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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「翠清山死闘演義」編
297/618

297話 「お風呂遊戯 その2『珍客来訪』」


「外は綺麗だな」


「…こくり」



 アンシュラオンとサナが、天井の窓の外を眺める。


 山の空は美しく、空気が綺麗なこともあって雪も透き通っていた。


 今が魔獣との戦争中でなければ、これほど素晴らしい光景はない。


 しかしながら、アンシュラオンが気になっているのは魔獣ではなかった。



(あれだけ探しても視線の持ち主はわからなかった。グラス・ギースの時と一緒だ。見られた瞬間は方向と位置がわかるんだが、そこにいるやつらは普通の連中なんだよな。問いただしてみても何も知らなかった。魔獣がこちらを見ている場合もあるんだけど、あの鹿にしても知能がそこまで高くはないから問いただす意味もないしな…)



 アンシュラオンは高い探知能力を持つものの、あくまで戦士であって忍者や密偵ではない。その道のプロではないのだ。


 となると、相手は『通常ではない方法』で監視している可能性が高い。


 追跡や監視に特化した専用スキルを使われると、さすがにどうしようもない面はある。



(特殊な術式を使っているか、あるいは知らない間に利用されているのかもしれない。術式の場合だと中級くらいのものならオレだってわかるから、たぶんもっと上の術式の可能性がある。うーむ、もしそうだと手の打ちようがないな…。まあ、これは仕方ないとして、次なる問題は『相手側の目的』だ)



 三つの視線は、それぞれ『感情』が違う。


 一つ目のグラス・ギースから続くものは『恐怖』。


 二つ目の森林部からあるものは『強い警戒』。


 三つ目の姉に似た気配のものは『興味』。


 この三つは似ているように見えてまったく違うもので、それによって各々の目的も変わってくるはずだ。


 唯一、三者に共通するものがあるとすれば、一切手出しはせずに見ているだけという点である。



(一つ目と二つ目は、オレを怖れている雰囲気がある。これはまだいいだろう。だが、三つ目にオレに対する恐怖はない。それだけ自分の力に自信があるやつってことだから、現状で敵対していないとはいえ、いつどうなるかわからない。サナたちを守るために常に注意はしておくべきだろうな)



 アンシュラオンはサナを抱きしめる。


 今はサナを育てることが自分にとっての生き甲斐だ。もう彼女なしでは生きていくことはできない。


 それは『与える愛』を知ったから。


 受ける愛よりも、与える愛のほうが最終的には満たされ、強い快感と充足感を伴うのである。



(最近は油断していた面があるからな。そろそろ姉ちゃんが来たらどうするかを具体的に考えたほうがいいか。うーむ、ゼブ兄か師匠をなんとか味方に引き入れられないかな? でもなぁ、金や女でなびく人たちじゃないから……って、師匠はいけそうな気もするな。それともジジイだから、いまさら欲がないかな? どっちにしても姉ちゃんが最強なのが問題だ。あれに対抗できる戦力を作るのは無理なのかもしれない…ああ、困ったぞ)



「アンシュラオン君、どうしたの?」



 唸っているアンシュラオンをマキが覗き込む。



「オレより強い相手にどう対処するかを考えていたんだよ」


「アンシュラオン君よりも? ちょっと想像できないわね」


「それがいるんだよ。オレが知っている限り三人いるけど、その中の一人が本当にヤバい人でね。今のところ何も手がなくて…」


「じゃあ、あなたも修行ね」


「オレが?」


「そうよ。私ばかり修行するのも不公平でしょう? 妻ががんばっているのだから、夫もがんばらないとね。って、ちょっと生意気かしら?」


「…いや、その通りだ。オレだけふんぞり返っている余裕なんてない。少しでも差を縮めることで対処できることは増えるはずだ。ありがとう、マキさん。基本的なことを思い出させてもらったよ」


「いえいえ、これでも妻ですからね」



(そうか。そうなんだ。師匠いわく、オレと姉ちゃんの才能は同レベル。修行していた期間だって、そこまで差があるわけじゃない。オレが強くなれば、サナたちを逃がす時間くらいは作れるかもしれない! これは大発見だ! …うん、それが難しいから困っていたんだけどね)



 それができたら苦労はないものの、もはやこれしか手段がないのも事実だ。


 しかし、あの姉に対抗すると思うだけで心を病みそうになる。本物の化け物だからだ。



(どうしたもんかな……ん? 誰か来るぞ?)



