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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
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286話 「北西部、制圧! 金獅子十星天具の力」


「嘘だろう…あのでかいのを一撃で!」


「あ、あれがパンツ姫…グラス・ギースの領主の娘の力なのかよ!」


「と、鳥肌が立つ! あれはやべぇよ!」


「お前ら、何をしてやがる! 俺らはグラス・ギースに賭けたんだよ! その大将が戦っているのに呑気に見ていられるか!」


「そ、そうだ! 俺らも戦うぞ! 今が勝機だ! パンツ姫に続くぞ!」



 傭兵とハンターたちも、ベルロアナの旗を見て息を吹き返す。


 彼らもスレイブほどではないが能力が向上しており、蟻たちを勢いのままに押し返していた。


 後ろにベルロアナがいる。金獅子の旗がある。


 それだけで誰にも負けない強い意思が湧き上がってくるのだ。(パンツ姫呼ばわりは変わらない)



「ふふふ…うふふふふふ……あははははははははは!」


「ふぁ、ファテロナ様?」



 メイドたちも驚く中、ファテロナが腹を抱えて笑い出す。



「見ましたか、あれを。いつもいつも馬鹿面をしているかと思えば、いきなりこんなことをするのです。行動が読めない馬鹿は、どうしてこんなに面白いのでしょうか! 最高! ウケるううう!」


「あれはいったい何なのですか? なぜお嬢様があのような力を…」


「何を言っているのです。お嬢様がもともと持っているお力ですよ」


「そ、そんな!? もう何年もお仕えしておりますが、あのようなことは一度たりともありませんでした!」


「それは当然でしょう。ずっと館の中に閉じ込められていたのです。身の危険があったのも、この前の一件が初めてのこと。あれは相手が悪すぎましたが、あの時からお嬢様の中では『変革』が起こっていたのです」



 自分の友達の概念を潰されたこと。


 頭を潰されそうになったこと。


 一番自信があったスレイブ勝負にも負けたこと。


 そのすべてがベルロアナに大きな刺激を与えていた。



「『アレ』を何だと思っているのですか? 何も知らないお嬢様? 馬鹿で愛らしいお嬢様? いいえ、まったく違います。あれは【化け物】です」



 母親のキャロアニーセは、マキすら上回る武人である。


 その血を引いているのだから、母親からもらった彼女の身体が常人より強いのは間違いない。


 馬鹿は風邪を引かないし、馬車にはねられても無傷だ。


 しかし、そんな母親の血ですら呑み込んでしまう強い力が根底に存在する。



 それこそ―――『ディングラス〈金獅子〉』!



 彼女こそ、金獅子の血が流れている唯一の直系なのだ。


 獅子は獅子。未熟であれ馬鹿であれ、獅子は獅子にしかなれない。



「今回の作戦参加において、キャロアニーセ様より拝命した任務の中で、もっとも重要なものがこれです。お嬢様がディングラスの直系として相応しいかどうか。【金獅子の秘宝】を扱えるかどうかです」



 グラス・ギースの五派閥は、土地を開拓して都市を建造した始祖であり、『五英雄』とも呼ばれていた。


 彼らがどこから来たのかは不明だが、それぞれの子孫には五英雄が遺した貴重な武具や道具が存在する。それらは『秘宝』と呼ばれ、各派閥の長だけが管理することを許されていた。


 たとえばソブカが着ている臙脂色の法衣は、ラングラスの秘宝である 『鳳薬師ほうやくしの天衣』のレプリカである。本物はラングラスの長であるツーバ・ラングラスが保有しているはずだ。


 そして、ベルロアナが持っている剣こそ、『金獅子十星天具こんじしじゅっせいてんぐ』と呼ばれるディングラスの秘宝の一つで、五英雄筆頭であった『金獅子王こんじしおう』が使っていた武器である。


 ただし、武人が衰退したように五英雄の血も衰退が著しく、今では直系だからといって誰もが秘宝を扱えるわけではない。


 特にディングラスは力が強すぎるがゆえに、先代の領主も秘宝を使えず、残念ながら現当主のアニルにも使えなかったので、この武器もただのガラクタ扱いされていたものだ。


 それをキャロアニーセの計らいによって、成人を迎えるベルロアナに特別に貸与されることになった。扱えるかどうかを確認するためだ。



「キャロアニーセ様の真の目的は、お嬢様に負荷を与えて血を目覚めさせること。それが達成できれば、今回の経費がすべて吹き飛ぶほどの莫大な利益となるでしょう。我々がこの山で宝を探す必要はありません。すでに金銀財宝を持っているのです。あとは扱えるかどうかだけの話です」



