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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
282/618

282話 「ベルロアナ隊の戦い その1『イタ嬢の白スレイブたち』」


 グランハム隊が北東の猿と戦い、アンシュラオン隊が中央北の牛と戦っている。


 両隊の力はすでにわかっているため、多少てこずっても勝利は間違いないだろう。


 だが、北西の吸命豊樹に向かう部隊は、この侵攻作戦が始まってから初陣となる『ベルロアナ隊』である。


 今まで彼女たちは安全な拠点に閉じこもっており、指揮も執らなければ兵を出すこともなかった。


 それに対して傷ついた者たちは思うところもあっただろうが、混成軍の大将という位置付けであるため、簡単に前線に出るほうがおかしいともいえる。



「ファテロナ、どうしてわたくしたちが戦わねばならないの? まだ兵には余裕があるわよね?」



 ベルロアナがいるのは『金色の装甲車』の屋根である。


 侵攻ルートの森を切り開いたことで、アンシュラオン隊同様にさまざまな兵器を搬入することが可能となった。


 これもその一つで、中央正面に三つの砲台が設置されている特別な車両だ。


 また、クルマ上部の屋根はベルロアナが過ごしやすいようにテーブルや椅子が用意され、お茶会が楽しめるように改造されている。


 今現在、屋根の上にいるのは、鎧を着たベルロアナとお供のスレイブたちだ。


 その中には当然、ファテロナの姿もある。



「たしかに兵に余裕はございます。アンシュラオン様たちのおかげで半数は温存できておりますので、戦略上の意味合いでは我々が出る必要性はありません」



 グランハムの方針で、森での戦いにおいては戦力の消耗を警戒し、主力の傭兵部隊はまだまだ健在だ。その分だけ警備商隊に負担がかかっている面もあるが、実力の高さでカバーできていた。


 アンシュラオンも人喰い熊討伐といった功績を挙げているため、ファテロナが言うように兵の半数、およそ九千人近い戦力をほぼ無傷で残している。


 本当ならばベルロアナ隊も出る必要はないのだが、今回は違う目的があった。



「出陣した最大の理由は、お金になるからでございます」


「お金? 魔獣を倒すから?」


「それもありますが、標的の樹木から採取される実には特殊な効果がございます。そういったものは貴重な資源として高値で売買されるでしょう。これを押さえることでグラス・ギースの富になるのです。キャロアニーセ様からも珍しいものがあれば、極力入手しろと指令が出ております」


「そんなものがあるのね。お母様のお言葉なら従うしかないかしら。それに、お友達と付き合うにもお金は必要だものね」



 脳裏に浮かぶのは、アンシュラオンとのやり取りだ。


 あれ以来、顔を合わせてはいないが、活躍していることは聞いている。


 会おうと思えば自ら会いに行けるのだが、いくらベルロアナとはいえお小遣いが足りないため自粛しているのだ。



(これが成功してお金が貯まれば、またお会いできるのかしら? それなら少しはやる気も出ますわね)



「お嬢様、『金玉祭きんぎょくさい』が近い、近いです!」


「あら、もうそんな時期だったのね。ここにいると時間を忘れてしまいそうになるわ」



 クイナが言う『金玉祭きんぎょくさい』とは、ベルロアナの誕生日を祝う秋の祭典だ。


 アンシュラオンいわく「きん〇まさい」だが、読み方には注意していただきたい。『金色の宝石みたいに美しい』という意味の「きんぎょくさい」である。



「お嬢様も、十五、十五歳になります! 大人です!」



 そして、今年は特に重要な祭典であり、ベルロアナが成人として認められる十五歳の誕生日だった。


 スザクとの婚姻話が持ち上がったのも、これが一つの要因といえる。



「それを言ったら、あなたも十四歳の誕生日よ。わたくしと同じ日ですものね」


「はい、はいです! 一緒はうれしいのです!」



 クイナは相変わらず、ベルロアナのお気に入りのスレイブ従者である。


 空色の長い髪を大きなおさげにした愛らしい美少女で、さすが高級白スレイブと納得してしまう容姿だ。


 ただ、気になるあの口調は、どうやら『育児放棄』が原因らしい。


 愛人の子として生まれた彼女は忌避されて、家族からは放置という虐待を受けて育った。それによりスレイブになるまで満足にしゃべることができず、文字すら読み書きできなかったのだ。


