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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
302/618

302話 「マスカリオンの疑念 その2『直接対決』」


 スザクから凄みのある圧力が滲み出て、『バイキング・ヴォーグ〈海王賊の流儀〉』が発動。



「野郎ども! あの不細工な鳥を叩き落としてやれ!」


「うおおおおお! 了解でさ、おかしら!」



 マスカリオンが『超集団統率』を使うのならば、スザクには海賊の血統遺伝がある。


 スキルの影響を受けた海兵たちの能力が劇的に向上し、不屈の海の男と化して襲いかかる。


 スザク軍は地上にいるので空高く舞い上がれば戦いを回避できるが、その分だけ山への侵入を許すことになってしまうので迎撃するしかない。



―――「人間などに好きにさせるな! 我らが翼もない猿もどきに負けるわけがないのだ!」



 マスカリオンも負けじとヒポタングルたちに攻撃を命じ、両者が激しく衝突。


 海兵たちが殴り、撃ち、斬り。


 魔獣たちが放ち、掴み、裂く。


 互いに血と臓物が吹き飛ぶ苛烈な戦いが始まった。


 最初は互角に見えた攻防だったが、徐々にスザク軍が圧し始める。



(くっ! こうなってからのやつらはしぶとい! それもこれも、すべてはあの人間のせいだ! 我には見えるぞ! 貴様から出る強い精神波動がな!)



 マスカリオンが忌々しげにスザクを睨むが、スザクもまた豪胆な意思で睨み返す。


 『バイキング・ヴォーグ〈海王賊の流儀〉』のような他者に影響を与えるスキルは、総じて精神波動系に属するものと思ってよいだろう。


 明らかに格上の魔獣に対しても、一歩も引かない強い気迫が周囲に伝播し、立ち向かう闘争心を与えているのだ。



(不思議だ。不利な戦いでも怖くない。戦えば戦うほど、この厳しい環境に身体が馴染んでいくようだ。今では戦いが待ち遠しくもある。やはり僕も父さんの子であり、兄さんたちの弟なんだ!)



 この二週間の激しい戦いによって、ある程度意識的に能力の発動ができるようになっていた。


 発動時間も毎日少しずつ伸びていき、今ではニ十分以上はもつので、十分実用的な性能になったといえるだろう。


 獅子の子は獅子。海賊の子は海賊。


 元からあった優しさと才能に加えて、山脈の厳しさによって強さが身に付きつつある。


 こちらもライザックの期待通り、一人前のかしらとして覚醒が始まったのだ。



(やつは危険だ! 野放しにしておけば必ず我らの脅威となる!)



