き、その圧力に押されて猿の体勢が崩れたところに、大きな穂先で突きを繰り出した。


 左腕猿将は右手でガード。


 こちらも右腕猿将と同じく、肥大化していないほうの腕には盾を装備しているので、なんとか一撃を防ぐものの、穂先が当たったところは大きく抉れてしまう。


 盾がなければ、右腕を奪えた強力な一撃であった。


 この一撃を受けた左腕猿将はハイザクを警戒。睨みつけてはいるが簡単には攻め込めない。



「見ろ、カンロ! さすがハイザク様だ! 左腕猿将を圧倒しているぞ!」


「すっげ。たまんねえな、サン兄! 熱くなってくるぜ!」


「そうそう、うちの大将は本当に強いからな! 俺らも筋トレの成果を見せてやる! サンロ隊、ハイザク様に続くぞ!」


「カンロ隊も出撃する!」


「二人とも、ハイザク様から他の猿を切り離すのだぞ! 一騎討ちならば、あの御方は絶対に負けぬ!」


「わかってるよ、じいちゃん!」



 ハイザクの戦いに触発され、弾かれたようにサンロとカンロの隊、計千人が飛び出す。


 まずはサンロ率いる突撃剣士部隊が、左腕猿将の部下のグラヌマに攻撃を開始。


 サンロ隊は全員が剣士で構成されており、耐久力は若干他の部隊より劣るが、その代わりに攻撃力では第二海軍最強だ。


 隊員の誰もが強力な剣気を放出し、相手の武具ごと削っていく。


 グラヌマたちは、ボスである左腕猿将がいきなり劣勢に追い込まれたことに動揺して動きが鈍い。


 そこに付け込むことで一気に相手の陣内に突撃していく。



「奇襲のつもりだったんだろうが想定外だったな! 後の先ってやつさ! こっちからのプレゼントも受け取りな!」



 サンロも長槍を構えて、的確に鎧の隙間を狙い打つ。


 一体を貫き、そのままの勢いで剣気が伸びて二体目も貫通。アンシュラオンも使っている『剣硬気』である。


 実はこの剣硬気は、剣気の『放出』と『硬質化』と『維持』という三つの要素が組み合った難しい複合技だ。


 そもそも刀身を伴わない剣気の塊だけではそこまでの威力にはならず、剣圧と一緒に放つ剣衝のほうが消耗が少なく、より安定した威力を出せることが多い。


 だが、サンロは突くという攻撃だけに特化させることで、剣硬気を達人レベルにまで昇華することに成功していた。


 グラヌマを貫くのもたいしたものだが、斬撃ではなく『刺突』で攻撃することで、相手の『斬撃耐性』スキルを無視することができるのは大きい。


 その意味において、これほど猿退治に適した者はいないだろう。


 サンロ隊は槍使いも多いので、次々とグラヌマを退けていく。



「カンロ隊は、いつも通りだ! サンロ隊のカバーに入る!」



 サンロ隊が一斉突撃で敵陣にダメージを与えた直後、相手が反撃する間もなくカンロの部隊が追撃を開始。


 サンロ隊は前には強いが左右や背後からの攻撃には弱いので、そのままでいると与えた損害以上の被害を受けてしまう。


 そこを弟のカンロ隊が素早くフォローすることで、間断なく攻撃を継続することができるのだ。


 カンロ隊は戦士と剣士の混成部隊で、パワーの長男、攻撃力の次男と比べると突出した長所はないが、その分だけバランスが良くて攻防に隙がない。


 カンロ隊の海兵たちが相手に張りつき、猿のパワーを上手くいなしながら、細かい攻撃で目を狙うといったいやらしい攻撃を続ける。


 相手を倒す攻撃ではなく、勢いを削ぐ戦い方をしているのだ。



「いいぞ、カンロ! サンロ隊、再突撃!」



 そこに態勢を整えたサンロ隊が再び攻撃を仕掛け、見事なタイミングでスイッチ。


 突然攻撃の質が変化したことで簡単には対処できず、強力な攻撃が猿たちに叩き込まれていった。


 それが終われば、またカンロ隊が間合いを詰めて相手の勢いを削ぎ、サンロ隊が再び攻撃する流れとなる。



(さすがに連携は完璧じゃな。サンロの突撃は相変わらず凄いが、何よりもカンロが上手い。昔から何でも器用にこなす子だったからの)