 最低限のことはスレイブ館で学んだが、根気よく教えたのはベルロアナであった。懐くのも当然で、その姿は姉妹のようでもある。


 年齢もサナと同じく推定なので、ちょうどよいからベルロアナと同じ日を誕生日に設定した経緯もあって、金玉祭では二人一緒に祝うほど仲が良い。



「十五歳か。あまり実感が湧きませんわね。でも、そう考えると、そろそろ戦いを経験したほうがよいのかしら?」


「お嬢様、私もがんばります!」


「ユノもついてきてくれて嬉しいですわ」


「もちろんです! 私、お嬢様に憧れていますから!」



 元気よく立ち上がったのは、ユノ・マキシマ。


 ベルロアナとは少し年が離れた十二歳の女の子だ。


 藍色のショートカットに太い眉毛、大きく丸い瞳、見た瞬間に可愛いという言葉が似合う子であるが、ベルロアナなどと比べると垢抜けておらず「野暮ったい田舎娘」のような印象も受ける。


 実際にユノは北側の集落の生まれであり、親の経済力の関係でスレイブに出された経緯がある。それだけ見ればロリ子と同じ境遇だ。


 しかしながら、その心情には若干の違いがあった。



「うわぁ、お嬢様は今日もお綺麗ですね。やっぱり素敵です!」


「そうかしら? いつもと同じよ」


「いつも綺麗なんですよ! はぁぁ…見惚れてしまいます。お嬢様のお傍にいられて本当に幸せです!」



 ユノは、うっとりとした表情でベルロアナを見つめる。


 外面だけを見れば、ベルロアナはお嬢様以外の何者でもない。いざこうしてスレイブになってしまえば、友達という言葉にも過剰反応しないので、中身も含めて完全なるお嬢様でしかない。


 それは田舎娘として育ったユノにとっては憧れの的。


 彼女はベルロアナのスレイブになれて本当によかったと思っている奇特な人物なのだ。



「もう好きすぎて―――バシーーーン!」


「何をするのユノーーーーーー!?」


「えー!? 友情の印ではないんですか!?」


「ゆ、友情の印!? 平手打ちがですの?」


「そう聞いていましたけど…違うのですか?」


「い、いえ、違いませんわ! おほほ! 友情ですものね! それはつまり『お友達』ということですわ! いいのよ、いくらでも殴ってくれて!」


「お嬢様!! バシーーンッ!」


「あいたー!」


「お嬢様!! バシーーンッ! バシーーンッ!」


「いたーい! ゆ、ユノ、それくらいでいいわ! もう伝わりましたから!」


「それはよかったです! えへへー」



(ユノ、いったいどうしてしまったの!? 彼女がこんなことをするなんて初めてですわ。外に出て気持ちが高ぶっているのかしら?)