 憂鬱な気分に沈む中、外にいるモグマウスが侵入者の存在を発見。


 改めて波動円で探ってみると、反応は五。どれも人間であることがわかる。



(ソブカ…じゃないな。五人のうち四人は身長が低い。…む? この胸のサイズはもしや…)



「ちょっと来客みたいだ。オレが出るから、みんなはここにいてね」


「来客? こんな時間に珍しいわね」


「たしかに珍客さ」



 アンシュラオンが一階に下りて、扉の前で待機。


 すると、まさに測ったようなタイミングでノックが起きた。



「コンコン。夜分遅く、申し訳ありませんわ」


「うちは宗教はお断りです」


「え? 宗教ではありませんわよ」


「新聞もテレビも間に合ってます」


「新聞? テレビ? どちらも違いますわ」


「あなたは神を信じますか?」


「へ? 髪? 髪は…ええ、信じますわ。ありますものね」


「では、お布施は五万円です。そこのポストに入れてください」


「お布施? 五万?」


「お金を入れないと永遠に開きません」


「わ、わかりましたわ。…はい、入れましたわよ」


「確認できません。もう一度お試しください」


「入れましたわよ?」


「確認できません。もう一度お試しください」


「え!? どうなっているのかしら…もしかして故障?」


「早く入れろください」


「わ、わかりましたわ。そんなに急かさないでくださいませ。じゃあ、もう一度。はい、入れましたわ」


「確認できません。もう一度お試しください」


「おかしいですわね。入れたのに…。はい、また入れましたわ」


「確認できました。あと三十万入れてください」


「何を確認しましたの!? 話が違いますわ」


「お金を入れないと永遠に開きません。では、さっさとお帰りください」


「うう、まだ帰るわけには…し、仕方ありませんわ。…はい、また入れましたわ」


「二十五万しか入っていません。誤魔化しましたね?」


「そんなことまでわかるのですか!?」


「慰謝料を請求します。五十万入れてください」


「ど、どんどん高くなりますわ! 手持ちがもう…」


「貴金属でもかまいません。宝石入れろください」


「うう、どうしましょう。ええい、仕方ありませんわ! お父様が前にくれた髪飾りを…」


「それは駄目です。男臭いのは禁止です」


「こだわりがありますのね。ええと、何があったかしら。これはお母さまがくださったものですが…」


「それは受け付けています。それ以外はもう受け付けません」


「し、仕方ありませんわ! ええい! 入れましたわ!」


「ありがとうございます。では、さようなら。ハバグッナイ!」


「え? あの? 開けてくださらないのですか?」


「開けたらあなたに不幸が訪れます。いえ、幸運かもしれませんが」


「どっちなのですか!?」


「本当に開けてもよいのですか?」


「ええ、もちろんですわ」


「本当に本当ですか? 後悔しませんか?」


「くどいですわ」


「じゃあ、どうぞ。ガチャッ、ポロン」


「…え? …へ!?」


「お嬢様、見ちゃ、見てはダメなのですーー、ガチャドン!」


「い、今のは何かしら? クイナ、今のは…」


「ま、まぼろし、幻なのです! マボロシィーーー!」



 まさかここで背負い投げ芸が見られるとは思わなかった。さすがクイナである。



「では、お金を入れてください。お金を入れないと永遠に開きません」



 一度閉めたらやり直しになる鬼畜仕様。馬鹿なやり取りがエンドレスに続く。


 ということで、やってきたのはベルロアナ、ファテロナ、クイナ、アカリ、ユノの【金玉御一行】であった。


 アンシュラオンは風呂に入っていたので、そのまま裸で出迎えただけだ。



「開けてくださいませー! ドンドンドンッ」


