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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
300/618

300話 「お風呂に入れば仲良くなる説2ndシーズン佳境突入!」


 ベルロアナの髪を洗っていたのは、アンシュラオンだった。


 やはり異性ということもあり意識してしまう。



(ううう! 緊張しますわ! スレイブの男性とは何度もお話ししていますのに、それとは全然違いますわ!)



 スザクと話す時でもベルロアナは、まったく何も感じていなかった。


 そもそも箱入り娘として育てられていたので、男女自体を意識したことがあまりないのだ。


 しかし唯一、アンシュラオンだけは妙に目についてしまう。



(なんでこんなにドキドキするのかしら。この方は他の男性と何が違うのでしょう?)



「ザッツライッ! それは『変』!」


「―――っ!?」



 その時、なぜかファテロナが湯船で叫ぶ。



「ちょっと、いきなり叫ばないでよ。だいたいね、あなたは言っていることがいつも意味不明なのよね」


「電波を受信しているのです! このファテロナアンテナがぁああ! ウチューの意思を!!」


「はぁ…変態の相手は疲れるわ」



(変? 変…ですわね。たしかに今のわたくしは変ですわ)



 頬が赤いのは、浴場の熱気のせいだけではないだろう。


 身体がこわばるのは、知らない場所にいるせいだけではないだろう。


 膝をもじもじさせてしまうのも、きっと同じ理由だ。



「うん、綺麗な髪だな」


「…ふへ?」


「艶もあって瑞々しくて傷みが少ない。素の色もきつくないし、見ていて飽きることもない。もともとの素材が良いんだな」


「あ、ありがとう…ございます」


「母親に感謝しろよ。この身体をくれたのはキャロアニーセさんだからな」


「…はい。わかっておりますわ」


「ほら、顔を上げて。もみもみもみ」


「はわわわ…はわわわわぁぁ…な、なんですの。すごい気持ちいい…ですわぁー」



 アンシュラオンが、優しく優しくベルロアナの髪を洗う。


 その手つきは、とても丁寧で恭しいものであった。


 かといって、ベルロアナが今まで経験してきた女性の手つきとも違う。


 優しくも男性的で逞しく、包み込みながら引っ張る強さを伴ったものだ。



「どうだ? ほかに気になるところはあるか?」


「だ、大丈夫ですわ…気持ちよくて……はぁはぁ」


「崖から落ちただろう。オレが見た感じは大丈夫そうだが、目眩や吐き気はないか?」


「大丈夫ですわ。…たぶんですけれど」


「一応は女の子なんだ。あんまり無茶はするな。それと、いつもアホみたいにポカーンとしているな。スレイブ以外の男が近くにいたら警戒しろよ。よからぬことを考えているやつがいるかもしれないからな」


「し、心配してくださるのですか?」


「男と女がいる場合、オレはいつだって女性の味方をする。それはお前も例外じゃないし、べつに死んでもらいたいと思っているわけじゃない。できれば無事に山から帰還してほしいと願ってるさ」