 半ばパニックのベルロアナに対し、満面の笑顔のユノに穢れや邪念は一切存在しない。


 何が起こっているのかといえば、彼女こそアンシュラオンが領主館に忍び込んだ際に、嘘知識を教えた女の子なのである。


 かなり前なので忘れていると思うが「友情の証として引っぱたけ」と教えられたので、そのようにしただけのことだ。


 こんなところで時限爆弾が作動するとは、さすがのアンシュラオンも思っていないだろう。洗脳とは怖ろしいものである。


 そして、クイナ、ユノと続いて最後のスレイブを紹介したいところだが、彼女は屋根の上にはいない。



「アカリさん、まだ『箱』から出てきませんね」


「ひきこもり、引き篭もりなのです」



 装甲車の後ろには、台車に載せた四角い箱型のコンテナがある。


 その扉には術符が貼られており、簡単に中に入れないように結界が展開されていた。


 最後のスレイブであるアカリ・シェラーウェイは、あの中にいるのだ。



「また結界を張っていますわね。そろそろ戦いが始まるというのに、あそこにいて大丈夫なのかしら?」


「ずっと中にいますし、外に出した、出たほうがいいのです」


「そうですわよね。アカリ、出てきなさいー! アカリ、聴こえてるー?」



 ベルロアナが呼びかけても、箱からは何の反応もない。



「反応がありませんね」


「寝ているのかしら?」


「出発前にアカリさんが、お菓子、お菓子を持って中に入っていきました。クイナは見たのです!」


「あっ、それでですか! 最近、休憩室のお菓子がよくなくなるなーと思っていたんですけど、アカリさんが大量に持っていってたんですね」


「明らかにたるんでおりますね。お嬢様の呼びかけに応えぬなど、スレイブの風上にも置けません。このファテロナにお任せください」


「結界があるわよ? どうやって開けるの?」


「あの程度の結界を破壊するのは、たやすいことでございます」



 ファテロナが扉の前に立つと、迷うことなく隙間に大納魔射津を挟み込み―――爆破


 激しい衝撃が周囲に吹き荒れ、装甲車も一瞬だけ揺れる。


 これには結界も耐えられなかったようで、扉は半壊していた。



「お嬢様、扉を開けることに成功しました」


「それはそうだけれど、強引すぎますわ!」


「この結界は頑丈ですから、これくらいしなければいけなかったのです」


「ファテロナさんなら、じゅつ、術で解除できるんじゃないですか?」



 クイナが壊れた扉を見つめながら素朴な疑問を呈する。


 ファテロナは剣士と術士の因子を軽減なく扱える『ハイブリッド〈混血因子〉』なので、自由自在とまではいかずとも術式が扱える。


 アカリが作った結界程度、彼女ならば強引に突破できるはずなのだ。



「…なるほど、一理ありますね」


「ファテロナ、まさか忘れていたの?」


「吹き飛ばすことしか考えておりませんでした」



 まさかの失念である。


 周囲の衛士たちも何事かとこちらに視線を向けていた。



「無駄に目立ってしまいましたね。この軍ではお嬢様の評判はかなり良いのです。怪しげな悪評が出回るのは困ります。こうなったら、いっそのこと魔獣のせいにしてしまうのはいかがでしょう?」



 そして、失念から隠蔽の流れに至る。


 冷静に考えると、すでにパンツ姫呼ばわりされている彼女に、これくらいの悪評が増えたところで何が変わるのか疑問だが、とりあえず体裁は重要だ。



「それは嘘をつくということですわよね? そんなことできませんわ」


「お嬢様、時には嘘も必要なのです。それが友達というものです」


「え!? そ、それは本当なの!?」


「はい。良い嘘ならばついてもいいのです。むしろ嘘をつかないと、とんでもないことが起きます。たとえばブサイクな友達に『あなた、ブサイクよね』などと言ってしまった日には、友情は即座に壊れます。理由はわかりますね?」


「…え、ええ、なんとなく」


「なんとなくしかわからない馬鹿なお嬢様が無性に愛しいですが、とりあえずそれと同じです。ここでもし爆弾を使ったことがアカリに知られたらどうなりますか? あるいは領主様に知られたらどうなりますか?」