「うるさいなー。いったい何のようだ。ガチャッ、ポロン」


「きゃーー! しまって、しまってくださいなのですー!」


「出ているものがしまえるか! これがオレだ!」


「どうしたんだよ、クイナ。…ん? んん? なんだ? 何か棒みたいなのが…え? これってまさか―――ぎゃーー!」


「あっ、お父さんより大きいです」


「ユノ!! 駄目、駄目なのですーーー!」



 ここはさすが田舎育ちのユノ。


 見慣れているのか、あまり動じない。


 一方でアカリは真っ赤になっているので、意外と耐性がないようである。


 これでは話が進まないので、ファテロナが代理で対応する。



「アンシュラオン様、夜分遅く申し訳ございません。お嬢様が、ぜひともご挨拶に向かいたいとおっしゃいまして」


「挨拶ねぇ。まあ、ファテロナさんがいるならいいか。とりあえず入りなよ」



 アンシュラオンがTシャツと短パンを着て五人を迎えると、クイナたちが珍しそうに室内を見回す。


 彼女たちがアンシュラオン隊の野営地にやってくるのは、これが初めてのことだった。



「わー、すごいのです。これ、これ、可愛いです」


「本当だ。あんまり見かけないな。ちょっと欲しいかも」


「アカリさんはどこで使うんですか?」


「室内で使うに決まってるだろう?」


「また引きこもりですね」


「べつにいいだろう」



 白スレイブ三人娘が、飾ってあった小物に食いつく。


 アンシュラオン自身はずぼらで無頓着だが、女性がたくさんいるため部屋の中は綺麗にまとまっており、可愛い小物もたくさんある。


 その大半は小百合やホロロが集めたものだが、意外だったのがベ・ヴェルで、家の中にいるときは編み組細工で籠やバッグを作ったりしているのだ。


 どうやら昔、小銭稼ぎでやっていたことがあるらしい。なかなかの手並みである。


 クイナたちが気に入ったのはそうした民族工芸品の類で、グラス・ギースではあまり見かけないので珍しいのだろう。



「よかったらあげるよ」


「いいの、いいのですか?」


「どんどん溜まっていくだけだしね。ベ・ヴェルも喜ぶんじゃないかな?」


「みんな、はしたないですわよ。いきなりねだるなんて失礼ではありませんか」


「あっ、ごめん、ごめんなさいなのです!」


「そうだった。君にはこれをあげるね」


「…これは何ですの?」


「うん、鹿のアレ。この前、誕生日にあげたものとセットにするといいよ。ほら、逞しいだろう? 君にだけの特別だよ」


「あ、ありがとうございますわ! 大切にしますわ! ほんと、大きいですわね」


「あうう、お嬢様…そんなに触って、触っては……ううう」


「クイナ、そんなに顔を赤くしてどうしたの?」



 ベルロアナに似合うと思って、ボス鹿のアレを取っておいたのだ。


 完全な嫌がらせだが、玉だけではバランスが悪いので、これも慈悲である。


 ちなみにボスは討滅級だったが、角のほうがメイン素材だったようで心臓は結晶化していなかったので、その憂さ晴らしでもあった。



「それにしても、本当にいろいろありますのね。あら、これは何かしら?」


「よくできた人形、人形なのです」


「ギョギョギョガガゴゴゴゴゴッ!」


「きゃーーー! いきなり動きましたわー!」


「なんだこいつ! 追いかけてくるぞ! こわっ!」


「あっ、それは妖怪だから気をつけてな」


「妖怪!?」



 家の中でのアル先生は、こうやって人形に扮して瞑想していることが多い。


 敵が弱い時はやることがないので暇らしいが、もう少しまともな趣味を見つけてほしいものである。







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