「…はい」


「どうした? 今日は素直だな?」


「わ、わわわ、わたくしは…いつも素直! 素直…ですわ」


「本当か? またワガママを言っていないだろうな?」


「ここはグラス・ギースではありませんもの。何でも好きにはできないことも心得ておりますわ」


「そうか。城壁から出て、少しは外の世界を知ったようだな。ソブカじゃないけど、あんな場所にいたら頭がおかしくなるのも当然だ。その意味ではオレと境遇が似ているな」


「あなたもですの?」


「オレも変化に乏しい狭い世界にいたからな。世の中で無知ほど幸せなことはないともいうが、人間は常に知ることで成長する。その欲求を抑圧することは誰にもできないんだ」


「少し怖くはありますわ。よくわからないことが多くて…」


「わからないから触れる価値がある。そのうち領主になるんだろう? 今から勉強しておいて損はないぞ」


「そうです…わね。わたくしがいつか領主に…。それも実感が湧きませんわ」


「ふむ、なんだか調子が狂うな」



 最初の出会いが強烈すぎたせいで、今の彼女とのギャップを強く感じる。


 しかし、ベルロアナを変えたのは紛れもなくアンシュラオン自身である。


 高慢ちきな鼻っ柱をへし折った結果、ファテロナから聞いたように以前と比べて慎ましくなり、自分を振り返ることができるようになったようだ。


 結局、彼女が好き勝手振る舞えるのは自分の庭だけ。


 外に出れば、ただの十五歳の中学三年生の子供でしかない。



「スレイブが絡まないのならば案外、普通の女の子なのかもな。環境が与える影響は大きいけど、やる気があればなんとでも改善できるはずだ。だが、『血』からは逃れられない。昼間の戦いでもわかったと思うが、お前の血が無理にでも戦わせようとするだろう」


「ディングラスの血が…ですの?」


「そうだ。それ自体は身を守るために発動しているからいいが、これからも望まない戦いを強いるはずだ。一度血が発現した以上は嫌でも付き合っていくしかない。それでも振り回されないように気をつけろ。今のお前は才能だけで動いているようなものだからな」



 今のベルロアナを形容すれば、『制御が利かない才能の塊』が一番しっくりくる。


 その意味ではサナと同じなのだが、現状で確認されている数字上では、ベルロアナのほうが何倍も才能があるといえる。


 そして、サナと同様に暴走した際、被害は甚大なものとなるだろう。



「ソブカやファテロナさんからも聞いたが、しばらくディングラスの血は眠っていたそうだな。父や祖父も使えなかった武具が、お前の代でいきなり目覚めた。つまりは『条件が整った』ということだ」


「条件?」


「おそらく血が顕現するために必要な『肉体要素』が足りなかったんだ。領主は一般人よりは頑丈そうだが、特段優れた武人というわけじゃなかった。しかし、キャロアニーセさんの肉体を継いだお前は、生まれながらに武人として強い肉体因子を持っていた。それはディングラスの血に耐えられるくらい強かったんだろう」



 アニルがキャロアニーセを選んだのは偶然ではない。


 当人は無自覚でも、血が自身に必要な肉体を選んだのだ。


 また、キャロアニーセにしても、より自分の肉体が生かされる相手を本能で選んだ。


 血と肉が互いを欲したがゆえに、美女と野獣がくっつく結果となったのである。



「なんだか血に操られているようで怖いですわ」


「間違ってはいないな。強い血統遺伝を守るために近親婚が当たり前になっていることからも、そういった連中は血に操られているともいえる。それだけ強い武人は貴重なんだ」


「わたくしも…武人なのですか?」


「まだ自覚がないから怖いんだよなぁ。そうだ、お前も武人だ。だから自分で力を使えるように努力するんだ。努力をしたことはあるか?」


「たとえば、どのようなものでしょう?」


「自分から勉強したり、運動したり、目標を持って何かをすることだ」


「…そういうことは、あまりやった記憶がありませんわ」


「だろうな。お前を見ているとひやひやするのは、まさにそういうところだよ。まあ、アル先生に言わせれば、オレも他人事じゃないんだけどな」



 アンシュラオンもまた、アルから見れば完全に磨かれていない原石である。


 これだけ戦っても完全に開花しないのだから、才能がありすぎる者は大変だ。



「よし、髪は終わったぞ。次は背中を洗うからな」


「ふへっ!? そ、そこは自分で―――うひんっ」


「おとなしくしろ。いくら身体が頑丈だからといって、目に見えない傷みが蓄積しているんだ。悪いがここに来た以上はプロに従ってもらうぞ。ピカピカにするまで帰さないからな」


「そ、そんな、わ、わたくしは殿方に触れられるなど…あひんっ! はぁはぁ…くすぐった……あひゃは」


「せめて自分のことは自分で守れるようになれ。結婚相手だって他人に決められたくはないだろう?」


「け、結婚は…まだよくわかりませんわ。殿方を好きになったことなど…ありませんもの」


「領主はお前を溺愛しているから簡単に嫁にはやらないだろう。その間に力をつけて、今回みたいな騒動に巻き込まれないようにすればいい。自分の環境が恵まれていることを自覚しろよ。白スレイブみたいに、自分の境遇を選べない子だってたくさんいるんだからな」