 そして、怒りによって秘宝が反応。その効果を発揮する。


 これはベルロアナが正統なるディングラス家の直系であることを示しており、紛れもなくアニルとキャロアニーセの子であることも証明していた。


 同時にグラス・ギースの頂点が金獅子であることも指し示す。



「あなたたちは少し離れなさい。能力を使います」


「は、はい!」



 メイドたちが慌てて退避。


 彼女たちも優れた暗殺者であるにもかかわらず、その表情には怯えの色が見えた。


 なぜファテロナが怖れられているのか。A級賞金首になったのか。


 なぜ彼女ほどの武人がベルロアナに固執するのか。



「うふふふ…ふふふふっ! これだからお嬢様はたまらない! お嬢様は最高です! 毎日毎日私の『毒を吸っている』のに、あの程度で済んでいるのですから、ほかに形容する言葉が見当たりません!!」



 ベルロアナが「意識がぼ~っとする」と言っていたことには理由がある。


 単純に何も考えていないことも要因だが、最大の原因はファテロナの毒を常時吸い続けているからだ。


 ファテロナの毒は他の暗殺者のものとは違い、『気化』して宙に漂う性質を持っている。


 普段は呼吸を止めているので他者に影響を及ぼさないが、ベルロアナと二人の時だけは普通にしていた。


 その分だけベルロアナは毒素を吸っているのだ。


 一般人ならば即死するレベルの毒を、毎日毎日毎日毎日―――吸っている!


 それにもかかわらず、ベルロアナは多少けだるそうにするくらいである。そんな生物が化け物でなくて何と呼ぶのだろう。


 それどころか徐々に毒に慣れていき、今では原液を飲ませても平然としているほどだ。


 毒を吸わせるファテロナも極度のサイコパスだが、だからこそ彼女はベルロアナに従う。



「お嬢様は…お嬢様は私では殺せない! 殺せない、殺せない、殺せないぃいい! あはははははは! バケモノー!! ばけものだぁああああ! ヒーー! こわいよぉおおおお! オカアサーーーンッ!」



 ファテロナの足元から淀んだ紫色の液体が、ぞわりと染み出す。


 それらがどんどん大地を侵食していき、触れた蟻が動きを止めた。


 その個体は、もう永遠に動き出すことはないだろう。


 さらに染み出した液体が少しずつ気化されて、空気に乗って周囲に拡散。



「風向きに注意してください! 『毒消紋どくしょうもん』をお持ちの方は、即座にご使用ください!」



 メイドたちが傭兵に注意喚起をして回る。


 最初は何のことだかわからなかったが、毒消紋は『毒耐性』を付与するものなので、勘の良い者はピンとくる。



「まさか毒殺のファテロナか!?」


「嘘だろう! こんなところで何をやろうってんだ!」


「し、死ぬぞ! 死んじまうぞ! 街一つくらい簡単に消すやつだ! 早く逃げろ!」


「うっ…なんか気持ち悪……おええええ! 毒消紋を使ったのに…ううううう、げぼっ!」



 ファテロナの気化毒によって、蟻たちが死んでいく。


 だが、それと同時に巻き添えをくらった者たちも、バタバタと倒れていった。


 敵味方かまわず攻撃するからファテロナは怖ろしい。



「わたくしの旗の下に来なさい! ここならば無事ですわ!」



 ベルロアナの金獅子の旗が光を放射。


 体内に入ったファテロナの毒を中和していく。


 その光を求めて戦車に人々が殺到するさまは、まるで世紀末に出現した救世主そのものだ。



「アハハハハハ!! あははははははは! バケモノこわいねぇー! 怖いこわいこわい! ひーーーひっひひ! ちょーたのしー! 金メダルげとーーーー!」



 壊れたように狂い笑うファテロナが、蟻の集団の中を駆け抜ける。


 彼女の毒はあまりに強く、ギェリーであれガーリーであれ即死。何千匹という蟻が静止したまま絶命したことで、黒い死の絨毯が生まれていた。



「ファテロナに続きなさい! このまま一気に目的地を制圧しますわ!」


「はい、お嬢様! クイナ、クイナはどこまでもついていくのです!」



 黒い絨毯を戦車が踏み潰しながら突撃を開始。


 衛士や傭兵、ハンターも彼女の後ろに続いて走り抜ける。


 まだ生きている蟻がいれば、ユノや七騎士が叩き潰し、道を切り開く。


 そして、そのまま八キロという距離を踏破。


 すでに翠清山の岩肌がはっきり見える地点で、『吸命豊樹』を発見。


 吸命豊樹は、横に広がった巨大な樹であり、たくさんの枝からは赤い実が生えていた。


 その実は吸い込んだ生物を糧にして生み出したものであるが、だからこそ妖艶なまでに美しかった。樹自体も神々しさを携えた荘厳ないでたちで、どっしりと大地に根を張っている。