―――「人間の指揮官を仕留める。ついてこい」


―――「時間稼ぎに徹するのではないのか?」


―――「あれを放っておくほど危険なことはない。人間が増長する前に、ここで叩く!」



 この瞬間、マスカリオンがスザクを『強敵』と認めた。


 親衛隊の『グレートタングル〈鷲爪河馬〉』を十数頭率いて、スザクたちに突撃を仕掛ける。



「おかしら! 敵が来ます!」


「上等だ! ここで決着をつけてやる!」



 マスカリオンの突撃をスザクとバンテツたちが迎撃。


 まずはグレートタングルが『風圧波』の術式で弾幕を張り、海兵たちの攻撃を防ぐ。


 その間にマスカリオンが一気に加速。


 一瞬で音速に至ると、翼を広げて地面を抉るように突き抜ける。


 彼の銀翼は非常に強固で、ホークジャク〈風切鷹〉のようにそれ自体が武器になるほどだ。


 強風で身動きが取れなくなっていた精鋭たちを、この一撃で五人ほど切り裂き、そのうち二名が絶命。三名が身体の半分を切られる重傷を負う。



「鳥が! 落ちろ!」



 スザクが無弾銃を放つが、すでにマスカリオンは上空に飛び立っている。


 分身を使ってあっさりと回避。


 そして、空から全方位射撃で反撃。


 粒子状の風が小さな弾丸の如く襲いかかる。


 バンテツたちは大盾を持って防ぐが、これは時間稼ぎ。


 すでに次の術の準備に入っていたグレートタングルが『風放車濫ふうほうしゃらん』で追撃。


 巨大な円形の風が襲いかかる。



「なめるなぁああ!」



 これはバンテツが身体を張って術を受け止める。


 すでにヒポタングルが術を使うことはわかっているので、『耐術壁』を鎧と盾に付与しているのだ。



―――「雑魚はいい! やつを狙え! 頭が潰れれば瓦解する!」



 海兵がヒポタングルを集中砲火するのならば、彼らだって同じことをする。


 グレートタングルたちがスザクに狙いをつけて、集中的に術式を放ってきた。



「おかしらを守れ!」



 バンテツたちは銃で牽制しながらスザクを護衛する。


 だが、グレートタングルたちも銃弾を受けることを覚悟で、ひたすらスザクを狙って攻撃を続行。


 一点に攻撃が集中したせいで大盾の陣形が崩壊。蹴散らされる。



「くっ! 圧力が強い!」



 スザクは無刃剣で術式を切り裂きながら回避運動。


 バイキング・ヴォーグが発動している彼ならば、因子レベル3の術式でも十分対応ができる。



―――「隙ができたな、人間! 我にはこの一瞬があれば十分よ!」



 がしかし、術式を切り払って隙が生まれたスザクに、マスカリオンが迫る。


 音速を超えてさらに加速した銀翼が、スザクに激突。


 いくら強化されていても、この突撃を受けてはひとたまりもない。



(これは防げまい! 才能は若いうちに潰す! それはどの生物でも同じことだ!)



 と、マスカリオンが勝利を確信した時だった。


 銀翼に激しい違和感。


 見れば、そこには『風が渦巻く剣』が刺さっていた。


 侯聯こうれんシリーズが一振り、準魔剣『風聯ふうれん』。


 ライザックが杷地火はじかから受け取った術式剣であるが、実は今回の侵攻作戦の前に彼から二本の剣を預かっていた。


 スザクは兄の身を案じて断ったものの、ライザックも譲らず、結局は押しが強い兄に負けて持っていくことになった。


 それがスザクの命を救う。



(今のは危なかった! 咄嗟に無弾銃を捨てていなければ死んでいた! でも、兄さんの意思が僕を守ってくれたんだ!)



 スザクは右手で無刃剣を払った瞬間には、無弾銃を捨てて風聯を抜いており、銀の翼をギリギリで回避すると同時に剣を突き刺していた。


 まさに武人の本能だけで放った渾身のカウンターである。



「キサマ…! また傷を!」


「今度は逃がさないぞ! マスカリオン・タングル!」


「ハナレロ!」



 マスカリオンは上空に急上昇。振り落とそうとする。


 しかし、スザクも簡単には放さない。


 風聯を突き刺したまましがみつき、さらに無刃剣を背中に突き刺して固定すると、ゼロ距離から拳を叩き込む。


 叩く、叩く、叩く!


 どこに当たってもいいと言わんばかりに、滅茶苦茶に殴り続ける。


 それを嫌がったマスカリオンが、きりもみ状態で地面すれすれまで急降下。スザクにプレッシャーを与える。



「落ちられるものならば落ちてみろ! お前も道連れだ! 激突の衝撃で首を斬り落としてやる!」



 が、スザクもまたマスカリオンに剣先を当てて、落下と同時に仕留める態勢に入る。



(死ぬのが怖くないのか! これだから人間は狂っている!)