「そう…ですわね」


「素材は良いんだ。最低限の知識と力の制御を身に付ければ、それなりにいい女になるさ。がんばれよ」


「は、はい。がんばってみますわ」


「最後に蛇足だが、友達は金で買うものじゃない。触れ合って、相手を尊重していく中で自然に生まれるもんだ。損得勘定だけで動くやつには注意しろ。わかったら、さっさと湯船で温まってこい」


「は、はい―――あひゃぁーーっ!」



 洗い終わったベルロアナを湯船に放り投げる。



「び、びっくりしましたわ」


「飲み物を持ってきたよー。ベルロアナはジュースでいいよね?」


「ありがとうございます。あ、アイラ……」


「えへへ、このお湯は気持ちいいからねー。好きなだけ入っていていいんだよー」


「そ、そうですの。ここはいい場所ですわね」


「ほんとだよねー。ねぇねぇ、ベルロアナの話をもっと訊かせてよ。普段はどんな生活なの?」


「わたくしは普通に暮らしているだけですわ」


「お嬢様は、城、お城に住んでいるのです!」


「えー、お城ー!? すっごーい! それでそれで?」


「え? お城!? やっぱりお姫様は違うのねぇー」



 金の匂いを嗅ぎつけたのか、ユキネも寄ってくる。



「ちょっと大きい普通の家ですわよ」


「そんなことはない、ないのです! すんごいのです!」


「うわー、やっぱりー! さぞやお高いものがあるのでしょうね!」


「たしかに少し高い場所にはありますけれど…」



 周りに人が集まってくることに戸惑いながらも、ベルロアナは必死に話に対応する。


 アホの子なので、ちょっとだけ話が嚙み合わない点もあるが、そんなことはどうだっていい。触れ合うことが大事なのだ。


 アンシュラオンもそんなベルロアナを見ながら心境の変化を感じていた。



(まあ、こんなに嫌がらせをしても好意を向けてくるような馬鹿だ。適当にあしらう対応は変わらないけど、女の子なんだから少しくらい面倒を見てやってもいいかな。ユノとかは年齢的にもサナに近いみたいだし、隊としての相性も悪くないはずだ)



 アンシュラオン隊は自身の好みから年齢層が高くなる傾向にあるため、年齢層の低いベルロアナ隊が加わるとその点が補完される。


 アイラもベルロアナやアカリと一歳違いなので、仲間ができて少し嬉しそうだったのも印象的だ。


 こうしてみんなで一緒に湯に浸かっている姿は、まさに修学旅行のワンシーンである。


 そして、修学旅行といえば、最後はやはりこれだろう。



「これは…みんなで一緒に寝るのですか?」


「そんなに大きなコテージじゃないしね。二階が全部寝室なんだよー」



 このコテージは、一階がリビング、二階が寝室、三階が風呂という造りになっている。


 あくまで野営用なので必要最低限のものしかなく、二階に至っては各人用のクローゼットと、二十メートルくらいある大きなベッドが一つ置かれている程度だ。


 みんなで寝れるようにとアンシュラオンが自作した特別製で、中身に命気水が使われているウォーターベッドである。


 これも温めることで、雪山でも快適に眠ることができるので便利だ。



「寝る前にやることといえば、これしかありませんね! うおりゃーーーー!」


「ぶはっ!?」



 ファテロナが枕を投げつけるとマキに命中。



「ちょっ…やったわね! このっ!」


「分身の術!」


「きゃっ、あぶない! サリータさんシールド!」


「え―――ぎゃふん」



 マキが投げ返した枕をファテロナが分身で避け、後ろにいたユキネに向かうが、今度はサリータを盾にしてガード。



「昼間は分身を使わなかったのに、こんなところで!」


「これも真剣勝負でございます! 負けるわけにはまいりません!」


「いいわ! その勝負、受けてやるわ!」



 これを契機に『枕投げ』が始まった。


 そもそもなぜ枕投げをするのか? などという問いをしてはならない。


 人は山があるから登る。枕があるから投げるのだ。これが江戸時代から続く伝統である!