「怒られますわね」


「そうです。ですから嘘が必要なのです」



 嘘をつく理由 = 怒られたくない



「なるほど。クイナはどう思うかしら?」


「え!? えと…そう、そうです。いい、いいと思います!」


「ユノはどう?」


「えっ!? えと…その……出てこないアカリさんが悪いかなと思います」


「ユノもそう言うのならば仕方ありませんわ。では、魔獣のせいだということで決まりですわね」


「お嬢様、お茶、お茶の続きしましょう」


「そうですわね。まだ時間があるものね」


「お嬢様のお茶会は本当に楽しいですねー! あははは!」



 なぜか満場一致で嘘をつくことに決まるが―――




「んなわけあるかあぁあああーーーーーーーーー!!!」




 当然、被害者は納得しない。



「あっ、アカリですわ。その頭、どうしたの?」


「これはこれは哀れな姿です。魔獣がやったのですね。わかります」


「あんたたちがやったんだろう!? 全部聞いてたぞ!」



 出てきた少女はオレンジ色の髪の毛がチリチリで、まるでパーマをかけたような姿になっていた。


 大納魔射津の衝撃が扉だけで済むわけがない。扉を破壊して中にまで到達していたのだ。



「人が寝ているのに、なにしてくれてんの! どこの世界に鍵を開けるために扉まで吹っ飛ばす馬鹿がいるんだ!!」


「で、出てこないアカリが悪いのですわよ!!」


「開き直った!? 絶対におかしいって!!」


「出てこないアカリ、アカリさんが悪いのです」


「あんだとーー! この空色二重発音娘がー!」


「にゃはっ!!」


「アカリ! クイナを苛めないでくださいませ!」


「お嬢様、この鞭をお使いください」


「アカリ、やめなさい!」



 ファテロナに鞭を渡されたベルロアナが、アカリを叩く。



「いったーーーーい!! それが友達にすることなのかよ!?」


「ち、違います! これはついうっかり…ふぁ、ファテロナが悪いのよ」


「うっかりで友達を叩くのか!? かー、これだから金持ちのお嬢様は困るよな! 常識も知らないのか!?」


「じょ、常識…? わたくしが常識を知らないですって!?」


「お嬢様、つまりは『もっと叩け』という意味です」


「そうなの?」


「はい。世間一般の常識では、あれでは弱いということなのです。だからアカリは怒っているのです。ほら、もう一度どうぞ」


「わ、わかりましたわ!! アカリ、ごめんなさい! 私が間違っていましたわ!」



 バチーーンとさらに強く叩く。



「ぎゃーーー!? どういうこと!?」


「あ、あら? 違ったのかしら?」


「嫌よ嫌よも好きのうちと申します。アカリはもっと罵ってほしいと願っているのです」


「そ、そうなのね。アカリ、言うことを聞きなさい!! この雌豚!」


「いたいたいた!!! ちょっ、なにこの状況!? わかったからやめてよ!」



 ファテロナがいる限り、このカオスな現状は終わらない。


 コンテナの入り口が壊れてしまったこともあり、渋々外に出るアカリ。


 が、まずその眩しさに転げ回る。



「なにこれ、明るいー! 目が潰れる!」


「いつも暗い場所にいるからよ。もっと外に出たほうがよろしくてよ」


「うっさいな。昼間は外に出たくないんだよ」


「夜も出ないではありませんか」


「べつにいいでしょ。わたしは好きにやっていいって条件でスレイブになったんだから。ほら、ちゃんと仕事はしてたよ」



 アカリが、チリチリになった髪の毛をクシでとかしながら、大量の『術符』を差し出す。


 彼女だけが他のスレイブと契約条件が異なるのは『符行術士ふぎょうじゅつし』だからだ。


 以前アンシュラオンが領主城で彼女と出会った時も、入口には術符が貼られていたが、あれは彼女自身が書いたものである。


 こうした希少な技能を持ったスレイブは通常、ファテロナのようなメイドとして雇われるのだが、ベルロアナと年齢が同じであるため友達枠として扱われていた。



「それでもお嬢様のスレイブ、スレイブなら、ちゃんと言うことを聞くべきだと思うのです!」



 だが、ベルロアナを愛するクイナが食ってかかる。


 それに対して不愉快そうな視線を向けるアカリ。



「あのね、わたしはあんたらみたいなお子様じゃないの。どうせスレイブなんて犬みたいなもんだけど、餌に釣られてホイホイ何でも言うことを聞くなんて本当に動物みたいじゃないか。そんななさけない真似はしたくないんだよ」


「お嬢様、アカリさんのお菓子を没収、没収しましょう!」


「ちょっ!? それとこれとは話が違うでしょ!」


「謝って、あやまってください! お嬢様にあやまってください!」


「ふん、嫌だね―――って、いたー!? なんでクイナが鞭を持ってるのよ!」


「お優しいお嬢様の代わりに、クイナが、クイナが、叩くのです! 叩くのです!!」



 バシーンッ、バシーンッと、クイナが瞳に涙を溜めながらアカリを叩く。



「いたいたいた!! 泣いてから強いみたいなやつは嫌いなんだよ! わかった、謝るから! やめろって! なんでわたしがこんな目に遭うんだ!?」



 そもそもの原因はファテロナが爆破したせいなのだが、カオスな場を生み出してうやむやにするのが彼女の常套手段である。


 ということで、この三人が今現在ベルロアナが所有する白スレイブになる。




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