 しかし、その樹は大部分が真っ黒。


 大量の蟻が張りついて『巣』を形成していた。


 軍隊蟻は地面を掘って巣を作るのではなく、蟻同士が脚をつなぐことで壁となり、何千匹も集まって大きな巣を生み出す生態があるのだ。



「あれが、きゅうめい、吸命豊樹なのですか!? 樹がほとんど見えないのです!」


「あいつら、自分たちを犠牲にしているのか!?」



 猿や牛は、他の魔獣を犠牲にすることで吸命豊樹にエネルギーを与えているが、蟻は率先して自らを養分として実を生み出していた。


 それを食べるのが、女王蟻。


 樹の一番上に、ガーリーの二倍はある大きな蟻がいた。あれが蟻のボス、女王蟻である。



「一斉砲撃! 叩き潰しなさい!」


「はっ!」



 衛士隊が全火力を女王蟻に叩き込む。


 戦車はもちろん武装甲冑やバースト銃、あらゆる重火器で攻撃を続ける。


 がしかし、危険を察知した蟻の大群が、女王蟻を巣の中に隠してしまった。


 砲撃で蟻は死ぬが、女王蟻には届かない。



「ファテロナさんは!?」


「はー、はーー、マジだりー。しにそー。ユン〇ル黄帝液、持ってきてくれメンス!」


「駄目だ! へばってるぞ! 飛ばしすぎなんだよ!」



 ファテロナは、ここまでの行程で毒を使いすぎて完全にグロッキー。使い物にならない。


 とはいえ、これだけの数の魔獣を毒殺したのだから、彼女の異名に偽りはない。



「お嬢様、お嬢様、どうするのです!?」


「安心なさい。金獅子の加護が、わたくしに力をくださいますわ!」



 ベルロアナの旗が【金色の弓】に変化。


 ディングラスの秘宝、『金獅子十星天具こんじしじゅっせいてんぐ』は、その名の通り十の形態に変化する特殊な武具だ。


 小剣、槍、旗、そして今は遠距離攻撃が可能な弓となり―――



「金獅子の怒りを思い知りなさい! 貫けぇえええええええええ!」



 ベルロアナの弓に光のエネルギーが凝縮し、矢となって放出される。


 光の矢は蟻の巣に突き刺さり、壁となった蟻たちを排除しつつ、女王蟻に命中。


 女王蟻は当然ボスであるため、HPも防御も種の中で最高レベルではあったが、それを易々と―――貫通!


 一撃で粉々に吹き飛ばし、有り余ったエネルギーは吸命豊樹の一部すら打ち砕き、さらに森を貫いて山の岩肌に激突。


 数秒後、激しい衝撃波と地震が発生し、大きな崖崩れが起こる。



「なんだよ…これ」



 その場にいた誰もが目の前の光景に愕然としていた。


 矢が通り過ぎた場所には、もはや何もない。ただ貫かれた痕跡が残っているだけだった。


 まるでアンシュラオンがア・バンド戦で見せた、人を超えた力がこの場にも顕現していた。


 それをベルロアナがやったのだから驚くのも当然だ。



「何をしていますの! まだ魔獣はおりますわよ!」


「っ…残った蟻を排除しろ! 一匹も逃すなよ!」



 ベルロアナの言葉で我に返った衛士たちが、蟻たちの『掃討』に入る。


 すでに女王蟻は死んでいるので、彼らは敗残兵と一緒だ。あとは新たな女王蟻が生まれないように、この場にいる蟻たちを全滅させれば戦いは終わる。



「…なんだか……眠いですわね。はぁはぁ…クイナ、あとは任せますわ…」


「お嬢様! お嬢様!」



 力を使い切ったベルロアナが、その場で倒れ込む。


 脈拍も正常なので身体には異常がないようだ。弓矢もいつの間にか小剣に戻っており、彼女の傍に静かに佇んでいた。


 その後、丸二日かけて蟻たちを完全に駆除。吸命豊樹の確保にも成功する。


 結果的に第三階層の制圧にかかった時間は三隊とも同じだったが、ボスを真っ先に撃破したのがベルロアナ率いる金玉剣蘭隊だったことは、誰も予想していなかっただろう。


 金獅子、目覚めたり。


 のちにその一報を聞いたキャロアニーセの歓喜は凄まじく、思わずアニルを殴ってしまったという。


 金獅子の新たな伝説が、ここから始まるのである。




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