「このおおおおお!」


「うわっ! なんだよここ!? 殺人級の枕が飛んでくるんだけど!? わたしは武人じゃないし、運動なんて―――ひぶうう」



 不運なことに、そういうときに限って枕がやってくるものだ。


 アカリがどこからともなく飛んできた枕に激突して、そのままノックアウト。気絶する。



「ベルロアナも投げてみな。適当に投げればいいよ」



 ぽかーんとしていた彼女にアンシュラオンが枕を渡す。



「わ、わかりましたわ。これが伝説の枕投げなのですね! クイナ、いきますわよ!」


「は、はい! はいなのです!」


「ええーーい!」


「ひーっ! やっぱり無理、無理なのですー!」



 ベルロアナが投げた枕をクイナがよける。


 やはり武人として覚醒したベルロアナの腕力は普通ではなく、一般人には止められないのだ。


 だが、その後ろにいたサナがキャッチ。


 お返しとばかりに投げつける。



「わわっ、キャッチ! こ、これでよいのよね?」


「…こくり。ぐっ」


「また投げればいいのかしら? えいっ!」


「…がし。…びゅんっ」



 サナとベルロアナが枕を交互に投げ合う。


 互いに特性の違いはあるが、武人のレベルは同程度なのでキャッチボールが成り立つのだ。



(なんですの? ただこれだけの行為なのに…とても楽しいですわ!)



 誰しも子供の頃は夢中でボールを投げて遊んでいたが、それに飽きることはなかったはずだ。


 なんでもないことで楽しめる心の純粋さがあり、投げる相手がいて、投げ返してくれる相手がいれば、単純な動作でも楽しいのである。



(これがお友達なのですわね! 素敵だわ! やっぱり素敵ですわーーー!)



「お嬢様、私、私、もう楽しくて―――えええい! ばちーんっ!」


「いたーーーい! 何をするのユノー!?」



 と、油断していたベルロアナに興奮したユノが平手打ち。


 以前教えた嘘が再び実践されてしまう。


 しかも集団心理とは不思議なもので、これによってまた競技内容が変更。



「こうなれば絡みつき勝負に移行です! ウオー! ファンタスティックビーストォオオオ!」



 ファテロナがマキに絡みつき、押し倒す。



「きゃっ! また変なことを…! いつまでもやられっ放しじゃないからね! このっ! よし、捕まえたわ! 今度は逃がさないから!」


「なんとーー! ファテロナ、一生の不覚! ヤメロー! オカサレルー!」


「御用よ! おとなしくしなさい!」



 ここからキャットファイトが始まり、場はもう滅茶苦茶になっていった。


 サリータに集団でのしかかったり、反対にベ・ヴェルにユノたちが捕まったり、アイラが転んで自爆したり、サナがベルロアナと絡み合っている時にうっかり殴ってしまったりと、もう散々であった。(殴ったのはゴンタとの取っ組み合いの癖)


 そうして全員が仲良く寝転んだところで、アンシュラオンが明かりを消すと、昼間の疲れもあってかすぐに寝息が聴こえてきた。



「みんな、おやすみ。いい夢を見なよ」



 サナとベルロアナが抱き合ったまま眠っている姿を見ながら、自身は三階で風呂掃除をしたり、一階に下りて武器の手入れをするのであった。


 世間ではハーレムが羨ましがられるが、女性の世話をするのも大変なのである。



「お疲れアル。大変だったネ」


「これが楽しいのさ。男の甲斐性ってやつだよ」


「酒、付き合うヨ」



 晩酌の相手はアルが付き合ってくれた。


 最終的には男同士が一番気楽なのかもしれない。




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