 ギンロが孫の戦いを称賛。孫びいきではなく本当にたいしたものである。


 ジンロ隊が後方の援護に向かっている今、前線を支えているのは間違いなくカンロ隊だ。


 カンロたちは突撃ばかりが目立つ第二海軍にあって、唯一こうした間を繋ぐことができる集団なのだ。その動きはまるでサナやグランハムのようである。


 ただし、彼には悪い癖もある。


 三男のカンロの剣がグラヌマに防がれて、一瞬だけ無防備になる。



「キキィッ!」



 そこにグラヌマの剣が迫るが、カンロはにやりと笑う。


 すかさず左掌を相手に向けると―――散弾


 放出された『魔力弾』がグラヌマの顔に命中。


 至近距離から被弾したこともあり、皮膚が抉れて筋肉が丸見えになる。



「へー、猿の筋肉も綺麗じゃないか。何本刺さるのかな」



 相手が怯んだところで背中から剣を抜き、剥き出しになった猿の顔に一本、二本、三本と剣を突き立てていく。


 猿は反撃するが、顔に受けた傷が深すぎて視界がほぼ塞がっており、放つ攻撃は軽々と回避される。


 そこにさらにカンロの追撃。


 魔力散弾で削り、剥き出しになった筋肉に四本、五本目と剣を突き刺す。



「そろそろ弱ってきたかな。これで終わりだね」



 そして、最後の一本を心臓に突き刺してとどめ。


 致命傷を受けたグラヌマが、ふらふらと倒れ―――ない



「キキッ!」



 大量出血しながらも必死の形相で襲いかかってきた。


 カンロはギリギリで攻撃を回避するが、他のグラヌマが上から強襲。


 慌てて剣でガードするも体勢が悪く、そのまま押し倒されてしまった。



「やばっ!」



 グラヌマが体重をかけて刃を押し込んでくる。


 さすがに単純な腕相撲勝負では魔獣に分があった。


 首に刃が食い込んだところで―――ブスリ


 背後からサンロの槍が飛んできて、無防備になったグラヌマを貫く。



「ギキィッ…」


「まだ死なねぇのか―――よ!!」



 カンロが剣で首を切り裂いて、蹴り飛ばす。


 それでもまだ動こうとしているところを他の隊員が突き刺して、ようやく絶命に至った。



「ふー、しぶてぇな。助かったよ、サン兄」


「カンロ、遊びすぎだ。本番だってことを忘れるなよ。相手だって命がけだぜ」


「わかってるって」



(やれやれ、あの癖さえなければ才能だけなら兄弟で一番なんじゃが…天は二物は与えんか。じゃが、そんなあの子も、ここまで成長してこられた。それだけでも奇跡よ)



 カンロはファテロナと同じく『ハイブリッド〈混血因子〉』である。


 両者の異なる点は、ファテロナが強化系術式しか使えないのに対して、カンロは放出系の術式も扱うことができることだろう。剣を扱いながら普通の術も使えるのが強みだ。


 ただし、術を使う際は片方の腕を使用するしかなく、その分だけ剣の威力が落ちてしまう。術だけで相手を倒せるほど魔力も高くはないので、悪く言ってしまえば器用貧乏ともいえる。


 今の戦いのように遊ぶ癖があって修練もさぼることが多く、なかなか実力が伸びないでいた。


 それを変えたのが、ハイザクだ。


 第二海軍の兵士は誰もが最初から強くはなかった。中には落ちこぼれもいたことで、当初は第一海軍の予備とも言われていたくらいだった。


 されど、ハイザクは誰も見捨てなかった。


 身体を動かしながらコミュニケーションを取り、少しずつ体質改善を行うことで、できることを増やしていき自信を与えた。


 カンロも必死になって一緒に筋トレをしたことで腕力が上がり、片手でもグラヌマに通用するほどの剣撃を放てるようになったのだ。


 そんなハイザクは、彼ら全員の【英雄】であった。



「いくぞ、ハイザク様の役に立つ!」


「おう! ハイザク様のためなら、いくらでも身体を張るさ!」



 第二海軍は、前後左右からの猿の攻撃に対して完全に対応。


 背後と左右はジンロ隊が中心となって押し返し、前の部隊もサンロ隊とカンロ隊が奮闘して圧倒する。


 カンロも遊びは控えて真面目に戦い始めたので、よりこちらが有利になっていく。


 この状態が生まれたのはギンロの策に加え、ハイザクが真っ先に相手のボスに攻撃を仕掛けたからだ。


 ここから第二海軍の猛攻が始まる。




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