 マスカリオンは落下寸前に、横に緊急回避。


 半分地面に激突しながらも衝撃を抑え、スザクを振りほどくことに注力する。


 その結果、なんとか引き離すことには成功するが、自慢の銀の翼が風聯によって大きく抉られてしまった。



「ニンゲンが! ユルサヌぞ!」


「僕だって遊びで来ているわけじゃない! どんな罪を背負ってでもハピ・クジュネを守ってみせる!」


「同じマネが二度ツウジルと思う―――ナッ!?」



 マスカリオンが再び上昇しようとするが、なぜか地上に引っ張られる。


 いつの間にか翼に『ロープフック』が巻きついており、反対側をスザクが引っ張っているではないか。


 きりもみ状態で落ちている間にロープを取り出し、マスカリオンが必死にスザクを振りほどこうと注意力散漫になっている隙に巻きつけたのだ。


 今までは愚直な戦い方しかできなかったが、軍に大きな犠牲が出てから彼は変わった。



「逃がさないと言ったぞ! 僕がみんなを守る!」


「侵略者が! 英雄キドリかァアアアア!」



 マスカリオンが強引に引っ張るが、スザクも強い力で引っ張り返す。


 肉体的にも能力値的にも魔獣であるマスカリオンのほうが上のはずだが、なぜか互角の勝負に持ち込まれる。



「おかしら!」


「援護はいらない! バンテツたちは上位種を抑えろ! こいつは僕がやる!」


「了解です!」


「父さん、僕に力をください! 僕はあなたの―――息子だぁああああぁああああああああああ!」



 スザクの身体から立ち昇る炎が激しく揺らめき、圧縮され、戦気の出力が増大していく。



 戦気から―――【闘気】へ!



 激しい闘争本能が、炎をマグマに変える。


 闘気はロープにも伝わり強化され、マスカリオンがいくら暴れてもちぎれない。


 そこまできつく縛られていないので、二秒もあればほどくことが可能だが、常時スザクが睨みを利かせているので、そんな余裕すらない。


 一瞬でも相手から目を離せば、その瞬間に必殺の一撃を叩き込むつもりだ。


 地上かつ、今のスザク相手にこの距離では、いくらマスカリオンでも致命傷を受けてしまう。



(どこまで強くなるのだ! 信じられん! 多少の犠牲を払ってでも、ここで殺すしかない!)



 マスカリオンの鋭い目に殺気が宿る。


 そして、彼の異名でもある『覇鷹爪はおうそう』の力を解放。


 両手を広げて大きな爪を剥き出しにすると、そこに銀の力が宿る。


 あらゆるものを切り裂き、破壊するマスカリオンが誇る最強の近接武器だ。



「シネ! ニンゲンが!」



 マスカリオンが急加速して覇鷹爪を振り抜く。


 空中での高速機動だけに目が行きがちだが、一応は河馬も交っているため地上での機動力も高く、短距離ならば時速五百キロで移動することも可能である。


 そこに覇鷹爪という攻撃手段が加われば、戦車でさえ一撃で真っ二つだ。


 それをスザクは真正面から受ける。


 左手にはロープを握っているため、右手の無刃剣一本でガード。


 当然ながらその状態では完全には防げず、切られた身体から鮮血が舞う。


 だがしかし、切断にまでは至らない。


 闘気により強化された肉体が、骨が、覇鷹爪のダメージを最小限に抑えて踏みとどまる。



「バカな! 本当にニンゲンか!」


「今度はこっちの番だぁああああああああ!」


「ッ!!」



 驚いているマスカリオンの腹に、スザクがボディブローを叩き込む。



「ガフッ…!」



 マスカリオンは悶絶。


 その大きな身体が浮き上がる。



「グヌウウウ…!」


「どうした! 次はお前の番だ!」


「ナニを…言っている!?」


「さぁ、こい! これは僕とお前の意地をかけた真剣勝負だ! どっちが上か、はっきりさせるぞ!」



 スザクの背後に浮かび上がるのは、炎で出来た海賊の旗。


 彼の意地が、覚悟が、故郷を愛する想いが、旗となって顕現しているのだ。



「いくぞ、マスカリオン! フラッグファイトだぁあああああああ!」





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